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キョーハク少女 作者:ヒロセ

第一章 キョーハク少女

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学校の屋上は聖地

 激動の土曜日を終え日曜日は何事もなく過ぎてゆきいつも通りの月曜日がやってきた。
 あ、いつも通りじゃなかった……。
 僕が教室に入ったら、黒髪ロングの美少女が笑顔で挨拶をしてくれた。

「佐藤君! おはよう! 今日も一日頑張ろうねっ!」

 男子数名と話していた楠さんが僕に向かって手を挙げてくれた。

「あ、お、おはようございます」

「あはははは。やだなぁ、なんで敬語なの。クラスメイトなんだから親しくしようよ、ねぇ? さ と う く ん?」

「う、うん……」

 いつも素敵だと思っていた笑顔が今は裏にある感情を想像してしまって素直に見惚れることができない。残念でなりません。
 僕はぎこちない笑顔を作って楠さんをやり過ごし自分の席へ向かった。
 席へついて一度辺りを見渡してみた。男子数名が「なんでお前なんかに若菜ちゃんが挨拶してるんだよ死ね」というような目で僕を見ていた。僕は気付かないふりをして文字の世界に飛び込んだ。
 しばらくして教室に先生がやってきた。僕は本をカバンの中にしまって姿勢を正した。

「みんなおはよう」

 先生の声が静かな教室に響く。

「あー、今日の放課後暇な奴いるか?」

 先生が教室を見渡す。でも誰も反応しない。

「……じゃあ、佐藤」

「え、ぼ、僕ですか?」

「佐藤部活してないしな。佐藤しかいないんだ」

 この前もそんな理由だったよ……。

「草むしりの人間を一人出さなきゃいけないんだが、佐藤やってくれないか」

「あ、は、はい……」

 今日も晩御飯作れないのかな……。
 うなだれる僕に関係なく朝のホームルームが続けられる。連絡事項を伝え終えた先生が教室を出て行った。
 草むしりか……。この前より早く帰れればいいな。

「佐藤」

「え? あ、有野さん。おはよう」

金髪セミロング、女子のリーダー有野さん。

「お前嫌なこと押し付けられすぎじゃね? 嫌なら断ればいいじゃねえか」

「え、で、でも、僕にしかできないし……」

「んなもん適当に断っとけば若菜か誰かが買って出てくれるだろ。佐藤何度も嫌な仕事押しつけられてんじゃんか。あいつ絶対お前の事便利な奴だと思ってんぞ。嫌だろ?」

「え、ううん? その、僕がやればみんな困らないし、全然かまわないよ」

「お前……優しすぎだろ」

 有野さんが僕のほっぺたを軽く抓って引っ張ってきた。

「ご、ゴメンなさいぃ」

「悪くねえのに謝んなよ」

 怒った顔をして、うにうにと僕のほっぺたを引っ張たあと自分の席に戻って行った。よかった。殴られるのかと思った。




 お昼。

「佐藤君」

 お弁当を食べようとカバンをあさっているところに、いい匂いとともに黒い髪が視界に入ってきた。お弁当を持ってその人を見てみる。
 う……。楠さんだ……。

「佐藤君?」

「な、何?」

「あはは。そんなに怯えないでよ。クラスメイトでしょ」

「うん……」

 確かに何もされていないのに怯えるのは失礼だよね。気をつけなきゃ。

「それで、何か用かな……」

「一緒にご飯食べようかと思って」

「えっ」

 と僕が驚くのと同時に教室内がざわめきに包まれた。
 当然だよ。僕のようななよなよした人間が楠さんのような凛々しい人間と昼餉をともにするなどと恐れ多いにもほどがあるよ。
 さらにそんなことよりも重要なことで、そんなことをしたら男子全員から冷たい目で見られてしまうと思うんだ。

「えっと、その、あの、僕」

「え? もしかして、私とご飯食べるのが嫌なのかな……」

 とても悲しそうな声だった。でも顔は無表情に怒っていた。
 楠さんは教室にいるみんなに背を向けているので、みんなは楠さんが怒っているとは思わない。僕が悲しませているように見えているはずだ。その証拠にクラスの大部分から熱い視線をもらっているよ。

「なにか嫌な理由でもあるのかな……」

 顔と声が全然合ってません……。怖いですよ……。

「佐藤君が嫌ならいいんだけど……残念だな」

 楠さんの後ろからとても重量感のある視線をびしびしもらっているわけだけどそれは僕には耐えられるようなものじゃないんだ。だから楠さんの言うことに従うことにするよ。

「う、うん。ご一緒させていただきます」

「え、いいの? ありがとう!」

 ちなみにまだ無表情です。怖いです。
 敵意のこもった視線を体中に感じながら僕は楠さんについて教室を出て屋上へ向かった。
 屋上へ着くなり僕の胸ぐらをつかんで顔を近づけてくる楠さん。

