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キョーハク少女  作者: ヒロセ
第二章 ホーロウ中年
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何もかもばれています

 ファミリーレストランでの会話がかなり落ち着いてきたのでみんなにまりもさんのことを相談してみることにした。

 僕の話を聞き終えて雛ちゃん。


「よし、そいつブッ飛ばしてやるから居場所を教えてくれ」


「暴力はダメだよ。そもそも誰かも分からないから困っているんだ……」


 本当に誰だろう。


「なんだよそのストーカー野郎! っていうかどうせそれ若菜だろ?!」


 ビシッと指を突きつける雛ちゃん。


「何言ってるの。私は下駄箱になんかいれないよ。驚かせるなら家の郵便受けに入れる」


 確かに、家がばれているのは怖いよね。

 うーん、と二人が悩んでくれる。僕の為に頭を使わせてしまって申し訳ないです。


「佐藤君の名前がばれているのは偶然じゃなかったんだね。本当に誰だろう」


「うん……。誰か分かれば、いいんだけど」


「ん? なんだ若菜。お前優大の悩み知ってたのか」


 雛ちゃんはパソコンを使えなかったので相談しなかったから、楠さんだけが知っているんだ。ゴメンね雛ちゃん。


「そうだね。最初に相談されたけど別に優越感に浸っていたりはしないよ」


「優越感に浸ってるじゃねえか」


「そんなことは無いよ。パソコンが使えなくてざまあみろだなんて思ってないよ」


「思ってるじゃねえか」


「思ってないってば。ねえ佐藤君、パソコン使えなくっても時代遅れとか原始人とか思わないよね」


「思ってるじゃねえか……」


 うつむきちょっと落ち込んでいた。可哀想。


「パソコン覚えるか……」


 雛ちゃんが決意を固めていた。大して知識があるわけではないけれど、教えられることは教えてあげたいな。

 顔をあげ手元に置かれたお冷を両手で包み込みながら雛ちゃん。


「で、そのまりもってのはどうして優大のことを知ってんの。パソコンってのは、相手の名前とか住所とか特定する方法があんのか?」


「どうなのかな……。ハッキングとか、クラッキングとか聞くけど、僕はよく分からない……。楠さんは、何か分かる?」


「さぁ。知らないけど、そんなのが簡単にできたら怖いよね。だから簡単に相手の名前を知る方法なんて無い」


 すごい理論だ。でも楠さんが言うのならそうなのだろう。


「そのまりもさんとやらは、佐藤君の名前と通っている学校を知っているだけなの?」


「それが、その、僕のお姉ちゃんのことも知っているみたいで……。お姉ちゃんが、僕のことを『お兄ちゃん』と呼んでいることも知っていたんだ」


 呼んでいるのをどこかで見られていたということだ……。ちょっと怖い。


「……どういう意味なのか分かんねえんだけど」


 雛ちゃんが困ったような顔で首をかしげていた。


「なんで優大の姉ちゃんが優大のことをお兄ちゃんって呼ぶんだよ」


「えっ、知らなかったっけ……。その、お姉ちゃん、僕のことをお兄ちゃんって呼ぶんだ。そう言われれば、お兄ちゃんって呼び出したの雛ちゃんと疎遠になり始めたころだったかも……」


「……私は、別に、優大を遠ざけようだなんて思ってなかったからな」


 言い方があまりよくなかったかも。不快な思いをさせてしまってごめんね。


「もちろん分かってるよ。僕が情けなかったからだよ」


「違う」


「違わないよ」


「違うっての」


「違わな――」


「はいはい。そういうのいいからまりもさんのことを話しあおうね」


「でも、」


「でもじゃないの。二人しか知らない話で盛り上がらないでよ不快だから」


 確かに、そう言われてみれば、気を遣えていなかったかもしれない。


「そうだな。今はそのまりもって奴のことを話しあおうぜ」


 雛ちゃんも納得してくれているみたいだし、疎遠になった話はまた今度しよう。


「で、どうするの?」と楠さん。


「え? どうするって?」


「だから、そのまりもさんをどうしてやりたいのかって。見つけてとっちめてやりたいんでしょ」


「とっちめたくは、無いよ。見つけて、その、色々と説明をしてほしいなぁって。あと、もしよければ、仲良くしたいなとか」


「何言ってんだ優大。ストーカー野郎とまで仲良くしたいだなんて、それはちょっとありえないだろ」


「ストーカーというほど、酷くはないと思うけど……」


 ただ名前がばれているだけだし……。


「あ、そう言えば、僕の携帯電話のアドレスもばれてるんだ」


「それ……もう怖すぎ。君女の子と間違われてストーキングされているんじゃないの? そう言えばさっき君の部屋で見たよ。ベッドの下に斧を持った人が潜んでいた」


「それはとっても怖いね……」


 都市伝説が実際の物になるとは。


「しかもその人は金髪だったね」


「私かよ」


「そうだね。だから有野さん部屋にいたんでしょ。私に見つかって出てきたんでしょ」


「何言ってんだお前。先に部屋にいたのはお前じゃねえか。あれだろ、お前がベッドの下に隠れようとしていたところに私が部屋に来たんだろ。やっぱりお前がストーカーか」


 どうしても、話がそれちゃうね。

 戻そう。


「ストーカーの定義がよく分からないけど、まりもさんはストーカーじゃないよ」


「名前とアドレスがばれているのならそれはもうヤバい状態でしょう」


「でも、その、いい人だし」


「……いい人って……」


 楠さんと雛ちゃんが大きくため息をついた。


「佐藤君はいい子なのかバカなのかよく分からないや」


「う……。多分、馬鹿です……」


「優大のその『人を信じるところ』が私は好きなんだけど、さすがに無差別に信用するのはどうなんだよ」


「……でも……」


「でもじゃねえの。いいか優大、そのまりもっていう相手が優大との関係を続けたいと思っているのなら、別に優大のことを知っているとばらす必要はねえんだ。ならなんでばらしたんだ? そりゃ当然、優大を怖がらせるためだろう。優大は裏切られたんだよ」


