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ログ・ホライズン 作者:橙乃ままれ

ログ・ホライズンEp11 クラスティ・タイクーン・ロード

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◆ Chapter2.04 


 風に遊ぶ羽毛のような動きでふわりと岸壁を浮かび登った葉蓮(ようれん)を追うようにエリアスも同じ崖を駆けのぼった。こちらは空気を足場にする妖精の体術だ。飛行呪文ほどではないが、空中での体勢制御を行う程度、エリアスの技量をもってすれば造作もない。
 頭上には奇景とでも呼ぶべきものが広がっている。
 垂直に切り立った灰色の屏風のような岸壁。そのあちこちに飾り付けたかのように濃い緑の茂みがあり、そこから空中を求めるように細い枝を持つ樹木が伸びている。エリアスは知らないが水墨の山水画にそっくりの風変わりな景色だった。
 まだまだ先は長そうだったが、振り返り小首をかしげる葉蓮にエリアスは声をかけた。
「このような道程(ルート)があるとは」
「道程、というほどのこともございませぬが」
 ふたりは今、〈狼君山〉(ろうくんざん)の山腹を登っているのだ。〈天狼洞〉(てんろうどう)を通らずに山頂へたどり着く、それは葉蓮仙女が示した唯一の方法だった。
 少し考えてみればすぐわかりそうなものだったが、エリアスも、そしてレオナルドやカナミたちも全くその方法を思いつきもしなかったのは、セルデシアというこの世界特有の奇妙な納得――ダンジョンがルートなのだから他の方法はないだろう――にすぎない。事実、こうして登山を始めれば簡単にとはとても言えないが不可能ではない。
 もちろん道行きは困難を極める。当初こそ普通の山岳のような、勾配のきつい森林を進んでいた二人だが、月が傾くころにはその地帯も通り過ぎてしまい、険しいばかりの岸壁交じりの硬質な山岳を目の当たりにした。
 いまは未明のしんとした静けさの中、その岩壁を少しずつ上っているところだ。〈古来種〉や〈冒険者〉でもなければ、しかもよほどのレベルでなければこのルートを選択することすらできないだろう。
 ふたりはしばらくフクロウの鳴く遠い声に耳を澄ませていたが、脅威になるようなモンスターの気配がないことを確かめると、またひとしきり岸壁に挑んだ。
 エリアスは空中を駆けることが出来るが浮遊できるわけでも飛行できるわけでもない。葉蓮仙女のそれは身体の体重を消す魔法なのか、もしくは空間固定に似たある種の固有能力であるようだった。
 エリアスにしろ葉蓮仙女にしろ、長時間空中にとどまれるわけではないので、結局は岸壁の足場から足場へと移動することになる。もちろんその自由度や速度は〈大地人〉などをはるかに凌駕するが、かといって脆い足場を選んでしまえば手がかりを失い落下してしまうことは避けられない。月明りという不利な条件の中でさして苦労もなくこなしているのは、二人の技量が卓越しているからに他ならなかった。

 突然引き裂くような鳴き声を上げて飛びかかってきた二つ首の怪鳥をエリアスは大剣で打ち払った。重い手応えは、そのモンスターがそれなりの強さをだったことを物語る。しかし妖精の魔力で産まれた〈水晶の清流〉(クリスタルストリーム)は飛行属性の敵には効果が絶大だ。追尾するような水の流れが自由な動きを奪って切りつける。
 息をのんでいた葉蓮仙女も安心の吐息を漏らすと「あれは〈婁鳥〉(るい)です。四本足で獲物に襲い掛かる炎属性の幻獣ですね」と解説をした。
 エリアスはなるほどと頷く。
 それでモンスターは慌てたように逃げて行ったのだ。空を飛ぶ炎属性の翼に、氷混じりの水流はさぞかし堪えるだろう。
「エリアス様こそ天下無双の武人」
「そのようなことはないさ」
 大剣を背中の鞘に納めたエリアスは、普段の表情からは想像できないほどの苦さを込めて微笑(わら)った。いまの怪鳥にしたところだってそうだ。武器の属性とモンスターの弱点がかみ合ったからこその一撃であって、あれを自分の実力だと思い込むほどエリアスの戦闘経験は甘くない。
 なにより、それほどまでに相性の良さがあったところで、結局モンスターを|追い払うにすぎなかった《、、、、、、、、、、、》ではないか。
 今なおエリアスには〈妖精の呪い〉が絡みついているのだ。〈典災〉との戦いを望むのもそのせいだ。〈治癒の典災パプス〉を倒した時、いつものように最後を詰め切れないもどかしさこそあったものの、確かに粘液質の全身を吹き飛ばした。もしかしたら、とエリアスは唇をかむ。
 〈典災〉との戦いの果てに、エリアスの新しい力があるのかもしれない。いいやきっとそのはずだ。同胞の命を奪った異界の敵を前にして、争いを憎む妖精王とてその戒めを緩めるだろう。

