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キョーハク少女  作者: ヒロセ
第一章 キョーハク少女
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僕の学校生活

 馬と出会った日曜日から四日が経ち今日は木曜日。僕の馬に対する恐怖心とは裏腹に平和な日々が流れていた。

 馬が通学路で待ち伏せしているとか、人込みで知らない人に話しかけられるとかそういった妄想に囚われていたけれど、日常を逸脱するようなものは片鱗すら覗かせることは無かった。

 このまま何事もなく馬のことを記憶から追いやることができるのかなと思い始めていた今日この頃。朝学校に来た僕は、人の少ない教室に入り真っ直ぐに一番隅にある自分の席へ向かった。座ってすぐにカバンから本を引っ張り出し文字の世界に没頭する。

 本は良いよね。文字を読むだけで、誰にも迷惑かからないから。

 僕はライトノベルが好きだ。ファンタジーや学園モノをよく読んでいる。憧れちゃうよね、こういう世界。異世界に飛ばされてみたいな。

 僕の名前は佐藤優大(さとうゆうた)。普通の高校一年生。友達のいない僕を普通と称していいものかどうか悩むところだけれども、普通だと自覚しているので普通って言う。身長も低いし勉強もできない。顔もかっこよくないし性格だってよくない。特殊な能力がないどころか普通の能力すらも無い僕は漫画や小説の主人公にはなれない。

 よし、自己紹介の練習もばっちりだ。これでいつ小説の世界に飛ばされても自己紹介に困らないね。……自分で主人公にはなれないって言ってるのにそれを知りながら主人公になることを望んでいる僕ってなんなんだろう……。

 でも万が一に備えるのはいいことだよね。うん。

 誰とも朝の挨拶を交わすことなく本を読み、くだらない妄想を続ける。寂しい朝だけど、もう慣れた。別にいじめられているわけじゃないよ? 挨拶を交わすほど仲のいい人がいないだけ。

 時間が経つにつれてどんどんクラスメイトが登校してきて、教室に人が増えてくる。

 一度その風景を見渡し、すぐに本に目を落とし騒がしい教室から視線をそらす、『ふり』をする。

 例のごとくと言えばいいのか例にもれずと言えばいいのか、一人寂しく教室に座っていることしかできない僕の趣味は人間観察だ。

 誰も僕のことを気にしていないけれど、僕はみんなのことを気にしている。

 あまりいい趣味ではないけれど、クラスメイトのことを知る為だと言い訳を用意しておこう。

 高校一年生の六月下旬。友達はいないけれど日頃の人間観察のおかげで、大体の性格と人間関係が分かった。

 このクラスは、大きく分けて三つの派閥に分かれているらしい。

 一つ目はかっこよくて運動神経抜群な沼田君が率いる男子連盟(連盟名は適当)。沼田君は本当にかっこいいしユーモアのセンスもあるしクラスの男子の中で一番信頼されている人。僕も沼田君みたいになれたらなぁっていつも思っている。

 二つ目の派閥は女子の中心人物、有野さんが中心となっているチーム有野(やっぱりチーム名は適当)。有野さんははきはきとした物言いで、好き嫌いをはっきりと言うタイプの人。このクラスの女子どころか一年生女子のリーダー格みたいだ。ちなみに、僕は嫌われている。

 そして、三つ目――

 僕はその三つ目の中心人物に目をやった。

 黒くて長い髪。雪のようにふわふわした白い肌。すらりと伸びる細くて長い脚と母性を感じさせる大きな胸。

 このクラスの委員長、楠若菜さん。

 驚くほど整った顔立ちをしている楠さん。一番美人だと思う人を一人思い浮かべろと言われたら、多分この学校にいる人はアイドルより誰より先に楠さんを思い浮かべると思う。きっと、これからの人生で楠さん以上の美少女には出会えないだろう。

 運動神経がよくって、当然のように勉強もできる。

 美少女で、勉強ができて、運動神経がよくて、おまけに性格までいいと来てるのだから当然モテる。僕が読んでいるライトノベルの主人公みたいでかっこいい。

 三つ目の派閥はその楠さんを慕って集まる楠ファンクラブ(ファンクラブ名はもちろん適当だ。ファンクラブなんて存在しない、仮のものだよ)。クラスの半分の女子を有野さんと取り合っている状態だ。楠さんにはそんな気ないみたいだけど。多分、僕の勘だけど近い将来楠さんが女子の中心になると思う。楠さんはとっても親切で、欠点が見つからない。それに比べて有野さんは少し我が強く、魅かれる人も多いけど敵も多いみたい。

