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キョーハク少女 作者:ヒロセ

第二章 ホーロウ中年

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「下の子たちを守ってね」という意味

 八月十二日。
 今日は朝から図書館でみんなと勉強だ。
 ただ、僕のモチベーションはありえないくらいに低い。

「どうした優大?」

 僕の家に迎えに来てくれた雛ちゃんが心配そうに聞いてきてくれた。

「……その、お姉ちゃん、文化祭に来てくれるって」

 とりあえず関係のない話題でごまかす。

「……ふーん。それはよかったな。でもなんで優大が落ち込むんだよ。優大も来てほしくなかったのか?」

「それは、その、嬉しい事だけど」

 首をかしげながら図書館までの道を歩く僕ら。
 そして、無事に到着。
 図書館の入り口ではすでに楠さんと三田さんの二人が僕らを待ってくれていた。

「あ、おはよう……」

 三田さんが僕らを見つけて駆け寄ってきてくれた。

「おはよう三田さん」

「おはよう……佐藤君と、有野さん」

「んー」

 雛ちゃんは先ほどからずっと僕の顔を見ている。どうやら、それほどまでに僕の顔に影がかかっているらしい。
 三田さんは何やら不思議そうに僕と雛ちゃんを交互に見ていた。
 そこへ遅れて楠さんがやってくる。

「おはよう二人とも」

 にこやかな楠さん。
 なんだか、とても顔を合わせづらい。

「……」

「……」

 僕らは無言だった。
 雛ちゃんの無言はいつも通り。

「おはよう、有野さん?」

 いつもと同じように挨拶をさせる楠さん。

「あーはいはい、おはようおはよう」

「一日の始まりは挨拶からだよ。ねえ? 佐藤君?」

 僕の無言は不自然だ。

「は、はい。おはようございます」

 固くなってしまうよ……。仕方ないよね。

「嫌だなぁ佐藤君。私達友達なんだから、そんなにかしこまらないでよ」

 グイッと顔を近づけてこられた! あの時の記憶がフラッシュバックして恥ずかしい!

「ん?! どうした優大! ジャミラごっこがしたいのか?!」

 Tシャツで顔を隠した僕に向かって雛ちゃんが心配そうに聞いてきた。

「おい若菜! 優大が元気なかったのはてめえのせいか! 何しやがったんだてめえ!」

「元気がない? それは本当なの佐藤君?」

「え?! あ、いや! その、あの時のことは関係ないです!」

「あの時の事?! なんだそりゃ! 詳しく教えろ優大!」

 口が滑っちゃった!
 Tシャツをずり下げられ僕の顔がフルオープン。
 睨み付けてくる雛ちゃんと妙な笑顔の楠さん。きゃー!
 僕は恥ずかしくなって両手で顔を覆ってしまった。

「優大?! どうした!」

「ななななんでもないです!」

「佐藤君どうしたの?」

 耳元で聞こえてくる楠さんの声。近いよ!

「若菜おいてめえなんでそんなに寄るんだよ! 離れろ!」

「これは失礼。でも佐藤君、元気ないってどういうこと? そんなに嫌だったの?」

「嫌なわけないよ! ちょっと気持ちが沈んでいるのは別の理由!」

「そう。ならいいんだけど」

「おいお前ら! 何があったんだよ! 教えろ!」

 そ、それは、出来ません!
 わいわい騒ぐ僕らと置いてけぼりの三田さん。

「……その、図書館に入って、勉強……」

 三田さんの小さな可愛い声は僕らの騒ぎによって全部かき消されていた。




 図書館の一角で、僕はみんなに説明する。
 何も知らない三田さんにも分かるように概要を説明した後、昨晩のことをみんなに伝える。。
 大体、説明の内容はこんな感じ。

 僕は昨日の夜、姉の部屋で大人しく正座をしているお姉ちゃんに事情を説明するよう詰め寄った。

「どういうこと?! ど、どういうこと?!」

 お姉ちゃんは申し訳なさそうに事情を話し出した。

「出来心で……」

「ちゃんと説明して!」

「怒らないでよ……」

「怒ってないけど!」

「怒ってるよ……」

「そんなことよりも早く説明を!」

「……はぁ……。あの日、四年前のあの日、優大君が凄く寂しそうにしていて、事情を聞いたらお友達と絶交してしまったみたいな感じだったから、可哀想に思って私がお友達になってあげようと……」

 四年前の話?

