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キョーハク少女  作者: ヒロセ
第一章 キョーハク少女
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前橋さんと雛ちゃん

 小嶋君に貸したアニメは時間を移動するお話。

 もし現実にタイムマシンがあるのだとしたら、僕はどこへ行こうかな。

 未来を見れば安心する気もするし、過去に戻りたいという気持ちもある。

 未来を知っていればどう行動すればいいのか分かるし、過去へ行けば今後の対策を教えてあげることができる。

 でも、今は別にどちらも必要が無いと思う。

 少し前ならば、変えたいような過去も無いので、おそらく未来に行ってこれからを調べていただろう。

 静かに暮らし続けた僕は将来どうなるのかずっと気になっていた。相も変わらず波風を立てないで生きているかなと、確認していただろう。

 今は。

 今は未来になんか行きたくない。

 勇気を出そうと決めた矢先に、未来を突きつけられるなんて嫌だから。

 何が起こるか分からないけれど、勇気を出して未来を変えると決めたのだから、どんな未来が待っていようと僕は後悔しないぞ。

 校舎裏を離れて教室にたどり着いた。

 僕は教室の扉に手をかけた。

 一日の始まりだ。よし、頑張ろう。

 気合を入れ、扉を開こうとしたところ、


「どいてください佐藤君!」


「ひいいいいいい!」


 突然後ろから怒鳴られた!

 しかもこの声は前橋さんだ! 切り裂かれる!

 がたがた震えながらすっと横に避ける。


「何を怯えているんですか! 失礼ですよ!」


 う。そうだね。何もされていないんだから。

 僕は恐る恐る振り返り前橋さんの顔を見た。


「おは、よう……」


「なんでそんなにびくびくしているんですか! 千切る必要がありそうですね!」


「千切らないでください!」


 どこを千切るの?!

 前橋さんが僕の顔を見て重々しくため息をついた。な、なに……?


「全く……。なんであなたのような情けない男が有野さんに気に入られているんですか……」


「お、幼馴染だからじゃないかな……」


「前も聞きましたよそれは! 全く! 情けないは百歩譲っていいとして男だというのが許せないです!」


「そっち?!」


 どうしようもないよ!

 僕が謝っていいものかどうか悩んでいると、前橋さんがメガネをかけ直しにやりと笑った。


「まあ今日は気分がいいので暴力を振るおうかなーとか考えませんよ」


「あ、そ、そうなんだ」


 今度はお礼を言っていいものかどうか悩むところだ。


「ふふん。今日有野さんは佐藤君なんかより私の方が役に立つと気付くはずです! 残念でしたね佐藤君! 有野さんの天下統一に必要なのは私なのですよ!」


「そう、なんだね。うん、僕なんかより前橋さんの方が、天下統一?の役に立つと思うよ」


「……ぐぐぐ……! ま、またそんな余裕な態度を見せて……! ふん! いつまでそのふざけた態度を取り続けていられますかね!」


「ふ、ふざけてなんか、いないよ」


「本気だっていうんですか?! ますます腹立たしいです! 許しませんからね!」


 一度苛立たしげに銀色の髪を振って教室に入って行った。

 ふ、ふぅ。怖かった。





 前橋さんの後、少し遅れて僕も教室に入る。

 廊下で言いあっていた声が聞こえていたのか教室中の女子から冷たい目が注がれている。男子からは好奇の目で見られており、みんなからの注目を集めた僕の顔は真っ赤になっているだろう。

 早く目立たない自分の席へ行こう。

 僕は自分の席に座ってカバンに手を突っ込む。

 勉強をしなくちゃね。

 僕は何をやっても要領が悪い。

 勉強はもちろん運動も。でもそれ以上に僕が自分自身の一番要領が悪いと思うところは人づきあいだ。

 誰が相手でも恥ずかしい。

 恥ずかしくて遠慮してしまう。

 だから距離が縮まらない。

 でもこれからは違う。

 遠慮せずに行こうと思う。

 楠さんが言っていた、もうちょっと自分勝手に生きればいいということを実行してみようと思う。

 自分のない人間なんて面白くないのは当たり前だ。もっとわがままを、個性を出していけばきっとみんなと仲良くなれるはずだ。

 雛ちゃんとだって、もっと仲良くなれるよね。


「おはよう優大」


 雛ちゃんのことを考えていると、タイミングよく雛ちゃんが登校してきた。

 にこにこと笑う雛ちゃんの顔を見るのは久しぶりだ。昨日までは怒らせてしまっていたから。


「おはよう」


 僕も笑顔で返す。素敵な朝だと思う。

 雛ちゃんが僕の前の机の椅子を引き僕の机に右ひじを置く。


「勉強してんのか。朝くらいゆっくりしようぜ」


「でも、僕頭よくないからたくさん勉強しなくちゃ大変なことになっちゃうよ」


「んなことねえって。大変なことになんてならねえよ。……ん? その前に優大この前何番だったんだ?」


「ぼ、僕は、えっと、百番と、ちょっと……」


 約三十三人×六クラス。一学年約二百人。

 大体普通。結果が張り出される上位三十名の中に名を連ねている雛ちゃんとは雲泥の差がある。


「それだけあれば十分じゃねーか。いいよいいよ。楽しく話そうぜ」


「え、うん」


「勉強ならさ、私が教えてやるから」


「え、いいの? 雛ちゃんも勉強しなくちゃいけないのに」


「もちろんだ。テストでいい点とるより友達と一緒に過ごす方が大切だろ」


「雛ちゃん……」


 優しいなあ。


「だから今度の休み勉強しようぜ」


「ありがとう!」


「いいってこと。優大の部屋でいいよな?」


「え? 僕が行くよ?」


「優大の部屋でいいよな?」


「え、その、悪いよ。雛ちゃんの家のリビングとかで……」


「優大の部屋でいいよな?」


「あ、はい」


 雛ちゃんの家は都合が悪いみたいだ。


「よしよしよしよしよし。これで互角だな」


 小さな声で呟いていた。

 僕にはしっかりと聞こえているよ。

 でもなにに対して互角なのかはわからない。

 だから聞いてみよう。


「何と?」


「うるせー。何でもいいだろ」


 ぷいと顔をそむけた。お、怒らせちゃったのかな?


「雛ちゃん……?」


 怒らせたのなら謝らないと。


「あの、ごめ――」


「ちっ!」


 僕から顔を背けていた雛ちゃんがものすごく大きな舌打ちをした。


「え?! ゴメン!」


 僕が悪いですよね!


「……ちげえよ」


 うんざりしたような顔を僕に向けてきた。


「え、ならなんで……」


 僕は先ほどまで雛ちゃんが視線を向けていた方を見る。


「あ……」


 楠さんが教室に入ってきていた。


「あいつ……」


 雛ちゃんが僕の机に向けている視線には物凄い怒りの感情がこもっていた。


「雛ちゃん……? その、喧嘩しないでね」


「分かってるよ」


 はぁとため息をついた。

 僕の為に怒ってくれているのだけれども、僕としては二人が仲良くなってくれるのが一番なんだけれど……。

 何とかしたいな。


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