「エリアス様達はどこを目指して、なにゆえ旅を為されているのですか?」
 怪鳥を見送ったまま自分の思考に浸っていたエリアスにそんな声がかかった。
 二三度瞬きをしたエリアスは、仙女の言葉に答える。
「そういえば話してなかったか。僕らはカナミに誘われて極東の島国、ヤマトを目指しているんだ」
「ヤマト……? なぜです?」
「その地には〈ノウアスフィアの開墾〉なる魔法の力があふれているらしい。〈冒険者〉の戦闘位階上限を突破するための能力だ。それのみならず新しい魔法や技術、そして敵が待ち受けている。それだけの異変が彼の地にはあるのだ。今回の厄災解決のヒントもあるかもしれない」
 出会って間もなかった頃、こういった理屈はカナミの受け売りだった。
 むしろそれは絶望してしまいそうな状況からの逃避、縋り付いた藁だったかもしれない。しかし、セケック村や〈列柱遺跡トーンズグレイブ〉での冒険を通してエリアスははっきりと感じ取っていた。世界には大規模な異変が起きている。
 かつて見たことのない大変事が起ころうとしている。
 不変だと信じていた世界の大綱すべてを書き換えるような、それは嵐だ。
 KRたちが〈大災害〉と呼ぶものはほんのそのとば口なのだと、エリアスは確信していた。なぜならばエリアスたちがあの夜実行しようとしていた防衛作戦は失敗して、この世界には恐ろしい者たちが侵入してしまったからだ。
「ヤマトにはそれだけの新しい力がある。戦闘位階を挙げた〈冒険者〉も多いという話だ」
「そうですか。……その話は西王母さまにお伝えしなくては」
 仙女はつぶやくと夜を背景に振り返り、エリアスに尋ねた。
「エリアス様はこのたびの騒動をどう考えていらっしゃるのです?」
「原因は〈典災〉(やつら)だ」
 吐きだしてしまってから、女性に投げかける口調ではなかったことにエリアスは気がついた。曲がりなりにも騎士団に所属する身なのだ。エリアスは葉蓮仙女に向き直ると謝罪のために頭を下げた。「すまぬ。気が立っていたようだ」
 しかし、低くなった月に照らされた仙女は薄く笑うと「いえ。気にしませんと」と鷹揚に答えた。
 気まずい空気の中、二人は岩場をたどる旅を再開した。
 山裾にいたときには気にならなかったが、強く不規則な風が吹き始めていた。
 このような気象条件では〈古来種〉とはいえうかつに飛び上がることも出来ない。せいぜいが身長ほどの高さを飛び降りたり、跳ね登る程度だ。
 冷たい月光の中で影に染まったエリアスは、思いつき尋ねた。
「中原の〈古来種〉は……どうなったのだ?」
「どうなったことやら。あるものは倒れ、あるものは傷つき、あるものは眠りについたと」
 仙女の返事は思ったよりも素っ気ないものだった。
 突き放したような言葉にエリアスは鼻白んだが、それも彼女なりの心の整理の仕方なのだろうと思った。大勢の仲間をきっと失ったのだろう。
「いずれ変わらぬ使命の果てでございましょう」
「そうか……」
 使命、と言われれば返す言葉はない。
 〈古来種〉における使命とはまさしく言葉通りのものだ。命を使えと送り出される仕事である。それは生まれた時から魂に刻まれた果たすべき任務だ。すべての〈古来種〉は大きな意味において、この世界と〈大地人〉を守るために存在する。有りようや手法は様々だが、最終的にはそこを目的とする。
 時に〈古来種〉同士が争うような事件も起きてきたがそれらはそれぞれの立場や問題解決に対するアプローチが違うから発生することで、話し合って志を理解できないというほどのことはない。別の地域の騎士団に属しているはずの葉蓮仙女にも、だからエリアスは敬意と哀悼の意を持っていた。