「……え? でも、まりもさんと出会ったのは、三年前……」

 なんでそれが関係してくるのかな。

「だから、まりもに至った話からしてるの。でね、お友達がいなくなったみたいだから、私がお姉ちゃんじゃなくてお友達に近い存在になってあげようと思ったから、まずは私のことを名前で呼ばせようと。それで、優大君に『私のことを名前で呼んで』ってお願いしたんだけど、優大君は『嫌だ』っていうから、それなら私も『お姉ちゃん』に対抗して『お兄ちゃん』と呼んでやろうと。嫌なことされたらきっと名前で呼ぶようになるのではないかなーって思って」

「そ、そんな理由で、僕は、四年間もお兄ちゃんと呼ばれたんだ……」

「それなのに優大君は我慢し続けてなんだかんだで慣れちゃって。早速頓挫。まったく、優大君は」

「ご、ごめんなさい?」

 謝るところかなここは。

「とりあえずその作戦は続けたまま、私と祈君以外の話し相手を作ってあげようかなと思い、パソコンを買い与えてもらったと同時にお勧めのサイトと称して私の運営する怖い話サイトを紹介して、優大君の好きそうな話を適当に創作してサイトに載せて優大君からの連絡を待って。うまく行った」

「な、な、な」

 僕はまんまと姉の掌の上で踊らされていたようだ。

「で、でも、どうして突然僕への態度を豹変させたの?!」

「え、だって、私に対する愛が足りなかったから……」

「あ、あ、がががが」

 なんという事でしょう。
 さらにお姉ちゃんは苦々しく続ける。

「しかも、お友達なんて連れてくるし。まさか、あの金髪の子と仲直りしているとは思わなかった! どんどん仲良くなっていくし! いぎぎぎぎ!」

「お、お姉ちゃん……」

 でもおかしなことがいくつかあるよ。

「その、お姉ちゃん。お姉ちゃんが家にいないときにも、僕スカイぺでまりもさんと話したけど……」

「友達の家にだってパソコンはある!」

「でも、海へ行ったとき、お姉ちゃんが傍にいるときにまりもさんと電話で話したけど……」

「友達だって電話は持ってる!」

「なっ……、なんでわざわざそんな偽装工作するの?! 僕共犯者とかそういうトリック好きじゃないな!」

 あと催眠術とかも嫌い! でも今はそんなことはどうでもいい!

「だって、状況的にまりもは私以外考えられないかなーって思ったから、疑いの目をそらすために友達をだまして協力させて……」

「だ、騙して……?」

「弟をドッキリに引っかけているから私と弟が一緒にいるタイミングで電話をかけてって。そしたら友達、尋常じゃない回数の電話を優大君にかけて、ちょっと私うんざり」

「うんざりしていたのは僕の方だよ!」

「まあ確かに私と優大君が一緒にいるタイミングなんて共犯者には分からないから仕方がないとは思うけど。でもそれにしても楽しみすぎだったあれは。だから帰ってすぐに連絡入れてやめるように言っておいたからね、安心して優大君」

「元凶の人がなんで「感謝してよね」みたいな顔してるの!?」

 そう言えば、確かに海でのまりもさんはキャラが違った! 今更気づくなんて……!

「その、ところで、状況的にお姉ちゃん以外にいないって、どういうこと?」

「『ユウ』が優大君だって突き止められるのは、優大君のパソコンを覗ける私だけかなって」

「そう言われれば、そうなのかも」

 色々と言いたいことはあるけれど、とりあえず、まずは、文句を言おう。

「お姉ちゃん! 髪の毛ケーキとか、結構怖かったんだから!」

「怖い話好きだからいいよね」

 ぱちんとウインクしてくるお姉ちゃん。そんな可愛いことしてもダメだよ。

「よくないよ……。あと、僕のことを沢山貶してたし、お姉ちゃんのことも沢山貶してたし……。あと、その……」

 僕の事嫌いって言ってたし……。

「自虐だからいいでしょ。優大君のことを悪く言ったのは謝る。本心じゃないから。嫌いっていうのも嘘だから。まりもを演じていただけだから。優大君大好き」

「……それなら、よかった」

 ほっと一息。
 少しだけ、これまでのことを思い返してみる。
 確かにお姉ちゃんとまりもさんの言っていることは同じだった。友達を作るなと僕に伝えていた。裏切らないのは家族だけとも言っていた。お姉ちゃんがお風呂に入っていたり部屋にいないときは、確かにまりもさんはログインしていなかった……。気付こうよ、僕。

