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キョーハク少女  作者: ヒロセ
第一章 キョーハク少女
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僕と秘密基地と変質者

 突然だけど、僕は親友がいない。

 友達と呼べる人は恐らくいると思う。

 親友の定義はよく知らないけど、心の底から信用できる友達はいないし、暇な時に一緒に遊ぶような仲のいい友達もいない。そもそも友達と思っている人も厳密に言えばただの話し相手でしかなく、友達と呼ぶには細い関係なのかもしれないけれど、そう考えたら悲しくなるから厳密に言うことはやめておく。

 暇な時に一緒に遊ぶ仲のいい友達がいないと言ったけれど、当然必然休日に遊ぶ友達なんているはずもないので週末祝日長期連休が暇だったりする。時々、極稀に、物凄く低い確率で、『人数合わせ』という名目でお声がかかることもあるけれど、そんなことは滅多にないので大抵の休日は一人家でパソコンと向かい合って過ごしている。ニヤニヤ動画はいつみても暇しない。でもニヤニヤ動画だけを見て休日が終わっているととても虚しい気持ちになる。でもしょうがないよね。一緒に遊ぶ友達がいないのだから。

 そんな寂しい僕にはお姉ちゃんと弟がいる。暇な僕はよく二人に相手してもらっているのだが、僕とは違い二人とも忙しそうに遊びに出かけることが多い。僕とは比べ物にならないくらい、比べること自体おこがましい程に二人は広い交友関係を持っている。

 僕だけ一人。

 僕だけ一人、家にいる。だから、暇だ。

 今日も一人。寂しい休日。

 だからそんな時、僕は山へ行く。

 何故かと言えば、山は楽しいから。

 山には、友達はいないけれど友達との思い出がある。

 子供のころに作った秘密基地。

 何にも考えないで遊べていた小学生時代。

 友達三人で山に秘密基地を作った。その友達も中学校に上がる少し手前から疎遠になってしまった。同じ中学校なのに疎遠って不思議。原因は、どう考えても僕にある。

 まあそのことは気にしないでおこう。もう終わったことだし。

 とにもかくにも、そう言うわけで、暇を持て余した僕は今日も山へ行った。

 家からそう遠くない山。

 誰もいない、思い出だけが生きる山。

 僕は秘密基地へ向かって木々の間を進んだ。

 少し歩いて山の中腹あたり。標高がそれほど高くない山なので山登りの時間は少し。だけど木が多く雑草も茂っているので足場が悪くてすいすいとは登れない。楽しみが先に待っている僕としては全然苦ではないけれど、交通整備をしてくれてもいいのではないかなと時々思う。

 通い慣れた山道を歩き、僕はすぐに秘密基地にたどり着いた。

 基地と言ってもそんなに大層なものではない。ただ木の棒を地面に突き刺してそこにビニールシートをかけただけの簡素な秘密基地。秘密基地と言うより秘密テント。でもあのころの僕らにとっては自分の家よりも居心地のいいところだった。

 思い出が詰まった大切な場所。

 僕はそれが風化しないように大切に守ってきた。

 いつ行っても秘密基地は変わらずに僕を迎えてくれた。

 目を瞑ればあのころの笑い声が聞こえてきそうな気がする。

 でも、気のせいだった。

 あの日を留めたままの秘密基地。眺める度にとってもノスタルジー。

 変わらない景色――……のはずが、今日は少し様子が違った。

 秘密基地は壊れていない。いつもの通り汚いままだ。いつもと違うのは、その周り。秘密基地の周りに妙なものを見つけてしまった。

 足跡が、あった。

 秘密基地を探るようにぐるぐると足跡がついていた。

 そしてその足跡は帰る方向にはついていない。

 つまり、などとまとめる必要はないけれど、一応まとめさせていただくと、誰かが近くにいる可能性があると言うことだ。

 正直、怖い。

 誰がなんのためにこんなところに来たのだろう。この辺りに変わった物なんてないのに……。

 僕は恐怖に駆られながらも、秘密基地を守るために足跡をたどって行った。



 足跡は山の奥深くへ進んでいた。

 どこに潜んでいるか分からないので、出来るだけ音を立てずに足跡を辿る。

 しかしすぐに足跡を見失うことになった。土から草むらに地面が変わっており、足跡が途切れてしまっていたのだ。

 足跡を追うことが出来なくなってしまったが、先ほど追っていた足跡はまっすぐ進んでいたので、僕は足跡の向かっていた方向に真っ直ぐ森を進んだ。

 そして僕は人を見つけた。

 多分、女の人だ。


「この……あいつ……!」


 サークル上に地肌が見えているスペースに一人立っているその人は、山に似つかわしくない格好でぶつぶつと何かをつぶやいていた。

 黒いミニスカートから伸びる白くて長い脚。足にはミュールを履いており、よくそれで山が登れたなぁと感心してしまう。上半身はノースリーブシャツにネクタイをつけたこれまた山登りには似合わない格好。全体的に露出が多いから虫に刺されちゃうよ。真っ白で綺麗な肌なんだから虫なんかに刺されたらダメだと思います。

 大自然とその人の格好はとてもミスマッチだったが、それ以上にそんなこと以上にその人のモデル体型が原始的な山と不釣り合いだった。

 ……しかし。

 ミスマッチだろうが不釣り合いだろうが僕にとってそれは些細なこと。ひたすらにコモコモとつぶやいていることも全く気にならない。

 ……とにかく、怖い……。

 森の中で不似合いなおかしな格好に恐怖している訳ではない。どんな格好で山に登ろうがその人の勝手だからね。モデルのような体型も恐怖とは正反対の物だし、コモコモ呟くことだって自由だから構わない。

