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キョーハク少女  作者: ヒロセ
第三章 空回る僕ら
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悪意の雨

「優大元気ないな」


 ここのところ毎日雛ちゃんと帰らせてもらっている。今までは帰る時間が被ったらわざと遅れて帰ったりしていたけれど、仲直りした今はそんなことしなくて済む。本当にうれしい事だ。

 そう言うわけで、今日も雛ちゃんと一緒に帰っている。その途中でそう言われた。弱った心が体の外まで滲み出てしまっているようだ。


「え、そうかな」


 進行方向から目をそらさずに、わざとらしく白を切る。当然優しい雛ちゃんはそれにツッコむ。


「そうだろ。そうじゃなきゃ言わねえよ」


「そ、そうだよね……」


 余計な心配は掛けたくない。だから言い訳しておこう。


「今日返ってきたテストの結果が、悪かったから……」


 それが大きな理由ではないけれど、一応落ち込む理由としてはちゃんとしているからきっとこれで許してくれるはず。

 だけど、


「違うだろ」


 あっさりばれた。どうしてだろう……。


「二学期始まってからずっとそうじゃねえか」


 そうか。雛ちゃんは今日の僕を見て心配してくれていたわけではないんだ。これまでの僕を見て心配してくれていたんだ。それなら、もしかしたらかなり長い間心配をさせていたのかもしれない。申し訳ない気持ちでいっぱいだ。