「~~!!」
 数十メートルは上方で補足かすれた叫び声が聞こえた。おそらく少女のものであろうそれは、夜明けの風にちぎれかけていたが、エリアスの耳にしっかりと響いた。
 反射的に葉蓮仙女に視線をやると、彼女はベールに包まれた表情こそわからないが、引き締まった気配でひとつうなづいた。
「魔人かもしれませぬ。お気をつけて」
「無論っ」
 送り出す言葉に返す暇すら惜しんで、エリアスは弓から放たれた矢のように飛び出した。松の枝を足掛かりに、すべての筋力を動員して重力を引きちぎる。先ほどまでは無理のない、そして仙女に気を使ったペースで進んでいたが、今はそんな気遣いをかなぐり捨てていた。
 続く悲鳴はないが、方向はわかっている。
 後方から仙女も移動する気配がするが、その速度は先ほどまでより数割増しというところだ。やはりエリアスの全力疾走にはついてこれないらしい。
 先ほどまで世界は星明りしかなかったが、いつの間にか、闇は、漆黒と彩度の低い紫紺の二つに分離を始めていた。大地からそびえる山影は深く黒々としたシルエットとなり、その上空の空はもはや完全悩みではなく、透き通った透明感を感じさせる色合いに変化しつつある。
 このユーレッド大陸において太陽は黄金の光を持っている。昼間天空にある時はまだしも、朝焼け近づくこの時間、大地の稜線を黄金の象嵌で彩るのだ。霧に覆われたアルスター騎士剣同盟とは、それは全く違った光景だった。荒れ果ててはいるが、荒れ果ててるがゆえの荒涼とした美がそこにはあった。
 エリアスはそんな夜明けの細く鋭い灯りを切り裂いて、巨大な岩が峰になった部分を飛び越えた。強化された〈妖精眼〉(フェアリーアイ)に飛び込んできたのは、ひとりの騎士の姿だった。
 暗青色の全身鎧を着たその姿は貴公子然と見えた。
 ただならぬ力量が何気ない立ち姿からも察せられる。
 その魔人が異様なまでにぎらつく眼鏡を輝かせ、釣り上げた少女を揺らす。鋼のような腕力の前で、小柄な少女の悲鳴はいかにも頼りなげに響く。仙女のいう〈古来種〉の仲間なのかという思考は、一瞬のエリアスの脳裏から消え去った。
 いとけない少女を脅迫する魔人。
「――たっ食べななななないでええ」
 その叫び声を聴いた瞬間、エリアスは邪悪なる〈典災〉へと向かい宙を走った。愛剣〈水晶の清流〉(クリスタルストリーム)が過剰魔力に応えてびりびり共振を始めるのをしっかりと握りしめて、邪悪へと振り下ろす。
 エリアスは、仲間の仇をとり、また開放することしか考えていなかった。



◆ Chapter2.05 



 そのしばらく前、まだ空には朝の気配が遠い未明。
 クラスティも同じ〈狼君山〉の山頂において、その庭園に進み出たところだった。
 前を歩く花貂(ファーデャオ)は小走りだ。身長の低い彼女が百九十センチメートル級のクラスティの先導をしようと思うとどうしてもそうなってしまう。それでも昨日の「香草(バニラ)」が効いたのだろう。とろけたような笑顔で嬉々として話しかけてきた。
「甘い匂いがするのだとか!」
「そうですね」
 クラスティは答えた。子どものころから甘味にはさほど拘りになかったクラスティなので、貂人族の狂喜乱舞にはいまひとつ感情移入ができない(もっとも何なら感情移入できるのだ? と問われても困るが)。
 まだ夜が明ける気配はない。
 今日は〈狼君山〉を降りて〈草原の都〉(シーマァナイクイ)まで買い出しに行く予定である。どれくらいの距離になるのか花貂《ルビ:ファーデャオ》の話からははっきりしなかったので、夜明け前からの出発となったのだ。興奮して食卓の周りをぐるぐると回る貂人族の興奮に押し切られたという事情もある。
 モンスターの溢れるダンジョンを通り抜けるつもりだったので、クラスティは〈死せる戦士の鎧〉エインヘリアルのよろい を着装している。黒檀鋼で作られたこの〈幻想級〉《ファンタズマル》全身鎧はクラスティのトレードマークとでもいうべきものだ。暗青色の大きなシルエットは、大規模戦闘(レイド)攻略動画などに登場し〈エルダー・テイル〉ヤマトサーバープレイヤーの気持ちをいつも駆り立ててきた。武器は手にしていないが、それ以外の部分鎧や補助防具も身に着けておおよそ完全武装と言える状態だろう。廟から持ち出した買い物用の布鞄も肩から下げている。
 背後の〈白桃廟〉から漏れる洋燈(ランプ)の灯りとそれよりはおぼつかない星明りを頼りに、上機嫌で進む花貂(ファーデャオ)は洞窟の入り口も通り過ぎ、どんどんと庭園のはずれに向かっていく。
 この仙境は〈狼君山〉の山頂にある。
 中国・安徽省に存在する世界遺産、黄山に似た、切り立った岩屏風や階段状の岩だな、影に見えるほど色濃いねじくれた松などが景観を作り出している。奇跡的に拓かれた山頂庭園の終端は、当然のようにというべきか、切断したように途切れていた。端的に言えば、その先は空中――崖なのだ。
「仙君様」
「ふむ」
「あっちにいくと〈草原の都〉です。朝と夕方、大通りで市があるそうです。日曜日には、もっと大きな市だと聞きました。きっと甘いモノも売ってます」
「そうでしょうね」
「お願いしますね」
 花貂(ファーデャオ)は晴れやかな笑顔で頭をぺこりと下げた。
 どうやら案内はここまでで、クラスティは崖から飛び降りて買い出しに出かけるというストーリーらしい。ほっそりとしたあご先に指を添えたクラスティは、文人風の涼しげな目元を伏せてしばらく考えた。
 そしてにこにこと見送るつもりの天の官吏の首元をつかむと、自然な動作で持ち上げて飛び降りた。

