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清涼祭編
第十六問
清涼祭アンケート
学園祭の出し物を決める為のアンケートに御協力ください

『喫茶店を経営する場合、制服はどんなものが良いですか?』


姫路瑞希の答え
『家庭用の可愛いエプロン』

教師のコメント
いかにも学園祭らしいですね。コストもかからないですし、良い考えです。


久遠光一の答え
『動き易く、品を保てて人目を引く服装』

教師のコメント
君からまともな意見が出て、意外だと思った先生を許してください。


土屋康太の答え
『スカートは膝上15センチ、胸元はエプロンドレスの様に若干の強調をしながらも品を保つ。色は白を基調とした薄い青が望ましい。トレイは輝く銀で照り返しが得られる位のものを用意し、裏にはロゴを入れる。靴は5センチ程度のヒールを……』

教師のコメント
裏面にまでびっしりと書き込まなくても


吉井明久の答え
『ブラジャー』

教師のコメント
ブレザーの間違いだと信じています










「アキ、久遠、ちょっと良い?」

帰りのHRが終わり、現在放課後。
何やら神妙な顔をした美波から、明久と光一は声をかけられた。

「ん、何か用?」
「どうしたんだ、島田?」
「うん。どっちかというと、相談なんだけど……」

その真剣な様子に、明久と光一は何かと思いつつも相談に乗る事に。
そもそも美波が明久を頼る事自体珍しい事の為、なおさらに。

「うん、ありがと。多分、2人が言うのが1番だと思うんだけど……その、やっぱり坂本を何とか学園祭に引っ張りだせないかな? ほら、あの様子じゃ坂本が仕切らないと……」
「あー、まあ確かにな」
「でもそれは難しいなぁ……さっきも言ったけど、雄二は興味ない事に徹底的に無関心だからね」

1年来の悪友の為、2人は雄二の事はそれなりに理解している。
だからこそ、その提案がいかに難しいかも当然理解していた。

「でも、アキと久遠が頼めばきっと動いてくれるよね?」
「え? 別に僕が頼んだからって、アイツの返事は変わらないと思うけど」
「ううん、そんなことない。きっとアキと久遠の頼みなら引き受けてくれるはず」

まるで確信めいた様子で、美波は言葉をつづけた。
その手にある本が握られている事に、明久も光一も気づかないままに。

「そりゃ確かに、良くつるんではいるけど、だからと言って別に……」
「あんた達、愛し合ってるんでしょう?」
「もう僕、お婿に行けない!!」
「というか、どういう経緯でそんな結論にたどり着いた!?」

明久は泣き崩れ、光一は全身に鳥肌がたち抗議。
それに疑問符を浮かべながら、美波はある本を差し出した。

『バカと銃神とバラの世界』 (光一×明久)
『バカと筋肉と交わりと』 (明久×雄二)
『銃と拳と絡みの旋律』 (光一×雄二)

「……何これ?」
「この前、友達にもらった物なんだけど」
「あのさ島田、俺が優子にフラれたって事知った上でそんな事言うのか?」
「あっ! ……ごめん」

吐き気と寒気が治まらなくなったどころか、最近えぐられる事が多い古傷の痛みに顔をゆがませる光一。
明久もさめざめと泣き続け、ショックは大きい様子。

「誰が雄二なんかと! だったら僕は、断然秀吉の方が良いよ!」
「……あっ、明久?」

そこにたまたまそばにいた秀吉が、動きを止めた。

「そ、その……お主の気持ちは嬉しいが、そんな事を言われてもワシらには色々と障害があると思うのじゃ。その、ホラ、年の差とか……」
「ひ、秀吉! 違うんだ! ものすごい誤解で……」
「いや、年の差って、俺ら同級生だろ。いや、それより何故顔を赤くするんだ!?」

結局グダグダになってしまった。

そしてそれが落ち着いたころ。

「で、一体どうしたんだ? やけに喫茶店に拘ってるみたいだけど?」
「そう言えば、随分と深刻そうにしておるの?」
「……本人には誰にも言わないでほしいって言われてたんだけど、事情が事情だし……けど、秘密の話だから、誰にも言わないでね?」