「……誰かに言ったでしょ」

「い、言ってません」

「嘘つかないでよ。こんな楽しいこと誰にも話さないわけない。話す友達がいないなら別だけど」

「う……」

 あれ……。今日、まだ男子の誰とも話してないや……。親友はいないけど友達くらいいるよって思ってたけど、友達もいないのかな……。

「……もしかして佐藤君、君友達いないの。……ま、しょうがないか」

 しょうがないみたいです……。

「よかった君に友達がいなくて」

「うう……」

 悲しいです。

「ねぇ、孤独な人生を送っている佐藤君」

「そ、そんな呼び方やめてよ……」

「そう言えば今までずっと一人でご飯食べていたね。よかったね、今日はこの私とお昼一緒できて」

「うん。本当だね」

「……」

 イラッとされた。

「ご、ごめん」

「……別に怒ってないから謝らなくてもいい。それで、君、今日はいつも通り過ごすことができた?」

「うん。大丈夫だよ。楠さんのことも誰にも言ってないよ」

「当たり前でしょう。恩着せがましいこと言わないでよ」

 そんなつもり無かったのに怒られてしまった。僕の配慮が足りないせいだ。

「じゃあさっさとお昼を食べて佐藤君と別れよう」

 早く僕と別れたいみたいだ。急いでご飯を食べよう。
 屋上の端に座る楠さんを追って、僕も屋上の端に座った。楠さんとの距離は人三人分。近すぎたら馴れ馴れしいと思われるし、離れすぎても失礼な気がする。だからこれくらい。

「佐藤君のごはんおいしそうだね」

「え? あ、ありがとう。楠さんのもおいしそうだね」

「おいしいよ。あげないから」

「う、うん……。あ、そうだ。おはぎありがとう。おいしかったよ」

「あたりまえでしょ。私が作ったんだから」

「え、手作りだったんだ。すごいね! あんなにおいしいおはぎを作れるなんて羨ましいよ! どうやって作ったの?」

「興味もないのに作り方聞いたり無理して褒めたりしなくてもいいよ。おいしいのは分かってるし」

「あ、ごめん……。で、でも、全部本当だよ……」

「へぇ。料理もしないくせに作り方が気になるって?」

「あ、ぼ、僕、その、時々、料理とか、するんだ。このお弁当も手作り」

「へえ……。それ結構すごいね。多分自分でご飯作っている男子はこの学校で佐藤君くらいだよ。それは誇っていいと思う」

「そ、そんなこともないんじゃないかな……」

「あっそう。そう思うんならそうなんだろうね」

 う、ちょっと不快に思われたみたいだ。ごめんね。

「もしかして佐藤君お母さんがいないの?」

「え? ううん。両親とも健在だよ」

「ならどうしてご飯なんか作ってるの? 作ってもらえないの?」

「両親とも、共働きだから。できる事は自分でやろうと思って」

「へぇ。それは偉いね」

「そんなこともないんじゃないかな……」

「あっそ」

 しまった。また怒らせてしまった。どうやら楠さんは褒め言葉を素直に受け取らない僕にイライラしているみたいだ。気をつけよう。

「あ、そう言えば。佐藤君が言ってた、とある女子高の軽音楽部、私の兄も持ってたから見てみたよ」

「え? あ、うん。面白かった?」

「面白いかどうかは別として、すごいなって思った」

「すごい?」

「私がそれを見ているときに兄が暑苦しく説明してきたんだけど、その会社はキャラクターソングとかもたくさん出してそれらもたくさん売れているらしいね」

「そうみたいだね」

「それで、歌をメインにおけるアニメを作ってその中から生まれた曲を世に送り出す。たくさんCD出しているんでしょ?」

「う、うん」

「それこそが凄いところなんだよ。アニメにとどまらずに別の方向からアプローチしていく。君はオタクだからCDが出たら出ただけ沢山買うんだろうね。どうせ百枚とか買うんでしょ」

「買わない、けど……」

「別に恥ずかしがらなくても君がいくら買おうと勝手だけど。どう? 君はまんまと乗せられているんだよ。君が好きなアニメには娯楽以外の要素もたくさん含まれているんだよ。経済の一部。君は世界のお財布なんだよ。これでアニメが楽しめなくなったでしょ?」

