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キョーハク少女  作者: ヒロセ
第一章 キョーハク少女
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銀色

 結局心の奥底に感じた混濁した疑問の実態をつかみきれないまま、僕は教室に戻った。

 教室の扉を開け自分の席に向かっている途中、僕の歩く通路に誰かが立ち塞がり進行が妨害された。


「?」


 誰だろうかと顔を上げてみてみる。

 腰に手を当て僕を睨み付けるように立っていたのはメガネをかけ、髪を銀色に染めた女子。

 楠さん、雛ちゃんに続く第三位の位置にいる前橋さんだ。

 長い銀色を一度振り、また僕を睨み付ける。


「……あの……。何か、用?」


 僕と同じくらいの背だけれど、僕を見下すように顔を上げ睨み付けているので妙に上から睨まれている気分だ。


「用事があるから君の前に立っているんです。ちょっとついてきてください」


 そう言って、颯爽と教室を出て行った。

 僕は訳も分からず後を追いかけた。

 前橋さんはどこか落ち着いたところで話したかったようで、僕を最寄りの空き教室に迎え入れるとすぐに鍵をかけて入口を封鎖した。……出口を封鎖したのかもしれないけれど。

 鍵をかけすぐに僕の方を振り向き、苛立たしげに顔にかかったメガネをかけ直した。


「君は有野さんの何なんですか?」


「え、え?」


 何を言っているのかよく分からない。


「どう言うことでしょうか……」


「君と有野さんの関係を聞いているんです! さっさと教えてくださいこの野郎って言いますよ?!」


 それは、もう言っているのと変わらないんじゃないかな……。


「殴りかかる振りをしてもいいんですか!?」


 振りなら、別に構わない気もするけど。


「えっと、僕は、雛ちゃんと――」


「それです!」


 前橋さんがグイッと距離を詰め僕の鼻先に指を突きつけてきた。


「え、え?!」


 どれ?! まだ何も言っていないけれど!


「なんで有野さんを雛ちゃんなんかと呼んでいるんですか! 私も呼びたいのに!」


「それは、僕が幼馴染だから……」


「羨ましい!」


 メガネの下の目が威圧的な光を放った。


「えっと……」


「私だって名前で呼びたいんですよ!」


 そう言いながら僕のほっぺたを両手で抓ってきた。


「い、痛いです……!」


「こうやって暴力を振るってしまうほど憎たらしい人ですね!」


 暴力と言えるほどつらい仕打ちでもないけれど……。


「いったいどうやって幼馴染になったんですか?!」


「う、生まれた時から……」


「才能だって言いたいんですか?! 生意気ですね!」


「ち違うよ! 運が良かったなぁって!」


「私だって有野さんの事を『雛ちゃんっ』とか『雛さま』とか呼びたいのに、有野さんがやめろって言うから我慢しているんです! それなのに君は!」


 頬の肉をつまんだまま両腕を思いきり広げる。


「痛い! ……い、痛いよ、前橋さん……」


「うう……。有野さんのバカ……」


 痛がる僕に何の関心も示さず、メガネをはずしてハンカチで目を拭っていた。


「あの、その……ごめんなさい……」


 僕の謝罪を聞き、ものすごい勢いでメガネをかけて僕を睨み付けてきた。


「仲が良くてごめんなさいざまぁみろって言いましたね!?」


「言ってませんけども!?」


「ぐ、ぐぐぐぐ……! まさかあなたのような男にバカにされるとは思ってもみませんでした!」


「バカにしていません!」


「……許しませんからね? 私から有野さんを奪ったら酷い目に遭わせる気になりますよ?」


 酷い目に遭わせる気になるっていうのは、酷い目に合わせるっていうことじゃないんだよね?


「ぼ、僕は、前橋さんから雛ちゃんを奪おうだなんて、考えてないよ?」


 友達が取られたくないっていうことかな。でも、友達はとるとかとらないとか、そう言うものではないと思うよ。


「……勝者の余裕ですか? ……私が寛大な心を持っていると勘違いしているようですね」


「えっと、その……」


 何を言っても、僕の声は謎のフィルターを一度通ってから前橋さんの耳に入っていくようだね。


「私から有野さんを奪ったら――」


 言うや否や、左手で僕の胸ぐらをつかみ逃がさないように固定し、右手に持った何かを僕の顎の少し奥辺りに突き付けた。

 何を突きつけられているかは見えないので分からないが、少しとがった金属のような感触だった。


「――切り裂きますから」


「ご、ごめんなさい」


 何を突きつけられているのか分からないし、何故こんなにも怒っているのか分からなかったけれど、とにかく謝ることしかできない状況だった。


「注意してくださいね。有野さんが少しでも嫌な思いをしたら」


 顎の奥に添えられた何かを軽く突き立てる前橋さん。そこに鋭い痛みが走り僕は顔をしかめた。


「容赦しませんからね?」


 メガネを光らせ、口元に冷たい笑みを浮かべた後、前橋さんが僕を突き飛ばした。

 よろめき尻餅をついた僕。目線は自然と前橋さんの右手に吸い込まれていた。


「――」


 前橋さんが握っていたのは銀色の柄のハサミだった。

 前橋さんの髪の毛と同じ色のハサミ。

 僕は、それを突きつけられていた。

 ハサミがゆっくりと開き、勢いよく閉じる。


「刺しますから」


 今までは曖昧な言い方をしていた前橋さんだったけれど、これは、言い切った。

 そして、前橋さんが空き教室を出て行った。

 僕は昼休みが終わるまで自分の教室に帰れなかった。


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