 ぴゃあああああ、というどこから出したかわからないような、でんぐり返りの悲鳴を空中に長く引き伸ばして、花貂(ファーデャオ)は明けの明星照らす岸壁を落下していった。
 クラスティの手の中であまりの驚愕にうっかり変化がとけてしまった花貂(ファーデャオ)は、帯だけはぎゅっと引き締めたぶかぶかの布の塊の中で、すべらかな毛並みの身体をじたばたと動かして自失状態だ。
 まさか姿を変えるとは思わなかったクラスティは布まみれのオコジョをそのまま鞄に押し込んだ。クラスティ自身は大した危険を感じていないが、暴れる花貂(ファーデャオ)が何かの拍子で空中に飛び出してしまうと危険だからだ。
 鞄にとらわれてびくびく動く花貂(ファーデャオ)はびっくりしたのか口をつぐみ、突き出した頭部で周囲を確認した。
 口をぽかんと開いて、何かを言いかける気配。
 しかし、落下軌道変更のためにクラスティが岩壁を籠手で砕くと、その衝撃が引き金を引いたのか、またしても猫のような鳥のような悲鳴を上げる。
 レベル九三のクラスティとはいえ、これだけの断崖絶壁を素直に飛び降りればダメージは免れ得ない。〈羽毛功〉(フェザーフォール)を習得した〈武闘家〉(モンク)や、〈飛行呪文〉(フライ)を習得した魔法攻撃職ではないのだ。クラスティのクラスは〈守護戦士〉(ガーディアン)であり、重装甲の防御力と敵の攻撃を引き付ける挑発能力が中核である。
 しかも現在は解除不能のバッドステータス〈魂冥呪〉(こんめいじゅ)が身体を蝕んでいる。その効果のうち「HPの自然回復は停止する」及び「回復呪文および施設、物品などの手段よるHPの回復は不可能になる」を考え合わせれば、HPの回復は不可能、もしくは極めて難しいものと考えられる。その状況ではダメージを負うのは避けるべきだろう。現にクラスティの現在HPは最大時の半分程度しかない。
 そこでクラスティは、岸壁に拳を突き立てて即席のブレーキ変わりとする。
 これだけの重量だ、それで停止するわけではないが、勢いははるかに弱まった。高レベルの身体能力は常識外れの動体視力さえも彼に与える。
 岩の割れ目から突き出したねじくれた松の幹をバネの様に利用して横方向へのベクトルを稼いだクラスティは、向かい合う岩棚に飛び蹴りの要領で、今度は脚甲を突き刺した。

「仙君しゃま?」
「なんです?」
 恐怖のあまり青ざめて口を開いたり閉じたりしている喋るオコジョにクラスティは答えた。
「雲は……!?」
「雲」
 花貂(ファーデャオ)の単語レベルで分断された問いかけに眉根を寄せたクラスティは数瞬の間考えて、ああ、仙人が空を飛ぶときに乗るという雲のことか、と理解した。たしかあれは仙術のひとつだったはずだ。蒲松齢(ほしょうれい)の残した短篇にもそんな話があった気がする。貂人族たちはクラスティを仙人だと思い込んでいるので、当然のようにその程度の術は使えると考えたのだろう。
 今考えると崖際に案内した花貂(ファーデャオ)の笑顔は「ここから雲でひとっ飛びして買い出しをしてきてください」という意味だったのかもしれない。クラスティには庭園のはずれにしか見えなかったあの場所は、仙人専用の飛行プラットホームだったということもあり得る。
 もちろん事実としてクラスティは仙人ではないのでそんな術は使えない。
 もっとも〈鷲獅子〉(グリフォン)に乗るのも大差はないかもしれない。思い出してみれば大きな鳥に乗る仙人もいたはずだ。
 竜やら亀やら鶴やらの瑞獣(ずいじゅう)という名の騎乗生物を使うのが仙術なのだとすれば、〈冒険者〉も十分に仙人なのかもしれない。
「雲は休暇を出してるんですよ」
「え!?」
「うちの雲は三勤四休なんです」
「ええー!?」
 自分の労働環境と比べて目を白黒させる花貂(ファーデャオ)にそう言い切ってクラスティは砕けて瓦礫になった崖から、最後五メートルほどを軽く飛び降りた。
 自分では飛び切り丁寧に着地したつもりなのだが重量のある全身鎧は重い金属音を立てて、その印象は墜落ではないものの激突という程度には激しかった。いちいち悲鳴を上げかけるオコジョを鞄の中に押し込んで、クラスティは周囲を見回した。
 曙光に照らされた岩場は、もう先ほどまでの絶壁ではなかった
 まだあちらこちらに身長を超える段差があるが、赤茶けた土も覗く、まずは山道と言ってもよいあたりまでたどり着いたようだ。仙境のような空中にそびえたつ巨大な岩の連なりは、〈狼君山〉の山頂へと向かってゆく景色である。