美波の真剣な様子に、3人は頷かざるを得なかった。
そして、秘密の話を打ち明けてくれる以上、無下に断る事もするつもりは更々湧きもしない。

「う、うん。わかった」
「右に同じ」
「……実は、瑞希なんだけど……あの子、このままだと転校するかも知れないの」
「なっ!?」

その言葉には、流石に光一も秀吉も明久も、驚きを隠せなかった。
本人どころか、教師からも話が聞かなかったことゆえ、動揺は隠せない。

「どっ、どういう事だ? それに“このままだと”って、一体……?」
「む、待つのじゃ光一。明久が処理落ちしかけとるぞ」
「このバカ、不測の事態に弱いんだから!」
「いや、いきなりこんな話されたらパニックになってもおかしくないぞ? おい明久、しっかりしろ」

光一が明久を揺さぶり起こし、ハッと目を覚ます明久。
先程まで目がうつろだった事は、気付く者は1人も居なかった。

「光一……モヒカンになった僕でも、相棒と呼んでくれるかい?」
「……どういう処理をしたら、瑞希の転校からこういう反応が得られるのかしら?」
「ある意味、稀有な才能かも知れんの」
「ああ、呼んでやる。呼んでやるから落ち着け」

全員が微妙な目で明久を見つめる中で、ハッと正気を取り戻した明久。
そして本来聞くべき情報を得るべく、美波に詰め寄った。

「美波! 姫路さんが転校って、どういう事さ!?」
「どうもこうも、そのままの意味。このままだと瑞希は、転校しちゃうかもしれないの」
「このままって……まあ、この設備と姫路の体調を考えれば、納得するなという方が無理か」

光一が周りを見回し、頭を抱えた。
Aクラスに負けた事で設備がランクダウンし、腐った畳はボロボロのござに、卓袱台はみかん箱。
最低の設備に最悪を加えた設備になった以上、瑞希の虚弱体質を知る者としては同様の結論。

それに明久が試召戦争を提案した理由でもある為、納得せざるを得ない。

「姫路の身体と教室の設備を考えれば、ありえない話ではないの」
「そうだよね……って事は、転校は両親の仕事の都合とかじゃないって事?」
「そう言う事。だから瑞希も対抗して“召喚大会で優勝して、Fクラスを見直してもらおう”とか考えてるみたいなんだけど、やっぱり設備をどうにかしないと」

ふと、3人は“Fクラスをバカにされた”と怒っていた事を思い出す。
これも当然だが、学力はあるのに最低クラスに所属している事自体も、問題としては十分な代物。

「わかった。そういうことなら、何としても雄二を焚きつけてやるさ! 協力してくれるよね、相棒?」
「当たり前だ。俺達の為に怒ってくれてる以上、ここで立ち上がらにゃ男じゃないだろ。相棒」
「そうじゃな。ワシもクラスメイトの転校と聞いては、黙っておれん」
「それじゃまず、雄二に連絡を取らないとね?」

明久は携帯を取り出し、雄二へと連絡。
少し時間がたって……

「あ、雄二? ちょっと話が……え? 雄二、何してるの? ……雄二!? もしもし! もしもーし!」

と、何やら意味不明の会話が行われたらしく、通話が切られた。

「坂本はなんて言った?」
「えっと、“見つかっちまった”とか“鞄を頼む”とか言ってた」
「……何それ?」
「誰かに追われてるんじゃないか? だから島田、その“使えない”って視線で見るのやめてやれ」

ここ最近、雄二は忽然と姿を消す事が多い。
その原因は……。

「大方、霧島翔子から逃げ回っているんじゃろう。あれはああ見えて、異性には滅法弱いからの」
「そうすると、坂本と連絡を取るのは難しいわね」
「そうでもないさ。むしろ、これはチャンスと見ても良い」

光一は明久に視線をやり、頷きあう。
雄二を焚きつける為の方法を、2人して同じ方法を思いついたのだ。

「島田、秀吉、ちょっと協力してくれ」
「それは良いけど……坂本の居場所はわかってるの?」
「大丈夫だよ。何も雄二だけが、相手の考えを読める訳じゃないからね」
「じゃあ明久、雄二を頼む。タイミングはそっちに任せるから。」
「了解」