「えっと…………」


 感謝とか、不安とか、後悔とか、そういった色々な想いが頭の中と心の中をぐるぐる回りうまく言葉が出ない。それをどう捉えたのかは分からないが、雛ちゃんがとがった口調で


「やっぱクラスの連中のせいだろ。あいつらが優大に酷いことするからだよな?」


 それは、すぐに否定しなければ。


「違うよ。それは違う。あれは僕が悪いからしょうがないよ」


 クラスのみんなと雛ちゃんが喧嘩するのは絶対に見たくない。


「ならなんだってんだよ」


「……その、色々」


 俯いた僕の顔を下から覗き込むように、腰を曲げて歩く雛ちゃん。


「その色々にクラスの連中が優大にしてる酷い事も含まれてんだろ? 庇う必要ねえって。正直に言えば助けるのに」


「大丈夫だよ。これは、しょうがないから」


 顔を上げて雛ちゃんを見る。雛ちゃんも体を伸ばして真っ直ぐ僕と目を合わせてくれた。


「しょうがなくねえよ」


「ううん。しょうがないよ。僕はこのままでいいよ」


 ふぅとため息をつき眉をひそめる雛ちゃん。


「……なんで若菜を庇うかね……」


「誰も庇ってなんかいないよ? 今のクラスの状態はいつも通りの状態だよ。楠さんのせいじゃない」


「……そうかよ」


 雛ちゃんが面白くなさそうに前を向いた。

 心配してくれていたのに、僕は雛ちゃんをがっかりさせてしまった。僕の立ち回りの悪さのせいだ。もっとうまく立ち回れれば、誰も不幸にはならないのに。

 よほど僕の返答がつまらなかったのか、もうその話はしたくないよとばかりに話を変える。


「そうだ優大。お前文化祭の日に女装するんだろ? 制服は私が貸してやるから安心しろ」


 う……。変わった話の先は僕の憂鬱の原因の一つ……。今度は僕がつまらなくなる番かもしれないよ……。


「……女装したくないけど……。でもありがとう……」


「さぞ似合うだろうな」


 楽しそうに言う雛ちゃんに一瞬気分が晴れたが、よくよく考えてみる。


「その、それは僕喜んでいいの?」


 一応男なので褒め言葉なのかどうか悩むところだ。


「文化祭当日は一緒に見て回ろうな」


「え、僕なんかが一緒でいいの? ……でも……その」


 雛ちゃんにだって一緒に回りたい相手がいるはずだ。僕に気を遣わなくてもいいのだけれども。


「……いいの?」


 結局こんな相手にすべてを委ねるようなことしか言えない僕はやはりダメ人間だ。


「当たり前だろ馬鹿か。よくなけりゃ誘わねえよ。友達だろ」


「う、うん。ありがとう!」


 本当にうれしい。中学校の文化祭は結構寂しい思いをしたものだ。お姉ちゃんと弟が来てくれたから一人ぼっちではなかったけれど。


「若菜に誘われたら断れよ」


 ジト目で言う雛ちゃんに驚きながら、一応聞いてみる。


「えっと、一緒に回らないの?」


「回るかよ。なんで人のことを馬鹿にしてくる奴と一緒に回らなけりゃなんねえんだよ」


「でも、二人には仲良くしてもらいたいなってずっと思っていたんだけど……」


「無理無理! 一緒にいたらイライラしすぎて殴っちゃいそう」


「それは、ダメだね……」


 喧嘩はダメだよ。


「優大はなんであんな人を舐めきった奴と一緒にいれるんだよ」


「え、楠さんはいい人だよ?」


 僕の人生の恩人と言ってもいいしね。

 はぁああああ、と大きなため息をつく雛ちゃん。僕はおかしなことを言ったらしい。


「……いい人はお前だよまったく……」


 がっくりと肩を落としながら、僕の髪をワシャワシャとこねまわしてきた。

 最後にポンポンと僕の頭を叩き、うな垂れていた頭を起こした。

 素敵な笑顔を作る雛ちゃんに、場の空気が少しだけタイムスリップをする。懐かしい空気だ。


「本当にお前は小さいころから変わらないな」


「え、僕変わってないの?」


 変われたと思ったのに……。僕の勘違いだったのかな。


「変わってねえよ。根本的なところの話な」


 根本的なところ。情けないところだね。よく知っているよ。確かにそれは変わってない。

 表面を変えただけでかなり人生が変わったのだから、根っこを変えられたら僕の人生はもっと変わるはずだ。

 だから、頑張ろう――と、思ったのだけれども、


「変わるなよ」


 雛ちゃんから変化禁止令が発令された。


「変わったら、ダメなの?」


「駄目に決まってんじゃん。優大のいいところだからな」


 いいところ。情けないのが僕のいいところらしい。それは、いいところなのかな。情けないというにマイナスなイメージしか持っていない僕がおかしいのかもしれない。

 分からないことは聞いてみよう。聞くは一時の恥。


「その、情けないのが、僕のいいところ、っていうことだよね?」


「ちげえよ」


「なんでそうなるんだよ」と笑う雛ちゃん。

 情けない云々の話ではなかったらしい。


「その、じゃあ僕の根本って……?」


 雛ちゃんがうーんと唸り、そして見ている僕まで楽しくするような笑顔で言った。言ってくれた。


「優大の根本は優大だな」


「え、えっと?」


 よく分からないから聞いてみよう。聞くは一時の恥。


「どういうこと?」


「これ以上は教えない」