 ちなみに僕は親切でもないし欠点だらけで惹かれる人間もいないし敵という人もいないつまらない人間です。

 沼田君と、有野さんと、楠さんの三人がこのクラスの中心人物。

 楠ファンクラブとチーム有野は覇権を争って対立しているけれど、楠ファンクラブと男子連盟は男女連合を作るほどとても良好な関係を築けている。男女連合の総長は、当然楠さん。

 つまり、実質的にこのクラスのトップは楠若菜さんなのだ。委員長だし、当然と言えば当然かも。

 トップの人間が素晴らしい人物なので対立していようがクラスの雰囲気は穏やかだ。やっぱり楠さんは凄いと思う。

 しかし、有野さんは楠さんがトップなことが本当に面白くないみたいでよく楠さんに突っかかっている。楠さんはと言えば全く気にしていない様子で、相手にしない分不穏な空気は広がらない。でも最近は別の要因も発生してそのせいでクラスの空気が不穏になってきているんだ。

 別の要因が発生したのは少し前の事。楠さんが委員長であることが関係している。

 委員長は二か月前に決めたのだけれども、副委員長は必要ないということで長らく空席だった。しかし夏休み明けにある文化祭に向けて、やっぱり副委員長を決めようという男子の総意でこのたびその一つの席を巡って男子たちが争い始めたのだ。

 当然、楠さんと一緒に仕事がしたいという下心全開な考えだ。男子たちは選ばれしものだけが就けるその役職を目指して日々楠さんにアピールしまくっているのだ。さすがに有野さん以外の女子もそれは面白くないみたいで、楠さん……と言うより男子たちに冷たい目線を送っているのだった。

 当然、僕は蚊帳の外。

 いじめられているわけじゃないよ?

 ただ僕なんかがそれに混ざったらもっと不穏な空気になっちゃうからね。僕は見ているだけでいいんだ。

 そう、遠くから見ているだけで満足なんだ。

 そう言うわけで僕はその様子、主に争いの中心である楠さんを眺めていたのだけれども……あ、しまった……楠さんと視線が合ってしまった……。

 怒られる! じろじろ見ていたことを咎められちゃう!

 うわあああああ! 楠さんがにっこり笑って近づいてきた!

 慌てて本に目を落とす僕に、楠さんが黒くて長い髪を掻き上げながら話しかけてきた。


「佐藤君」


 名前を呼ばれた。でも緊張して顔が上げられない。

 寂しい朝に慣れてしまったせいか、誰かに話しかけられる朝が来ると焦ってしまう。


「おーい。佐藤優大君」


 反応したいけれどちらりと視線を送ることしかできない。なんて言えばいいんだろう……。

 困っていると、楠さんが質問してくれた。


「何読んでいるの?」


 質問なら、答えを返せる。


「あ、えっと、これは、ライトノベル……」


「ライトノベル?」


 上目遣いで楠さんを見てみると、とても素敵な笑顔で首をかしげ僕の目を見ていた。


「ライトノベルって何?」


「……えっと……、ライトな、小説……」


 なんと説明していいものか分からなかったので曖昧な説明になった。


「へぇ! そうなんだ!」


 僕の適当な説明にも明るい笑顔を返してくれる楠さん。みんな副委員長の座を狙うのもよく分かる。


「おもしろい?」


「う、うん」


 でも、何故だろう。今までほとんど話したことが無かったのに、一昨日あたりから妙に話しかけてこられる。にこにこ眩しい笑顔を見せてくれるけど、それと同時にクラスの男子全員から熱い怒りの視線も受けることになるので少し居心地が悪い。僕悪くないのに……。


