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九つの極罪  作者: 阿志乃トモ
第二章 ジュウオウデンライ編
30/33

第三十話 3人の決意

大変長らくお待たせしました。

半年ぶりの更新になってしまいましたが、待って下さる読者の皆様には感謝しかございません。

どうかこれからもよろしくお願いします。

 イザナはやけに重たい目蓋(まぶた)をゆっくりと開け、意識を浮上させた。つまり、覚醒したのだ。しかし、哀しいかな。イザナは目が醒めただけであり、能力(ちから)に目覚めた訳ではない。よって、「ち、力が全身から溢れ出るようだ!」などといったセリフが出て来るはずもなく――そもそも、能力に覚醒したイザナがそんなセリフを吐くとも思えないが――、この文はただ眠りから覚めたという描写でしかない。


 そんなイザナのぼんやりとした意識の中で初めに見た物は『知らない天井』だった。


 いや、知っていることには知っている。天井を見るにここは牢屋であろう。実際、チラリと横を眺めてみると、鉄格子の壁模様が見える。しかし、ここは今までイザナが居た牢屋とは別の部屋だ。


 なぜそこまで断言できるのかと言えば、イザナはこの牢屋に入っている間、暇が暇を大安売りしている幻覚を見るほど暇を持て余していたので、天井観察日記という意味の解らないことをしていた。そのおかげもあって、イザナが今まで過ごしていた懐かしき牢屋の天井は一目見ればどれだか判るほどに成長したのだ。


 そんなイザナが言うのだから、ここは『知らない天井』なのだろう。まあ、天井が違っても牢屋の中にいるという事実は変わらないから、『知らない天井』という情報はなんら意味を為さないだろう。


 そして、未だはっきりしない頭を振りながら上半身を起こす。


「お兄ちゃん早く目が覚めないかな~。――ん? あっ! お兄ちゃんが目を覚ましたよ!」


 鉄格子の向こうから聞きなれた声が響いてくる。そして、その声が聞こえた後、ドタバタと足音が徐々に大きくなっているのが聞こえる。


 どうやら先程の声を聞きつけて、残りの一人がこちらに向かってきているようだ。


「おいおい、ようやくあの寝坊助が目覚めたのか」


 ――と、思っていたがどうやら見知らぬおっさんがこちらに来た。―――はて、このおっさんは誰だろうか? どこかで会ったことがあるような気がするがきっと気のせいであろう。


「―――。あ、あ~。どこかで会ったことがあるようなおっさんには恐縮なんだが……」

「何言ってんのお前!? どこかで会ったことがあるも何もこの牢屋で毎日顔を合わせてたじゃねぇか!!」

「え? いつもここで顔を合わせてたのはブリジッドという奴であって、おっさんでは……」

「オレがそのブリジッドだよッ!」


 その言葉にイザナは戦々恐々する。そして、いつの間には自分は何十年間も眠り続けていたのではないのかと考え始める。


 ブリジット(自称)の近くにいるツキの容姿は全くと言っていいほど年を取っていないが、騙されてはいけない。ツキはあくまで人族になった魔物なのだ。もしかしたら、自分の容姿を自由自在に操れるようになったのかもしれない。だとしたら、今のコイツの容姿は信用できない。


 手っ取り早く自分の顔を見ればどの程度時間が経ったか判るかも知れないが、ここには鏡らしきものは見当たらない。


「ツキ。どのくらい寝てた?」


 ブリジッド(自称)が何やらギャーギャー騒いでいるが、それを無視してツキに尋ねることにした。ツキなら嘘も付かずに答えてくれるだろう。


「お兄ちゃん、良かった~! このままずっと目が覚めないかと思ってたよ~!」


 と、思っていたが、ツキもツキでいつの間にかイザナに抱き付き、イザナが起きたことに歓喜していた。これでは先程のイザナの言葉は聞いていなかったと思われる。


 仕様(しょう)がないのでイザナは(かしま)しい二人を無視しながらされるが儘にさせた。ブリジッド(自称)とツキはリアとシェイナがイザナのところに来るまで騒ぎ続けたのであった。




