文月学園
新設校にして、現在世間で最も話題を呼ぶ新技術“試験召喚システム”の試験採用校。
学力低下が嘆かれる昨今に新風を巻き起こし、進学校であると同時に最新技術の実験場としても知られるこの学園。
それ故に、多くのスポンサーが付いており学費は極めて安い。
そんな文月学園の校門にて、学校指定のカバンとボストンバッグを持った少年が1人。
時間が時間故、筋肉隆々とした体格の良い教師に呼びとめられていた。
ここから、物語は始まる
「遅いぞ、久遠!」
「あっ、おはようございます。鉄人先生」
「その呼び方を名前の様に扱うな!」
「え? ……先生の名前って、鉄人じゃないんですか?」
「吉井ですら知っている事を知らんのかお前は!?」
少年の目の前にいたのは、生活指導の西村教諭。
トライアスロンが趣味の肉体派であることから、通称“鉄人”
少年“久遠光一”は、その彼に目をつけられている問題児の一人である。
「それより、他に何か言う事があるんじゃないか?」
「え? えーっと……今日も肌が黒いうえに暑苦しいですね?」
「お前は遅刻の謝罪より、俺を罵倒する事と肌の色の方が大事なのか? ……まあ良い、受け取れ」
茶色の封筒を差し出され、それを興味なそうに受け取った。
「あまり関心があるようには見えんな?」
「どこだろうと、戦って勝てば設備を奪えるのがこの学園の特色でしょう? 不満だったら奪えば良いだけです」
「そうか。流石は我が学園の問題児の中で、最も過激思想の持ち主だな。その方向が勉学の方向に進む事を期待させてもらうぞ」
彼の言う問題児とは、主に吉井明久と坂本雄二、そして久遠光一の事。
「そのボストンバッグは、またエアガンか? 何度没収されても聞かんのだな?」
「当然です。崇高なるサバイバルゲーム愛好会の一員であり、銃を愛し銃社会の実現を望む者として、手放せるわけがないじゃないですか」
「……それ位勉強にも気合を入れていれば、今頃Aクラスの首席として立っていた物を」
常にエアガンを持ち歩く過激派の久遠と、教師の間では恐れられていた。
のりづけされた封筒を破り、その中に入っていた紙を見ると……
「あーあ、Fか」
「お前の幼馴染は、弟の方が同じだ。残念だったな?」
「残念じゃなくて、喜びですよ。片方はともかく、あいつとクラスが一緒だなんて冗談じゃない」
「何だ、違うのか? まあいい、急げ」
全く……と、愚痴を漏らして、彼は校舎へと。
そこから靴箱に到着したところで……
「ん? よう明久」
「あっ、おはよう光一。どうだった?」
彼の去年のクラスメイトにして、同じく悪友である吉井明久。
学力的に最低ランクのバカさと、行動力により彼と同様に鉄人に目をつけられていると同時に、バカの代名詞である“観察処分者”の称号持ち。
苦笑して、全然のジェスチャーを交えての宣告。
「Fだった」
「じゃあ、僕と同じだね?」
「ははっ、まあ仲良くやろうや」
基本、いじられ役である事が多い明久だが、光一は彼をいじる事を良しとはしていない。
どことなく、自分と何か強く通じるものを感じていたためである。
それはさておき、彼らは2人でFクラスへ。
途中興味本位で覗いたAクラスの教室を見て、二人は驚愕した。
「Aクラス、すごかったね?」
「ああ、システムデスクにリクライニングシート……あれじゃ教室っていうより、ホテルだ」
「もっと頑張ればよかったかなあ?」
「欲しけりゃ奪い取ればいいさ。それがこの学園の特色だろ?」
この学園が注目される理由の一つにある、試験召喚システム。
試験の点数がそのまま強さに影響する召喚獣を呼びだし、それを使ってクラス間競争である“試召戦争”というシステムがある。
それを使用し、AからFまで異なる環境を施し、簡単に“良い設備がほしければ奪い取れ”のシステムのもと、日夜勉学に励む者達。
当然エリートであるAクラスは、それ相応の高待遇。
そして、彼ら2人が所属するFクラスは……
「なんか、近づいただけで格差があるのがわかるね?」
「ああ……さっきはああ言ったが、もう嫌気がさしてきた」
「それはそれとして、早く入ろうよ。よし、それじゃまずは明るく行こう」
見るからに、建て付けの悪そうな戸を開くと……
「すいません、ちょっと遅れちゃいました」
「早く座れ! この蛆虫野郎ども!!」
教壇にいたのは教師ではなく、彼らの悪友である坂本雄二。
見るからにガラの悪そうで、かつては悪鬼羅刹と呼ばれた男。
「いきなり挨拶だな。そんなところで何やってる?」
「先生が遅れてるらしいから、代わりに教壇に上がってみた。何せ俺がここの最高成績保持者……つまり、代表なんでな」
「ほうっ……でも傍から見たら、お山の大将気どりのゴリラにしか見えんな」
「何だとこのモヤシ野郎、サラダにしてやろうか?」
ボキリと指を鳴らす雄二と、懐からエアガンを取り出す光一。
竜虎相対す、という雰囲気にクラスは沸いた。
「そんなもんに頼らないとケンカも出来ねえのか?」
「黙れよ。腕力なんて時代遅れだってこと、その身を持って教えてやる」
