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キョーハク少女 作者:ヒロセ

第四章 僕らにとってのハッピーエンド

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クレーマー

 楠さんが僕の部屋でパソコンの前に座っている。
 何度も見た風景だ。
 雛ちゃんがいて、当然僕もいて。
 これといって特別ではない。
 楠さんのお兄さんや國人君がいるわけではなくクラスメイトが部屋にいるだけだ。
 今日は特別ではない。
 しかしそう思っている人間はこの場にいないだろう。
 だって、僕らの関係は今いつも通りとは言えないのだから。
 少なくとも僕は今を全力で楽しむことなんてできない。

「ねえ佐藤君。佐藤君はスポーツ番組とか好き? 今からするのは野球ではなくサッカーの話。野球と違ってあまりテレビで放送されたりはしないけれど、時々放送しているよね。それって見たりする? まあ見ていなくてもいいんだけどね。見ているのならばそれに越したことは無いというだけで。まあ佐藤君はアニメとかしか見ていないからスポーツなんてもの興味のかけらもないのだろうけれど。まあ、それでね、私凄く気になることがあってね。サッカーのロスタイムってあるでしょ? この前テレビでサッカーの試合を見ていたら、実況の人がね、ロスタイムのことをアディショナルタイムって言ってたの。それはいいよ、全然いいよ。色んな呼び方があるんだね。うんうん。でもね? でもねでもね? どうして解説の人は『アディショナルタイムいわゆるロスタイムです』って言ってたの。何が不満かって? 『いわゆるロスタイムです』って部分必要なくない? そう思わない? 別にアディショナルタイムについて疑問に思わないよ? 四十五分経過して『アディショナルタイムは三分です』って言えばこちらとしては『ああ、延長時間のことをアディショナルタイムって言うんだな』って分かるでしょ。四十五分過ぎに何とかタイムって言葉を聞いて、『え? アディショナルタイムっていったいなに?! 何なの?!』って誰か思うの? そんな人いないでしょ。大抵の大人は延長時間のことを言っているんだなって分かるでしょ。まさか『お? マジックショーでも始まるのかい?』とか思う馬鹿なんていないよね? いないでしょ。九十八パーセントは延長時間って分かるよ。サッカー中継がテレビであまり放送されていないからアディショナルタイムなんて初耳だっていう人はたくさんいるのだろうけれど、それでもね? 分かるよね? 実際私がそうだったし。まあそんなことはいいよ。で。私が何を言いたいのかというと、別に解説に文句を言いたいわけではなくて、そういう優しさを全否定する訳ではなくて、九十八パーセントの残二パーセントについて文句を言いたいの。まあ端的に言えばくっだら無いクレーマーがテレビにつけるくっだら無いクレームがしょうも無さ過ぎて腹が立つって言う話ね。多分おばさん。どうせおばさん。きっと『アディショナルタイムいわゆるロスタイム』と言わざるを得ないのはそういう人たちの為に、というか苦情防止の為になんだろうね。回さなくてもいい気を回さなくちゃいけないだなんて可哀想。ここからはクレーマーの話になるけど、アディショナルタイムの話はぶっちぎるけれど、とにもかくにもなんなのクレーマーって? テレビを見ていて、いやテレビに限らずなんにでも、分かりづらいとか教育上良くないとか言っちゃうんでしょ? 教育上良くないとかそんなクレーム、あんたの教育が悪いだけじゃない。テレビの影響が大きいのはよく分かるよ? よく学校で真似して問題になったりしているからね。でもね? 私から言わせればその程度のことでクレームを言うような家庭で育っている方が子供に悪影響を及ぼしていると思うよ。子は親の鑑でしょ? トンビがタカを生むことなんて突然変異でもない限りありえないの。カエルの子はカエルだしクレーマーの子はクレーマーなんだよ。むしろカエルの子はオタマジャクシにしかなれないのかもね。佐藤君はどうなのかな? トンビ? タカ? カエル? オタマジャクシ? まあいいや。家庭環境の悪さをクレームで責任転嫁しようとしているのかどうか知らないけどさ、みっともないでしょ。みっともないし大人げないしでどうしようもないね。私は情けなく思うよ。関係ないだなんて思わないでよ。そういう人のせいでどんどん私たちの生活から何かが無くなっていくんだから。というかさ、クレームといちゃもんは違うよ? 消費者の声を反映させてよ。いちゃもんを全部聞いてたらつまらない世界になっちゃうよ。まあいいや。さんざんごちゃごちゃ言ったけど、頭の悪い佐藤君にも理解できるように一言でまとめるのならば、いちゃもんは面倒くさいって言うお話。何が言いたいのか分かる? 分かるよね。私が今クラスメイト達にとられている態度を見れば分かるよね。昨日なんてなんて言われたと思う? 『楠さんあれだろうから私の代わりに職員室にノートもって行ってよ』だってさ。アレって何? 何なの? いちゃもんレベル低すぎでしょ。いちゃもんですらないよもう」

