彼女の事を、語ろうとする事は、安易な事である。もう、5年以上の年月を、共に過ごしてきたのだから。
けれど、その安易な事だと思っていた事は、実際は、とても困難な事であると、今更になって気づいた。
彼女は、15歳。名前は、秘密。Sとだけ、言っておきましょう。
今から話すのは、Sの事。悲しい笑顔が可愛い、Sの事。
彼女が、本心を隠すようになったのは、いつからだろう。
小学生の時までは、素直な可愛い女の子だったのに、中学に入ってから、彼女は変わった。何かの糸が切れた様に、彼女は、女芸人の様な面白可笑しい事を、クラスの前でする様になった。その一方で、彼女は、自分自身という物を、カーテンで覆ってしまった様に、隠す様になった。その理由を、彼女の口から少し聞いた事がある。どうやら、「つまらない」と言われたようだった。彼女はその時、笑いながら話してたが、その言葉に隠された想いに私は気づかなかった。
彼女は、いつも、どこかを見るように、笑っていた。クラス中が彼女のことで、笑っているのに、彼女が笑う時、彼女は遠くを見ている。
でも、それも、中学三年生に進級してからというもの、彼女はクラスメイトを笑わせる事を、めっきりしなくなった。
「この頃、Sってつまんないよな。」
「ねぇ、Sさー、もっと中2ン時みたく、おもろい事してよー」
そんな言葉を、彼女の近くにいると耳にするようにもなった。彼女は、そうゆう言葉を聞くと、上手い具合にその言葉をかわす。面白い言葉を何個か話に織り交ぜ、そして、みんなを笑わせる。そして、彼女も笑う。けれど、その笑いは偽者のように彼女に取り付いている。もう、彼女のその偽者の笑いは、取り外し不可なのだろうか。時折、私はそんな事を、ぼんやり思う。ただただ、夕日が闇に溶けていく時のように、彼女はその中間地点をのろくらと走っているような、いつか、闇に掴まりそうな笑顔を見せた。
「・・・あんた、私に隠し事してない?」
私は、3月の夕暮れ時に、馬糞のキツイ臭いがする、自転車置き場で、彼女に聞いた。
彼女は、夕日に髪の毛を染められて、ふわふわとした空気を身にまといながら、死ぬ前の笑顔の様な儚い顔で、よくわからない微笑みを私に見せた。その微笑みに、どんな感情が含まれているのか分からずに、涙が出そうになった。完全にもう、ここにはいない友達の想いを理解できない事の悔しさに、私は怒りを募らせた。
「いい加減にしてよ!なんで、そうゆう風になっちゃったの!??なんでよ!?」
彼女は、無表情でこちらを見据えていた。それでも、彼女の瞳は、傷ついた少女の表情を見せた。それでも、私は、怒りに身を任せた。夕日が、眩しい。
「返してよ!返して!昔の、昔の、あの素直だった、私の友達を!」
彼女の顔から、寂しそうな笑顔が溢れた。
「今の私は、十分、私。今の私は、あなたの友達じゃないの?」
「違う!そうゆうんじゃない・・・そうゆうんじゃない・・・」
私は、涙がどばっと一気に溢れそうになった。私は、今の彼女を友達として見ていないのかもしれない。
「そうゆうんじゃないけど・・・けど、だって、あんた変わっちゃったじゃん・・・あの頃とは・・・」
彼女は、私よりも先に、無表情で泣いていた。その涙は、一筋の糸のように、彼女の白い頬を伝った。
「私の気持ちは、変わってないよ」
彼女は、優しく語りかけた。
遠くのほうで、吹奏楽の音が聞こえた。遠くのほうで、野球部のホームランの音が聞こえた。
「私は、変わってない。私の本当は、今もここにあるよ。」
彼女は、涙をぽろりと、流した。
「変われなかった。飛び越えたのに」
彼女は、綺麗に涙を流していた。涙の糸は、途絶えることもなく、彼女の頬を伝う。
遠くのほうで、女子の騒ぎ声が聞こえた。遠くのほうで、バレー部の掛け声が聞こえた。
「私は、ある人を傷つけた。」
私は、しゃくりあげた。彼女が、今にも死んでしまいそうに、透き通っていた。
「私は、気づかなかった。彼の気持ちに・・・」
そして、彼女は微笑んだ。
「こんな私が、心の底から笑っちゃいけないよ。彼の気持ちに気づけず、傷つけた私は、もう笑っちゃいけない」
私は、全身に赤い空気が発生するのを感じた。
「そんなのエゴじゃん!自己満足じゃん!」
「うん」
「あんたは、あんたらしく、生きてよ!」
「うん」
「人、傷つけてもいいじゃない!」
「うん」
彼女は、静かに相槌を打ちながら、涙を流していた。その微笑みは、天使のようだ。
「人、傷つけて当たり前でしょ!人間なんだから!」
「うん」
私は、彼女に歩み寄った。
遠くで、甲高い声が聞こえた。
彼女は、急に、しゃくりあげた。
「私・・・っ・・・私、好きだった人・・・っ傷つけた」
彼女は、静かではない涙を流し始めた。
「ずっと、ずっと、相談したかった・・・あんたに」
彼女の涙は、もう、天使の涙ではなく、ただの中学三年生の私の親友の涙になった。
「私、好きだったの・・・その人が・・・っ」
近くで、彼女の声が聞こえた。
「私っ・・・彼を傷つけて・・・彼は、私を守ってくれてたんじゃないかって・・・最近、気づいたのっ・・・。自惚れかもしれないっ・・・けど」
彼女は、手の甲で涙を拭いた。私は、涙が出るのを止められなくって、もう、そのままにした。
「私もっ・・・彼も・・・両方とも、両方を傷つけて・・・それでっ・・・変われなくてっ・・・何にも残らなくて・・・」
「残ったよ」
彼女は、キョトンとした顔をした。
「残った。彼への想いが、あんたの中に」
私は、微笑んだ。
「その想いは、いつか、彼に伝わるよ」
そして、彼女は微笑んだ。
私は祈った。この途方もないぐらい、寂しい夕焼けに。
彼女の想いが彼に伝わり 彼女の可愛い笑顔が もう一度 花開きますように
いくらエゴでも、私達は進んでる。変わってる。夕焼けのように。
夢の続き〜bell village〜 |