世界はそれを愛と呼ぶんだぜ
好きな人が三人できた。『本当の愛』っていうのは、この世で唯一の『カケガエノナイモノ』だと言う。だから私は、たった一人を愛する為に、二人を殺すことにした。誰を殺そうか。私は考えることにした。好きな人の事を考えるのって、楽しい。
一人目は、同じ学年の男の子で、イケメン野球部の慶太君だ。慶太君はウチの学年でも一、二番を争う『人気枠』だ。とても情熱的な人で、夢想家で、いつも「俺は甲子園に行くんだ!」と豪語している。一年の頃は野球浸けで、恋愛など興味なさそうだったが、もう二年になるし、そろそろ彼も彼女とか欲しい年頃だろう。彼を狙ってる女子はたくさんいる。友人の美代子だってそうだ。
二人目は、一年上の高田センパイ。細身で、長身で、インテリ眼鏡。大変頭が御宜しくて、センパイは全国クラスでもトップ10に入ってるような秀才だ。東大を狙ってこの夏も猛勉強している姿を何度も見に行った。センパイは大変謙虚で、褒められると照れたように笑って「僕なんかタイシタことないよ」と言うのがお決まりだった。是非、センパイには私をタイ(tie)して欲しいものだ。
三人目は、同じクラスの中川。コイツだけは、未だに何故好きになったのか分からない。凡庸な平面顔で、部活もやってないし、中肉中背だし、ほんっとに良い所がない。性格も臆病で、よくへこへこしている。人類はこの男にどうやって「ラブ&ピース」というモノを理解させるべきか、一度集まって本気で話し合うべきだと思う。ただ何の縁だろうか、同じ書道部に入ってて、隣の席だからよく愚痴を言っていただけなのに。悔しい。本当に、何のために生まれてきた男だろう?
二人殺して、この世界にひとつだけの『本当の愛』を見つけ出し、私は『永遠の幸せ』を手に入れなければならない。一人目は、もう決まった。言わずもがな、アイツだ。
私は中川の告別式が終わると、のんびり自宅で紅茶を飲んでいた。一人目は、中川にした。理由は、『好きになってしまったから』。これも一つの『愛の形』なんだから、しょうがないよね。『愛する』って、奥が深いなぁ。
私は天井からロープを吊るし、二人目を殺しにかかった。二人目は、私だ。これで天国で、二人は『永遠の幸せ』を手にするのだ。二人を邪魔するのはもう、誰もいなくなる。……それが中川だったってことに、自分でも驚いていたが。
愛するって、本当に奥が深いなぁ。
私はぶら下がった。