挿絵表示切替ボタン
▼配色







▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる
キョーハク少女 作者:ヒロセ

第一章 キョーハク少女

しおりの位置情報を変更しました
エラーが発生しました

ブックマークしました。

設定

更新通知 0/400

設定を保存しました
エラーが発生しました

カテゴリ

ブックマークへ

以下のブックマークを解除します。
よろしければ[解除]を押してください。

ブックマークを解除しました。

26/163

委員長会議にて

 七月四日。
 今日からテスト週間だ。
 部活が禁止になる一週間。勉強に打ち込むための一週間。
 僕もこの一週間のうちに詰め込まなければ大変なことになってしまう。頑張らねば。
 とりあえず、前橋さんの恐怖は忘れ去ろう。勉強の邪魔だからね。
 頭の悪い僕は朝から勉強。これくらいしなくちゃ赤点取っちゃうよ。
 僕はカリカリ勉強する。
 カリカリカリカリ。

「……おい、佐藤」

 僕のような人間に声をかけてくれる人間が。
 誰だろうかと顔を上げる。

「え? あ、小嶋君。おは、よう……」

 え、殴られるの?
 身構えたけれど、殴るモーションも連れ去るモーションも見せない。
 どうやらなにもされないみたい。

「……その、なんだ。……佐藤から借りたDVD……。……見た」

「え! 本当?! どうだった?!」

 と、聞いてみたけれど、何やら表情が冴えませんね。これは、面白くなかったみたいだね……。

「あの、ごめんね……。面白くないものを貸してしまって……」

 殴られちゃうのかな……。

「……なんだ、その、まあ、あれだ。なぁおい……」

「面白くなかったよね……。小嶋君にアニメとかは似合わないよね……。ごめんね……」

「まあ、俺には、アニメなんか似合わないけど? ……でも、まあ、勧められたら見るのが義理だし?」

「ありがとう……。僕の為に時間を割いてくれて……」

「これくらい、大した手間じゃねえから、いつでも、いいぜ」

「あ、ありがとう……」

 酷いことされたけれど、小嶋君もいい人だなぁ。

「それで、このDVDを有野に貸せばいいんだよな」

「あ、うん」

 國人君からは借りたくないと言っていたから、これを貸した方がいいんだよね?

「うん。雛ちゃんに貸してあげて」

「……分かった……」

 小嶋君がDVDを持って雛ちゃんの方へ向かっていった。
 でも、残念だな……。小嶋君的には面白くなかったかぁ。気に入ってくれればその話で盛り上がって仲良くなれると思ったのに。でも見てくれただけで嬉しいね。小嶋君が優しいってことが分かったし、作戦は成功したって言ってもいいよね。何となくだけど、もう殴られることも無い気がする。
 目で小嶋君を追う。
 雛ちゃんに話しかけている小嶋君。あ、言い合いが始まった。小嶋君がDVDを押し付けて、雛ちゃんがそれを突き返した。小嶋君がもう一度押し付けて雛ちゃんがまた突き返す。……前橋さんが教室の隅で小嶋君を睨み付けている……。早く……! 早く逃げて小嶋君! 切り刻まれちゃうよ!
 あ、帰ってきた。

「なんだよあいつ! 何が『てめえから受け取るわけねえだろクズ!』だ! 俺から受け取ろうが佐藤から受け取ろうが何も変わらねえだろうが!」

「ま、まぁ、まぁ。きっと、見る気が無くなっちゃったんだよ」

「だとしても言い方ってもんがあるだろう! 畜生! あいつふざけやがって!」

 お、怒ってるね……。
 どうすれば仲良くしてくれるのかな。

「……これ、とりあえずお前に返す」

「あ、うん」

 小嶋君からDVDをもらった。

「……佐藤? 別に他の奴を借りてもいいけど?」

「へ?」

 何を言っているのか分からない。

「お前のおすすめのDVDがあればまだ見てやろうかなって言ってんだ」

「え?! ほんとう?!」

 もう一回チャンスが貰えるんだ! ありがたいね!

