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小学生日誌三年生編
作:銀河



調査開始


「だけど、工藤新一って人は蘭お姉さんと同い年の人。それが今、小学校三年生、っていうのが不思議。光彦くんはその謎をどう思っているの?」
 真剣に迫る歩美。
「ふふ…普通は、そんなことあり得ないってことで、考えを止めてしまうんですけどね」
 光彦はそこでいったん言葉を切って、一呼吸入れた。
「まず、考えられるのは博士」
 歩美も深くうなずいた。
「うん、私もそう思う。博士が関係してるのは間違いないと思う」
「ということは、歩美ちゃんも気が付いてましたね。博士がコナンくんを新一って呼んでるのを」
「もちろん。博士は、昔の新一に似ておるからついそう呼んでしまうんじゃ、なんて言ってたけど…」
「それは違いますね。キャンプへ行ったとき、博士が新一って呼んだのに対して、コナンくんはごく自然に答えてましたから」
「それだけじゃないの」
 歩美はずいっと顔を近づけた。どぎまぎする光彦。
「哀ちゃんが、コナンくんのことを工藤くん、って呼んでたの」
 それは初耳の光彦。
「え、なんですって?」
「私が聞いたのは一回だけだけど、二人ともそれが当たり前のようにしてたのよ。私に聞かれたってことも気が付かないくらいごく自然に」
「と、いうことは…」
「そう、コナンくんはやっぱり工藤新一で、哀ちゃんはそのことを知ってるのよ」
「…となると、灰原さんもコナンくんと同じように…ということが考えられますね」
 歩美は深く深くうなずいた。
「うん。私、哀なんて字を名前に付けるお父さんお母さん、絶対にいないと思う。だから、灰原哀って名前はうそなのよ」
「なるほど」
 そう言うと光彦はしばし思案し、それから光彦は天井を見上げた。そして何か決心したように、歩美のほうを見た。
「歩美ちゃん、覚えてますか、灰原さんが転校してきた日のこと」
「もちろん」
「あの日、コンビニでコナンくんが偽札を発見して、犯人の男を追いかけたでしょう」
「うん」
「あのとき、コナンくんはうっかり口をすべらせたんです。僕は、その言葉を今でもはっきりと覚えています」
 光彦は恐いくらいに厳しい顔になった。
「…あの男がそうだとはまだ言えねえけど、ひょっとすると、俺の体を薬で小さくしたあの黒ずくめの…」
「体を薬で小さく!」
 驚く歩美に、光彦はゆっくりとうなずいた。
「そう、つまり、コナンくんは何者かに薬で体を小さくされたんです。もちろん、あの黒ずくめの、と言うからには、博士じゃないでしょうね」
「じゃ、哀ちゃんは?」
「そこまではわかりません。でも、灰原哀が偽名だとすると無関係じゃないでしょう、おそらく」
 歩美は決然と言った。
「光彦くん、コナンくんと哀ちゃんに、直接聞いてみようよ」
「それもいいんですけどね…その前に、一人当たってみたい人がいるんです」