 僕の部屋の片隅で一人まくしたてた楠さん。長い長い言葉で怒りを表現してくれた。分かりやすかったような逆に分かりづらかったような。
 色々なことを考えながら楠さんを見ていたところ、舌打ちを連発しながら聞いていた雛ちゃんが楠さんの長い言葉対して短い言葉で怒りを表した。

「お前もいつも似たようなこと言ってるじゃねえかごちゃごちゃうるせえな!」

 苛立っている様子で手に持っていたシュークリームをお皿に叩きつける。プラスチックのお皿がかちゃんと軽い音を鳴らし空気を重くした。

「有野さんはどうしてそんなにご機嫌なの?」

 ご機嫌って……。

「うるせえんだよバカ野郎とっとと失せろよ」

 雛ちゃんは非常に機嫌が悪かった。僕の家に来た時から機嫌が悪かった。しかしシュークリームをお土産に持ってきてくれた。そのせいで本当に機嫌が悪いのかどうかわからなかった。ちなみに僕が食べるはずだったシュークリームはあとから来た楠さんに食べられてしまった。そして雛ちゃんが食べるはずだったシュークリームはたった今ぺしゃんこになってしまった。つまりはこの世に無事なシュークリームは存在しないのだ。何を言っているのだろう僕は。現状に困惑しているからと言って現実逃避するのは無意味。そんなことよりもとにかく二人の話を聞いておくことが大切なんだ。
「本当に胸糞が悪そうだね。今日は私が怒ろうと思って色々と愚痴を用意してここへやってきたのに全部無駄になりそうだよ。どうしてくれるの有野さん」
 雛ちゃんと楠さんは別々の時間に僕の家へやって来た。二人一緒に来たわけではない。当然のことだけれども僕の部屋に来た目的も別々だったようだ。
 いつものように、というのは失礼かななどと思ったり、そもそもいつも通りなんて物は存在するのだろうかと不変な日常というものに対する疑問を世界に投げかけたりしながらいやこれも現実逃避だなと頭を振りつつ、まあとにかくいつものように喧嘩が始まってしまった。たとえ今日が色々な人に感謝をする勤労感謝の日だろうが祭日で色々なお店がしまってようが二人の喧嘩は休みが無い。
 喧嘩するほどなんとやら。雨降って地なんとやら。えーっと、他には……。……類は友を呼ぶ? ……うーん。二人は似た者同士ではないよね。すごくできた人であるという点は同じだけれども性格を同じだとは思わない。類は友を呼ぶというのはすべての場合に適用されることではないんだね。その素敵な法則がすべての友に適用されるだとしたら、二人の友達であると信じている僕自身二人に似ているということになり、それは明らかに偽であるので類は友を呼ぶとはすべての場合に当てはまるものではないのだ。証明終わり。
 よく分からない証明を終えたところで雛ちゃんと楠さんの喧嘩は終わることは無い。

「うるせえって言ってんだよてめえ。私が何にキレてるかくらいわかるだろ」

 雛ちゃんが凄く怒っていた。僕に対して怒っている訳ではないけれどなんだか怖かった。

「ゴメンね、有野さんの感情なんて今もこれまでもこれからもこれっぽっちも分からないと思う。だから教えてもらえると私嬉しいな」

「おめえがここにいるからだろ」

 突き放すように突きつけたその声は極めて冷たかった。
 楠さんもそれを感じ取ったのか、はたまた初めから感じ取っていたのか、いつもの調子とは違う真剣味に満ち満ちた声色で雛ちゃんに聞き返す。

