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キョーハク少女  作者: ヒロセ
第二章 ホーロウ中年
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幽霊がみたいな

 國人君の部屋を出た後、断られることが怖くなってしまい誰も遊びに誘うことができなかった。

 でも、馬山さんなら秘密基地にいてくれるだろうと思い僕は山を登った。

 馬山さんはいてくれた。

 僕を待ってくれている訳ではないけれど、そこにいてくれた。

 ぼぅっと空を眺めていた馬山さんに声をかける僕。


「馬山さん、こんにちは」


 馬山さんはゆっくりと視線を僕に向け、ゆっくりと手を挙げた。


「……よぉ。待ってたよ」


「え?」


 いつもは来るなと言っていた馬山さんが、今待っていたって言った?


「ど、どうしたの? 僕に何か用事?」


「何言ってんだ。少年だって別に俺に用事があってきたわけじゃねえんだろ。用事があろうがなかろうが、俺が少年を待つ理由はあるんじゃねえかな」


「そうなのかな……?」


「そうなんだよ。いや、まあ用事はあるんだけど」


「あ、そうなんだ」


 なんだかうれしいな。


「大した用事じゃねえさ。明日暇かどうかを聞きたかったんだ」


「明日は多分暇だよ。どうして?」


「……いやぁ、実は明日親友の誕生日なんだ」


「わ、それはおめでたいね。……でも、それと僕が暇かどうかって、関係ない気が……」


「いやいや、暇ならパーティーに来てくれよ」


「え?! そそ、それは、ちょっと……」


 見ず知らずの人間がパーティに参加しても楽しくないよね……。


「大丈夫。パーティっつってもそんな大層なもんじゃねえから。明日の昼に、ここでケーキでも食おうかなって。そんだけ」


「こ、ここでパーティするの? もっといい会場があるんじゃあ……」


 せめてファミリーレストランとか、屋根のあるところでの方がいい気がするけれど。


「ホームレス相手に何言ってんだ。あるかいなそんなもん。金も場所もねえよ」


「そ、そう、だよね。その、でも、なんで僕……?」


「いやー、俺他に呼べる友達がいないからさー。せっかくだから出来るだけ人集めたいじゃん。え、なに? もしかして嫌か?」


「嫌じゃないけど、お友達の事、僕知らないから……」


「いいっていいって。あいつは気にしねえよそんなこと。来てくれるか?」


「う、うん。別に、いいけど……」


 僕はいいけど、お友達はどうなのだろう。

 でも、馬山さんのお願いなんだからパーティに来よう。


「そっかそっか。それは助かる。んでもう一個お願いなんだけど、誰かほかに誘ってきてくれねえかな。あの金髪とか、黒髪とか。もっと呼んでもいい。多ければ多いほどいい」


「う、うん……。みんなにも声をかけてみるけど、その、お友達は知らない人に祝われて嬉しいのかな……」


「祝われて嬉しくない人間いねえだろうよ。多ければ多いほど嬉しいもんさ。枯れ木も山のにぎわいっていうじゃねえか。ちょっと違うか?」


 喜んでくれるのかな……。


「じゃあよろしく。準備は俺が全部するから何も持ってくるなよ」


「飲み物とかくらいは、持ってくるよ」


「いーや、それもダメだ。重たいもん持って山登りとかきつすぎるだろ。とにかく手ぶらで。プレゼントなんていらねえからな」


「う、うん……」


 いいのかな。ただ参加するだけで。


「そう言うわけで明日の一時にここに集合。決定」


「あ、うん」


 突然明日の予定が決まってしまった。急いでみんなに連絡をしよう。とりあえず、今から楠さんと三田さんと國人君に連絡してみよう。雛ちゃんと小嶋君は、今は忙しいかもしれないから後でがいいよね……。


「――なあ少年」


「え?」


 メールを打つ僕に、馬山さんが不思議そうに聞いてきた。


「お願いしておいてなんだけど、どうしてそう俺の言うことを信じるんだ?」


「え?! 嘘なの?!」


「いやいや、嘘じゃないけど、本来こんなところでパーティするって言われても信じねえだろ? でも少年は一切疑うことなく信じてくれたじゃねえの。それ、どういうこと?」


「えっと……。その、馬山さんだから……?」


 当然だよ。


「俺だからって、そりゃ理由になってねえよ。それに俺は嘘つきだぜ。信用に値しねえクズだ」


「馬山さんが嘘つきだっていうのなら、それも嘘だよ」


「おっとっと、これじゃあ無限ループだな。これが嘘だとしたら俺は正直者で、でもそれだと自分のことを嘘つきと呼んでいるから嘘つきになって今言っていることは嘘になる……。以下繰り返し。さあ、結局どっちだ」


「簡単だよ。馬山さんは嘘つきじゃないよ」


「あっさりと答えたなぁ。その理由は?」


「僕が馬山さんを信用しているからだよ」


「……」


 唖然としていた。


「少年。なあ少年。俺は最低な人間だぜ。心を許すなよ」


 何を言っているのだろう。馬山さんはいい人なのに。


「いつ牙を剥くか分かんねえぜ」


「噛みつかれちゃうの?」


「噛みついちゃうぜ。所詮ははみ出し物さ。社会不適合者って奴」


 違うよ。馬山さんは違うよ。

 なぜこうも自分のことを悪く言うのだろう。なんだか悲しいよ。


「ま、そんなことは今はいいや。とにかく明日頼むぜ。明日が過ぎれば色々も解決」


「? どういうこと?」


「どういうことだろうな」


 教えてくれなかったけれど、とても嫌な予感がする。


「え、もしかして、そのパーティが終わればここを離れていくとか……」


「んー? さあなぁ」


 答えを教えてくれることはなさそうだ。

 嫌だな、知らない内にいなくなっていたら。




 疑っている訳ではないけれど、一応、念のために、念のためとも言いたくはないけれど、疑いを晴らすために、馬山さんがまりもさんかどうかの探りを入れてみよう。疑っている訳じゃないよ? 僕は違うと思うから、聞くんだよ?


