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キョーハク少女 作者:ヒロセ

第一章 キョーハク少女

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虫よけスプレーの信頼度

「佐藤君」

 僕は、草むしりを終えたあと、教室へカバンを取りに行き、「今何時かな?」と携帯を開き、ついでに未読メールを見たと思ったら、いつの間にか秘密基地の前で正座をしていた。ここまでの道のりを覚えていない……。
 まだ日が沈むには時間があるけれど森の中は薄暗い。涼しい位だよ。
 でもそれどころじゃありません……。

「舐められたものだね。まさかこんな仕打ちを受けるなんて……」

「そ、その……」

 メールの差出人は楠さんだった。『今すぐ君の秘密基地へ来ること。遅刻厳禁』という内容のメールが一時間ほど前に僕の携帯に入っていた。草むしり中携帯は教室のカバンの中だったので当然気付かなかった。僕は慌てて秘密基地へ向かい、今に至る。

「しかも、これだけ待たせるなんて。一時間私はここで待ちました。一時間蚊に刺されるためにこの林の中で突っ立っていました。これはあれだね。君の愚行をばらすしかないね」

「え?! ご、ごめんなさい! そ、それだけは許してください!」

 僕は潔く土下座をした。だって、楠さんが蚊に刺されたなんて重大事件じゃないか! 時代が時代なら僕は打ち首だよ!

「みっともないね」

 楠さんの声と同時にカメラのシャッター音が聞こえた。でも、これは仕方がないよ……。

「顔を上げて。早く」

「はい……」

 顔を上げ、楠さんを見上げてみる。依然として、無表情で怒っている。

「で? 言い訳は?」

 遅れた言い訳かな……。

「あの、僕、」

「くだらない言い訳だったら問答無用でばらすから。君がそう言うふざけた態度を取るのなら、話し合いも何もしない。謝っても許さない。君のしたことをみんなにばらして、学校にいられなくしてやるから」

 うう……。僕のしたことって、僕何もしてないよ……。

「さあ、納得のできる遅刻の言い訳を是非。よく考えてね。これで君の人生が終わるかもしれないんだから。面白かったら許さないことも無いよ」

「お、面白い、言い訳……」

「まあでも君面白くない人間みたいだし、ギャグに逃げるのはやめておいた方がいいと思うよ。ちゃんと私が納得できる言い訳をするんだね」

「う、うん」

 でも、言い訳って……。

「その、草むしりに手間取って……」

「はぁあああ?」

 どうやらこの言い訳は楠さん的に気に入らないみたいだ!
 大変だ大変だ! 楠さんの顔が大変だ! どう大変って……表現したくないくらい歪んでいるよ!
 その、色々な意味で怖い顔をグイッと近づけ言う。

「君、先に帰ったでしょ?」

 ……。

「え?」

「君、私たちに仕事押しつけて先に帰ったでしょう?」

「え、え、え?」

「えーえーうるさいね。それ以外に言う言葉がないの? よし、ばらそう」

 僕から顔を離し携帯電話を操作しだした楠さん。

「あ、ちょ、ちょっと待って!」

 僕は正座をしたまま両手を突き出して待ったをかけた。

「なに? 遺言? まあ聞いてあげないことも無いよ。友達に電話がつながるまでの数コールだけ時間をあげる」

 短っ!

「その、僕飲み物を買いに行ってたの! 多分それで校舎裏にいなかったんだと思う!」

「……あ、丸山さん? その、ね……少し、話があるんだ……」

 電話が繋がっていらっしゃる! 死んじゃうよ!

「ごめんなさいごめんなさい!」

 両手をバタバタ振って何とか通話を辞めてもらおうとした、けど……、

「え? ううん? 違う違う。ただの鶏じゃないのかな? うん、チキン野郎」

 楠さんが左手で僕の頬を挟み込みうるさいと睨み付けてくる。でも僕にとってもそれどころじゃないよ! 腰を浮かせたままパタパタと手を振って必死に校舎裏にいなかった理由を言う。

「ほ、本当に許してください! 小嶋君に言われるまで気付かなかった、気を利かせて早く飲み物を買いに行かなかった僕が悪いんですけど、タイミングが悪かっただけなんですー! もう少し早く気づければこんなことにならなかったんだよね! ごめんねごめんね! 今度からはまずお礼を買ってから仕事を始めます! だから許してください!」

 一瞬沈黙した後、楠さんが手を離し僕を地面に落とす。そして僕をいぶかしげな表情で見つめてきた。

「……。え? あ、ごめんね。話っていうのはおすすめの喫茶店とかないかなってね。ほら、丸山さんの行くお店ってとってもセンスがいいでしょ? だから、どこかいいところ教えてもらおうかなーって思って! うん、うん。あ、あそこかー! うん、分かった。うん、うん。ありがとう! じゃあ、また明日!」