 一時の恥を忍んで聞いてみても答えが得られない場合があるのなら、最初から一生の恥を選ぶというのも間違いではないのかもしれない。

 ……僕は何を考えているのだろう……。恥の話今はどうでもいいね。よく分からないことを考えるのはやめよう。


「私の思う優大がそのまま根本っていう意味。これ以上は教えねー」


「う、うん」


 自分で考えろという事だ。そうだよね。自分のことだもの。

 うーん、分からない。


「僕は馬鹿だから……分からないかも……」


「それじゃダメだから答え出せよ」


 雛ちゃんに褒められるのなら、一生をかけてでもそれの答えを出そう。


「そう言えば、さっきテストの結果悪かったって言ってたな。何番だったんだ?」


 う……。また僕の憂鬱の原因が……。


「……その、百八十五番……」


「なんだ。小嶋のバカに比べりゃ全然いいじゃねえか」


「えーっと……」


 なんだか、コメントに困るよ。とにかく、話題を変えよう。


「その、雛ちゃんは凄いよね。四番だよね」


「あー……。まあ、たまたまな。なーんで上位三十人の結果を張り出すんだろうな。ちょっと理解できねえわ。個人情報の流出……とまでは言わねぇけどいい事はねえよ」


「競争心をあおっているのかな。次は負けないぞって思わせたいんだねきっと」


「なら全員の結果張り出せよ」


「……その、僕くらいの順位は恥ずかしいから、かな?」


「恥ずかしいもんかよ。こんな結果将来何の役に立つってんだよ」


 僕のような順位の低い人ではなく雛ちゃんのように順位の高い人が言うからかっこいいんだ。僕が言っていたらただのひがみにしか聞こえないよ。さすが雛ちゃん。

 というわけでかっこいい雛ちゃんから勉強方法の仕方を教えてもらおう。


「雛ちゃんはどういう勉強してるの?」


「別にふつーだよ。予習復習してるだけ」


「それが出来るのは普通じゃないよ……。すごいなぁ、家で勉強なんて僕する気が起きないよ」


「それだけ暇ってことだろ。羨ましがるようなことじゃねえよ」


「暇だからっていう理由だとしても、それを勉強に持っていくのはすごいよ」


「すごくねえよこの野郎」


 ぐにーっと僕のほっぺたを抓ってきた。痛くはないけれど、思わずうぅと唸ってしまった。それを聞いたからか、すぐに放してくれた。そしてその腕を僕の左肩に置きぐいっと体重を乗せてきた。近づく雛ちゃんと僕の顔。少し恥ずかしい。


「テスト週間になったら一緒に勉強しようぜ。そういや、前回のテストでそんな約束してたっけな」


「う、うん」


 覚えていてくれたんだ。とても嬉しい。


「でも若菜のせいでそれがおじゃんになって……ちっ。あいつは本当に人の邪魔しかしねえな」


「そ、そうかな? あ、楠さんも誘ってみようか。学年一番だし、雛ちゃんも勉強教えてもらえるかも」


 僕が提案すると同時に、左肩の重みが取れた。雛ちゃんが僕から離れたからだ。


「あぁ? なんで私があいつに勉強を教わらなけりゃなんねえんだよ」


 う、機嫌を悪くしてしまった。そうだよね、雛ちゃんは勉強教わるような順位じゃないよね……。


「ごめんなさい」


「……別に怒ってねえけど、あいつは誘わねえからな」


「そ、そう……」


 なんだか、それはとても寂しいし悲しいし残念だね……。


「……あーもーそんな顔するなよ。お前は本当にずるいな」


「え、あ、ゴメン」


 悲痛な顔をされたら気を遣っちゃうもんね。気を付けよう。でも残念なのは本当だし……。


「気が向いたら誘ってやる。それでいいだろ」


 苦笑いの雛ちゃん。


「あ、うん」


 雛ちゃんに気を遣わせてしまうなんて、僕は酷い人間だ。

 落ち込んでいる間に、もう僕の家だ。なんて楽しい下校なんだろう。新学期からずっと、この時間が楽しい。

 名残惜しいので、家の前で立ち止まり、少しだけ世間話。


「まあなんだ。夏休みには色々あったけど、元気出せよ」


 最後まで僕の心配をしてくれる雛ちゃん。


「うん。僕は、平気だよ。何も見てないからね」


「……そっか。そうだったな。なら、何にも気にしてねえよな」


「うん」


「それだったらいいんだけど」


「ありがとう雛ちゃん」


 僕は深々と頭を下げた。


「別に気にすんなよ。友達だろ」


「うん」


 本当にいい友達を持った。僕にはもったいないよ。

 何となくお互い笑顔で見つめ合う。本当に、名残惜しい。

 お互いの間に妙な沈黙が流れる。沈黙が気にならなくなったこの関係は、何物にも代えがたいね。

 しかし、何故だかわからないけれど、徐々にその沈黙に緊張が混ざりはじめた。目には見えない何かが辺りを包む。空気は張りつめて行く感覚に僕は不安を覚えた。

 そして、それはピークを迎え、異様な緊張感が僕の胸を猛烈な勢いで叩きはじめた。


「――優大」


「え?!」


 目には見えないけれど、僕と雛ちゃんの間にはピンと張った緊張の糸があるような気がする。


「…………あのさ、実は私…………、前も言おうと思ったんだけど――」


 なんの事だろう……。もしかしたら、ずっと前から僕のことが……………………嫌いだった……とか……は、無いよね! ……無いよね。


「ずっと前から――」


 え?! ず、ずっと前から?!