*****

 光彦と歩美は家を出て、公園に向かった。そして車いす用の電話ボックスに入る。二人余裕で入れるし、電話機の位置も低くてかけやすいからだ。家からかけなかったのは、万一にも母親に聞かれてはまずいからであった。
 光彦がプッシュした電話番号は本人の携帯であった。ごく親しい人しか教えていないと彼女は言っていた。
『はい、園子です』
「あの、光彦です、こんにちわ。今、お電話大丈夫ですか?」
『ええ大丈夫よ。でも珍しいじゃない、光彦くんが私に電話くれるなんて』
「実はお願いがあるんです。見せて欲しいものがあって、園子さんならそれを持っていると思いまして」
『へえ…なあに?』
「写真です」
『写真?』
「工藤新一さんの小学生の頃の写真を見たいんです」
 光彦は用件を正直に言った。
 5秒ほど、園子の返答はなかった。
「もしもし?」
『…何のために?』
「あの、確かめたいことがあるんです。工藤新一という人はコナンくんに酷似しているという噂があるものですから」
『ふうん…噂ねえ…』
 警戒させてしまったか? しかし、この反応は、彼女も何か知っているに違いない。
『いいわ。他ならぬ光彦くんのことだから、見せてあげる』
「本当ですか? ありがとうございます」
『私の家にいらっしゃい。夕飯ごちそうしてあげるから…そうね、明日の夕方はどう?』
「ありがとうございます。明日の夕方ですね。何時におうかがいすればよろしいですか?」
『米花駅のロータリーに六時。来られる?』
「米花駅?」
『そう、迎えの車を回してあげる』
「そんな、直接うかがいますから」
『いいのよ。子供が遠慮しない!』
「…はい、わかりました。明日、米花駅のロータリーに六時ですね」
『ふふ…彼女と一緒にいらっしゃい』
「彼女?」
 光彦は一瞬誰のことなのかわからなかった。
『歩美ちゃんよ。それとも、一人でないとまずい?』
 光彦は思わぬ申し出に驚いたが、こちらから申し出る手間が省けたというもの。すぐ近くで聞き耳を立てていた歩美の顔を見ると、歩美も力強くうんとうなずいた。
「いえ、わかりました。二人でおうかがいします」
『ふふ…それじゃ楽しみに待ってるわよ』
 楽しげな声を残して園子のほうから電話は切れた。
 光彦はゆっくりと受話器を置いた。
「やったね、光彦くん」
「今の様子だと園子さん、やっぱり何か知ってますね」
「だって蘭お姉さん、園子お姉さん、そして工藤新一…三人は幼なじみなんでしょ…コナンくんが隠してたって、わかるものはわかるのよ、きっと」

*****

 翌日、光彦と歩美は米花駅前にやってきた。
「5時50分…」
 時計を見てふうと息を吐く光彦。
「どうしたの?」
 歩美はいつもとおなじようににこにこしていた。
「いえ、ちょっと緊張してるみたいです」
 くすっと歩美は微笑んだ。
「今日は、本丸に攻め込むわけじゃないんだし、そんなに緊張することないじゃない」
「本丸?」
「そう。コナンくんに哀ちゃん、そして博士が本丸。で、いいんだよね?」
「ええ、もちろん。でも歩美ちゃん、本丸なんて言葉、どこで聞いたんです?」
「お父さんの見てた時代劇で、まさむねって人が言ってたの」
「伊達政宗のことですか?」
「あ、その人その人」
 一台の黒塗り高級乗用車がこちらへ向かってやってきた。
「あの車のようですね」
 光彦は改めて自分の服を見た。
「やっぱりよそ行きの服を着てくるべきだったんでしょうか」
「コナンくんと哀ちゃんに会っても怪しまれないように普段とおりの服で、って言ったのは光彦くんでしょ?」
 と言いつつ、歩美はおろしたてのワンピースを着ていたのであった。
「それはそうなんですが…」
 車は厳かにタクシー降り場の後方に停まった。
 白手袋をした立派な老紳士が降り立った。そしてすぐに二人を見つけて、こちらに向かって歩いてきた。
 思わず緊張する二人。
「円谷さま、吉田さまでいらっしゃいますか?」
 子供相手とはいえ、まったく粗相のない言葉。
「は、はい。僕が円谷光彦で、こちらが吉田歩美ちゃんです」
「こ、こんにちわ」
 歩美は頭を下げた。
「お待たせいたしました。どうぞ」
 運転手は先に車へ歩み寄って、後部ドアを開けた。
「さ、歩美ちゃん、お先に」
「あ、ありがとう」
 歩美は周囲の視線を気にしつつ、少し誇らしげに車に乗り込んだ。
 光彦も気分良く車に乗り込んだ。
 シートは柔らかく、体をしっかり支える感じだった。
「わあ…」
 思わず声を上げる歩美。
 運転手はゆっくりとドアを閉めると、運転席に戻った。
「シートベルトをお願いいたします」
「あ、はい」
 光彦はすぐに柱から三点支持のシートベルトを引き出した。
「え、前と同じなの?」
 驚く歩美。
「こういう車はそうなんですよ」
「なるほど…さすが光彦くん」
 歩美もうれしそうにシートベルトを引き出してセットした。
「それでは発車いたします」
 周囲の人々が何事かと見守る中、車は滑るように発車した。
 いつも見慣れた道を走っているのだが、二人は見知らぬ土地を旅行しているような高揚感に包まれていた。












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