「今度はきっと面白いものを持ってくるから!」

「え? あ、そうだな。次はもっと面白いものを見せろよ」

「うん!」

 小嶋君が難しい顔をして離れて行った。
 その表情の意味は分からなかったけれど、次は笑顔を作れるように頑張ろう。
 今度は失敗しないぞ。

「席につけー」

 先生が教室に入ってきた。
 みんなが座る。

「えーっと、今日からテスト週間だな。部活も無くなるし、放課後ダラダラ残ってないで勉強頑張れよ」

 今日はあっさり終わった。次の授業まで少し勉強できるね。
 と思ったのだけれども。

「先生」

 楠さんが手を挙げて教室中の注目を集める。

「どうした、楠」

「文化祭のことで少しいいですか」

「ああ。なんだ?」

「放課後までに、みんなにどういう系統の催しをするのかを考えていてほしいんです」

「系統?」

「はい。飲食系、演劇系、展示系、研究発表系。とりあえず大まかにやりたいことを決めようと思うんです。もちろんこの四つ意外に何かやりたいことがあればどんどん行ってもらって構いません。放課後にもう一度聞こうと思うので――」





 結果、クラスの大多数は飲食系がやりたいとのことだった。
 結果が出たので放課後、早速委員長会議が開かれた。
 今日も前橋さんがいるので四人。

「やっぱり飲食系か……」

 アンケート結果を眺める楠さん。

「文化祭と言えば飲食系だもんね。他のクラスも喫茶店とか焼きそばとかやりたいだろうし他のクラスと差別化を図らなきゃね」

「……。そうだな……」

 どこか元気のない雛ちゃん。どうしたんだろう?

「飲食系で他のクラスがやらないようなものって、何かあるかな?」

 僕に視線をくれる楠さん。

「え、えーっと……。アイス屋とか……」

「十月なんだから寒くて客こないでしょ。そりゃどのクラスもやらないよ」

「じゃあ、焼肉屋とか……」

「衛生管理されていないこの教室で保存された肉誰も食べたくないよ」

「なら……綿菓子、とか」

「露天じゃないんだから」

「そ、そうだね……」

 困った……。どうしよう……。
 無い脳みそを絞って考えてみるけれど、くだらないものしか出てこない。

「えーっと……。雛ちゃんなら――」

 と、僕が隣に座る雛ちゃんにへらへら笑いながら声をかけようとしたら、その隣にいる前橋さんにものすごい目で睨まれた。

「ひっ」

 勝手に体が畏縮する。この前もらった手紙が効いているよ……。

「優大?!」

 突然怯えだした僕に雛ちゃんが声をかけてくれる。
 僕の肩に手を置き僕の目を見てくれる雛ちゃん。

「大丈夫だ。私がいるだろ」

「え、うん」

 雛ちゃんがいれば前橋さんに襲われることは無いってことかな。

「……!」

 何故だか分からないけれど雛ちゃんはものすごい勢いで楠さんを睨み付けていた。
 楠さんは僕の正面で「有野さんどうしたの?」と言った笑顔で首をかしげている。
 ちなみに前橋さんは雛ちゃんの横で「佐藤どうしてやろう?」と言った笑顔で首を不自然に曲げている。怖い。
 雛ちゃん声は掛けられないみたいだし、僕が考えなくちゃ……。

「えっと、その、漫画喫茶とか、どうかな」

「入り浸る人が出て回転が悪くなっちゃうよ」

「なら、ダーツ喫茶とか……」

「ダーツバーみたいな? どうかなそれ……」

「うーん……」

 どうしよう。
 他のクラスがやりそうになくて、教室でできそうなもの……。

「コンビニ……とか……」

「飲食店じゃないでしょ。ふざけてるの?」

「ご、ごめんなさい……」

 確かに、今のはちょっとふざけた解答かも……。申し訳ないね……。
 僕は落ち込み顔を伏せようとしたが、突然鳴った大きな音にびっくりして目を見張った。
 雛ちゃんだ。雛ちゃんが机を思いっきり叩いた音だった。