「それで俺はどのくらい寝てたんだ?」


 後から来たリアがツキと同じように歓喜して抱き着いてきたので、それが落ち着くのを見計らって、リアやツキの行動をまるで2人の保護者にでもなったかのような優しげな瞳で傍観していたシェイナに先程聞けなかった質問をもう一度した。


「そうだね。丸2日といったところか、な」


 ということは、先ほどのまで考えていた何十年も眠っていたという仮説が一気に瓦解することになる。つまり、オッサンが本当にイザナの知っているブリジッドだということになるではないか。いやいやいや、ブリジッドはあんな奴ではなかった。イザナの知っているブリジッドは顔があって鼻があって、耳がついているような奴である。


 ―――なんと言うか、つまり、イザナはブリジッドの顔をよく覚えていなかっただけである。


 ところで、イザナの知っているブリジットには目がない。新種の発見である。その名もメナシッド。まるで人間のようだが、人下と違って目がないのが特徴である。目がない代わりに耳が発達しており、常に超音波を送受信し、周りを確認している存在である。


「丸2日? そんなに眠っていたのか。―――で、どうして俺は眠っていたんだ?」

「覚えていないのかい? ……カルマナ様にお会いしたことは?」

「それは覚えている。けど、神鳥が目を開いたと思った後からぷっつり記憶がないな」

「ふむ、実を言うと私たちは君が倒れたのか解らないんだ。カルマナ様が御開眼されたと思ったら、いきなり君が倒れこんでね。倒れた君を私たちがここまで運んできたんだ。それにしてもこんなところに連れてきてすまないね。本当ならどこか安静にできる場所に君を運びたかったんだが、今は村の人たちがピリピリしていて、外から来た君たちを匿ってくれる人たちがいなかったんだ」


 イザナとしては別にどんなところで寝かされようと気にはしないが、神鳥カルマナに会った外様の者を牢屋に入れるのは気が引けたのだろう。シェイナの顔が本当にすまなそうな表情をしている。


「ピリピリしてる? 何かあったのか?」


 やはりと言うべきか、イザナは牢屋で寝かされていることよりもシェイナの言葉の中で気になるところだけを聞き返してきた。


「……そういえば君は私たちが討論していたときカルマナ様を拝していたな」


 シェイナが納得するように小さく呟いた。その声が他人に向けたものではなく、自分自身を納得させるようなものだったので、声は小さくイザナの耳には届かないほどであった。


「ふむ、実を言うと、今日か明日かは判らないがこの村でもうじきいざこざが起きる。下手をしたらこの村が戦場に成るかもしれないほどのね。―――しかし、君は運がいい。何かが起こる前に目覚めたんだから。もしかしたら眠っている間に全てが終わっていたかもしれない。君の命ごとね」


 最後の言葉を言った時のシェイナの顔はどうしようもなく哀しそうに狂気じみていた気がした。イザナはそんな顔に言い返すことを一瞬躊躇ってしまったほどだ。しかし、イザナが何か言う前にシェイナ言葉を続けた。


「それは冗談だ。流石にそんなことは起きないだろう。何しろこの村の人達はみな強い。そんじょそこらの軍隊にも引けを取らない、ほどにね。それにもしものことがあったらツキ君たちが君をここから運ぶ手筈になっていたんだ。幸いと言うか、君はこうして目覚めたから、そんなことする必要もなくなった訳だけどね」


 シェイナの顔はさっきと打って変わってイタズラに成功した少年のような笑みを少し零しながら、言う。


 だが、イザナはシェイナが言っていることを聞きながら、これからどうしようか、などといったこととは全くと言っていいほど別のことを考えていた。


(―――? あれ、なんだこの感覚?)