「馬山さん、幽霊って信じる?」


 日陰に腰掛けている馬山さん。


「幽霊?」


 不思議そうに聞き返してきた。


「うん。幽霊。お化けとか、妖怪とかでもいいよ」


 まりもさんは怖い話が大好きだから、きっとそういうのを信じているよね。

 ここで信じていないと言ったら、疑いは完全に晴れるよね。

 馬山さんは大して考えずに答えた。


「いないな。絶対にいない」


「……ほっ」


 ということは、違うという事だ。


「少年は信じてるんだっけか?」


「うん」


 そう言えば、前そう言う話をしたね。


「少年はそんな非科学的な存在が好きみたいだけど、残念ながら幽霊はいねえよ。夢を壊して悪いな」


「馬山さんは否定派なんだね。どうしてそう思うの?」


「俺が見たことねえからさ」


 自分で見たものしか信じない主義なんだね。


「僕も見たことないよ。でも信じてるよ」


 その方が夢があるよね。


「いや、少年と俺は違うのさ。俺が見ていないという事は、いないってこと」


「? その、僕頭悪いから、よく分からない……」


「まぁ、わかんないと思ったから言ったんだよ」


 うーん? 大人になればわかるのかな。理解できないと思ったから教えてくれないんだよね、きっと。


「それに、あれだ。よくテレビでに出る幽霊否定派の教授がいるだろ。あいつが幽霊見ていないのがおかしい」


「え? どういうこと?」


 信じていないのなら、見えなくてもしょうがないような気も。


「もし幽霊がいるとしたら、真っ先にそいつのところに化けて出るだろ。幽霊の中にだって幽霊の存在を知らしめたい奴がいるはずだ。そんなお茶目な幽霊がその否定派の大ボスのところに姿を現さないのはおかしいだろ?」


「……そう言われてみれば、そうかも」


 そうすれば、その教授だって信じてくれるよね。


「だろ? まあそんなわけで、幽霊はいないと思うね。いるはずがない」


「……僕、幽霊を信じているけど反論できない」


 僕の幽霊を信じている度合いはこの程度だったんだね。なんだか好きだと言っていた自分が恥ずかしいや。

 僕の落ち込みが馬山さんに伝わったのか、フォローをするように言ってくれた。


「でもま、俺が言ったのだって存在を否定しうるようなものでもないし。もしかしたら教授のところに姿を現しているのかもしれねえな」


「え? 姿を現しているかも、ということは、教授はお化けを見たのに見ていないって嘘をついているということ?」


「嘘じゃなくて、ただそれを幽霊と認識していないだけかもしれないってことだ」


「え、お化けを見たのにお化けじゃないって言っているの?」


「そういう事。なにか科学的な根拠をつけて自分の身に起きた怪現象の原因を解明している気になっているのさ」


「……でも、それじゃあ幽霊の存在を教授に信じさせることはができないよ。どれだけ怪現象を起こしても、教授は理由を引っ張りだしてくるんだよね……。どうすればいいんだろう」


「どうしようもねえのさ。化物の正体見たり枯尾花。その逆もしかり。幽霊に見えた奴は枯れ尾花が幽霊で、枯れ尾花に見えた奴は幽霊が枯れ尾花になるのさ。まあ、つまるところお化けを見たければ信じる事から始めなくちゃいけねえってこと」


「なるほど……。でも、怪談話を聞いていたら、よく定型文のように「私は幽霊を信じていなかったのだけれども」って頭につくことがあるよ? 信じていなかった人が幽霊を見ることもあるんじゃないかな」


「多分そいつらはもともと暗闇を怖がるような人間なんだろ。感動錯覚って奴。それを幽霊と思いこんじまうような人間だったんだろう」


 感動錯覚はよく分からないけれど、多分何かがお化けに見えてしまう錯覚のことなのだろう。


「まあ、だから暗闇も墓場も怖くねえ俺には幽霊は見えねえよなぁ」


「きっと、そうなんだね。でも、僕は暗闇も夜のお墓も怖いけれど幽霊を見たことが無いよ……」


「それはきっと、少年が幽霊を信じていねえからさ」


「え?! 僕信じてるよ!?」


「信じてようが自分には霊能力が無いから見えないって思ってるんだろ」


 う。確かに……。

 僕はラップ音が鳴っても家の軋みだと思うし、視界の隅を白い影が横切っても目の錯覚だとしか思わない……。ひょっとしたら、僕ももうすでに見ているのかもしれないけれど、自分を信じていないから見えていないのかもしれない。


「ま、俺が死んだら少年のところに化けて出てやるよ。そうすりゃ満足だろ」


「それは、そうかもしれないけれど……」


 でも、それは嫌だ。


「どういう状況でも、死ぬ事なんか考えたらダメだよ。死んだらなんて仮定もよくないと思う。命は大切な物だから、大切にしなくちゃ。それに、もし死んでしまっても、すぐに成仏したほうがいいよ。その方が、きっと幸せだよ」


「そうだな。そうだそうだ。命は大切な物さ。奪うなんてもってのほかだ」


「うん」


 お化けなんか見えなくていいから、みんなには長生きしてもらいたい。

 幽霊になっても、一緒に遊べるのだとしても、僕は成仏を勧めるよ。いるべきところにいなくちゃいけないはずだから。


「……お化けねぇ。見れるもんなら見てみたいなぁ」


 お化けを信じていない馬山さんが空を見上げてつぶやいていた。



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