「――……んん? 雨か?」


「え?」


 雛ちゃんの声と視線に緊張の糸が一気に緩む。

 胸を叩いていた何かはどこかへ逃げ出してしまった。

 それにしても、雨? 空は晴れているけど……。

 僕は両掌を空に向け雛ちゃんのように天を仰いだ。その時に目に入ってきたものを見て思わず声を荒げてしまった。


「な、な! ちょっと、何してるの?!」


 雛ちゃんの背後の方に、異常を見つけた。


「え?」


 雛ちゃんが驚き僕の視線の先を見た。そこでは、唇を尖らせた渋い表情の僕のお姉ちゃんがベランダに立ち、大きな水鉄砲の銃口をこちらに向けてぴゅーぴゅートリガーを引いていた。


「やめて! お姉ちゃんやめて!」


 僕が手を振って制止すると、お姉ちゃんはむっとした表情を作りこう言った。


「…………まだばれてない!」


「「いやばれてるよ!」」


「……ふーーーん!」


 と言いながら部屋に戻るお姉ちゃん。僕らは呆然とそれを見守っていた。

 事態の把握に何秒かついやした後、雛ちゃんがぼそりとつぶやく。


「……お前の姉ちゃん、ちょっと……」


 見るからにテンションが落ちている雛ちゃん。それを見て僕のテンションも下がる。


「ご、ごめんね……」


「お前が謝ることじゃねえけど……。私、やっぱり苦手だわ」


「ごめんなさい……」


「怒ってはないけど……。あー、もう……。私帰るわ……」


「本当に、ごめんね。お姉ちゃんには強く言っておくから」


「いや良いよ。もとはと言えば恨まれる私が悪いんだ。私のせいで姉弟の仲が悪くなるのは嫌だし、今のは別に気にしてないから喧嘩はすんなよ」


「でも……」


「大丈夫だって。ちょっと水がかかっただけだしすぐ乾く。そうなりゃ何も無かったことになるだろ」


「その、本当にごめんね……」


「だからもういいって。じゃあ、私帰るわ」


「あ」


「じゃあまた明日な」


 苦笑いに近い笑顔を僕に見せ、雛ちゃんが帰って行った。

 先ほどなんと言おうとしていたのか、分からないままだ。

 ――ずっと前から――

 なんだったのだろう。とても気になるけれど、今はそれよりも、


「……お姉ちゃんは……本当に……」


 きつく言わなくちゃ!


「酷いよお姉ちゃん! 夏休みあれだけ酷い事をして許してもらったばかりでしょう! もうやめてよ! 次したら本当に許さないから!」よし、イメージトレーニングはばっちりだ。これくらい強く言わなくちゃわからないよね。

 僕は肩の力を抜き、気合を入れ家に入った。




 自分の部屋ではなくダイニングにあるテーブルに座っていた姉に向かって、僕はイメージトレーニングの成果を見せる。


「酷いよっ、お姉ちゃんっ」


 あれ、全然口が回らないや……。声も張れないし、なんて情けない結果だろうか。


「酷くない。打ち水をして家の前の温度を下げていたところにたまたま金髪が通りかかっただけだから。悪いのは地球温暖化だよ。ヒートアイランドだよ。でも地球温暖化は本当に起きているのかどうか怪しいから結果的に悪いのは祈君になるんだよ」


 ソファに座りテレビを見ていた弟の祈君が驚いたようにお姉ちゃんを見た。


「なんで俺」


 祈君まで巻き込もうとしているよ。酷いや!


「お姉ちゃん……。僕の友達はお姉ちゃんが思っているような事しないよ……?」


 お姉ちゃんは僕の友達が裏切ると思っているんだ。それによって僕が悲しまないようにと、友達作りに反対しているようだけど、そもそも裏切られた事実なんてないしみんながそんなことするなんてことは無いんだ。


「それに、この前謝ったんだから、同じこと繰り返さないでよ」


 今日のように酷い事をしたお姉ちゃん。そのことについて許してもらったばかりなのにまたこんなことをするなんて。


「だから、今さっきのあれは別に優大君と金髪を引き離そうとしたわけじゃなくて、インフルエンザ対策で家の前の湿度を上げてウイルスの活動量を低下させようとしていただけだって言ったでしょ」