それから数分間……。

「じゃあ頼むぞ?」
「……こんなので、坂本を引っ張り出せるの?」
「大丈夫だ。おっ、来た来た」

光一の携帯に連絡が来て、それを美波に手渡す。

「もしもし坂本? ……ちょっと待って、今代わるから」
「(頼むぞ秀吉)」
「(了解じゃ)……雄二、今どこ?」

と言った途端、すぐに秀吉は携帯の通話をオフにした。

「ホント、秀吉の声真似はすごいな。本当に霧島かと思ったぞ?」
「当然だ(光一の声)」
「……それやめてくれ、自分の声は流石に気味が悪いから」


それから少しして、雄二を伴った明久が戻ってきた。

「そうか。姫路の転校か……そうなると、喫茶店の成功だけでは不十分だな」
「不十分? どうして?」
「簡単な話さ。さっきも言ったけど、茣蓙やミカン箱と言った設備、健康を害する教室そのもの、姫路の学習面の成長を促せないバカ揃いのクラスメイト。喫茶店の成功だけじゃ、とても解決できない」
「そうじゃな。1つ目もそうじゃが、2つ目や3つ目も難しいのう」
「そうでもないさ。1つ目は喫茶店の利益で何とかなるし、3つ目は姫路と島田で対策を練っているんだろう?」

ふと思い出すのは、召喚大会の事。
確かに、Fクラスで優勝者が出る事があれば、その面は解決ができる。

「この前、瑞希に頼まれちゃったからね。“どうしても転校したくないから、協力してください”って。召喚大会なんて見世物にされるみたいで嫌だったけど、あそこまで必死に頼まれたら、ね?」
「ならいっそ、俺と明久も参加するかな? 俺達のコンビネーションなら、良い線いけると思うし」
「コンビネーションは確かに良いけど、あんた物理以外が殆ど壊滅的じゃない。そんなでアキと組んで、勝てる訳ないでしょ」

グゥの音も出なかった。
光一は苦手科目では壊滅的状態の為、その科目の場合負けは確実。
しかもトーナメントは試合によって科目が違う為、良くて決勝悪くて秒殺という極端コンビだった。

「一応エントリーはしてくれ。運良く勝ち上がれば喫茶店の宣伝になるし、一気に問題が無くなる」
「わかった。となると、2つめがやっぱネックだな」

教室の改修は、流石に生徒や喫茶店の利益では賄えない。
どうやろうと、業者の立会も必要になる以上学園のバックアップが必要になる。

「どうするも何も、学園長に直訴したらいいだろ?」
「やっぱそうなるよな。けど学園長は偏屈だって噂だし、大丈夫か?」
「あのな、ここは曲がりなりにも教育機関だぞ? 幾ら方針とは言え、生徒の健康に害を及ぼすような状況であるなら、改善要求は当然の権利だ」
「それなら、早速学園長に会いに行こうよ」

思い立ったが吉日というように、明久がそう提案した。
光一や雄二も頷き、美波も嬉しそうに頷く。

「それじゃ、さっさと行くか。一応行くのは、俺と明久と雄二……秀吉も一応来てくれないか?」
「そうじゃの。そのメンツでは、とてもお行儀よくとはいかんじゃろうて」
「失礼な。じゃあ島田は、学園祭の準備計画でも考えておいてくれ」

目指すは学園長室。
明久、雄二、光一、秀吉は、一路そこへと向かった。


『……賞品の……として隠し……』
『……こそ……勝手に……如月グランドパークに……』

新校舎の一角、学園長室前にて。
辿り着くや否や、出迎えたは言い争いの声。

「どうした、明久?」
「いや、中で何か話をしているみたいなんだけど」
「うむっ、何か言い争っておる様じゃな」

それに対し、疑問に思うも今はそっちのけ。
今はとにかく、問題の解決こそが自身の最優先事項。

「とりあえず、学園長が居るとわかったんだから、入っちまおうぜ?」
「ああ。さっさと中に入るぞ」
「失礼しまーす」
「おぬしら……」

早速学園長室をノックするや否や、光一、雄二、明久は中へ。
秀吉も呆れつつ、それに続く。

「本当に失礼なガキどもだねぇ。普通は返事を待つもんだよ」

そこにいたのは、長い白髪と妖怪じみた容姿(笑)が特徴の藤堂カヲル学園長。
試験召喚システム開発の中心人物である。

研究者寄りなので、先程のガキ共という発言等の規格外な所が多い人物。

「やれやれ、取り込み中だと言うのに、とんだ来客ですね。これでは話を続ける事も出来ません……まさか、貴方の差し金ですか?」

それに相対していたのは、鋭い目つきとクールな態度で1部の女子生徒に人気が高い、竹原教頭。
メガネをいじりながら、学園長を睨みつける。

「バカを言わないでおくれ。どうしてこのアタシがそんなせこい手を使わなきゃいけないのさ? 負い目があると言う訳でもないのに」
「それはどうだか。学園長は隠しごとがお得意の様ですから」
「さっきから言っているように、隠し事なんてないね。あんたの見当違いだよ」
「……そうですか。そこまで否定されるなら、この場はそういう事にしておきましょう」

