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キョーハク少女 作者:ヒロセ

第二章 ホーロウ中年

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昨日の次の日

 バキバキに折られた木の棒と、できの悪かったものがより悪くなっているテント。

「なんだこりゃ!」

「これはまたずいぶんご機嫌な風景だね」

 八月十日。
 僕は楠さんと雛ちゃんの二人を秘密基地に誘った。
 秘密基地が壊されたことと、馬山さんがいなくなったことを教えたかったからだ。
 快く……楠さんは快くとはいかなかったけれど、二人は来てくれた。
 ひそかに馬山さんが帰ってきているのではないかと信じていたが、そんなことは無かった。
 僕らは思い出の場所の末路を目の当たりにしてそれぞれの感情を出す。

「あのおっさん、なんでこんなことしてんだよ……!」

 雛ちゃんは怒っている。

「まぁ、いなくなってくれれば私はそれでいいけど」

 楠さんは少し喜んでいる。
 僕は。
 僕はとにかく悲しい。
 壊された風景も、馬山さんがいない風景も。どちらも悲しい。

「優大を悲しませるようなことしやがって……。絶対に許さねえ」

「……え……? 雛ちゃんは、悲しくないの……?」

「あぁ? まぁ、ちょっとは悲しいけど」

 この秘密基地にただならぬ感情を抱いていたのは僕だけみたいだ。

「まぁ、また作り直せばいいだろ」

「……うん」

 違うよ。そうじゃないよ。
 もう直せないんだよ、あの頃の秘密基地は。

「で、馬山さんはどこへ行ったの? やっと馬小屋に帰ったの? それとも土に帰ったの?」

「多分、旅に出たんじゃないかな」

「旅。旅って。暇を持て余した大学生じゃないんだから」

「でも、多分そうだと思う……」

 それ以外に考えられないよ。家はないって言っていたし、お金も無いって言っていたし。

「まあいいじゃねえか。危ないおっさんなんかどこへ行こうと知ったこっちゃねえや」

「そうだね。でも有野さん、無理やり話を終わらせようとしているところが怪しいね……。どこに埋めたの? ばらさないから警察に言ってごらん?」

「お前マジで何言ってんだ?」

「捕まりたくないもんね。でもね、それは犯罪なんだよ? 一応人なら法律守ろうね」

「お前本当にムカつくな」

「怖い。私もやられてしまいそう……。そうやってまた罪を重ねるんだね……。クラスメイトとして恥ずかしいよ。あぁ、強制的にクラスメイトにさせられるなんて、神様を恨むよホント」

「お前すげぇ性格歪んでるな」

「有野さんはキューティクルが痛んでるね」

「かんけぇねぇだろぉが!」

 二人が言い争っている中、僕は昨晩軽く直したテントに近づいた。
 そして木の棒にかぶせていたビニールシートを剥がして畳む。

「……優大? どうした? 直すのか?」

 雛ちゃんが不思議そうに聞いてきた。

「ううん。これは、僕が持って帰る」

「直さねえのか?」

「直らないよ」

「直るさ」

「……直らないよ」

 もう無理。
 タイムスリップでもできれば話は別だけど。

「どうしたんだよ優大。もう秘密基地はいらねえのか?」

「……僕が守ってきたものは、ただの風景じゃないから」

「……? よく分かんねえけど……。作り直すのなら手伝うぜ」

 雛ちゃんが手伝ってくれるのならば、近いものは出来ると思うけれど。

「秘密基地は卒業するよ」

 僕はビニールシートを脇に抱えて、雛ちゃんを安心させるためにへらへらした顔で振り返った。

「僕だってもう、大人だからね」

「なーに言ってんだ。優大はまだ子供だ。大人になんかなるなよ」

「大人だよ。僕はもう、大人になったんだよ」

 だからもう、悲しくても泣かないんだ。
 僕は成長しているんだ。
 成長した僕をみて、楠さんが言う。

「君、少しおかしくなってるね」

「え?」

 楠さんの言葉がよく分からない。
 おかしいって、僕の頭がかな? それはいつも通りだけど。

「なんか、どうでもいいやって感じなのかな? 吹っ切れたように見えてただ何かが切れてるだけ。そんなに悲しかったんだ。どれだけ秘密基地に思い入れがあったの? それとも、馬山さんの方に思い入れがあったのかな」

「……」

「大人になったというか、大人しくなっているだけだよ。かっこ悪いかっこ悪い。何をあきらめているんだか」

「でも、どっちも、どうしようもないよ。馬山さんも秘密基地も。もう戻ってこないよ」

「だからって、そんなに物わかり良いふりしなくてもいいじゃない。泣いて怒ってまた泣いてスッキリしたほうがいいんじゃない? なんだったら胸貸すよ。有野さんの無い胸を」