「まぁ、そう言うわけで、一件落着だね、お兄ちゃん」

「一件落着じゃないよ……。それに、もうお兄ちゃんはやめてね……」

「なんで!」

「僕、もう友達がいるから、大丈夫だよ」

「ダメダメ! 友達なんてすぐに別れちゃって! 裏切られるよ!」

「お姉ちゃん……。僕、それなりに落ち込んでいるんだ……。もしお姉ちゃんが少しでも今回の一件を申し訳ないと思っているのなら、友達に謝って欲しいな……」

「……ぐぐ……。そう言われたら、何も言えない。ずるい!」

「ずるくないよ……」



 と、大体このような内容の話を昨晩した。
 これを図書館で話してみたら、

「なんだか面白くないオチだね」

 楠さんはあまりお気に召してはくれなかったようだ。

「誰かがさらわれたり命の危機に瀕したりすると思っていたのに」

「お前は優大の人生にどんな期待をしてるんだ。普通の人生なんてこんなもんだろ」

 確かに大した終わり方ではないけれど、それでも僕としては大事件だったよ。

「それにしても馬山さん犯人説が違ったとは……。悔しい。サトウ ユウタの一件は偶然だったんだ」

「みたいだね」

「手紙とか、手の込んだことしてんな。色んな意味ですげえよ」

「そうだね……」

 思い出して落ち込む僕に三田さん。

「……佐藤君、すごい体験をしているね……」

 三田さんは僕と同じ感覚を持っているようで事件の大きさを共有できているみたいだ。

「うん、もうこりごりだよ。……まったく、お姉ちゃんは……。あ、そうだ。お姉ちゃんが、楠さんと雛ちゃんに謝りたいから家に来てって」

 そうしたら、やっと全部が解決したと言えるよ。

「謝りたいって、佐藤君が言わなきゃ謝ろうとは思わなかったんでしょ?」

「そ、そんなことは無いよ。来てくれるよね?」

「私は別にいいけど、有野さんは?」

「……行く」

 よかった。
 話がまとまったところで、三田さんが首をかしげて聞いてきた。

「……その、私、よく話を知らないんだけど、どうして『まりも』なの? お姉さん、まりも好きなの?」

「そう言われりゃそうだな。まりもって、どうして」

「まさか、お姉さんの名前がまりもとか言わないよね」

「ち、違うよ。それならさすがに気付くよ」

 そこまで僕は鈍くないよ。

「お姉ちゃんの名前がね、守るって書いて、『まもり』なんだ。『守』。だから並べ替えて、『まりも』。アナグラムだね」

 これは気付けないよ。

「「気づけよ」」

 え?



 勉強を終え、お昼前に図書館を出た僕らは佐藤家に向かった。当然お姉ちゃんに謝罪させるためだ。
 ところが。

「ごめんなさい謝ります迷惑をかけてすみませんでしたでも私は弟を渡す気ないから帰れ!」

 これは、謝ったと言えるのでしょうか。
 でも、とりあえず、これでこの夏休みの事件が終わったという事にしておこう。楠さんは面白くないオチだと言っていたけれど、当事者にとってはそれなりに壮絶な体験だったと分かってもらいたい……。
 なんだかんだで、ハッピーエンドとは言えないけれどノーマルエンドくらいの終焉を迎えることが出来て、僕はとても幸せだ。まりもさんが虚像だったことと僕の初恋がまだ始まっていなかったことは悲しかったけれど、それでも僕としては上々の終わり方だと思うんだ。
 馬山さんと出会って別れて、強盗に遭遇して、まりもさんの正体を知って、海へ行って、山へ行って、勉強して、お姉ちゃんと皆が和解(?)して、ドタバタしていたけれど、素晴らしい夏休みだったと
思う。絵日記を書いておけばそれなりに面白いものが描けていたような気がするけれど、僕はもう子供じゃないんだ。
 これでも僕は、高校生なんだよ。
 素敵な夏休みは、心の中だけにしまっておこう。
 良い夏休みだったな――

 ――ただ。

 夏休みはまだ終わっていない。
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