「どうしたの?」


 僕の晴れない顔を見て、楠さんが心配そうに聞いてくれた。


「悩み事があるなら私に言ってね?」


「あ、うん。ありがとう。でも何もないから大丈夫だよ」


「本当? ならいいんだけど」


「うん、大丈夫」


 最後まで優しい空気を作りながら、楠さんが女子たちの輪に戻って行った。

 あー、緊張した。何と言ってもこのクラスのトップだからね。緊張しちゃうよ。

 ……。楠さんが離れて行ったのに男子たちの目は依然鋭い。僕悪くないのに……。

 僕は逃げるように本の世界に飛び込んだ。






 今日も一日何事もなく終わった。

 残すはホームルームだけ。

 いわゆる変わらない日常。これがいいことかどうかは僕にはわからないけれど、僕は満足している。日常が変化してどうなるのか分からないのなら、平和な今が続けばいいと思う。

 だから早く帰ってお姉ちゃんと弟のご飯作ろう。

 机の上で教科書をトントンしてカバンの中にしまう。あとは席について先生を待つだけだ。

 先生はすぐに来た。そういえば小学校時代に「先生が来た!」って言ったら「いらっしゃったでしょう!」って本気で怒られたっけ。そこまで怒ることないのにって思ったけどあのころから言葉づかいを教えておけば将来困らないもんね。さすがは先生。

 そういうわけで先生はすぐにいらっしゃった。


「席に着けー」


 先生の声にみんなが従い席に座る。静かになった教室を見渡しホームルームを始める。


「特に連絡事項はないからさっさと終わろうか」


 面倒くさい話をしない先生だからいいね。


「あーそうだ」


 あれ? 珍しく話があるのかな?


「えーっと……」


 誰かを探すように教室を見渡す先生。僕じゃないよね。僕に用事なんかあるわけないもん。

 などと安心していたのだけれども、先生は僕に視線を固定した。


「佐藤、放課後暇か?」


 ぼぼぼ僕ですか?!


「えっと、その、……一体なんでしょうか」


「ああ、ちょっとこの後資料の整理があってな。男手が必要なんだが、このクラスで部活をしていないのは佐藤だけだからな」


 なるほど……。何もできないからこその僕なんだ。


「あ、あの、でもっ」


 晩御飯を作らなければならないのです。


「え? 暇じゃないのか?」


「……いえ、暇です……」


 晩御飯のことは言えなかった。


「そうか。じゃあよろしく頼む」


 ……今日の晩御飯は遅れそうです、お姉ちゃん。

 




 先生の言いつけどおり放課後残る。


「じゃあ佐藤、ちょっと来てくれるか?」


「あ、はい」


 先生に連れてこられたのは三階にある資料室と言う名前のよく分からない教室。本棚の中には沢山の資料が詰め込まれている。これを整理するのかな?


「とりあえずこの本棚を空にしてくれ」


「はい。…………はい?」


 この本棚っていうと、目の前にある本棚だよね? 約、幅三メートル高さ二メートルの、この大きな本棚だよね? そこにぎっしりと詰まった謎の資料を空に、するんだよね……。本棚から出すだけでいいのかな。


「これを焼却炉に持って行ってくれ」


「え、えぇ……」


 さっきも言ったけどここは三階。そして本棚はぎっしり。これじゃあいつ帰れるのか分からないよ。


「じゃあ、後は頼んだ」


「え?! 先生は……?」


「俺は仕事があるからな。良いだろう佐藤。どうせお前暇だろう」


「い、いえ、そんなに言うほどは暇じゃないです……」


「なんだ。用事があるのか?」


「は、はいっ。早く帰らないとお兄ちゃんご飯って言って泣かれるんです」


「あれ? お前の弟はそんなに幼かったか?」


「あ、いえ、姉です」


「……じゃあ佐藤頼んだぞ」


「え、いや、本当の話で――」


 先生は僕の話を最後まで聞かずに資料室を出て行った。

 こ、困ったなぁ。本当にお姉ちゃんに怒られてしまう……。

 ううん。悩んでいても仕方がない。早く終わらせる以外に帰れる方法がないんだから余計なことを考えずに資料を持って行こう。

 僕は本棚の上の方から資料を取り出した。……重い。とりあえず持って行こう。

 

