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キョーハク少女  作者: ヒロセ
第二章 ホーロウ中年
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かいそう

 昔昔……というほど昔ではないし、こんな回想ができるほど僕はまだ人生を歩んではいないけれど、今後の為に僕の為にお姉ちゃんの為に回想してみようと思う。


 あれは四年前だった。僕と雛ちゃんが小学六年生の時の話だ。

 雛ちゃんがお兄さんの國人君に影響されて髪を染めだしたのは中学校のころからだから、その時はまだ黒い髪だった。

 國人君が荒れ始めたのは國人君が中学校に上がってから、僕らが小学校四年生の時。その時から雛ちゃんは影響を受け始めたんだ。

 三年生の時僕らは毎日のように遊んでいた。

 四年生の時からはその回数が減って行った。

 五年生になってから少しずつ疎ましく思われるようになった。

 六年生になったら名前を呼ぶなと怒られ嫌われてしまった。

 疎遠になった原因は僕にある。僕が軽々しく名前を呼ぶから雛ちゃんに怒られたんだ。そして、たとえ怒られていたとしても怖がらないで僕の方から距離を近づけて行けばよかったんだ。

 怒らせたくせに僕は逃げたんだ。

 名前を呼んだから雛ちゃんが怒ったのだけれども、もう一つ雛ちゃんが怒った原因として考えられるのは、僕が秘密基地へ誘ったというのもあると思う。あの時雛ちゃんは行きたくないと言っていた。でも、それを説得して無理やり僕が秘密基地へ連れて行ったんだ。それも腹の立つ行動だったのだろう。

 なんで僕が嫌がる雛ちゃんを無理やり連れて行ったのかというと、僕が秘密基地を好きで、その場所で大好きな雛ちゃんと過ごしたいと思ったからだ。ただの僕のわがまま。僕より大人だった雛ちゃんは秘密基地のような幼稚な物とっくに卒業していたみたい。幼稚な僕と遊ぶことにもうんざりしていたのだと思う。

 こういう色々な原因が積み重なって、僕は秘密基地で結構派手に怒られた。

 雛ちゃんに怒られるのはこれが初めてだった。初めてでたくさん怒られた。今まで経験したことのない位怒られた。正直に言えば、あの時ほど死にたいと思ったことは無い。悲しいということの本当の意味を知ることができたのもその時のような気がする。……少し大げさかも。

 悲しかったので、僕は次の日謝った。

 話を聞いてくれなかった。

 僕は泣いた。

 次の日も謝った。

 話を聞いてくれなかった。

 泣いた。

 それから僕は毎日泣いた。

 言葉にはされていないけれど、絶交されたのだと思った。

 僕は泣いていた。ずっと泣いていたんだ。

 情けないけれど。

 かっこ悪いけれど。

 僕は泣くことしかできなかった。

 毎晩泣いていた。思い出しては泣いていた。ベッドの中で泣いていた。疲れて眠るまで泣いていた。

 そんな時、お姉ちゃんが僕に言った。


「お姉ちゃんのこと名前で呼べ」


 って。

 突然すぎて訳が分からなかったので、僕は「嫌だ」って言った。

 そうしたらお姉ちゃん、


「なんで祈君のことは名前で呼んでお姉ちゃんのことは名前で呼ばないの」


 とまた怒ってきた。


「お姉ちゃんは、お姉ちゃんだから。僕は弟だから、お姉ちゃんのことはお姉ちゃんって呼ばなくちゃいけない」


 と教えてあげたのだけれども、お姉ちゃんは意味が分からないと言って僕の話を聞こうとしなかった。そしてお姉ちゃんは、


「優大君が私のことをお姉ちゃんと呼ぶのなら私もお兄ちゃんって呼ぶから」


 と脅してきたんだ。


「嫌だからやめて」


 と言っても、


「嫌なら私のことをお姉ちゃんと呼ぶな」


 と言って聞かない。お姉ちゃんはお姉ちゃんだよと、何度言ってもお姉ちゃんは怒る。終いには、


「祈君はよくて私はダメなの?!」


 とものすごく怒って、結局僕はお兄ちゃんと呼ばれるようになってしまった。

 雛ちゃんに怒られ、お姉ちゃんにも怒られ、僕はとっても寂しい人間なのだとその時に分かった。人を怒らせる僕は最低なのだとも、その時に気づいた。

 そこから僕は一人になった。

 そこから最近まで、ずっと一人だった。

 お姉ちゃんや祈君は遊んでくれるけれど、僕の心はずっと一人のままだった。遊び相手ではなく、友達が欲しかった。血のつながりの情ではなく、そういうのを越えた絆を僕は切望していた。

 そして僕は逃げ出した。

 望んでいた友や夢見ていた世界を切り捨て、僕は潤色された世界へ逃げ込んだ。

 それからの僕はとても幸せだった。それまでの僕もとても幸せだったけれど。


 本物から目をそらそうと思った僕は今まであまり触れなかった本屋に転がっている『物語』を手に取った。姉や弟と遊ぶのは限界がある。二人とも僕とは違って友人がたくさんいるので毎日引っ張りだこだったから。一人の時間が増えた僕は、いや増えすぎた僕は本屋で一冊の小説を買ってみた。