「でも今まではそんなに本気で怒ったことは無かったじゃない。どうして今日はそんなに怒るの? 私の悪い噂でも聞いた?」

「別にそんなの聞いてねえ。ただお前が邪魔なだけだ」

 邪魔だという。
 悲しいけれど、それは仕方のない事なのかもしれない。雛ちゃんは僕に何か大切な話があると言っていた。大切な話をするのに覚悟がいらないわけがない。その覚悟が無駄に終わるのは嫌だろうから、邪魔だと思う気持ちも仕方がないと思うこともできる。

「……有野さんなんだか怖いんだけど」

「ああそうかよ。ならとっとと帰れよ。早く。帰れ」

「帰ってもいいけど冥土の土産にちゃんとした理由を教えてよ。このままじゃあ死んでも死にきれないや」

 楠さんがいつもの調子に戻した。何故いつも通りに戻したのか理由は分からないけれど、とにかくほっとする。僕の世界に険悪なムードなんていらない。さらに情けない事だけれども真剣な空気もあまり欲しいとは思わない。
 とりあえず不穏な空気を完全に取り去るべく渇ききった喉を一度潤し僕も話に参加することにした。

「誰も、その、命を奪ったりはしないから」

 そんなこと言われるまでも無いよね。

「そう? でも有野さん、私がこの場から消えなければ喉笛を噛みちぎりそうな勢いなんだけど」

「雛ちゃんはそんなことしないよ」

「って言ってるけど本当のところはどうなの有野さん?」

「うるせえ。って言うか優大もこんな奴追い出せよ! 話があるって私言ってんじゃんかよ! 私の話はどうでもいいのか?! ふざけんじゃねえよ!」

 雛ちゃんが怒ってシュークリームや牛乳の入ったコップの乗ったテーブルを叩いた。白濁色の液体に満ちた透明な容器が驚き倒れそうになったけれど、楠さんがそれをキャッチし倒れることを防いでくれた。すごい判断だ。とても僕には真似できない。
 その光景を見ていたはずの雛ちゃんは、楠さんのファインプレーに一切反応することなく、楠さんを指さしながら僕を怒る。