負い目、隠し事。
教育現場に似つかわしくない単語が次々と出てくる会話を終え、教頭は学園長室を出て行った。

「ん?」

光一はふと、教頭が最後視線をやった個所を見て、疑問符を浮かべた。
……が、めぼしい物は何もなく、気の所為かと思い気にするのをやめた。

「んで、ガキ共。アンタらは何の用だい?」
「今日は学園長にお話があってきました」
「アタシは今、それどころじゃないんでね。学園の経営に関する事なら、教頭の竹原に言いな。それと、まずは名前を名乗るのが社会の礼儀ってモンだ。覚えておきな」

光一がツッコミを入れそうになるのを、秀吉が制した。
礼儀的には、当然の事。

「失礼しました。俺は2年F組代表の坂本雄二」
「同じく、2年F組の木下秀吉じゃ」
「そしてこの2人が……こちらが2年を代表するバカで、こちらは同じく過激派です」

雄二が勝手に明久と光一を、わかりやすく紹介。

「ほぅ……そうかい。あんた達がFクラスの坂本と吉井と久遠かい?」
「ちょっと待って学園長! 僕たちはまだ名前を言ってませんよね!?」
「木下というと、Aクラスの木下の弟かい?」
「おいこらバ……むぅぅうう!!」

罵倒しようとした光一を、秀吉が口を塞いだ。
ここで騒ぎを起こせば、全てパーになる故に。

「気が変わったよ、話を聞いてやろうじゃないか」
「ありがとうございます」
「礼なんか言う暇があったら、さっさと話しなウスノロ」
「わかりました」

まるで模範的な生徒を主させる佇まいに、3人は疑問符を浮かべた。
先程の光一の様に、すぐさまボロを出すと思っただけに。

「Fクラスの設備について、改善を要求しに来ました」
「そうかい。それは暇そうで羨ましい事だね」
「今のFクラスの教室は、まるで学園長の脳みその様に穴だらけで、隙間風が吹きこんで来るような酷いい状況です」

だがそれは、すぐに杞憂に終わった。

「学園長の様に戦国時代から生きている老いぼれならともかく、今の普通の高校生にこの状態は危険です。健康に害を及ぼす可能性が非常に高いと思われます」

相当怒っているのか、所々で言動に綻びが生じ危険な単語がちりばめられている。

「要するに、隙間風が吹き込む様な教室の所為で体調を崩す生徒が出てくるから、さっさと直せクソババァ、という訳です」

そんな慇懃無礼な雄二の話が終わると、学園長は何やら思案顔になる。

「あの、学園長……?」
「雄二がとんだ御無礼をいたした……じゃが、どうか」
「……ふむ、ちょうどいいタイミングさね」

と、何やら小声で何か言ったご様子。
そして、4人に向かってうんうんと頷いた。

「よしよし、お前たちの言いたい事はよくわかった」
「え? それじゃ、直して貰えるんですね!」

あっさりと問題が解決する事に、明久は喜びの声を上げた。
だが、世の中そんなに甘くない。

「却下だね」
「雄二、このババァをコンクリに詰めて捨ててこよう」
「やめろ、こんなの捨てたら環境の害にしかならん。ここは“文月妖怪 藤堂カヲル”と銘打った見世物として、利益にするべきだ」
「……お前ら、もう少し態度には気を使え!」
「雄二よ、お主が言って良い事ではないぞい」

秀吉のツッコミも最もだった。
というより、こんなグダグダな進言は学園始まって以来だろう。

「まったく、このバカ共が失礼しました。どうか理由をお聞かせ願えますか、ババァ」
「そうですね。教えてください、ババァ」
「理由なく断られて納得出来る訳ねえだろ、妖怪」
「堂々と妖怪呼ばわりするんじゃないよモヤシのクソジャリ! ……お前たち本当に聞かせてもらいたいと思ってるのかい? 」
「……申し訳ない」