「あるわ!」

 雛ちゃんが楠さんを小突いていた。小突く姿は初めて見た。

「だから、大人なふりをしないで。そんなの佐藤君じゃない。それじゃあ後藤君だよ」

「……だれ?!」

 後藤君は僕の知り合いにはいなかった。

「とにかく、無理はしないでね」

「……うん」

 無理なんかしていないけれど、無理はしないでおこう。

「で。ところで。ずっと気になっていたんだけど、あえて聞かなかったんだけど、聞く必要はないと思っていたけど、頭の包帯は何?」

 そういわれればまだ言っていなかった。忘れていた。

「これは、その、昨日、殴られたんだ」

 衝撃の事実を伝えられた楠さんは物凄い勢いで隣を見た。

「え?! 有野さん! 何やってるの!」

「私じゃねえよ! お前はマジで私をどういう目で見てるんだ! いい加減にしやがれ!」

「こわい。で、第一容疑者が犯行を否定しているけれど、真犯人は誰なの? Aさん? Hさん? H・Aさん?」

 雛ちゃんが「それも私じゃねえか……」とつぶやいているので、早く容疑を晴らしてあげなければ。

「僕を殴った人は、もう警察に捕まってるよ。楠さんもニュースで見たと思うけど、あの隣町の強盗の人たち。その人たちに僕襲われたんだ。そこを雛ちゃんのお兄さんに助けてもらったの」

「……夜出歩いていたの? どうして?」

「その、散歩……」

 ここへ来るためだなんて言ったらまた馬山さんのせいだと言われかねない。だから言わない。

「まったく……。色々な犯罪者が闊歩しているっていうのに、よく出歩けたもんだね。警戒心なさすぎだよ」

「本当に、おっしゃる通りです……」

「そうだぞ優大。今度散歩するときは私に声かけろよ。それなら、あのくそデブより早く助けてやれるからな」

「それじゃあ雛ちゃんが危ないよ」

「危ない子だってさ、有野さん」

「え?! そう言う意味じゃないよ?!」

「分かってるよ」

 安心させるように笑ってくれた雛ちゃん。
 ふぅ、よかった。

「でも無事でよかったね。佐藤君にもしものことがあったらどうしようかと思った」

「ありがとう、心配してくれて。楠さんは、優しいね」

「おい優大! 私だって心配してるぞ! 楠さん『は』ってなんだよ! まるで私が心配してねえみた
いな言い方しやがって!」

 それは勘違いだよ!?

「ち、違うよ! 雛ちゃんも優しいっていう事は知っているよ?!」

「……ならいいけど」

 もうこれ以上友達を怒らせたくないよ。

「で、結局あのおっさんはどこ行ったんだよ。誕生日祝わせておいてさようならなんてふざけているにもほどがある。優大は何も聞いてねえのか?」

「うん……。何も聞いてないよ」

「お誕生日会が終わってすぐに帰っちゃうだなんて、なんだかムカつくね」

 やっぱり僕としては、馬山さんが秘密基地を壊したり僕を怒ったりしたのはわざとだと思うんだ。僕が悲しまないように、あえてきつい別れをしたんだと思う。きっとそうだよね。だって、あまりにもあんまりで、わざとらしいほどにわざとらしいんだもん。

「そうそう。馬山さん関連で聞きたいんだけど、まりもさんからの連絡はあった? 私の提唱する馬山さんがまりもさん説が正しければ連絡無いはずだけど」

「……連絡は、無いけど、馬山さんだと決まったわけじゃあ、ないよ」

「秘密基地を壊されたのに、それでも馬山さんを信じるんだ。すごいねそれ」

「壊したのだって、きっと理由があるはずだから」

「理由があれば何してもいいってもんでもないだろ」

「そうかもだけど……」

 僕の為なんだ。きっと。大人になれという事かもしれないし。
 なんだか少しだけ不安になり、僕は脇に抱えたビニールシートに力を込めた。

「ん?」

 雛ちゃんが僕の足元を見て声を出した。

「どうしたの?」

「ん、なんかビニールシートから紙が落ちたから」

「え?」

 自分の足元を見てみる。確かに紙が落ちていた。四つ折の紙。ビニールシートと一緒に畳んでしまったみたいだ。
 ゴミかな? と思ったけれど、拾い上げてみて胸が痛くなるほど跳ねた。