「おい若菜……。てめえ自分から優大に聞いたくせになんだよその態度。ふざけてんのはお前じゃねえか」

 僕と同じように驚いていた楠さん。
 雛ちゃんの言葉に悲しそうな笑顔を作った。

「……ごめんね……。確かにちょっと言葉がきつかったかも。ごめんね佐藤君」

「え、う、うん……その、僕が悪いから、楠さんは悪くないし、あの、二人とも、喧嘩は……」

「そーです! 悪いのは佐藤君です! 即刻謝罪を要求します!」

 何故前橋さんがここで話に入ってくるのかが分からないけど、謝ろう。

「ふたりとも、ごめんね……」

「だから、悪いのは私だって。謝らないで」

 にっこりと無理な笑顔を作っている楠さん。顔が引きつっている。

「そーです! 悪いのは楠さんです! 即刻委員長の座を有野さんに明け渡してください!」

「えーっと、それは、ちょっと……。みんなが選んでくれたんだし、そう簡単に私の意志で明け渡すわけには……」

 苦笑いで返す楠さん。
 前橋さんは以前ぷりぷりしている。

「しかし有野さんを怒らせた楠さんは委員長にふさわしくないと思うんですが! 明日署名を集めようって今日の夜決心しますよ!」

 ……なんで今日の夜? 今じゃダメなの?

「まあ、クラスの総意なら仕方ないけど……」

「な?! ……今、私を馬鹿にしましたね?! どうせ署名は集まらないからやっても無駄だって、そう思いましたね!?」

「……全然そんなこと思ってないよ?」

「くぅぅぅ……! これが勝者の余裕と言う奴ですか……! 分かりました! そこまで言うのであれば――」

「未穂」

 と、雛ちゃんが前橋さんを睨み付ける。

「――ご、ごめんなしゃい……。静かにしましゅ……」

「……」

 鋭い眼光のまま楠さんの方を向いた。

「……えっと、ごめんね? 有野さん」

「……」

 ふん、と一度鼻を鳴らし面白くなさそうに腕を組んで目を閉じた。
 ……。
 ……。
 ……。
 重たい沈黙。僕は耐えきれません。

「あの、何するのか、考えては、みませんか……?」

「……そうだね。せっかく集まったんだし、考えようか」

 極力明るい調子で言う楠さん。

「えーっと、有野さんは、何かいいアイデア、あるかな?」

「……別に」

「別に無いですよ! もちろん私もありません!」

「そ、そっか……」

 二人の答えと困った笑顔の楠さん。
 また沈黙が流れる。
 ……。なんでずっと雛ちゃんは機嫌が悪いのだろう。
 聞きたいけど、怒られそうだし……。
 みんなが黙り込んでいた。
 どこに地雷があるのか分からないこの空間。
 うかつに歩く人間誰もいなかった。
 楠さんが、足元を確かめるようにゆっくりと声をだす。

「じゃあ、今日はもう、解散……しよっか。また明日の放課後集まろう? それでいいかな、みんな」

 あっという間に終わってしまった。何も話し合っていない。これじゃあ集まった意味ないよ。
 でも、もう続けられる気配でもないし……。
 やめた方が、いいのかな……。
 あまりよくない気がするけど……。

「……あぁ……。分かった。優大もそれでいいよな?」

「え?! う、うん」

 突然問いかけられて思わずうなずいてしまった! 僕のバカ!

「ならもう帰ろうぜ」

 雛ちゃんがカバンを持って立ち上がり僕らを促す。

「もうテスト週間だ。早く帰らねえと勉強する時間が無くなっちまうぞ」

 じっと僕を見たままそう言った。
 そうですよね。僕バカだから早く帰らなきゃ大変なことになるよね。

「……なら、明日までに、どんなものがあるのかを考えてきてね、みんな」

「……」

 また楠さんを睨み付ける雛ちゃん。
 それに対して、楠さんも少し強い視線で返す。

「……。……あのーなんで怒らせたのかを聞いてもいいかな」

「別に」

 機嫌悪そうにそっぽを向いた。

「別になんでもありませんよ! もともと敵同士なんですから、慣れ合うつもりは皆無です!」

 イーッ! と前橋さんが楠さんを威嚇した。

「……そう。分かった。私が気に入らないんだね。それはまあ、しょうがないことだよね、うん。それに関しては何も言わない。でも、文化祭の話し合いはちゃんとしよう? ね? みんな楽しみにしているんだから」