学園長は呆れた顔で3人を見て、秀吉は頭を下げた。

「理由も何も、設備に差を付けるのはこの学園の教育方針だからね。ガタガタぬかすんじゃないよ、このなまっちろいガキども」
「確かにそうですけど、俺達はともかく体の弱い生徒が……」
「……と、いつもなら言っているんだけどね。可愛い生徒の頼みだ、こちらの頼みも聞くなら相談に乗ってやろうじゃないか」

それを聞いて、雄二は黙り込んでしまった。
光一も、何かがある……そう直感で感じ取る。

「その条件って何ですか?」
「清涼祭で行われる召喚大会は知ってるかい?」
「ええ。俺と明久で出ようかと思ってました」
「じゃ、その優勝賞品と準優勝品は知っているかい?」

優勝賞品とは、“トロフィー”と“賞状”と“白金の腕輪”。
そして副賞として、如月グランドパークプレオープンペアチケット。

準優勝者にも賞品はあり、これには“盾”と“賞状”と“黒金の腕輪”。
こちらにも、プレオープンチケットは授与される。

そのペアチケットについて説明されると、雄二はビクッ! と身体をはねさせた。

「で、それが何か?」
「話は最後まで聞きな。あわてるナントカは貰いが少ないって言葉を知らないのかい?」
「はい、知りません」
「堂々と言うんじゃないよ! ……まあ良いさね。この副賞のペアチケットなんだけど、ちょっと良からぬ噂を聞いてね。出来れば回収したいのさ」

先程聞こえた話の中に、如月グランドパークという単語があった。
それに関係してるのかなと、明久達はそう決定付けた。

「回収? それなら、商品に出さなければ良いじゃないですか」
「そうできるならしたいさ。けどね、この話は教頭が進めたとはいえ、文月学園として如月グループと行った正式な契約だ。今更覆す訳にはいかないんだよ」
「契約する前に気付いてくださいよ、学園長なんだから」

もっともな話である。

「うるさいガキだね。腕輪の開発で手一杯だったんだよ! それに悪い噂を聞いたのはつい最近だしね」
「けどチケットで良かったじゃないか。腕輪に問題があるならまだしも、それなら問題としては軽い」

そこで学園長の表情が崩れた事を、雄二は見逃さなかった。

「で、良からぬ噂ってのは?」
「如月グループは、如月グランドパークに1つのジンクスを作ろうとしてるのさ。“ここを訪れたカップルは幸せになれる”ってジンクスをね」
「ジンクス? ……どうやってです?」
「プレミアムチケットを使って来た2組カップルを、結婚までコーディネートするつもりらしいのさ。企業として、多少強引な手段を用いてもね」
「な、何だと!?」

それを聞いて、血相を変えたように大声を上げる雄二。

「どうしたのさ、雄二?」
「慌てるに決まってるだろうが! 今ババァが言った事は“プレオープンプレミアムチケットでやってきた2組のカップルを、如月グループの力で強引に結婚させる”ってことだぞ!?」
「別に言い直さずとも、わかっておるぞい?」
「その2組のカップルを出す候補が、我が文月学園ってわけさ」

文月学園にはその性質上、数多くのスポンサーが存在する、
如月グループも当然、そのスポンサーの1つ。

「くそっ、うちの学校は何故か美人揃いで、試験召喚システムって話題性もたっぷりだからな」
「それに加えて、学生から結婚まで行けばジンクスとして申し分なしだ。候補としてこれ以上の学校はないだろうな」
「ふむ。そっちのモヤシのガキもそうだが、流石は神童と呼ばれていただけはあるね。頭の回転はまずまずじゃないか」

雄二が神童と呼ばれていた事は、あまり知られてはいない。
それを知っている辺り、流石は学園長と言ったところか。

「雄二、とりあえず落ち着きなよ。如月グループの計画は別にそこまで悪い事でもないし、第一僕らはその話を知ってるんだから、行かなきゃ済む話じゃないか」
「……絶対にアイツは参加して、決勝進出を狙ってくる……行けば結婚、行かなくても“約束を破ったから”と結婚……俺の、将来は……!」
「……どうやら、安請け合いしたらしいな。妙な所で明久よりバカだよな、こいつ」