「え、べ、別に……」

 いきいきと話していた楠さんが、途端に不機嫌そうな顔を作った。

「……なんで」

「え、だ、だって、面白いのは本当だし……。そもそも、面白いものじゃなきゃ、誰もCDとか買わないし、その、何も考えずに買っている訳じゃあ、ないから」

「…………神聖な物じゃなくて、経済の一部でいいの? 嫌じゃないの? 」

「うん……。面白いから、買ったんだもん」

「……なにそれ。がっかり」

「え、え?」

「君をがっかりさせるためにわざわざ聞きたくもない話を兄から聞いたのに、何それ。佐藤君面白くない」

「え……。ごめんね……」

「……」

 う。謝ったらさらに楠さんの怒りゲージが溜まったみたいだ。よく分からないけれどもう謝るのはやめよう。

「話は変わるけど」

「あ、うん」

「ずっと疑問に思っているんだけど、なんで電車の中で電話しちゃいけないのかな」

「え? それは、他の人に迷惑がかかるからじゃないのかな……」

「迷惑って、話すことが迷惑なら会話自体を禁止すべきでしょ」

「あ、僕聞いたことがあるよ。誰かが電話をしているとき、他の人はその電話の向こうの相手の声が聞こえないからそれを想像してしまって、そのせいでストレスを感じてしまうんだって」

「それは私も知ってる。偉そうに言わないでよ」

「あ、ごめん……」

「……。で、そのことなんだけど、そんなの禁止にする理由にならないと思うんだよね。その程度のことを迷惑と言うんだったらさ、そんなものよりももっと迷惑なことだってあるんだから、そっちを禁止にしてよ。でもそれらを一々禁止していったら人間はまともな生活できなくなっちゃうんだけどね。例えば、お風呂に入らない人は臭いがきついので人のいるところに行かないでくださいとか、挙動不審な人は目障りなので人目につかないように歩いてくださいとか。そんなルールがあったら困るでしょ? 携帯電話なんかよりも、臭いのきつい人の方が迷惑でしょ? だからと言ってそれを禁止にはしないでしょ? だったら、なんで携帯電話は禁止にするの」

「うん……」

 そうなのかな……?

「なに? 言いたいことがあるなら言ってよ。心を隠さないって約束でしょう」

「あ、うん。その、大勢の他人と空間を共有する電車の中だから、えっと、逃げ場がないというか、自分ではどうすることもできないというか……。お風呂に入らない人がいるのなら近づかなければいいし、動きが気になる人を見かけて嫌だなと思ったのなら目をそらせばいいし……。でも電車の中で電話をされたら防ぎようがないというか……」

「何言ってるの? 電車の中に臭い人がいたらどうするのって話をしているのに」

「う。……違う車両に、移動する」

「なら電話も移動すればいい」

「……そうだね……」

「臭い人は電車に乗っちゃいけない? ワキガのお客様は乗車ご遠慮願いますとでもいうの?」

「……そんなこと、言えないね……」

「でしょう。それに比べて電話なんて軽いものだよ。だから、不快にならないように、聞こえないくらいの小声で話してくださいってことにすればいいんじゃないの?」

「えっと……それは、どうなのかな……よく分からないけど……」

「『車内での通話は他のお客様の迷惑になりますので電源を切るかマナーモードにしてください』って言うけど、小声で話すなら別にかまわないんじゃないの?」

「えっと……、あ、そうだ。ペースメーカーとか、そういう大切な機械に影響が出ちゃうんじゃないかな」

「ならその人は街を歩くだけで死ぬよ。電波で溢れているんだから」

「あ、そ、そうかも……」

「つまり、電車内で携帯を使ってはいけない理由はよく分からないのにみんなマナーだマナーだ言ってるんでしょ。おかしいよそれ」

「そう、なのかな……」

「そもそも会話の一方だけが聞こえてくることが不快だなんていうけど、盗み聞きするのもよくないと思うし、その会話を理解しようとするのも意味が分からない。聞き流せないの?」

「……ごめんなさい」

「謝らないでよムカつくから。で、他の国がどうだからっていうわけじゃないけれど、参考までに、禁止しているのは日本くらいなんだよ?」

「え、そうなの?」

「そうなの。変だね」

「うん。それは、ちょっと変」

「流されやすい日本人が、なんでこんなところで独自のルールを作っちゃってるんだろうね」

「不思議だね」

 深く考えたことないや。すごいなぁ、楠さんは。

「さて」

 楠さんが立ち上がった。

「ご飯も食べ終わったし、私はもう行くから」

「え、あ」

 いつの間に。僕のお弁当箱の中にはまだたくさんご飯が残っていた。話に夢中で箸が止まっていたみたいだ。

「ごゆっくり」

 さっさと屋上を出て行った。
 少しの間だけでも、楠さんとご飯を一緒できたのは嬉しいことだね。
 青空の元、僕は一人笑顔でお弁当を食べた。
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