 そして、僕は二度の階段の上り下りで腕の筋力が無くなってしまった。本って重たい。どうしよう、これ時間がかかるよ……。

 困ったなぁ、どうしよう……。

 ああ、いや、そんなことやりながら考えればいいんだ。

 僕は本を持った。

 ひぃひぃ言いながら階段を下りる。重たいよ。しかもいい方法が思いつかない。


「早く帰らなきゃ……。遅くなっちゃうよ」


 つぶやいてみても何も解決しない。足を動かさなきゃ。

 愚痴りながら一階へ続く階段を下りた先に。


「佐藤君?」


 まさかの楠さんがいた。


「楠さん。さようなら」


 忙しいし僕なんかどうせまともに話せやしないんだから軽く頭を下げて先へ進んだ。けど、引き止められてしまった。


「ちょっと待って、佐藤君。それもしかして先生に頼まれた仕事?」


「あ、うん。そう」


「大変そうだね。時間かかりそうなの?」


「ううん。そんなことも無いよ」


「でも今遅くなっちゃうって言ってたよね?」


「え、聞いてたの?」


「あ、うん。たまたま、たまたまね? 偶然耳にね?」


 なんだろう? 三日前から楠さんに僕のつぶやきをよく聞かれてしまう。僕の声が大きいのかな?


「私も手伝うよ」


「え」


 手伝ってくれるって! さすがだなぁ!


「一人でできるからいいよ?」


 でも僕はありがたい申し出を僕は断っていた。だって人に迷惑かけちゃいけないからね。


「でも早く帰りたいんでしょ? 手伝うよっ」


 作り物のような完璧な笑顔。みんなこの笑顔に癒されているのだろう。でも僕は困る。直視できないしなんて言えばいいか分からないから。褒めることもできないよ。恥ずかしいもん。


「で、でも……重いから……大丈夫だよ」


「重いからこそ手伝うんでしょ」


「でも、先生だってわざわざ男の僕に言ってきたし、その、楠さんに手伝わせるのは、あの」


「……え」


 長いまつげをぱちぱちと動かしとても驚いていた。なんでだろう。まるで断られることが予想外だとでも言うような顔だ。


「……そんなに大変じゃないとか?」


「あ、うん。そう。そう」


「……へぇ、そうなんだ。なら、他に手伝うことないかなっ!」


 う、眩しすぎる笑顔だ。目がくらんじゃうよ。


「だ、大丈夫だよ。もうこれで終わり……だと思うし?」


 全然終わりそうにもないけれど、疑問形にしておいたから嘘にはならないよね。……ならないのかな?

 僕の言葉を聞き楠さんがしばらく考え、


「……なら、頑張ってね」


 何故だか不満そうに帰って行った。

 ずっと資料を持ちっぱなしだったから腕が痛いよ。とにかく早く終わらせよう。





 七時。結局三時間かけてやっと終わった。まさかこんなにかかるとは思わなかった。腕はもう使い物にならないね。

 全部運び終わり、資料室でぐったりしているところに先生が様子を見に来た。


「やっと終わったか。もう帰っていいぞ」


 ううう……淡白だなぁ。でもいいや。

 やっと帰れる……。お姉ちゃんに怒られるよ。

 夕日の沈む直前の空。赤い街の中疲れ切った腕を揉みほぐしながら帰路につく僕。

 途中で、あの馬を目撃した山へ続く道を通りがかったので、少し山の入口を眺めてみる。あの馬がどこかで待ち伏せしているのではないかとドキドキしながら見ていたら、山から人が降りてくるのが見えた。あの時の馬だ! と慌てて電信柱の陰に隠れて様子をうかがった。

 緊張する。

 また襲われたらどうしよう。プラスチックのバットで殴られてしまう!

 そう考えたら怖くていつの間にか向かってくる人に背を向けていた。恐ろしくて恐ろしくて見ることができなかった。

 足音が近づいてくる。このまま気づかずにどこかへ行ってください!