「歩きで行くと大変かもしれません」
「そうですね」
 帰りの心配もせずにクラスティはそうつぶやいた。
 手間をかけるのが面倒で飛び降りたが、この程度の崖は、しがみついて降りてくることだってできたのだ。それは同時によじ登ることも可能だということでもある。どうにもならなければ〈鷲獅子〉(グリフォン)を呼び出してもよい。遠い大陸(ルビ:サーバーちがい)なので来てくれるかどうかはわからないが、召喚笛そのものは〈魔法の鞄〉のなかにある。
「お弁当持ってきていないのですが……」
 おそるおそる伺いを立てるような声で問いかける花貂(ファーデャオ)にクラスティは「向こうについたら外食ですね」と返事をした。
「何か素晴らしい食べ物があるかもしれません!」
 相変わらずすぐに機嫌を直すオコジョを鞄におさめたまま、クラスティは岩のはざまを時に飛び降り、迂回しながら降り始めた。
 初めて試したのだが、この鞄というのは悪くないとクラスティは考えた。花貂(ファーデャオ)の身体能力がどの程度なのかはわからないが、こうして小さくなって鞄に入っていてくれるのであれば、連れて歩くよりも持ち運んでしまったほうがずっと手間がない。
 街には何があるのか、腸詰があったら食べたいなどと意見を述べる花貂(ファーデャオ)は先ほどまで悲鳴を上げていたとは思えないほど浮かれているようだった。
「あなたたち本当に食べ物のことばっかりですね。それで天の官吏ですか」
 天の官吏というよりも貂の官吏でしかないのではないか。
 クラスティはひそかに呆れて声をかける。
「だから天吏なのです。欲を断ち切れたら仙人になれます。仙君は仙人様だから、葉蓮仙女(びじん)にも(びしょうじょ)にも興味がないし、美味しいご飯を食べてもニコニコしないのですね。スゴイですけど、実はあまり羨ましくありません」
「はあ」
 クラスティは生返事をした。
 葉蓮仙女が美人かどうかはよくわからない。薄絹で目元を隠しているからというわけではなく、おおよそ整った容姿をしているのはわかるのだが、美人だという決定的な感触が欠けていた。気配や存在感というわけではなく、気持ちが希薄なのだ。背景のような女性(ルビ:ひと)だな、というのがクラスティの感想である。もちろん何かの目的や計画を持っているのだろうがそれらすべての一切が借り物めいた印象を感じさせた。どうにもならないとは彼女のことだろう。あれでは何事も成し遂げられないし、最初から死んでいるようなものだ。
 花貂(ファーデャオ)が美少女であるというのは、改めて考えれば否定する材料に乏しい。たしかに整った容姿だし少女形なのだから美少女と言っても差し支えはないだろう。しかし、彼女の場合、美少女である前にカワウソなのだから美少女であろうがあるまいが、関係がない。そもそも彼女の動機のほぼすべては美味しい食事(とくに甘味)に向けられている。美少女であることの意味がどこにも接続されていないのだ。
 もちろんだからと言って彼女たちが悪いだなどということはない。
 世界に接続されている個人、意思や目標をもってなにかを為そうとし、その能力を獲得しようと努力し、結果として周囲に影響を与えられる人間など少数派にすぎないのだ。〈円卓会議〉を打ち立てた苦労性の青年シロエなどが良い例だろう。そんな選択をしても報いは少なく周囲の要求ばかりが大きくなり、結果として更なる面倒を押し付けられる。普通の人々はそれがわかっているから、大きな決断をするような人生は選ばない。
 クラスティは自分はどうだろうと考えかけて即座に打ち切った。
 自己分析などしてみても何の利益もない。人格など状況の反射にすぎない。鏡がゆがんでいて、ゆがみかたに多少の個性があるだけだ。楽しい状況を追い求めたほうが有益である。

「しかし、わたしも別段欲を絶ったわけではありませんよ」
「そうなのですか? 焼き菓子美味しかったのにダメでしたか」
 しばらく考えたクラスティは鞄の中から鼻づらだけをのぞかせた自称美少女に言葉をかけた。心底気の毒そうな同情の声で答える花貂(ファーデャオ)に、クラスティは作るでもなく平静な声で会話を続ける。