 シェイナが言っていた言葉をいつどこで聞いたのかも解からないが、前に聞いたことがあるような気がしたのだ。いままで戦も経験したことはないのに、シェイナの冗談を前から知っているような不思議な感覚。


 だが、すぐに気のせいだろうと記憶の奥底にその考えを追いやった。


「うん? どうしたんだい?」


 予想していたのと反応が違っていたのか訝りながらイザナの方を見てくる。それに対しイザナは手を振りながら何でもないとアピールする。


「ふむ、そうかい? ――――さて、君が目覚めたばかりで申し訳ないが、これからどうするか聞いておこうか」

「これから?」

「私たちとしては部外者の君たちをこのまま村の戦に巻き込みたくはない。戦が始まる前にここから離れてもらうのが望ましい、と私は考えている。しかし、―――」


 ここで言葉を切ると、意味有り気にブリジッドとツキと楽しそうに話しているリアの方を見る。それに釣られてイザナもリアの方を見る。


 それに気付いたのかリアは2人と話すのを止めて不思議そうに2人を見つめ返す。


「……………………」

「………………」

「…………」


 そして、静寂が空間に満ちた。


「……………………」

「………………」

「…………」

「いやいやいや!! 何この空気!? この間は!?」


 この空間に耐えられなかったのか、第三者であるツキがシェイナとイザナ、リアの間に割って入って叫んだ


 ちなみに、当事者であるイザナたちは何故あのようなことをしたのかについて特に理由などなく、イザナに関してはシェイナがリアの方を見たからで、リアの方はシェイナとイザナに見つめられていたから見つめ返しただけである。漫画にして丸々2ページ分3人は見つめ合っていたと思われる。


「――しかし、リア君はこの戦に参加すると言っていてね」


 そして、シェイナは何事もなかったかのように話を再開する。


「さっきも言ったが、私としては君たちがこの村の為に戦って欲しくはない。これから来る敵がどこの誰なのかは知らないが、この村に滞在している外様の客を本来なら私たちが保護しなければいけない立場にあるからね。無論、君たちが共に戦ってくれると言うのであれば、私たちとしても戦力が増えて嬉しいところではあるけどね」


 シェイナはリアの実力を把握している。リアがこの話を聞いたとき、戦への参加表明をしたが、シェイナは出会って間もないので本当に信頼しても良いか、そして、実力が判らないこともあり、拒否したが、リアの熱意に敗けて、ブリジットに勝てたなら参加しても良いということにした。お忘れかも知れないが、ブリジッドはこう見えてこの村で1位2位を争う実力者である。つまり、暗にリアを戦に参加させたくないという意思表示もあっただろう。


 だが、さすがに2人とも本気で戦わせて、怪我などをされると困るので魔法は下級の魔法までとした。


 リアはそれに了承し、ブリジッドは嫌々納得した。しかし、リアにとってここで一つ誤算があった。それは、リアは人間の姿になって一度も戦闘行為を行ったことがないのだ。もちろん、対人戦闘における格闘技術や剣術の類は一切持っていない。そして、何より自身のステータスが人族と比べるとあり得ないほど高いことを憶えていない。


 つまり何が言いたいのかというと、リアは手加減が一切できなかった。


 リアからしてみたら開始の合図とともに速攻でブリジッドへ走って、剣(木刀)を振り下しただけである。しかし、試合を見ていたツキからしてみれば、試合の合図と共にリアの姿が消えて、次の瞬間にはブリジットが吹き飛んだようにしか見えなかった。


 そして、ブリジッドとしてはリアの速さを見切り、向かってきた木刀を防ぐことには成功したのは良いが、余りの馬鹿力に耐え切れず、後ろに吹き飛んだ。吹き飛んだ後もきれいに受け身をとっていたので大した怪我もなかったが、速攻で降参をした。