「……」

 楠さんに攻撃的な目を向ける雛ちゃん。

「……ああ……」

 不機嫌な顔のままだったけれど頷いた。

「優大、帰るぞ」

 そう言って、僕を待たずに先に教室を出た雛ちゃん。前橋さんもそれに続く。

「えっと……。その、さようなら……?」

 恐る恐る声をかけてみる。

「……さようなら。さっさと帰れば」

 予想通り、楠さんの機嫌は最高に悪かった。

「あの、きっと、何かあったんだよ」

「うるさい」

「う……。ごめん……」

「これ以上機嫌を悪くしないために早く有野さんの元へ行ってよ」

「うん……」

 楠さんは一度も僕を見ることは無かった。
 前橋さんと校門で別れ、雛ちゃんと一緒に帰っている途中、色々聞いたのだけれども、何一つ教えてくれることは無かった。ただ「大丈夫だ」と、その言葉を繰り返していた。
 なんだか、金曜日のことをまだ勘違いされているような気がする……。






 僕の部屋のスタンドが机の上の教科書とノートを夜の暗い部屋に浮かび上がらせている。
 うーん。困ったなぁ。
 机に向かうけど勉強がはかどらないよ。
 なんだか色々と考えることが多いなぁ。
 シャーペンを放り投げて伸びをしてリラックス。
 うーん……。小嶋君に何を貸せばいいんだろう……。多分ハーレムとかラブコメとかは苦手だと思うんだ。だからそうじゃないものを貸さなきゃなんだけど……なにがいいのかなぁ。
 椅子から立ち部屋の電気をつける。そして本棚と向かい合った。
 なにか、いいものは……。
 スライド式の本棚を動かし本を探す。
 上から下へ、眺めてる。
 そしてある本へと惹きつけられた。
 そうだ。これにしよう。
 僕は本棚から一冊の本を抜き出した。黒い表紙に赤い文字。

「ブラクララグーン」

 ブラクララグーンとはブラウザクラッシャーとは何一つ関係なくタイのとある町でのアウトローなお話。
 きっとこれなら小嶋君も見てくれるよね。
 さすがに学校にDVDボックスを持っていくのは恥ずかしいし小嶋君も嫌がると思うので録画したやつを持って行こう。
 よし、問題が一つ片付いた。
 次は前橋さんからもらった手紙。
 僕は手紙をしまった引き出しをあけ、ゆっくりとしめた。
 うん。どうしようもないや。
 次に行こう。
 次は文化祭の催し物。
 うーん。僕なんかじゃあいいアイデア思い浮かばないよ。
 ……。うーん。
 ……。うーん。
 ……。うーん。
 ……。あ、そうだ。
 多分却下されるだろうけど、思いついたのでメモしておこう。
 ……。
 よし。
 一つ考えれば十分だよね。
 さて。
 最後の問題だ。
 楠さんと雛ちゃんの喧嘩……。
 きっと雛ちゃんは僕の為に怒っているんだ。僕と楠さんの間にある問題を大げさにとらえてしまっているんだ。誤解は解いたと思ったのに、まだ解けていなかったみたいだ。
 うん。明日また誤解を解こう。
 とりあえず、手紙以外の問題は片付いたし、勉強しよう。
 僕は椅子に腰を下ろした。
 頑張ろう。
cont_access.php?citi_cont_id=720022413&s
+注意+
特に記載なき場合、掲載されている小説はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている小説の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による小説の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この小説はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この小説はケータイ対応です。ケータイかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。
小説の読了時間は毎分500文字を読むと想定した場合の時間です。目安にして下さい。
↑ページトップへ