「家にあげるなよ! 来た時に追い返せよこんな奴! 何の話も出来ねだろうがバカ!」

「ゴメン……」

 本気のバカに少しだけショックを受ける。けれど馬鹿だから仕方がない。僕は何も知らない馬鹿だし、とにかく世間を知らない子供なのだから。

「まあ、追い返されたところを無理やり押し入ったんだけど」

 楠さんのフォローにも僕は何も言えやしない。お礼を言うとか逆に楠さんをフォローするとかすればいいのに。
 楠さんのフォローのおかげで雛ちゃんの怒りは治まった。

「あ、そうだったのか優大。悪い。だったらますます若菜ムカつくわ。お前ブッ飛ばすぞ」

 怒りは治まってなどおらず矛先が変わってしまっただけだった。

「なに? 私がここにいたら大切な話が出来ないって言うの?」

「そう言ってんだよ」

「なになに有野さん水臭いじゃない。私達友達でしょ? 唯一無二の親友なんだから仲良くしようよ」

「白々しいこと言うな。私はお前が嫌いだ」

「奇遇だね。私も」

 その言葉に雛ちゃんは、一見不快感に支配されているかのような表情をして言った。

「……なぁ。私はマジでお前が邪魔だって言ってんだよ。冗談じゃねえんだよ。邪魔だし鬱陶しいし、何よりお前がここにいることがすげえ気に入らねえよ」

 泥の中に投げ込まれたかのように体が重い。

「どうして?」

 楠さんの言葉もどことなく元気が無いように感じた。
 僕は当然元気なんてあるはずも無く。
 そして雛ちゃんも元気をなくしているのだった。

「お前は沼田と付き合ってんだろ? なのにどうして彼氏でもねえ男の家に顔出してんだよ。沼田も優大も可哀想だろうが」

 僕が何故かわいそうなのだろうか。よく分からない。家に遊びに来てくれるのはむしろありがたい事なのに。

「沼田君は沼田君で市丸さんと仲良くしているみたいだし別にいいんじゃない?」

 自分の彼氏のことだというのにかなりあっさりしている。つまりそれほどの信頼関係が築かれているということなのだろう。

「もし本当にそういう考えならお前マジで嫌な奴だな。優大は沼田の代わりじゃねえんだよ、沼田がダメなら優大で、とか考えているのならブッ飛ばす。冗談じゃねえから」

 本気だ。いくら鈍かろうがこれくらいは分かる。僕の為に怒ってくれている。
 しかし、僕の為だろうけれど、暴力はいけない。
 楠さんの返答次第では雛ちゃんが本気を出してしまうのではないかと冷や冷やしていたが、

「そんな失礼なこと考えてないよ」

 楠さんは普通に否定していた。ここで悪ふざけをしだしたらどうなることかと思った。

「ならいい。でも、だったらどうしてここにいるんだよ」

「友達の家に遊びに来ることに理由なんているの? 私はそうだとは思わないな。一緒にいることに理由が必要とか、疲れちゃうよ」

「友達だったら一度断られた時に諦めて帰れよ。お前は優大のことを友達と思っているんじゃなくて召使とか舎弟とか便利な奴だって思ってるんだろ。舐めきってんだろ」

「そんなことは思ってない。そう思っているのは案外有野さんなんじゃないの?」

「思ってるわけねえだろうが」

 僕は一緒にいられるのなら召使でもいいけれど。

「まったく、ねえ佐藤君。召使だなんて失礼しちゃうよね。佐藤君だって精一杯生きているんだからそんな扱い全く嬉しくないよね。有野さんには困ったものだよホント。あー、それにしてもしゃべりつかれて喉が渇いた。佐藤君、お茶」

「あ、うん」

「やっぱり便利な奴って思ってんじゃねえか。ふざけんな」

「冗談だよ。佐藤君も断ってよ。『僕は召使なんかじゃないやい』ってさ」

「あ、うん……」

 断る場面だったようだ。でも断っていたら楠さんに怒られていた気がするんだ。何となく分かるよ。

「で、有野さんは一体何の話をしようとしていたの?」

 楠さんが話を無理やり戻した。雛ちゃんの大切な話という言葉にものすごく興味があるようだ。

「誰がお前なんかに話すか」

 その大切な話はわざわざ僕の家を訪ねてするような話。他の人には聞かれたくない話のようだ。
 今の僕と雛ちゃんの関係を考えれば大体想像はつくけれど。

「お前には関係ない」

 きっと、僕と雛ちゃんと小嶋君の話なのだろう。確かに、楠さんに話すようなことではないのかもしれない。
 しかし楠さんの中には間違った確信があるらしい。

「嘘。絶対私に関係あるでしょ?」

「もしあったとしても言わねえよ。優大と二人きりで話す」

「……」

 雛ちゃんの揺るがない硬い意思を見て何かを考え込む楠さん。しばらく考えたかと思ったら、ゆっくりと顔を上げ雛ちゃんを見た。
 その顔が泣きそうな顔と言えばいいのか困った顔と言えばいいのか疲れ切った顔と言えばいいのか分からないがとにかくマイナス方向に振り切れた表情をしていたので僕も雛ちゃんもぎょっと驚いてしまった。ぎょっと驚いたなんて表現をするほどの事ではないのかもしれないけれど、楠さんのそんな顔は滅多にみられるものではないので驚いても仕方がない、と思う。

「ねえ、有野さん。これだけは教えてほしいんだけど、いいかな。いいよね」

 自らが顔に張り付けている落ち込んでいる表情、というよりも沈み込んでいる表情に気付いていないのか声はかなり明るめだ。明るさを演じているんだ。

「よくねえけど言ってみろよ」

 恐らくだけれども、雛ちゃんも元気のない楠さんに気づかないふりをしているのだろう。今まで通りの様に聞き返す雛ちゃんはやっぱり優しい。底なしに優しい。楠さんが沈み込んだところが雛ちゃんの優しさの中でよかった。

「…………。……市丸百合から、何か話聞いた?」

 あからさまに怯えた声で、それでいてそれを気取られないような声で、楠さんが助けを求めた。
 助けてなんて言っていないけれど、これはきっと助けを求める声なんだ。僕はそう思った。

