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キョーハク少女  作者: ヒロセ
第一章 キョーハク少女
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校舎裏にて

 前橋未穂みほさん。

 銀髪ロングで身長は普通。

 入学した当初は黒髪だったけれど、ある日突然銀色に染めて学校にやってきた。

 それまで優等生として振舞っていた前橋さんのその行動は色々な人に衝撃を与えたが、そこまで話題になることは無かった。優等生の突飛な行動に驚きはしたものの、僕らの学校は大変自由な校風なため、髪を染めてはいけないという校則がそもそも存在しないので問題があるわけでもない。

 この前の高校初めての、一学期中間テストでも普通に二番をとっていたので成績に影響が出ている訳でもないみたいだし。

 ただみんな驚いただけ。

 優等生にしか見えない顔つき、優等生にしか見えない佇まい、優等生にしか見えない振る舞い。でも髪の毛がすごい色。

 それが衝撃だった。

 でももうみんな慣れたようで今更髪の毛に触れる生徒はいない。当然僕も見慣れたよ。

 前橋さんは雛ちゃんと仲がいい。だからよく金色と銀色でセット扱いされることもあるみたい。

 メガネの下には怒っているような目。雛ちゃんとは百八十度違う目。

 強気な顔にまじめな性格。一見したら委員長に見える。多分これまで何度か委員長を務めてきたのだろうと思う。委員長っぽいのは見た目だけではなく、行動も委員長っぽい。楠さんがいなければ、多分前橋さんが委員長になっていただろう。

 その面倒見の良さから女子達に慕われている。行動力もあり、責任感もあり、何事もそつなくこなす能力を持っている。だてにこの凄い人たちが集まるクラスの女子三位につけている訳ではないということだね。

 ……ただ、男子に滅法きつい。

 男子と女子とで全く扱いが違う。そのせいで、男子からの評判はあまりよくないみたい……。

 もっと仲良くすればいいのになと思う。

 ……。僕は、うん……。嫌われているというか、憎まれていたね……。

 今は放課後。

 僕は昼休みに起きたショッキングな出来事からまだ立ち直れないでいた。

 優等生の前橋さんが……あんなことをするなんて……。


「おい」


 僕、何か悪い事したのかな。だから怒ってるのかな。


「おい!」


 僕の机が叩かれた。


「え、なにごと?!」


 驚き、机を叩いたその人を認めた。


「こ、小嶋君……」


「無視すんじゃねえよ」


 気が立っている様子の小嶋君が高い位置から僕を睨み付けていた。


「ごめん……」


「……ちょっと来い」


「え?」


 着席したままの僕を置いて小嶋君が教室を出て行った。着いて行かなきゃ怒られちゃうね。急いで小嶋君を追った。

 





