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キョーハク少女 作者:ヒロセ

第四章 僕らにとってのハッピーエンド

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これは最早事件だよ

 沼田君はみんなから信頼されていた。
 信頼させていた楠さんよりも信頼されていたかもしれない。
 沼田君の周りに敵なんていなかった。沼田君を悪く言う人なんかいなかった。
 だから、沼田君を責めようとしている僕らはみんなから見たら敵に見えるのかもしれない。
 僕の憧れていた沼田君。
 まさか沼田君がこんなことをするとは思わなかった。
 自分勝手に人を陥れる。
 僕の知っている沼田君はこんなことをする人ではなかった。
 そもそも僕は何も知らなかったのかもしれない。
 沼田英明という人の本質を理解しているつもりで全くしていなかったんだ。
 沼田君はそういう人なんだ。
 認めたくはないけれど、認めなければ前には進めない。
 ――でもやっぱり僕は。

「あーちっくしょー」

 雛ちゃんが中庭で呟く。

「若菜は捕まらねえし沼田は訳わかんねえこと言うし百合はクズだしもうどうすればいいのか分かんねえよ」

 楠さんから話を聞こうにも楠さんは僕らからうまい具合に逃げ回る。もうお昼休みになろうというのに全く言葉を交わせていない。
 沼田君は詳しい話を教えてはくれない。「佐藤と有野さんがどういう行動に出るのか分かっていたから、二人には話したくなかったんだ」というだけで無言を貫いた。
 市丸さんはいつものように明るく楽しそうに過ごしていた。いつものように、みんなが知らないところで悪意をみんなに強要していた。

「どうすりゃいいんだよクソ」

 お昼ご飯を食べるつもりはないのか、ラップの巻かれた焼きそばパンを曇り空に掲げつまらなそうに眺めていた。

「……楠さん、どうなるのかな」

「んなもん分かり切ってんだろ。一学期以上に嫌われる。でも何なんだろうな。若菜も今流れている話を裏付けるような態度をとらなくてもいいのに」
 楠さんはみんなを遠ざけるように過ごしている。それのせいもあって噂話が加速しているのだ。いつものように過ごしていれば、もうちょっと噂の拡散が防げていたような気がするのに。
 もしかしたらそうすることを市丸さんに強いられているのかもしれない。
 分からないことだらけだ。
 むしろ分かっていることなんて何もないくらいだ。

「これって、もう終わっていることなのかもしれねえな」

 焼きそばパンを膝の上に置き、雛ちゃんがつぶやいた。

「え?」

「もうこれ以上……いや、なんもねえ」

 何も始まっていないよ。

「若菜から話を聞かねえとな……。聞いたところで、何かが変わるとは思えねえけど」

「何もしないよりはいいよ。僕らを避ける理由も聞かなくちゃ」

「……そだな」
 友達と一緒にご飯を食べているのに、気持ちは沈んでいる。
 楠さんは今どこにいるのかな。
 何をしているのかな。
 何を考えているのかな。
 今の僕には何もわからないや。


 そんな何もわからなかった二十九日は何事も無く……いや無かったわけではないけれど、その日に限ってはこれといった進展が無く終わり、十一月の最終日を迎えることになった。
 十一月の三十日。
 普通の平日で普通に水曜日だというのに、僕は異常に学校を休んでいた。
 風邪はひいていない。
 急用があるわけでもない。
 ずる休みなんてしようと思ったことも無い。あ……でも今日のこれはずる休みになるよね……。

「佐藤君朝ご飯は食べたかい?」

 運転席に座る楠さんのお兄さんが優しく僕に聞いてきた。

「あ、はい」

 僕は車に乗っている。

「優大タン朝ご飯は何食べたの?」

 助手席に座る雛ちゃんのお兄さんが楽しそうに僕に問いかける。

「えっと、パン」

 僕は車に乗っている。
 僕はどうして朝早くから車に乗っているのだろう。分かってはいるけれど、ちょっと整理できていない。
 あ、雛ちゃんから電話だ。

「もしもし? おはよう」

『おはよう優大。今日は一緒に行けないってメール見たけど、もしかしてお前先に学校行ったのか?』

「学校には行ってなくて、えっーと、なんと言えばいいものか、僕は今日、学校休むみたい」

『なんで。調子悪いのか?』

「体調はいいよ」

『ならなんで休むんだよ』

「……話せば長くなるんだけど……――

 ――昨日僕は家に帰った後楠さんの家に行った。
 当然のことながら話を聞く為だ。
 楠さんの家についた僕はインターホンを押し楠さんを呼び出した。
 しかし出てきたのは楠さんのお兄さんで、お兄さんが言うには楠さんはまだ帰ってきていないとのことだった。
 もしかしたら誰かが来ることを予想していたのかもしれない。だから遅くなるまで家に帰っていないのかもしれない。ひょっとしたら図書館にいるのではないかと思い、楠さんの家を後にしようと思ったけれどお兄さんに家で待っていればいいよと言われたのでお言葉に甘え家の中で待たせてもらうことにした。
 そしてあげてもらったお兄さんの部屋には國人君がいた。
 どうやら國人君は度々楠さんのお兄さんの部屋を訪れていたらしい。仲良しだ。
 二人からどうしたのかと問われた僕。
 二人の妹の元気がない事と関係しているのだろうと言われたので話さないわけにはいかず、大体のことを二人に話した。隠すところは隠しつつ、言うべきところは正確に。
 その日は「そんなことが起きていたのか」、だけで終わり、楠さんに会うこともできなかったけれど、どうやら二人は色々と考えていたようで、昨日の次の日つまり今日、僕は先ほど車に乗せられ長町みちかさんに会いに行くことになったのだった――

 ――……という訳なんだ」

 雛ちゃんに説明をしながら自分の中でも整理がついた。僕は今そういう状況なんだね。
 僕の説明を聞き、雛ちゃんの機嫌が一気に悪くなる。

『なんだそりゃ! 私も連れてけよ!』

「ごめんなさい」

 訳も分からず車に乗せられたので雛ちゃんに話を聞く暇も無かったんだ。

「あ、國人君が電話代わってって言ってるからちょっと代わるね」

『ムカつくから代わらなくていい!』

 と言われても代わらないわけにもいかないので僕は電話を國人君に渡す。

「あ、雛タン? 俺俺ー、雛タンの愛するお兄様ー。今優大タンと一緒ー。え? 何? 何このぷー、ぷー、っていう音。ずっと鳴ってるんだけど。雛タン? ぷーぷーうるさいって」

「有野君、それ電話切れてるよ」

「え? あホントだ。あはははは! 雛タン恥ずかしがっちゃって!」

 怒って電話を切ってしまったようだ。
 國人君が電話を僕に返し楽しそうに言う。

「妹の為に何かをする兄に惚れちゃうよなこれは。やべえ、禁断の恋だな!」

「有野君は相当頭がやばい事になってるね」

「お前だって同じだろーがよ。変態っしょ?」

「俺は変態じゃないよ」

「変態はみんなそう言うんだよ」

 楽しそうに話している二人のお兄さん。

「……はぁ……」

 十一月三十日。十一月の終わり。気温も下がりもうすぐ期末テストが始まるというこの時期に、僕は楠さん(兄)と有野さん(兄)に拉致られた。
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