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うろな町長の長い一日 その十 新人アイドルとライブ編

作者: 寺町 朱穂

いつも迷惑かけてばかりの寺町です。

1周年、お疲れ様でした!去年のこの時期は辛くて執筆出来なくて、筆を折る寸前でした。そんな時に、出会った企画だったと覚えています。この企画のお蔭で、楽しく書くということを思い出すことが出来ました。

今も執筆活動が続けられているのは、うろな町企画のお蔭です。

本当にありがとうございます!!これからも、よろしくお願いします!!


ショッピングモールの広場は、歓声に包まれた。

木霊する歓声に、ちらほら足を止めて近づいてくる人影も見て取れる。全ての人の眼が、ステージに立つ飯田夏音わたしに向けられていた。こうしてステージの上に立つと、予想以上に人の顔がハッキリと見えるのだ。曲が止まり、心臓が高鳴る音が異常な程高く響く。今さらながら、顔に熱が集まってきた。なんだろう、照れくさくて逃げ出したくなる。でも、今の私はアイドルなのだ。これは、私が望んだことであり、私は更に先に進まなければならない。

決意を新たにするように、マイクを握り直した。マイクを握りしめる手が、どことなく汗ばんでいる。私は息を吸い込むと、口火を切った。



「何があっても諦めない!常にアクセル全開で突き進む!! カノッチこと飯田夏音 16歳です。本日は、ライブに来てくださってありがとうございます」



ゆっくり、頭を下げる。

拍手がちらほら響く。いや、広場とはいえ屋内なので、異様なまでに響き渡っていた。顔を上げて、再び見渡してみる。商店街の時以上の観客が、この時点で集まっていた。友達と遊びに来たらしい人、カップルらしき人、休日の家族連れ、ふらりふらりと迷い込んで来てしまったような人、様々な人の顔が私に向けられている。不満げな顔は―――今のところ見当たらない。それだけで、嬉しかった。



「えっと、私はアイドルをやらせていただいています。

まだまだ駆け出しですが、よろしくお願いします!! 今回のライブを通して、飯田夏音のことも、一押しにして貰えたらイイなという野望を持っています」



野望かよーという野次が飛ぶ。

考えるまでもなく、仕込みとして客に混ざった阿佐ヶ谷マネージャーの声だった。いつの間に用意したのやら、派手なハッピを纏っている。間奏の合間にはMIXを挟み、オレンジ色のサイリウムを振り上げる様は、まさにアイドルヲタク。誰が見ても、マネージャーとは思えないだろう。しかも、不思議なことにハッピを着ているのは阿佐ヶ谷だけではない。ちらほら、着ている人が見て取れた。

そういえば、前回の商店街ライブで見かけたような顔だ。――もしかして、私のファンになってくれたのだろうか。心が、温かくなってくる。笑みが深まった。



「さて、私の歌が発売されるのは、7月初旬。

動画サイトでは、一部ダイジェスト版が投稿されているのですが……みなさん、知りませんよね?」

「「「知らなーい」」」

「ちょっ、そこは嘘でも『知っているー』って答えてくださいよ!!」



ぐさり、と胸に突き刺さる。

仕込みではない声も、混じっていた。予想していた反応とはいえ、やっぱり少し悲しい。だけど、アイドルたるもの歌う時以外は涙目になってはいけない。頑張って笑顔を客席に向け続ける。



「さ、さて!今日は集まって貰えた記念に、ちょっとした豪華プレゼントを用意してあります!―――ただし!!予算の都合上、用意したプレゼントは1つ!」



えぇーという不満声が聞こえるが、これは仕方ないことなのだ。私だって、出来れば全員に豪華賞品を渡したかった。だが、アイドルの公式グッズというものは広く出回ってしまっていればいる程、価値が下がってしまう。とはいえ、予算との兼ね合いという部分が一番大きな理由だが――



「よって、ミニゲームに参加して勝ち残った人が豪華プレゼントを手に入れることが出来ます!!」



私は、ぱちんと指を鳴らした。

すると、ステージの後ろの幕が落ちて、大きなパネルが表示された。パネルは、客席を大きく映している。我がURONAレコードの倉庫に埃を被って眠っていた年代物で起動時に変な音がしたが――問題ないらしい。ホッと一息ついてしまう。



「では、今からミニゲーム―――といっても、ビンゴですが、ただのビンゴではありません。うろな町にちなんだビンゴです!!」



URONAレコードの職員の方々が、ビンゴ用紙とボールペンを配っていく。

私もビンゴ用紙を掲げた。見た目こそ、通常の5×5のマス目のビンゴ用紙だが、中には何も書かれていない。



「ただのビンゴではつまらないので、ここに『うろな町の名所となる施設』を可能な限り書き込んでもらいます!」



24個も書き込めるだろうかと、私も最初は疑問に思った。

だけど、昨日やってみると結構埋まるものだ。発展し続けている町だし、これからも名所が増えていくのだろう。



「みなさん、埋まりましたか?