呆れたように言う光一の意見を余所に、学園長は言葉をつづけた。

「ま、そんなワケで本人の意思を無視して、うちの可愛い生徒の将来を決定しようって計画が気に入らないのさ」
「つまり、交換条件ってのは……」
「そうさね。“召喚大会の優勝賞品および準優勝賞品”と交換。それが出来るなら、教室の改修くらいしてやろうじゃないか」

光一と明久は、目を見合わせた。
それも、良からぬ事絡みで。

「無論、優勝者や準優勝者から強奪なんてマネするんじゃないよ? 譲って貰う事も不可だ。アタシはお前達4人で召喚大会の決勝に進出しろと言っているんだからね」

考えてた事をモロに言われた為、苦虫をかみつぶしたかのような顔をする光一と明久。
2人の考えていた事に感づいて、呆れたように2人を見る秀吉。

「まあ落ち着くのじゃ、3人とも。幸いワシ等は4人おるし、これでチーム分けはできる」
「じゃあ僕たち4人が決勝進出したら、教室の改修と設備の向上は約束してくれるんですね?」
「何を言っているんだい? やってやるのは教室の改修だけで、設備についてはうちの教育方針だ。変えてやる気はないよ」

こんな事で設備を変えては、他のクラスに申し訳が立たない。
何事も例外的な特別を許せば、必ずやどこかで綻びが生じるものである。

「ただし、清涼祭の売り上げでどうにかするのは別さね。今回だけは見逃してやってもいい」
「じゃが、喫茶店を経営しつつ大会を勝ち抜くと言うのも難しい話じゃぞい。そこを何とか……」
「やめとけ秀吉。俺達はあくまでも頼む側だから、話を引き受けてくれただけで儲けものだと思え」
「そう言う事だ。ババァに譲る気がない以上、この取引に応じるしか方法はない」

明久と秀吉は顔を見合わせ、頷き合う。
不満ではあるものの、事実だけに納得せざるを得ないと結論付けた上で。

「……わかりました。この話、引き受けます」
「ワシも、及ばずながら力になるぞい」
「そうかい。それなら、交渉成立だね」

“計画通り”という顔で、嬉しそうにする学園長。
それを雄二が見逃さず、一歩前に踏み出した。

「ただし、こちらからも提案がある」
「何だい? 言ってみな」
「俺達4人は最後に当たる物として、召喚大会は2対2のタッグマッチ。形式はトーナメント所為で、1回戦が数学だと2回戦は化学、といった具合に進めていくと聞いている」

プロバガンダの意味合いも強い以上、試合の派手さに欠ける要素は排除される物である。
特に今回は、新技術のお披露目もある以上、その辺りは念入りだった。

「それがどうかしたのかい?」
「対戦表が決まったら、その科目の指定を俺にやらせてもらいたい」
「ふむ……良いだろう。点数の水増しとかだったら一蹴していたけど、それ位なら協力しようじゃないか」

雄二は先程より目つきを更に鋭くし、光一も何やら妙な引っかかりを感じていた。

「で、ペアだけど……」
「いや、お前と明久のペアはダメだ。俺と秀吉は前回の戦争では殆ど指揮や裏方だったから、召喚獣の扱いには慣れてない」
「ああ、そっか……となると俺と秀吉、明久と雄二がペアとしては最適かな?」

光一は明久を除くと、相性が良いのは幼馴染である秀吉。
それに明久も、光一を除くと付き合いが深いのが雄二である。

「さて、そこまで協力するんだ。当然召喚大会で、決勝戦まで進めるんだろうね?」

そう言われ光一は秀吉と、明久は雄二と拳を合わせる。

「無論だ。俺達を誰だと思っている?」
「絶対に優勝して見せます。そっちこそ、約束を忘れないように!」
「うむっ、優勝して見せるのじゃ」
「ああ。やろうぜ皆」

全員で、頷きあう。

「それじゃ坊主ども。任せたよ!」
「「「おうよっ!」」」
「任せるのじゃ!」

こうして、明久と雄二による“文月学園最低”コンビ
そして光一と秀吉による“美少女と危険物”コンビが誕生することとなった。

「ワシは男じゃというのに!」
「危険物かよ!? せめて美女と野獣にしてくれ!!」
「光一よ、ワシは男じゃと知っておるじゃろ!?」


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