 その十分後。僕は校舎裏の地面に呆然と腰を下ろしていた。


「……いたい」


 小嶋君にお腹を殴られてしまった。そのあと倒れ込んだところ、右腕を蹴り飛ばされてしまった。痛い……。

 むかつくって言っていたけれど、多分僕が副委員長に小嶋君を選ばなかったことで怒りを買ってしまったのだろう。

 だから、殴られて、蹴られたんだ。

 しょうがないよ。

 しょうがない。

 この前胸ぐらをつかまれた時以上に頭がフワフワしている。お腹も腕も痛いけれど、あまり気にならない。

 夢の中にいるような。

 何を考えていいのか分からない。

 ぼーっと座っていた。


「てめえここにいやがったか!」


 突然聞こえてきた声に飛び上がり、僕はあたりを見渡した。


「優大てめえよくも私を巻き込んでくれたな!?」


 雛ちゃんだ。雛ちゃんがものすごい勢いで僕に近寄ってきた。


「なんで私を副委員長なんかにしやがったんだよ!」


 雛ちゃんが、座り込む僕を睨み下ろしている。


「優大のせいでなんか大変なことになっちゃったじゃねえか……!」


「あ、ごめんね」


 怒られているのだろうけれど、よく分からない。


「なんなんだよ本当にお前はっ」


「うん」


 今返事をしたのかどうかも、僕の中では定かでない。


「……?」


「……」


「……お前、どうした?」


「え? なに?」


「……なんかあったのか?」


 雛ちゃんが腰を落とし座り込んだままの僕と目線を合わせる。


「え? 何にもないよ?」


「何もないわけねえだろ。どうした?」


「な、何もないって」


「お前嘘つかないって言ったじゃねえか。嘘つくなよ」


「……」


 睨み付けられているようだけど、その眼はとてもまっすぐで僕は見ていられなかった。


「そ、その、心配するようなことは、何もないよ」


「……本当か?」


「うん」


「……分かった」


 雛ちゃんが立ち上がった。


「私が心配するようなことは何もないんだな」


「うん」


 雛ちゃんを見上げる。

 その時ふと、突然お昼休みの前橋さんとの一件を思い出してしまった。


「あばばばばばば」


「どうした?!」


 雛ちゃんが僕を心配してくれているこの状況を目撃されたら前橋さんに切り裂かれてしまうのではないでしょうか?!


「ぼぼぼ僕はだだだ大丈夫だからああああああ」


 がくがく震える膝を抑え込みながら立ち上がる。


「お前全然大丈夫じゃねえよ! やっぱり何かあっただろう!」


「ちが、違うの! これは、違うの! その、雛ちゃんが心配するようなことは一切ないから!」


 両手を突出し否定の仕草。


「顔真っ青だぞ?! 何に怯えてるんだよ!」


「怯えてないですよ?!」


「おびえまくりじゃねえか!」


 ま、まずい。不自然過ぎた!