「て、手紙だ!」

 少しだけ文字のようなものが覗いている。間違いない、手紙だ。

「手紙?」

「馬山さんからの?」

「うん! 多分!」

 僕はビニールシートを放り投げるように置いて手紙を広げた。
 楠さんと雛ちゃんがそれを覗き込むために近づいてくる。
 手紙を広げて、僕たちは三人でそれを読んだ。

『信じることは無駄なこと』

 これが全文。
 僕も含めて、みんな首をかしげる。

「どういうこと?」

「さぁ。優大は意味わかるか?」

「全然、分からない……」

 過去に信じすぎることは罪だと言っていたけれど、そのことなのかな。

「これがお別れの言葉っていうにはなんだか味気ないね。意味わからないし」

「信じることは無駄な事なの? 馬山さんが帰ってくると信じていても、叶わないってことなのかな?」

「そうなんだろうね。俺のことは忘れて新しい恋に生きろってことだよ。頑張ろうね佐藤君」

 忘れなければならないのかな。そんなの楽しくないよ。あと恋じゃないよ。

「忘れちまえよ優大。どうせあのおっさんは不審者だったんだ。突然現れたんだから、突然去っても文句はねえよな」

「でも……」

「でもじゃねえの。もともとここは私たちと優大の秘密基地だったんだ。あのおっさんは邪魔者だったんだから変に悲しいだとか思うんじゃねえよ」

「……で、でも……」

 なんと言われようと、馬山さんは僕の友達だから。信じたいよ。

「グダグダした話し合いはもういいよ。どうせ平行線だから。もう山下りようよ。蚊が凄くて凄くて」

「そうだな。優大、おっさんのことは忘れろよ」

 二人はこの手紙に何も感じるところが無いみたい。
 僕はどうなのかな。

「……」

 何もわからないや。
 でも、まあ、急ぎすぎないでゆっくりと答えを出して行こう。
 とりあえず僕は、馬山さんのことを忘れない。
 大切な友達だから。



「誕生日っていつ?」

 山を下りきったところで、楠さんが僕に尋ねてきた。

「優大。教えなくてもいんだぞ」

「はは……そんなことは、しないよ……」

 教えて死ぬわけでもないしね。むしろ知って欲しいし。

「僕の誕生日は十月九日だけど、突然どうしたの?」

「祝う以外に誕生日を聞く理由があるのかな。なに? もしかして私が星座占いでもしてあげるとでも思ったの? 君がてんびん座だとかどうでもいいよ。そう言えば今日のてんびん座の運勢は十二位だったよ」

「そ、その、十二位は残念だけど、でも、祝ってくれるんだね」

「呪ってもいいけど」

「それは遠慮させてもらうよ……」

「若菜の場合は本当に呪いそうだけどな」

「失礼な」

 でも、気になることがあるんだ。

「その、お兄さんのお誕生日は、祝わないのに、僕なんかを祝ってもいいの?」

「何を言っているの。兄の誕生日は過去に祝ったこともあるよ」

 ずいぶん曖昧な言い方だね……。

「この前は、十年くらい祝ってないみたいなことを……」

「まあそうだけど。でも兄が二十歳になる時はさすがに祝ったよ。前日からお祝いのメールをガンガン送り込んであげた」

「若菜がそんなことするなんてな。やっぱり実の兄貴が成人するのはおめでたいのか」

 成人という言葉に雛ちゃんが少しだけ興味を引かれたみたいだ。
 そう言えば、國人君は来年成人だ。ちなみに僕のお姉ちゃんは再来年。祝ってあげよう。

「まあ、そうだね。愚兄だけどこの私が一応成人を祝ってあげようかなって。だから二十歳の誕生日の前日から、一時間ごとにメールでムラサキカガミってずっと送っておいてあげたよ」

「ムラサキカガミってなんだ?」

「オカルト好きの佐藤君ご説明をお願いします」

「あ、うん。ムラサキカガミっていうのは、二十歳まで覚えていたら死んでしまうっていう都市伝説のことだよ」

「……。お前すげえ陰湿だな?!」

「大丈夫。死ななかったから。……残念」

「そこまで嫌いなのかよ! ひでえなお前!」

「表面上はね」

「裏では好きなんか?」

「私裏表ない性格だから」

「裏も嫌いなのかよ! ……つーか、お前は裏表ありすぎるから、そんな自称すんじゃねえよ」

 楠さんは裏表のある性格だけれどもそれでもとても素敵な人だと思うよ。
 ……どこかで聞いたことのあるフレーズだ。本人にはとても言えない。 

「兄弟と言えば、佐藤君の可愛い弟と性格の悪いお姉さんは文化祭へ来てくれるの? 説得は完了したのかな?」

「……全く、完了してないです……。弟には話したけど、お姉ちゃんには話してすらない」

「……優大の姉ちゃんは呼ばなくてもいいんじゃね?」

 雛ちゃんは会いたくないらしい……。当然だよね、あんな酷い事されたのだから。

「あの、文化祭の出し物の為に、お姉ちゃんは呼ぶよ。ごめんね、雛ちゃん」

「……いや、優大が謝ることじゃねえんだけど……」

「多分、今日伝えるよ。出てもらえるかどうかは、説得できるかどうかは分からないけど」

「……まあ頑張れよ」

「うん」
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