 よ、よかった。助かったみたいだ……。
 通話を切り、楠さんがしゃがんで僕と視線を合わす。

「……小嶋君と話したの?」

「う、うん。その、小嶋君にマナーのことを指摘されて、なるほどと思って慌てて飲み物を買いに行ったんだけど、その、タイミングが悪かったみたいで、その、帰ったと思わせちゃったね……」

「……私は小嶋君から君が帰ったって聞いたんだけど。小嶋君が様子を見に行ったときにはもう帰った後だったって」

「え、え? 僕、帰ってないよ? 今まで草むしりしてたよ?」

「…………。………………ちょっとタンマ」

 そう言って立ち上がり僕から少し離れた。いったい何事だろう?
 ぼけっと眺めていると、楠さんがカバンの中に手を突っ込みタオルを取り出し始めた。
 汗でも拭くのかな? と思ったけれど違うようだ。グローブのように手にタオルを巻き、一本の木に近づいていった。

「…………! ……! ……!」

 何を始めるのだろうかと思っていると、何かをつぶやきながら、思いっきり木を殴りつけだした。手が痛いよ! 僕の手は痛くないけど! 楠さんの手が痛いよ! せっかくの綺麗な手に傷がついちゃうよ!
 つぶやきが、少しだけ聞こえてくる。

「あいつ……! 嘘ついて……! これじゃあ、私が、さぼった、みたいじゃない!」

 う、うう……。一体何のことだかわからないけれど、とても怒っているみたいだよ……。あの木には、もしかしたら僕が重なって見えているのかもしれない……。うう、ごめんね……。何に怒っているのか分からないけれど……。

「……。ふぅ……」

 拳を木にめり込ませたまま、大きく息を吐いた。すぐに全身から力を抜き、腕をだらんとたらす。もう一度息をはいたあと手からタオルを取って綺麗に畳み、カバンにしまった。そして、無表情の顔を僕に向けてくる。
 本当に失礼だと思うけれど、僕はびくっと畏縮してしまった。
 ずんずん近づいてきて、へたり込んでいる僕に頭を下げた。

「……今回は、完璧に私が悪い。ごめんね佐藤君。疑っちゃった」

「え、え?」

 何のことを謝っているのだろう……。

「ズボンが汚れるから正座やめて」

「あ、うん」

 立ち上がりズボンを払う僕。

「ごめんね一人置いて帰っちゃって」

「う、うん……」

 謝るようなことなのかな……?

「……」

「……」

「……」

「……」

「……」

「……?」

 な、何だろう。なんで僕はじっと見つめられているんだろう。何か僕の言葉を待っているような……。ぼ、僕は何を言えばいいだろう……。

「そ、その……」

 分からないけど、とりあえず。

「ご、ごめんね……?」

 謝っておこう。

「……なんで謝るの。私が悪いって言ってるのに」

「う、い、いや……その、何言えばいいのか分からなくって……」

「叱責すればいいでしょう。気のすむまで言葉責めすればいいよ。好きなだけ責めて興奮すればいいよ気持ち悪い。どんな言葉で罵るんだろうね。楽しみだよ。それも録音するけど」

「そ、そんなことしないよ! なんで僕がそんなことするの?!」

「私が佐藤君を呼び出して土下座までさせてでもそれは私の勘違いだったんだから君が怒っても仕方がないでしょう」

「よく、分からないけど……。でも勘違いは誰にでもあるし、そんなのを怒っていたら過ごしにくい世の中になっちゃうよ」

 勘違いは怒っちゃだめだと思うよ。

「……。何なの君? それで私に恩を売っているつもり? 気分悪いよ」

「そ、そんなつもりじゃあ……」

 うわ、怒らせてしまった……。

「ずっと気になっていたんだけどさ、佐藤君、悪くないのにとりあえず謝るよね。結構不快だよそれ。自分が謝っておけば済むだろうって思ってるの? 私が悪いのになんで謝られなきゃいけないの? おかしくない?」

「お、おかしいです……」

「だから謝って」

「え!」

 なんだかおかしくないかな?!

「とりあえず謝ってよ」

「ご、ごめんなさい……?」

 少し理不尽さを感じながらも一応謝ってみた。

「……まあいいや。今日はごめんね。言い訳のしようがないよ」

「う、ううん。その、こちらこそ、手伝ってくれてありがとう」

「……嫌味?」

「う、ううん! そんなつもりはないよ!」

「…………。じゃあ今日のことは本当に申し訳なかったということで、お詫びに佐藤君が部屋で服を脱いで私を襲おうとしている写真を消しておいてあげる」

「あ、ありがとう!」

「どういたしまして。別にお礼を言われるようなことではないけど」

 まあ、確かに僕はそんなことしていないのだからね。

「じゃあ、私は帰るね。ごゆっくり」

「あ、ばいばい」

 楠さんが山を下りて行った。
 放課後ごたごたしたけど、よかったー。色々と解決したみたいだね。これで何のわだかまりもなく明日を過ごせるね!
 僕は意気揚々と家に帰った。
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