 僕は急いで話をそらす。


「その、雛ちゃんって、前橋さんと仲良いよね!?」


「……話をそらすなよ」


 うぐ。


「……まあ私に言いたくないっていうんなら、別にいいけど……」


 うう……。悲しませてしまった……。ごめんね……。


「んじゃま、その話に乗ってやるか。未穂と仲がいいって? そっか?」


「え? あれ? いつも一緒にいるよね」


「あー、まあ未穂がついてくるからな」


「別に仲良しじゃないの?」


「仲良しに見えるならそうなのかもしれねえなぁ」


「えっと……」


 前橋さんとの温度差に戸惑いを隠しきれないよ。


「未穂の事よく知らねえしな」


「えっ、あんなにも長い時間を過ごしているのに?」


 本当に、ずっと一緒にいたような気がするけれど……。


「入学してからこれまで優大の事しか見てなかったからなー」


「え?」


 それは、あの時の理由を説明するタイミングをうかがっていたってことかな。そうだよね。


「他の奴らのことはあまり気にしてなかったわ。なに? 私未穂に気に入られてんの?」


「そ、そうみたいだよ?」


 強烈にね。


「ふーん。あー、もしかしたらそれで髪を銀色にしてんのかな?」


「あ、そうかも」


 雛ちゃんが髪を染めているから前橋さんも髪を染めたんだね。でも、それだったら同じ金色にすればいいのに。


「なんか悪い事したなぁ。悪影響与えてるじゃん、私」


「そんなことないと思うよ」


「そんなことあるんだよ」


 自分の前髪をつまみそれを見る雛ちゃん。


「……やっぱり髪染めた方がいいのかなぁ?」


 ちらちらと僕に視線を送ってくる。


「でも、似合ってるよ?」


「うへへ~。そうかぁ?」


「うん。でも、雛ちゃんなら何でも似合うよね。絶対」


「うへへへへ~! んだよ照れるじゃねえか!」


 ばしばしと小嶋君に蹴られた右腕を叩かれた。いたい、痛いよ。


「優大の好きな色とかあんの? あればそれにしてみるけど」


「僕の好きな色?」


 うーん。空の青い色が好きだけど、そんなすごい色は髪には合わないよね。


「えーっと、あ、楠さんみたいな綺麗な黒髪も素敵だよね」


 突然不機嫌な顔になった雛ちゃん。


「……」


 小嶋君に殴られたお腹にパンチをもらった。小嶋君のより、痛かったです。思わず足から崩れ落ちてしまう僕。


「な、なに、するの……?」


「別に。蚊が止まってたんだよ。蚊が」


「蚊なら、そんなに、強めに殴る必要なかったような……」


「蚊との対決はスピード勝負だろ!? 逃げられてそいつにさされてマラリアにでもなったら大変だろうが! なんだよ、文句あんのか」


「な、無いです。危険を未然に防いでいただきありがとうございます」


「ならうだうだいうんじゃねえよ。で? お前は若菜の黒髪が好きなんだって?」


「え、いや、その、楠さんの髪は綺麗だなぁ……とか……」


「楠さんの髪『は』綺麗ねぇ……。まあ? 染めて痛んだ私の髪なんて綺麗じゃねえんだろうけどな!」


「そ、そんなこと言ってないよ。雛ちゃんの髪も、綺麗だね」


「後付でそんなこと言われて喜べるわけねえだろ! ……そういやお前、ここ最近若菜と飯食ってるみてぇだな?」


「あ、うん」


「へー。ふーん。そうですかぁー。やっぱり男はみんな若菜みたいなやつが好きなんだなぁ。私みたいな金髪似非ヤンキーは目にも留まらねえよなー」


「ち、違うよ。そんなことないよ。雛ちゃんもモテるでしょ?」


「モテねえよこの野郎。嫌味か?」


「嫌味じゃないよ! ほ、本心だよ!」


 ところで僕はなんでこんなにも怒られているの?


「別にどーでもいーけどー」


 へたり込んでいる僕を一睨みした後、背を向けて校舎裏から去って行った。


「うう……。僕皆を怒らせてるよ……」


 楠さん前橋さん小嶋君雛ちゃん……。……僕、すごい人たちを怒らせているね。みんなクラス序列の上位にいる人たちだよ。底辺の僕なんかがこれらの人たちから怒りを買うなんて愚かにもほどがあるね。

 妙な感慨深さを感じながら、僕も校舎裏を後にした。








 夜の自室にてパソコンをいじる。もちろんスカイぺだ。



ユウ:そんなこんなで僕副委員長になったんだ。


まりも:それはすごい。信頼されているね


ユウ:違うよ。僕が暇そうな人間だったからだよ。本当に信頼されている人たちがみんな断ったから一番暇な僕になったんだ


まりも:そんなに謙遜する必要はないよ。君はいい人そうだからね


ユウ:それは勘違いだよ


まりも:そうは思わないけどね



 パソコンを通じてのコミュニケーションは気が楽だよね。面と向かわないで話せるからかな? あと電話みたいに声じゃなくて文字で会話するから気が楽だっていうのもあるんだね。

 僕は電話が苦手だ。

 すぐに何かを言わなきゃいけないし、それなのに相手の表情が見えないから何を言っていいのか分からない。面と向かって話すのも苦手だけど、顔つき合わせて会話するのならば表情から何かしら情報が読み取れるし、メールやチャットなら考える時間があるから失礼なことを言うことも少なくなる。顔見えないし考える暇がない電話は何よりもコミュニケーション取りづらいよね。……僕だけかもしれないけど。

 スカイぺって素敵。



ユウ:副委員長って何すればいいんだろう。僕みんなをまとめられないよ


まりも:まとめるのは委員長に任せておけばいい。君は君なりに頑張るだけでいいんだよ


ユウ:僕何もがんばれないよ。何もできない


まりも:君なりにさ。何もできないなんてことないだろう


ユウ:何もできないよ。僕不器用だもん


まりも:関係ないさ。頑張る気持ちさえあればね



 頑張る気持ちか……。それすらも無いかも……。やりたくなかったから……。

 でも、頑張らなきゃいけないんだよね……。憂鬱……。

 スカイぺをしていたのに、最終的にそれは嫌な気持ちをもたらしてしてきた。残念賞だよ……。


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