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キョーハク少女  作者: ヒロセ
第一章 キョーハク少女
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大間違い

 山を下りた僕はすぐに引き返して山を登ることになってしまった。

 草木の生い茂る山道からアスファルトで舗装された道路に変わり四歩進んだところで僕の携帯が鳴った。


『一人で秘密基地に集合』


 敢えて誰からのメールかは言いません。ただ僕はこれに従わざるを得ないとだけ言っておきましょう。

 僕は人には見せられないものを落としてしまったから拾いに行ってくると、一緒に探してくれようとする雛ちゃんとなんとか別れて秘密基地へ向かった。

 二度目の登山は大変だった。


「はぁはぁ……」


 やっとのことでたどり着いた。


「はぁ……はぁ……」


「ちょっと。何興奮してるの。もしかして私を見て興奮しているの? やめてよ気持ち悪い」


 秘密基地の前で暇そうに座り込んでいた。

 息の切れている僕に冷たい視線を送っている。


「ち、違うよ……ご、誤解……だよ……」


 疲れた……。


「まあいいや。思ったより早かったし。有野さんと別れるのに苦戦すると思ったんだけど、なかなかいい切り抜け方をしたんだね」


「……まあ、うん……」


 人に見せられないものを落としたと言ったら、「ああ、お前も男だもんな。ゆっくり探せよ」と言って苦笑いで帰って行った。

 絶対に勘違いされているよ。


「あの、それで、どうしてここにいるの……? その、もしかして……」


「ぜーんぶ聞いてたけど」


 う。それはなんだか、申し訳ないや……。

 あの時感じた不安の正体は楠さんだったんだ……。


「その、ごめんね。悪口言っちゃって……」


「いつ君が私の悪口を言ってたのかな。覚えがないけれど」


「その、脅されているとか、主従関係とか……」


「それ君の中では悪口にカテゴライズされるんだね。そのくらいなら気にならないからいいよ。謝らないで。それより有野さんの目が怖かった」


「それは……。その、やっぱり、雛ちゃん怒っちゃったみたいで……」


「うん。想像通りだったよ。だから平気だよ、フォローなんかいらないから」


「……う、うん……」


 なんだか、悲しいな。


「わざわざ秘密基地まで戻ってきてくれてありがとう。もう用事終わったよ」


「え?!」


 衝撃だよそれなりに! 電話で済ませてくれても……。


「直接伝えた方がいいでしょ。それと、一刻も早く伝えた方がいいでしょ。その二つを満たすために帰ってきてもらったというわけです。ごくろうさま」


「う、うん……」


 もう、帰るのかな……。寂しいな……。


「それにしても君、勇気を出してたね。偉いよ」


 う。なんだか楠さんに褒められたらむず痒いような感じが……。


「でも、私が言ったからとか、言わない方が良かったね」


「え? どうして?」


「自分の意思じゃないみたいだし、有野さんとしても気分悪いだろうし」


「その、楠さんは、有野さんの敵、だから……?」


「違う違う。君は本当に鈍いなぁ。よくないよ、それ」


 うう……。僕のいいところなのか悪いところなのか分からないよ……。


「悪かったね、引き返してもらって。じゃあ、帰っていいよ」


「え? 先に帰っていいの?」


「別にいいよ。なんで私が先に帰るっていうルールができてるの?」


「その、いつも先に帰ってたから……」


「ふーん、そっか。でも今日は先に帰っていいよ。私、ここですることがあるから」


「え」


 ここですることって……あ、そっか。


「うん。分かった。じゃあ、僕先に帰るね」


「はいはい。じゃあね」


 僕に対する興味をもう無くしてしまったみたいで、背を向けてカバンの中からグローブを取り出していた。ボクシングの。

 楠さんは、今からここでストレスを発散するみたいだね。

 僕はもう何も言わずに山を下りた。

 




 僕は何もかも間違っていた。





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