「……聞いた」

 でも僕に何ができるのだろう。
 全てを間違えた僕に何ができるのだろう。

「……そう」

 何もしないことが正解なのかもしれない。
 親友である市丸さんに任せておけばいいのかもしれない。

「聞いたけど、別にお前についての事なんて聞いてねえよ」

 いや任せるべきなんだ。
 だって僕は不幸を振りまくのだから。
 何もしないのが正解だ。

「……本当?」

 望まれれば全力でできる事をやるけれど、何も聞いていない状態で何かをするのは危険なんだ。
 言わなければ気持ちが伝わらないように、聞かなければ気持ちは分からない。

「本当だよ。お前は一体何にビビってるんだ?」

 僕の趣味は人間観察だけれども。
 観察したところで分かるのは表面だけだ。
 心の中までは分からない。

「だって昨日、市丸百合と長い事話していたでしょ?」

 だから僕は言われるまで何もできない。何もしない。

「そうだけど、別にお前の噂なんて聞いてない」

 それがきっと僕の世界を守ることになるんだ。

「本当? 本当に本当?」

「そうだって言ってんだろうが。それに、もし仮にあいつが何かを言っていたとしても、信じて若菜をどうこうしようだなんて思わねえよ」

「……どうして?」

「どうしても何もないだろ。私が知っているのは私が見た若菜だけだ」

「……有野さん、惚れちゃいそう」

 くだらないことを考えている間に雛ちゃんが楠さんの不安を取り除いていた。さすが雛ちゃん僕とは違う。僕程度と比べられても嬉しくはないだろうけれど。

「惚れてもいいからさっさと帰れ」

「あらやだ。有野さんってばバイ?」

「もう今決めた。力づくで追い出す」

 楠さんはすっかり元通り。
 一見、かもしれないけれど。

「冗談だからそのナイフをしまって」

 えっ。

「んなもん持ってねえよ。優大もびっくりするなよ嘘に決まってんだろ」

「あ、そうだよね、ごめん」

 そんなものを持っているわけがないよ。ナイフを持って夜道を歩いていて転んだりしたら大変だものね。

「有野さん。佐藤君今、有野さんならありそうだなって思ってたよ。主に金色の髪のせいでね」

 金髪が怖いだなんて思わないよ。
 嘘です怖いです。
 でも雛ちゃんは怖くないよ。
 嘘じゃないよ。

「いいからお前帰れって」

 雛ちゃんが面倒くさそうに手を払い、それにこたえるかのように楠さんが顔の前で手を横に振っている。

「そろそろそのやり取りが押し問答だって気づこうよ」

「割と前に気づいてたけど引くわけにはいかねえんだよ」

「押してダメなら引いてみろってよく言われるけどどう思う?」

「てめえが実践しろよ」

「……うわ……ドン引き」

「その引くじゃねえよ! ムカつく嫌な奴だなお前は!」

「今更気づいたの? クラスのみんなはもう気付いているよ」

 こちらが落ち込むようなことを言うね。

「……なんだよ。来たときも言ってたけどお前そんな扱い受けてんのか?」

 雛ちゃんは気付いていなかったようだ。
 ドSである真・楠さんの姿がばれているとみて間違いないだろう。そしてそれをばらしているのはおそらく市丸さんだ。ばらすことは今後本当に楠さんの為になるのだろうか。僕にはわからないけれど、今の不幸はきっといつか大きな幸せとなって帰ってくるのだろう。

「有野さんは私をそんな扱いしてないの?」

「してねえよ」

「そうなの? てっきりその話を佐藤君としようとしているのかと思った」

「違う。なんだ? お前の話を総合すると、百合が若菜の悪い噂を流してそれを真に受けたクラスの連中がお前を迫害してるってんだな?」

「さあ、どうかな」

 まだ証拠が無いからか、はっきりと言い切らない。言い切れないのかもしれない。

「なんだよお前。優大に相談しに来たのか」

「うーん。そう」

 僕に相談されたところで何もできないけれど。
 しかし、何はともあれ――

「……だったらまあ、無下に追い返すのもアレだな」

「分かってもらえてうれしいよ」

 ――険悪ムードが収まってくれてよかった。
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