「好みのモノが別なだけですよ」
「仙君様はどんな食べ物が好きなのですか?」
「それは」
 それは? と好奇心溢れる相槌をうつ花貂(ファーデャオ)と視線を交わす。黒真珠のような純真な瞳に、クラスティは厳かな声で答えた。
「――食いしん坊オコジョの姿焼きと無花果(いちじく)ハチミツのソース添え、とか」
「え? ひょわえええ!? たったっ」
 虚を突かれた一瞬の静寂の後、素っ頓狂な悲鳴が空け染めた岩肌にこだました。どうやら悪戯は成功したようだ。成功しすぎかもしれない。
「美味しくないよ、仙君様。たっ食べななななないでええ」
 じたばたと暴れる花貂(ファーデャオ)は鞄から呼び落ちようとしながら、同時に大きな煙を出して少女の姿を取り戻した。山道すらない鋭い岩の斜面でそれはあまりにも危なそうで、反射的に後ろ首をとらえて救助したクラスティに、透き通った刃が振り下ろされたのだ。



◆ Chapter2.06 



 とっさに振り上げた〈鮮血の魔神斧(デモンアックス)〉と水晶の大剣は金属的な不協和音を響かせて噛みあった。振り下ろす両手剣には十分な加速が乗っていたが、それを操る金髪の青年は軽装だ。その分重さが足りなかったのだろうか。それともクラスティの重厚な全身鎧が大地に根を張ったように勢いを受け止めたのか。
 宙にあって一瞬の視線交錯のはて、二つの影は弾かれたように距離をとった。クラスティは攻撃に痺れた右手の調子を確かめるように巨大な片刃斧(バルディッシュ)を一回転させて敵を見つめた。
 強い。
 それは先ほどうけた一撃で十分に分かった。
 格上でもあるだろう。ステータス表示のレベルは一〇〇。エリアス=ハックブレード。〈エルダー=テイル〉における最強の登場人物。西欧サーバーを拠点に活躍する〈古来種〉の英雄だ。今の一撃だけでもとより半分程度しかなかったHPが一割ほども減らされた。防御力と耐久力に優れた〈守護戦士〉(ガーディアン)にとってその被害は驚愕すべきダメージだと言えた。レイドボスの通常攻撃程度のダメージ出力を有した相手だと言えるだろう。

「やっと|それらしくなってきました《、、、、、、、、、、、、》ね」
 クラスティは笑った。
「問答無用!」
 鋭く吐き捨てて彼我の距離を一息に詰める青と金色の青年剣士の攻撃を回避する。だが、クラスティとすれ違いざまに振るわれた透き通る大剣は、その剣先からゆるむように水流を発生させると、至近距離で身をひねるクラスティに追撃をする。どうやらあの魔法剣の間合いは見た目とは異なるようだ。
 クラスティは両手斧の柄を叩きつけて水流の流れを散らす。敵の攻撃ダメージを軽減させる補助系の特技〈アイアンバウンス〉だ。それでも殺しきれなかった被害は〈死せる戦士の鎧〉の表面で弾かれたように散る。
 その飛沫が剃刀のようにクラスティの頬を浅く切り裂いた。
 頬を伝う血液が唇の端に達したところで舌先で確認すると、身体の中にうずくような熱気が一息に広がる。
「エリアス=ハックブレード」
「貴様に名乗る名前など、持ち合わせてはいないっ」
 今度は何らかの能力を使用したのだろう。エリアスは両肩のあたりから水の翼のようなものを出現させた。当然それはただの飾りではないだろう。何らかの攻撃能力を有しているはずだ。

 エリアス=ハックブレードに襲撃をされている(現在進行形)。
 →古来種の最大の英雄である。
  →彼は〈エルダー・テイル〉の知識でいうならば善である。
   →なぜ一般〈冒険者〉に攻撃を仕掛けてきたか?
    →操られている可能性。
    →実はもともと凶暴な性格であった可能性。
    →何らかの事実誤認が発生している可能性。
    →実はクラスティ側が悪の存在である可能性。
     ↑特に否定材料がない。
  →彼の戦闘能力は?
   →レベル九〇〈冒険者〉よりも大きく上回る。
   →レイドボス並みの耐久力や速度はない。
   →通常攻撃はレイドボスと同等の威力。
   →タメの大きな技については未検証。
   →水や冷気を中心とした魔法攻撃と物理攻撃。
    →中間距離が得意な間合いか?
    ↑要検証。
 →何らかの対応を――

 岩を穿つような激流がクラスティが先ほどまでたっていた場所を貫いた。見切って躱したが血液が沸騰するような高揚感がクラスティからあふれだす。
 なぜ〈古来種〉の英雄が自分を襲ってきたのかはわからない。
 何らかの誤解であり話せば戦闘を回避できる可能性は、低くないだろう。
 しかし気づけば戦闘回避の方策よりも、相手の戦闘能力を値踏みしている自分がいる。
 そもそも戦闘を避ける意味は何処にあるのか?
 仙境を下りたのは無聊をかこっていたからではないのか?
 そうであればこの邂逅は、そしてこの手合わせは願ってもいない好機だろう。
 英雄エリアスに含むところがあるわけではないが、貴公子然としたあの男と刃を交えて踏みにじるのは、それなりに面白い余興だと思える。
 その過程で自分が果てるのであれば、それはそれで一興だ。