「さっきと言ってることが違うよ!?」


「またそうやって人の揚げ足とる」


「なんだかその言い方は釈然としないな! 僕!」


「もういいからテストの結果見せて。今日返却でしょ」


 突然話を変えられたけど驚きでそれどころではない。


「え! なんで知ってるの……?」


「私の所も今日結果が返ってきてたから優大君の学校も今日返ってきたと思って。いいから見せて」


「う、うん……」


 隠している訳にもいかないし、いずれは出さなければならないものなので僕はしぶしぶカバンの中からテストの結果が書かれた紙をお姉ちゃんに差し出した。


「ほーら言わんこっちゃない!」


 お姉ちゃんは僕の無様な結果を見て怒りながら喜んでいた。


「友達なんかと遊ぶからこうなったんだ! あーあ、私の言うこと聞いてればこんなことにはならなかったのに!」


「違うよ。それが僕の実力なんだよ? その証拠に、一緒に遊んでた雛ちゃんとか楠さんは物凄く良い順位だったもん」


 色々あったから勉強ができなかっただなんて言い訳は出来ない。


「何言ってるの優大君? その人たちはその人たち。優大君は優大君。優大君は、頭が悪いんだから、遊ばずに勉強しなくちゃって言ってるの」


「う……。おっしゃる通りです……」


 確かに、遊ばずに勉強をしていればまだいい順位をとれていたかもしれない。でもそんな夏休み楽しくない。遊んでこその夏休みだよ! ……あれ、なんだか僕頭の悪い言い訳をしている気がする……。


「ね? これで分かったでしょ? 友達は、害しかないの。お姉ちゃんが勉強教えてあげるから友達にお別れを言ってきなさい」


「友達と別れるとか、そういうことは、お姉ちゃんに言われることじゃ、ないよ」


「何言ってるの! お姉ちゃんは弟を守る義務があるの! 悪の道に染まる弟を見過ごしてなんかいられないでしょ!」


 友達を作るのが悪の道だと言うんだ……。なんだか、お姉ちゃん可哀想。

 困る僕に、祈君が助け舟を出してくれる。


「姉ちゃん、人間波はあるよ。たまたま順位低かったからってそんなに怒らなくても」


 いいこと言うね! ……僕のは波というよりも年々水位が下がって行っているような気もするけど……。


「祈君はうーるーさーいー。お子ちゃまはテストの大切さが分かってないんだよねぇ……。テストの順位が一つ落ちることはそのまま人生のランクが一つ落ちることを意味しているんだよ! 気づいたときに後悔しないように今から教えてあげているんでしょー」


 雛ちゃんは順位なんて将来役に立たないと言っていたけれど……。色々な考え方があるんだね。

 うーん。その考えだと僕はとんでもないことをしでかしたのかもしれない……。どうしよう。


「なら姉ちゃんが実践しなくちゃ。姉ちゃん、夏休み兄ちゃんに構いすぎて順位落としたんでしょ。さっき姉ちゃんの結果見たよ」


 えっ。自分が実践できていない。


「なに勝手に! プライバシーの侵害だ! 今日のおかずを一品私に譲渡することで手を打ってあげないことも無いよ!」


「勝手にテーブルの上に結果を放り出してたのは姉ちゃんだし、プライバシーの侵害っていうのなら昨日姉ちゃん俺の部屋から勝手に漫画本持ってったじゃん……」


「姉はいいの! よく聞くでしょ!? 姉の物は姉の物、世界そのものは姉そのものって!」


「とんだ独裁者だ。とにかく姉ちゃん、姉ちゃんはとりあえず自分の事考えていればいいと思うよ。とても受験生とは思えない」


「受験より弟の方が大切でしょ!」


「俺も一応弟だけど」


「祈君は出来る子だからどうでもいいの」


 ……出来ない弟でゴメンなさい……。


「だから祈君はもう寝なさい」


「まだ晩御飯食べてないよ」


「私が代わりに食べておくから」


「無茶苦茶だよ」


 祈君が、お姉ちゃんと言い争っている最中、僕に向かって早く逃げるように手を払ってくれたので僕は心の中で感謝をしてこっそり自室へと逃げて行った。結局雛ちゃんに対する暴挙について強く咎めることが出来なかった。

 うーん……。仲良くしてもらいたいのだけれども……。


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