クラスが同じで面識がある上に、文月学園の問題児トリオと称されるだけあって彼ら3人は仲が良い。
当然、こういったやり取りも割と一般的だった。
「あんた達、去年から良く飽きないわね?」
「げっ! しっ島田さん!?」
「ちょっと吉井、何よその“げっ!”って?」
現在教室の中での紅一点、島田美波が呆れたように乱入してきた。
去年から何かと痛い目あわされてる明久は、傍から見ても分かるほど顔を青ざめた。
「よう島田、お前もFだったのか?」
「はろはろ~。ウチまだ日本語の読み書きが苦手だから」
「帰国子女ならではの弱点だな」
その場に顔を連ねているのは、ほぼ全員バカの代名詞を受けて当たり前な者達。
しかも全員が男で、ただ1人女子が居ると言うだけのムサっ苦しい空間。
「それはそれとして、島田が居てくれてよかった」
「え? そっそう?」
「だよね。こうもムサっ苦しい上にカビ臭い空間だから、ほんのちょっとだけ膝があらぬ方向にぃぃぃいぃいいいいいい!!!」
いつのまにかひっくり返され、4の字固めに処され悲鳴を上げる明久。
いかにもへし折らんと言わんばかりに、ギリギリと嫌な音を立てつつ力を入れる美波。
そして、そのスカートの中に注がれる視線。
「やっぱりお前もいたのか、康太」
「…………よろしく」
「趣味についてとやかく言えた義理じゃないけど、犯罪はやめとけよ?」
彼の言葉もどこ吹く風と、主に美波のスカートに視線を注ぐ少年、土屋康太。
通称“寡黙なる性職者ムッツリーニ”。
「あいたたたた……」
それから程無くして解放され、膝を擦る明久。
「お前も学習しろよ。だからバカなんて呼ばれんだろ?」
「相変わらず朝からにぎやかじゃのう。光一も相変わらず、明久の世話を焼いておるようじゃな?」
「ん? よう秀吉。えーっと……」
「席は好きな所に座っていいそうじゃ。どれ、あそこにちょうど3つ程席が空いておるし、そこに移ろうかの」
目の前にいる、翁言葉で話す美少女……いや、美少年である木下秀吉。
荷物をまとめ、光一と明久を伴い空いている3つの席へ。
「なっ、何だ? 座布団、綿がほとんど入ってないのかよ? しかも畳、破れてる上にキノコまで!?」
「この卓袱台、痛みまくってるよ? 鞄置いただけでぐらぐらするし、良く見たら天井クモの巣はってる!」
「先ほどから、隙間風が酷いのう。それに埃っぽいから、喉に悪いぞい」
殆ど廃屋同然の教室、腐った畳、綿のない座布団、足の折れた卓袱台、隙間風が吹くツギハギの窓。
最低の中の最低ともいえるカビ臭さ満載の空気に、改めて顔をしかめる光一と明久。
「まあそれはそれとして、今年一年もよろしく頼むぞい」
「ああ、こちらこそ今年もよろしく。やっぱ付き合いが長く、気の合う幼馴染って良いもんだな、秀吉」
「そう言ってくれて何よりじゃ。姉上も一緒なら、もっと面白かったのじゃがな」
「冗談言うな。あいつと一緒だなんて、考えただけで怖気がする」
秀吉と幼馴染だけに、彼の姉である木下優子とも当然幼馴染という間柄であり、面識はあった。
が、彼は秀吉とは親しい物の、優等生で何かと衝突しやすい優子を苦手としている。
「改めてみると、酷いよね?」
「ああ。Aを見ただけに、格差があまりにもひどすぎる……そういえば秀吉、優子はAクラスなのか?」
「姉上はワシと違って、優秀じゃからのう。なんじゃ、姉上が気になるのか?」
「そりゃあ……あいつには散々怒鳴られてるから、同じクラスだったら気が気でならないよ。何より本性知ってるだけあって、ろくでもない事になるのは目に見えてるし」
「素直じゃないのう」
と、笑う秀吉に光一は懐に手を入れて、ある物を取り出そうとした。
「ねえ光一、本性って?」
……が、そこで興味津々で質問してきた明久に、光一は一旦手を止めてにやりと笑みを浮かべた。
それはだな……と切り出そうとした光一を、秀吉が沈痛な顔で制した。
「やめておけ光一。以前その事で、全身の関節が壊れる寸前にされたの忘れたか?」
「……すまん明久、俺の命の為にも忘れてくれ」
「え? それって……よくわからないけど、光一も苦労してるのかな?」
「その通り」
明久も通じるものがあったのか、すんなりと頷いた。
話が終わった処で、光一は持ってきているボストンバッグを開き、そこからエアガンを取り出す。
もちろんマシンガンやライフルと言った、そういう大型の物を。
「さて、先生が来るまで銃の点検でもするかな?」
「銃社会のアメリカならともかく、日本で堂々とやる事じゃないのう」
「エアガンだぞ? 別に改造してる訳じゃないんだから、年齢制限やらを守れば問題ない」
「さっきそれを人に向けた者の言うセリフじゃないぞい」
「良いんだよ秀吉、どうせ雄二なんだから」
「明久、ちょっと来い」
ガラッ!
「HRを始めますので、席についてください」
そこで、初老のさえない男性教師が入ってきて、全員が席に着く。
こうして、文月学園の学生生活が始まった。
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