 審判をしていたのでもちろん二人の戦いを見ていたシェイナは自分から言い出したことなどでリアの戦への参加を一時的に許可した。それはイザナが戦までに起きなければの話で、もし起きたならリアが戦に参加するかどうかをイザナに決めてもらうことにしたのだ。


 イザナは依然としてリアを見たままのイザナはシェイナの話を一通り聞いた後、口を開いた。


「俺としては別にリアがこの戦に参加しても構わない」


 それを聞いたリアは不安そうな顔から嬉しそうに口が歪みそうになるのを頑張って抑えていた。


「――が」


 そして、逆説の接続詞を聞いた途端にリアの顔に少しばかりの緊張が走ったが、すぐにいつも通りの顔を意識し出した。


「そもそも何でこの戦いに参加しようと思ったんだ? 言っちゃなんだが、それこそ俺たちとは関係のない事だ」

「………。確かにわたし達とは関係ないことかもしれないわ。でも、わたしがここで知らない振りをして戦いに参加しなかったら、きっと後悔すると思うの。ここでの知り合いは少ないけど、わたしはこの出会いを大切にしたいと思っているし、失くしたくはない」


 静かだがどこか芯がある声がイザナの耳に入って来る。きっとリリーシャの死を自分のせいだと悔いているのだろう。いや、悔いているからこそ戦いに参加したいのだ。


「参加しようがしまいが後悔するかもしれないぞ」

「うん、解ってる。でも、後悔するなら全力を尽くしてから後悔したい。何もできないまま後悔するより、……ずっと良い」

「そうか。解かった。――――という訳だ。すまないがリアを戦に参加させてやってくれ」


 リアへの視線をシェイナへと変える。シェイナは腕を組んでイザナとリアの静かな会話を聞いていた。イザナがリアの意志を変える気がないことはすぐ判ったので、当初の計画は断念し、リアを受け入れることにした。


「それはこちらとしても嬉しいが……」


 その言葉を聞いた後、シェイナから視線を外し、イザナはツキの方へ視線を変える。


「ツキ、お前はどうする?」

「えっ、ボク……」


 それの意味するところは戦に参加するかどうかだろう。しかし、ツキはリアと違って戦いができるわけではない。むしろ、邪魔になるのではないかと考えている。


「確かにお前に戦えというのは酷なことだと思う。けど、回復魔法が使えるのなら直接戦わなくてもみんなの役に立つ」


 戦には無論戦力も必要だが、それ以上に後方支援も必要だとイザナは考えている。


「別に俺は無理矢理戦に参加させようとしている訳じゃない。さっきシェイナも言っていたが、本来俺たちは保護されても良い立場にあるらしいからな。―――俺はお前の意志を聞きたいんだ」


「どうする?」と目で尋ねるとツキは意を決した表情をして、


「ボクは戦えることはできないけど、傷ついた人を癒すことはできる。それに少しでもリア姉ちゃんの役に立つなら、ボクも参加する!」


 と宣言した。


 リアは目をウルウルさせながら、ツキの成長を見守る母親のような表情をしながら、袖でそっと目の雫を拭いた。


「では、君たちは私たちに協力してくれるということで良いんだね?」


 ツキの宣言を聞いたのち、シェイナがこの場を〆るようにイザナたち3人に確認してくる。それにリアとツキは頷くように自らの意志を再確認する。


「少し、良いか?」

「うん? 何だね」


 イザナはまるで何かを確認するかのようにシェイナの〆に割って入る。そして、その場の誰もがイザナの方へ意識を向ける。自分に意識が向いていることに少し居心地を悪くしながらきっぱりと宣言する。


「悪いんだが俺は戦には参加するつもりはない。今すぐにでもこの村を出ようと思う」


 その場に居た誰もがイザナが何を言っているのか理解が追いつかなかった。それ故に前に起きた静寂よりも長く静かな時の中で―――


「え?」


 ――誰とも知れぬ呟きだけがはっきりとその空間に響き渡った。


予想よりも話が全然進んでいない。どうしてだろう?

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