 どきどきどきどき。

 願い虚しく足音は僕のすぐ後ろで止まった。


「佐藤君?」


 その人はとても優しい声で僕の名前を呼んだ。


「え?」


 名前を知っているということは僕の知り合いと言うことだ。

 ふぅと安堵の息を吐いてから声の主を確認してみた。

 違う意味でピンチだった……。


「く、楠さん……」


 ああ、今日はよくこの人の顔を見るなぁ。

 緊張してなにを話せばいいのか分からないよ。


「佐藤君、もしかして今帰り?」


「あ、うん。そう」


「こんなに時間かかったの? 仕事大変だったんじゃない!」


 可愛い声と顔で怒られた。


「え、ま、まぁ……」


「手伝ってあげるって言ったのにっ」


 頬を膨らませ可愛く怒る。怒った姿まで可愛いのは最早罪だよね。


「でも、終わったからいいよね」


「……まあ、いいけど。でもなんで助けを求めなかったの?」


「え? 申し訳ないから……」


 一瞬とても楠さんに似合わない顔が見えたけどすぐにいつもの穏やかで明るくって親しみやすくって素敵でふわふわでとにかく地上の物とは思えない笑顔を作ってくれた。あれ? 僕ヘンタイかな……。


「今度は私も手伝うからね」


「あ、うん。ありがとう」


 やっぱりいい人だなぁ。夕日が山に隠れ始め、赤から黒に変わり始めた街の中、楠さんが笑顔で立っている。僕なんかが正面に立つことは許されることではないのに、ましてや言葉を交わすなんてみんなに申し訳ない。

 って、あれ?


「あの……?」


「なにかな?」


 首をかしげ、長く夜のように深い色の髪の毛を鳴らす。


「何か聞きたいことでもあるの?」


 美人過ぎて自分の存在が情けなくなる。生きているのが申し訳ないよ。僕なんかが一緒の空気を吸ってもいいのかな。


「どうしたの?」


 しまった。ついつい自己嫌悪に陥ってしまい楠さんに話しかけたことを忘れていた。話しかけておいて無視するとか失礼にもほどがある。僕は慌てて気になることを聞いてみた。


「こんな時間に山に何の用事かなって思って……。もう暗くなるし、危ないんじゃないかなーって」


 あれ? こんなプライベートなこと聞いてもよかったのかな! もしかしたら僕はものすごく失礼なことをしているのではないでしょうか!


「ええ、まあ、色々と」


 やはりプライベートなことだった。聞いちゃいけないいみたいだ。


「でもこの辺りは変な人が出るみたいだから……。気を付けた方がいいよ?」


 僕の言葉を聞いて笑顔が冷たくなる。


「変な人と言うと、たとえばどんな人?」


「え、変って……変な人だけど……」


「だから、どんな人かって聞いてんの」


 う、怖い。


「あ、ごめんね」


 すぐに暖かい笑みに作り直す。あーびっくりした。怒られるのかと思った。


「それで、変な人ってどんな人?」


 何故だか妙に変な人にこだわる楠さん。なんでだか僕には全く分からないや。


「変な人は変な人だよ」


 変な人だもんね。


「ヘェソウナンダ」


 最終的に妙にぎこちない笑みを作って山の方へ戻って行った。


「く、楠さん? もう暗くなるよ?」


「ハハハハハ」


 笑いながら手を振って木々の中に消えて行った。

 危なくないかなぁ……。追った方がいいのかなぁ……。でも怖いし……。

 …………ぷ、プライベートなことだし、追わない方がいいよね。うん。なんで山に行くのか分からないし。

 僕は後ろ髪を引かれる思いをしながら家路を急いだ。


 罪悪感と闘いながら家にたどり着いた僕。

 お姉ちゃんに泣かれたり弟にフォローしてもらったり色々あったけれど無事に自室のパソコンをつけられた。これが毎日のお楽しみ。

 僕はすぐにスカイぺにログインし、顔も知らない友人を待った。しかしいくら待っても友人・まりもさんはログインすることは無かった。どうやら、今日はまりもさんは来ないらしい。仕方がないので一人ニヤニヤ動画を見てにこにこしておこう。

 ニヤニヤ動画かぁ。僕も何か投稿してみたいなぁ。でも僕面白くないしなぁ。何か面白い動画撮れないかなぁ。

 ……。

 あ、そうだ。そう言えばこの前まりもさんに変質者がいた証拠を撮ってきてくれって言われてたっけ。どうせなら、動画を撮ろう。あ、別にニヤニヤ動画に投稿しようっていうわけじゃないよ? あの変な人は写真なんかよりも動画の方がその凄さが伝わると思ったから動画を撮ろうって思っただけだよ。


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