 最初に買ったのは可愛い女の子が出てくるようなものではなくその当時流行っていたヘリーポッター。有名だったし、分厚かったので暇をつぶすにはちょうどいいと思ったからだ。

 とても面白かった。読了までにかなり時間を要すると思っていたのだけれども意外にもスラスラと読め二日で読み終わってしまった。

 本って面白い。今まで読んでこなかったけれど本って素敵な物なんだなと気付いた。

 ただ何か物足りない。

 確かにとても面白かったのだけれども、何か、求めている物とは少しずれていた。

 まあいいやと、その正体が一体何なのか深く考えることをせず僕は続きを買いに行った。

 本屋へ行き、ヘリポタの二巻を持ってレジへ向かう僕の視界の隅に可愛い表紙が入った。

 ライトノベルだった。

 ヘリポタもそうなのかもしれないけれど、ヘリポタとは違う、何と言えばいいのか悩むところだけれども、とにもかくにも可愛い絵の小説が目に入った。

 最初に思ったのは絵が綺麗だということ。

 絵が可愛すぎてエッチすぎて少し手に取ることが躊躇われたけれど、気になってしまったので僕は手に取り裏のあらすじを読んでみた。

 その本の内容は生徒会長が学校の闇と闘っている横でだらだらと無為な時間を過ごすその他役員の脱力系の物語というものだった。

 とても気になり、一緒に買おうとレジへ一歩踏み出したのだけれども、手持ちが足りないことに気づきヘリポタの二巻だけを買ってその日は帰った。

 二日後。二巻を読み終えた僕は続きを買うためにまた本屋へ。

 大丈夫。その時は余分にお金を持って行ったから。

 ヘリポタの三巻と気になったライトノベルを買って僕は大急ぎで家に。

 続きが気になっていたヘリポタの三巻を読み終えてから、僕はそのライトノベルに手を伸ばした。

 とても面白かった。ありふれた言葉でしか表現できないけれど、とても面白かった。あの時の感動を伝えるにはこの程度の言葉では満足できないのだけれども、なんといえばいいものか、『とても面白かった』、そういう作品だった。

 僕が望んでいた世界がそこに広がっていたのだ。みんなで楽しくあそんだり、ただぼうっと一緒に空を眺めたり。そんな素敵な世界がつまっていた。

 僕はそれを一日で読み終えてしまった。

 次の日僕は早速二巻を買いに。ヘリポタの四巻は買わなかった。

 こうして僕はどんどんはまって行った。学園物を読み漁ったり、ファンタジー物に手を出したり、漫画も読んでみたり、DVDを借りてみてみたり。そうやって今の僕へと落ちていく。

 僕は一人を選んだ。

 僕の周りからは誰もいなくなった。

 僕が悪いのだけれども。僕が本なんか読みだしたりしたから悪いのだけれども。

 友達が欲しいと思っていたけれど、積極的に行くほど僕は勇気もやる気も無かった。物語があればそれだけでいいやと思っていた。


 ――でも、それからしばらくして僕は『それ』を手に入れた――


 中学校に上がり、パソコンを買ってもらった僕は早速インターネットというものに触れてみた。

 何かを調べるのに便利だという事で、何かを調べてみよう。そう思った僕は、家族みんなが大好きだった怪談を調べてみることにした。

 怪談が投稿されていたサイト。小さいサイトだったけれど、なかなか恐ろしい話が集まっていた。僕はそこに頻繁に出入りするようになった。

 そこで出会った。

 まりもさんだ。

 まりもさんの投稿する怪談はとても面白かった。笑えるという意味ではなく、恐ろしくてという意味で。

 あまりにも面白かったので、僕は勇気を出してまりもさんににメッセージを送ってみた。

 そこから僕とまりもさんの関係が始まった。

 メッセージのやり取りの中で仲良くなり、パソコンのアドレスを教えたり、スカイぺに招待されたりした。

 僕にやっと友達ができた。

 僕だけがそう思っていたようだけれども……――


 ――……どこまで回想すればいいのか分からないけれど、この辺でやめておこう。

 ここから先は同じ毎日の繰り返しだから。思い出す意味がない。

 一人で学校へ行って一人で本を読んで一人で帰って一人で遊んでまりもさんと話して。

 それを繰り返していただけだからこれ以上思い出す必要が無い。いや、思い出すまでも無いんだ。

 とにかく。

 お姉ちゃんが怒っている理由だった。関係ないところまで思い出してしまったみたいだけれども、懐かしかったからいいや。

 今お姉ちゃんが怒っているのは僕が友達を作ろうとしているから。

 また裏切られるのなら作らなくていいと怒る。

 もうみんなは裏切らないのに。そもそも裏切るとか裏切らないとかの前に、僕は誰にも裏切られていない。

 どうすればお姉ちゃんはそれを理解してくれるのだろうか。

 どうすれば僕の言うことを信じてくれるのだろうか。

 昔のことを思い出したところで、僕の弱い頭では何も変わることは無かった。


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