「仙君さまぁ」
「美味しいオコジョはしばらく隠れてなさい。後で相手をしてあげますよ」
 それが誤解を招く言動だと頭の片隅ではわかっていながら、クラスティはエリアスに視線を固定したまま、岩陰から頭をのぞかせる花貂(ファーデャオ)言い放った。唇の端が吊り上がるのを自覚する。どうやら自分は笑っているらしい。
 そんなクラスティに怒りをあらわにしたエリアスが再度踏み込んできた。
 速い。そして手数が多い。左右の肩からはやした水の翼が、その先端を槍の穂先のようにとがらせてクラスティを狙ってくるのだ。
 〈守護戦士〉(ガーディアン)の特徴は防御能力であって回避能力ではない。〈大災害〉以降、能動的な回避努力で回避可能性が上がることは確認されている。しかしだからと言っても、全身を覆うこの鎧がある以上大幅な回避性能は望めなかった。鋼の守りは回避可能性とトレードオフで手に入れた防御なのだ。
(だからこそ楽しみがあるわけですけどね)
 クラスティは荒々しく斧を一薙ぎするとともに自分を置き去りに後方へと身を躍らせた。〈空を征く瞳〉(ヒュペリオーン・アイ)の発動。クラスティの口伝だ。
 主観においてたった今、クラスティは二人に分裂した。
 エリアス=ハックブレードの猛攻に刃を合わせて弾き、凄惨な笑みを浮かべて自分からも切りかかる〈狂戦士〉クラスティと、そのクラスティを空中から見下ろして戦術判断を行う実体を持たないクラスティだ。口伝〈空を征く瞳〉(ヒュペリオーン・アイ)の効果は「空中から自分自身と仲間を見下ろすこと」である。〈エルダー・テイル〉がMMOゲームであったころ、その画面はこの口伝のように見おろし型であった。〈大災害〉以降の戦闘難易度の上昇は、視点が自分自身の頭部に固定されて情報把握が困難になったことも一因だったのだ。この口伝はその不便を克服することが出来る。
 便利ではあるが、クラスティの知る〈D.D.D〉メンバーの持つどの口伝と比べても地味で効果の低い口伝ではあった。大規模戦闘(レイド)の指揮においては効果が大きく、周囲の状況把握を容易にするという効果があるが、ダメージが増えるわけでもなければ、防御能力が上がるわけでもない。いままで想像もしなかった奇跡に手が届くわけでもない。取るに足りない口伝ではある。

「なっ!?」
 だがクラスティは死角から迫る残酷なほど透きとおった刃を半歩身体をひねるだけで躱す。無音で襲い来るエリアスの水の援護を一瞥さえせずに避けきったのだ。その動きはそのまま攻撃へと繋がっていた。身長ほどもある肉厚の三日月斧は、クラスティのひねった身体に巻き付く鞭のようにうねりエリアスに叩きつけられる。〈慈悲無き一撃〉(マーシレスストライク)に存在する七つの軌道のうちひとつをコマンドを介さず発動させたクラスティは、エリアスを背後から観察した(、、、、、、、、)隙をさらに崩すように〈勇猛なる突進〉(ヘイトリットチャージ)へと連携をつなげる。
 余裕など一切無い。
 客観的に見れば、最初からHPの半減しているクラスティが無謀な挑戦を挑んでいるのだ。いまこの瞬間も、直撃こそ避けているものの、短剣のような水の余波で細かい傷が増えていっている。ひとつひとつは取るに足りないそのダメージは、回復の望めないクラスティにとって決して等閑に伏せるものではない。
 しかし、だがクラスティにわき起こるのは凶猛な歓喜だった。
「強いですね、英雄エリアスっ!」
「貴様のような〈典災〉(よそもの)に言われることではないっ!」
 激高した剣士の攻撃は苛烈さを増した。
 だがその刃の嵐こそクラスティの慣れ親しんだ落ち着ける故郷だった。
 緩慢な日常は嫌いではないが、それでもゆっくりと錆付いていくような恐怖が我が身を腐らせる。じりじりと追い詰められ一瞬の気を抜くことも出来ない集中はクラスティの精神から、鬱屈をかさぶたのように剥がしていった。新鮮になり鋭敏になった感覚は、加速する体感時間により一層クラスティを引き込んでいく。
 善も悪も中途半端なクラスティにとって差し出せる唯一の対価、自らの生命をチップとして攻防の一瞬(ルーレット)は巡る。
()けっ! 〈水晶の清流〉(クリスタルストリーム)!! 清き水の精霊よ、その姿を千丈の刃と変えて、輝けっ! 〈アクアサウザンドレイン〉ッ!!」
 一歩退いてタメを作ったエリアスの気力が膨れあがる。
 その宣言通り千々に乱れ飛ぶ高速の水撃に、クラスティは〈大旋風撃〉(オンスロート)を叩きつける。真紅に輝くクラスティの三日月斧は〈幻想級〉(ファンタズマル)だ。ヤマトサーバーでも数えるほどしか見つかっていない最高希少度の魔法の武具として、強大な攻撃力とHP吸収能力を備えている。クラスティが呪いに苛まれている現在、その吸収能力は封印されたも同然だが、その鬱屈を晴らすような衝撃波を巻き散らかした。大技同士の正面衝突に、周辺の岩が砕け散って押し流される。