では、真ん中を切り取ってゲーム開始です!!」



私が、書き上げた名所を告げると、後ろのモニターに文字が表示される。

「やっぱり有名だよね!」という声から「あー、そこがあったか!」と言う声が上がった。だけど、「えっ、何それ、知らない」という声は聞こえなかった。順調に3つ進んでいき、私は何も考えずに4か所目を告げた。



「さて、4つ目。まさかと思いますけど、いきなりビンゴは出ないはず!!

気になる4つ目は――――商店街の怪しさ満点な中華料理店『クトゥルフ』!!」



名所といえるか不安だが、あんな奇妙な店は都会にも早々ないはずだ。

斜めにマスが開けられれば、これでビンゴになる人がいるはず。だけれども、そんな稀有な人がいるわけもなく―――



「すみません、ビンゴしました」

「まぁ、次の5つ目―――って、本当ですか!?」



跳び上がってしまう。

すっと手を挙げたのは、30代くらいの男性だった。掲げられた手には、確かに斜めにあけられたビンゴカード。どこかで見たことのある顔だが、名前を思い出すことは出来ない。隣には、眼鏡の良く似合った凛々しい女性を連れている。



「お、おめでとうございます!!それでは、ステージにどうぞ!!お連れの方もぜひ!!」



いや、まさかこんなに早くビンゴが出るとは予想外だった。

実際に、よほど悔しい思いをしていた人もいたらしく――最前列でビンゴ用紙を握りしめていた部活帰りの女子中学生は、



「あーもう!あと1つだったのに!!」



と、盛大に悔しがっている。

それを隣に佇む幸薄そうな少年が、宥めているみたいだ。

……それにしても、ビンゴした男性と連れの女性はステージ慣れしているのだろうか。ほんのりと照れたように顔を赤らめていたが、緊張しているようには見えない。どことなく堂々と前に立つ。その時、はたっと気づいてしまった。彼らをどこで視たのか、ということに。



「まさか―――町長さん、って、そんなわけないですよね?」

「いいえ、町長ですけど」

「ですよね――って、なんですと?」



大げさに驚いてしまった。

この町を統べる町長が、何故――何故――こんなアイドルのライブに来ているのだろうか。しかも、素敵な女性同伴で。ショッピングモールに買い物に来たついでに寄ったのだろうと、解釈することにする。



「なるほど、町長さんだから町の名所をよく知っていたのかもしれませんね」

「ははは、いや、まだ1年しか経っていませんので。これから、もっと名所を増やしていけたらいいなと思っています」



ははは、と町長さんは笑う。

完全オフな様子なのに、仕事の話に持ち込んでしまったような―――ちょっと悪いことをしたような気持ちになってしまう。何か話題を変えようと考えを巡らせたとき、ふと気づいてしまった。町長が纏っているのは紺を基調とした白い襟のシャツに白いズボンという清々しい服装。女性が纏っているのも、やはり紺に白い襟のついたワンピース。上から羽織ったサマーカーディガンを纏っていたので気づかなかったが、よく見てみればペアルックだ。町長さんが連れているという事で秘書の方かと思ったが、もしかして―――



「ペアルック、ってことは――まさか、町長就任1周年ってことのお祝いデートですか?」



冷やかすように告げると、ぽんっと女性の顔が赤く染まった。

こほんと軽く咳ばらいをした女性は、眼鏡のつるを押し上げる。



「これは友人に勧められた服が、たまたま似たような服装だっただけですから勘違いしないで下さい」



でも、デートという事は否定しない、か。

何故だか、無性に腹の虫が沸々と声を上げ始めた。アイドルだから、恋愛はご法度。興味がない振りこそしていたが、ちょっと羨ましい。隠れて恋愛するといっても、私の周りに良い男は――いない。暑苦しい男や嫌味な男ならいるけど、恋愛対象としては失格だ。