「そうなのかな……」


「そうに決まってんだろ。優大をビビらせて、縁を切りたがってるんだよ。それ以外にばらす理由がねえだろ」


「……う、うん……」


 僕は嫌われてしまったのかな……。


「でもどうしてこのタイミングなのかな。きっかけが何かあったの?」


「うーん……」


 どうしてこうなったのか考えてみる。いつからこうなったっけ。


「そう言えば、まりもさんをみんなに会わせたいからいつか会いませんかって言ってからこうなったかも……」


「それがきっかけ? 会いたいっていうのがまりもさんの機嫌を損ねちゃったとでもいうの? 何その人、訳わからない」


「でも本当にそれがきっかけかどうか分からないし……、怒っているのかどうかも分からないし……」


「何もわからないんだね。それじゃあ私も何もわからないや」


「そうだよね……。困ったなぁ……」


 どうすればいいんだろう。


「そいつ男? 女?」


「女の人だと思うよ」


「会ったこともねえのに分かるのか?」


「まりもさんが自分のことを女だって言ってたからね」


「それも本当かどうか分かんねえよな」


「そうかも、しれないけど……。でも僕は信じているよ」


「そうかよ」


 呆れられてしまった。信じる事って、よくない事なのかな……。

 ……うーん。

 馬山さんにも言われたけど、人を信じすぎることは駄目らしい。

 裏切られた時にショックを受けるからだと言っていた。

 でも、なんだかそれはおかしい気がする。

 相手のことを信じなければ、相手も自分のことを信じてくれないのではないかな。信じ合えなければ相手との距離は縮まらないよ。

 相手が裏切るかもしれない、相手が自分のことを信じていない。だから自分は相手を信じない。

 やられたらやり返すではないけれど、そういう考えはとても悲しいものだ。それじゃあ一生仲良くなんてなれないよ。

 信じて裏切られて傷つく人間が僕だけなら、やっぱり僕は信じようと思う。


「僕、もう一回まりもさんと話してみるよ」


「何言ってるの佐藤君。早めに縁切っちゃいなよ」


「そうだぜ優大。怪しい人間となんか仲良くする必要ねえって。私がいるじゃねえか」


「どちらかと言えば有野さんも怪しい人間だけどね」


「うるせえ」


 やはり、二人とも顔も知らない人間とは仲良くしない方がいいという意見みたいだ。でも僕は信じるよ。


「少しだけ不安だけど、よく考えたら会える距離にいるのならすぐに会えるってことだよね。もともと会いたいなぁって思っていたし、丁度いいんじゃないかな? 危険なこともされていないし、きっと大丈夫だよ」


「そんな怖い奴なのに、まだ会いてぇと思ってるのかよ……。危険なこともされていないって言ったけど、それは『まだ』だからな。まだ危険なことされていないだけでこれからどうなるか分かんねえぞ」


「そうだよ。有野さんだって『まだ』警察には捕まっていないでしょ? それとおんなじだよ」


「お前マジで黙れ」


「雛ちゃんはとっても優しい人だよ。警察の世話にはならないよ」


 まりもさんも優しいもん。ずっと僕の心を支えてくれたんだもん。酷いことは絶対にしないよ。


「はいはい。有野さんは優しいですね。はいはいはい。で、結局そのまりもさんに対しての相談はもういいの? 最終的に何の解決もできなかったけどそれで満足なの?」


「うん。話を聞いてくれただけで僕はとっても心が軽くなったよ。これからどうしていこうかっていう決心もついたし、楠さんと雛ちゃんには感謝してるよ」


「そう。君がいいならいいや」


「うん。ありがとう二人とも。誰かに話を聞いてもらうのって、いい事だね」


 あまりいい顔をしていなかった二人だったけれど、僕が満足しているのだと知って少しだけ微笑んでくれた。




 ファミレスを出た後は、僕の家に戻ることになった。

 相変わらず二人は僕の部屋で喧嘩をしていた。喧嘩するほど仲がいいって言うよね。

 結局いつも通り不穏な空気を残して二人は帰って行った。


「ふぅ……」


 家の前の道路で溜息をつく。

 少しだけ、疲れるね。

 でも僕が原因で喧嘩をしているのだから僕が何とかしなければ! 僕をいじって遊んでくれている今がチャンスだ。飽きられてしまったらそのチャンスが無くなってしまう。

 こんなことは考えたくはないけれど、いつか二人が僕の元から離れて行ってしまいそうで怖い。僕は何の魅力も無い人間だからね……。

 だから、せめて二人の仲をよくしたいんだ。


「少し調子に乗ってるね、僕」


 まるで僕が全てを握っているような。二人の人生に介入できるような。そんなことないのにね。


「暑いや」


 道路に突っ立っているのはとても馬鹿らしいことなので僕は涼しい家の中に戻る。その前に、一応郵便受けの中をチェックしておこう。


「……」


 そこにはまりもさんからの手紙が入っていた。


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