 しかし、足りない。
 クラスティのHPは低下している。残り二割もない。
 たいしてエリアスのそれはまだ七割以上が残っている。
 エリアスの攻撃は出来るかぎり回避しているが、〈空を征く瞳〉(ヒュペリオーン・アイ)を持ってしても範囲攻撃のすべてを躱しきれるわけではない。これでエリアスが近接物理攻撃タイプであればもう少し有利に戦闘は出来るだろうが、あいにくとこの〈古来種〉は中距離で戦う物理魔法兼用職のようだ。さらにその上、補助魔法や簡易的な回復魔法さえ有している。このまま戦い続ければ敗北は避けられない。
 頭の片隅で、それも悪くないという小さく昏い呟きが聞こえた気もするが、だからといってそれに従うのもしゃくである気がした。
 負けても良いとクラスティは偽りなく思うが、それは勝てなくても良いと同じ意味ではないのだ。

 勝てない。
 →状況打開策を。
  →戦闘能力が足りない。
   →増やせばいい。

 クラスティは半ば以上無意識に、自分の一部分を手放した。淡くきらめく虹色の光を幻視しながら、自らの内側に開く極小の門を経由して接続が確立するのを感じる。得られるのは本来転移などに使用される膨大な虹色の輝きだ。
 クラスティは唇をゆがめて笑った。
 捧げる記憶などいくらでもある。それよりもいまは眼前の男と戦うだけの熱量(エネルギー)が必要だ。クラスティに満ちあふれる輝きは急速にそのMPを回復し、その器を満たすと、呪文に還元される前の原始的な暴力でもって〈再使用規制時間〉(リキャストタイム)を加速させていった。しかしそれでもとどまることを知らずさらにはクラスティの身体能力をも増大させてゆく。
「その力はどこからっ」
 驚愕に見開いた瞳で叫ぶエリアスに躊躇いを覚えるクラスティではなかった。
 〈ウォークライ〉による雄叫びと共に間合いを潰す。重量百キログラムを越える突進を〈真紅の両断〉(スカーレットスラスト)による破断力に変換するのだ。
 あふれるほどのMPがしたたるように斧からまき散らされた。
 真っ赤な魔力光があたりに鮮血を巻き散らかしたかのように浸食する。
 遠くで潮騒のような音が微かに聞こえた気がした。
 オウウの山中から中原サーバに転移(とば)された瞬間に見た、言葉にならない無数のイメージの中で、クラスティは確かになにかを理解したのだ。いまそれは失われてしまったが、だが失われたと言ってもすべてではない。この技が、虚空から虹色の輝きを引き出す口伝が、失われた記憶と反逆の手がかりなのだとクラスティにははっきりと判った。
 その明確な気づきがクラスティの精神に歓喜を呼び起こした。
 この地にやってきてから何もかもが停滞していた平和な日常が引き裂かれ、やっと自らの歩く道が見つかったような心持ちだった。
 鋼ほどの強度を備える水流を二本、三本と断ち切ったクラスティの一撃は、とうとうエリアスの妖精剣と噛み合うまでに間合いをつめる。魔力によって強化された両者の武器が、互いを食いちぎろうと噛み合い、耳を覆わんばかりに金属音が響いた。
 〈刀剣術師〉(ブレイドマンサー)という魔法剣士であるエリアスよりも、レベルは落ちるとは言え〈守護戦士〉(ガーディアン)という純物理前衛職であるクラスティのほうが腕力では上なのか、ぎりぎりと鍔迫り合いで押しこんでゆく。
 クラスティは意識が出来ていなかったが、その口の端はつり上がり、悪魔のような笑みが浮かんでいた。それは目的を見いだした猟犬の笑みだ。エリアスとの戦いの中で、クラスティは敵の尻尾を見つけ出したのだ。

 しかしその力比べはあっけなく終了を迎えた。
 両者の過剰なまでの魔力に地盤そのものが耐えきれなかったのだ。
 足下が消失したような一瞬の浮遊感の後、クラスティとエリアスはすり鉢状に陥没する山肌の中心部にいる自分たちを自覚した。飛び上がろうにも、その足場にするための大地が崩壊を始めている。この山には〈天狼洞〉と呼ばれる大規模な鍾乳洞が無数に存在する――その事実を二人は失念していたのである。
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