「なんか、運命的なモノを感じますね」

「か、からかわないでください!ほら、町長も何か言ってくださいよ」

「いや、秋原さんの反応が珍しいなって思って」



一方の町長は、まんざらでもない表情をしている。

むしろ、赤くなって焦る女性――秋原さんの反応を楽しんでいるような――これが、大人の余裕というのだろうか。



「仲好いですね――羨ましいです。みなさんー、こういう時に、何て言いますかー」



マイクを客席に向ける。

すると、客は一斉に



「「「お幸せに――」」」

「って、ここは爆発しろ!ですよね!!?」



おどけてみせると、客席から笑いが起きた。

町長さんと秋原さんも、少し笑っている。って、よく客席を見渡してみれば、法被を着た人や親子連れの人以外、カップルが多い。先程の女子中学生も幸薄そうな白髪の男の子を連れているし、もう少し後ろの方では――こちらは触れれば壊れそうな白い髪の少女が、どことなく優しそうな男性を連れている。何故だ、ほとんどリア充ではないか。さすが、休日のショッピングモールといったところか。これが、アニメ用品御用達のアニマチオンだったら客層が変わってくるのだろう。



「はぁ――ちょっと羨ましいです。これからも、秋原さんとお幸せに!!」



湧き上がる拍手。

先程の私の歌よりも、拍手が大きい。これが、町長を1年勤めあげた人望というモノなのだろう。それにしても、困った。豪華プレゼントは――記念撮影と、私のサイン入りポスターなのだが、彼女いる男性――しかも、町長さんにアイドルポスターを渡しても、なんか気まずい。これは、何か打開策を考えるしかない。ちらり、と客に交じった阿佐ヶ谷にヘルプ視線を送る。

すると、阿佐ヶ谷は「問題ない」と言わんばかりに力強く頷いた。――それだけだった。



っく、ここは、自分の力で乗り切るしかないのか。



「あの――それで、豪華賞品とは?」



町長さんが、鋭く尋ねてくる。

私は、覚悟を決めた。すぅっと深呼吸をし、本日1番の笑顔を浮かべる。



「1つ目は、記念撮影ですね。

それから、もう1つは歌うことです!」

「えっ?」

「ビンゴした人の―――町長さんの好きな曲を、会場の皆さんと謳って盛り上がろうという企画です!!」



モニターに付属していたカラオケ機能を使えば、BGMを流すことが出来るはずだ。

こうすれば、ビンゴで当たらなかった方々ともライブを盛り上げることが出来る、はずだ。

会場に来た人全員で楽しめるような――そんなライブにしてしまおう。



「知らない曲を聞かされるよりも、皆さんの好きな曲を歌って盛り上がる方が楽しいですよね?でも、1人1人のリクエストを聞く時間は生憎ありません。だから、町長さんに代表となってもらいたいのです!!」



私は頭を深く下げる。

花を模した髪飾りが、しゃらんと耳元で音を立てた。

これで断られたら―――構わない。もう一回ビンゴをやって、次にビンゴした人にお願いするだけだ。



「いいですよ。みんなで盛り上がりましょう」



顔を上げた時、町長さんは恥ずかしそうに笑っていた。

町長さんがリクエストしてくれた曲は、幸いなことに聴いたことのある名前だった。わざと私の知っている曲を挙げてくれたのかもしれない。90年代にはやった勢いのある曲で、私もカラオケでサビだけ歌った記憶がある。



「それでは、町長さん、町長就任1周年おめでとうございます!」



真っ赤になって俯いた秋原さんと、その肩を優しく抱く町長さんは、本当に御似合いだ。清水先生と司先生や接骨院の藤堂さんと美里さんみたいに、2人が結婚する日も近いかもしれない。この2人に送る言葉は、「爆発しろ」なんて物騒な言葉ではない。そう、彼らに相応しい言葉は―――



「これからも、お幸せに」



言いそびれた言葉を告げ、裏方に軽く合図を出した。

すると、明るく楽しくなりそうな曲がショッピングモールに響き渡る。



「それでは、みなさん、盛り上がっていきましょう―――!!」



マイクを握りしめ、右手を大きく突き上げる。

歓声が沸き上がる。集まってくれた観客の方々と共に、そして、町長さんの好きな歌を全員で奏でよう。サビ以外はうろ覚えだったけれども、精一杯声を張り上げた。



有名なアイドルのライブみたいにはいかない。

自曲だけで、そこまで盛り上がるのは夢のまた夢だ。

それでも―――ショッピングモールが白熱の歓声に包まれた数分間を、照れくさそうでいて楽しそうに声を張り上げる町長さんと秋原さんの姿を―――



この5月25日を、私は忘れないだろう。




続いては、パッセロさんです!

またまた?いえ、出てくるキャラは違う……はず!!

それでは、17時に!パッセロさん、よろしくお願いします!!


http://mypage.syosetu.com/155332/


それでは、よろしくお願いします!


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