 なら、僕はいったい何に恐怖しているのかと言うと。

 その人の頭部と、その人がとっている行動が、とにかく奇妙な物だった。それに恐怖を抱いているのだ。

 その人は、顔に白馬のお面をつけた状態で、青いおもちゃのプラスチックのバットを握り全力で素振りをしていた。

 意味が分からない。理解不能だった。

 空を切る軽い音。振っては構え、振っては構える。

 野球のことはよく知らないけれど、とても綺麗なフォームだと思った。

 バットを振る度にスカートがギリギリまでめくれていて、大変目のやり場に困ってしまう……。下着が見えてしまいそうですよと、注意してあげたい……。

 馬のお面で視界が狭くなっているせいなのか、様子を見ている僕の姿に全く気付いていない。さっきから草むらを踏みしめる音を鳴らしているのだけれど、それにも気づいていない。お面の中で自分のつぶやきが反響して周りの音が聞こえづらくなっているのだろうか。馬のお面を被ったことがないのでよく分からない。

 女の人はひたすらプラスチックのバットを振っていた。終いには素振りをやめて地面にバットを叩きつけ体全体で怒りを表現するようになっていた。

 地面をぼこぼこにする姿はスタイルの良さも帳消しになる位みっともなかった。

 モデルさん並みなのに……何か残念だ。いやぁ、変な人だなぁ。

 地面を殴ったり地団太を踏んだり傍にある木を思いっきり叩いて手を痛がったり。

 少しだけお茶目に見えた。

 しばらくぶつぶつ言いながらバットを振り回し続ける女の人。不安定な山の地面の上でミュールなんかを履いてあれだけ暴れまわれるなんて運動神経がいいんだなぁなどとどうでもいいことを考えてみる。

 そんなことを考えながら僕がその光景に目を奪われていると、突然その人の動きが止まった。

 そして、何故か理由は分からないけれど、ゆっくりとこちらを振り向いた――


「う、うぁああああああああああああああ!」


 僕は白馬と目が合う前にその場から全力で逃げ出した。本当に怖かったんだもん。

 全力で、必死に、何度も転びそうになりながら秘密基地まで止まることなく振り返ることなく逃げてきた。


「はぁ……はぁ……」


 秘密基地まで戻ってきたところでやっと足を止め、深呼吸をして息を整える。僕はあまり運動が得意ではないからすぐに息が切れてしまう。

 疲れていても背後が気になるので膝に手をついて走ってきた草むらを振り返ってみた。


「うわっ! 追ってきてるーーーーーーーーー!」


 白馬がバットを振りながら猛スピードでこちらに迫ってきていた。


「おわわわわわわ」


 まだ息が上がっている、走れない!

 逃げることができない僕は腰が抜けたように地面にへたり込んでしまった。

 白馬が迫ってくる。ミュールなのに物凄く軽快なステップ。やっぱり僕と違って運動ができるみたい。

 ってそんなことよりも……。

 僕はどうなってしまうのだろう。あのプラスチックのバットで殴られるのだろうか。痛いのかな? 痛いよね……。

 無駄なことだとは分かっていても、僕は後ずさりをして少しでも白馬から距離をとろうと試みた。

 当然無意味なわけで。

 見る見るうちに距離が縮まって僕と二足歩行の馬との距離はもう五メートルも無い。ああ、おしまいだ。痛い目にあっちゃう。

 諦めた僕。

 でも神様は僕を見捨てていなかったようだ。


「!!!」


 馬のお面が枝に引っかかり頭からそれが取れた。

 女の人の頭が大きく後ろにのけぞり、すぐに前のめりになる。お面の下に隠れていていて見えなかった黒く長い髪が頭を越えて顔の方に流れてきた。艶やかな黒髪一本一本が意志を持っているかのように木漏れ日の光を反射していた。

 それに目を奪われていたが、すぐに女の人が恥ずかしそうに顔を隠し逃げるように森の奥へと走り去って行った。

 

「……な、何だったんだろう……」







ユウ:ってことがあったんだ


まりも:にわかには信じられない話だね


ユウ:でも本当なんだ! 本当に変な人がいたんだよ!?


まりも:もちろん信じているさ。その馬の後を追ったのかい?


ユウ:まさか! 追うわけないよ! 殴られたら痛いでしょ!


まりも:それはそうだけど、気にならないのかい? そんな変質者滅多にお目にかかれないよ。私なら後を追って正体を突き止めるね


ユウ:でも、怖いし……


まりも:まあそうだろうね。でも今度会ったら是非その姿を激写してほしいね


ユウ:もう会わないよ!


まりも:まあ会わないならそれがいいだろうけどねw  それじゃあ、私はもう寝るよ


ユウ:うん


まりも:お疲れ様




 僕はスカイペからログアウトしてパソコンを切った。

 僕が唯一自信を持って友達だと呼べる人は、ディスプレイの向こうの顔も知らない女の人。女の人かどうかも分からないけれど、自分でそう言っていたので僕は信じている。

 その人と毎晩のようにスカイぺで話をして、一日を終える。相手の声を聞いたことは無いけれど、きっと優しくって柔らかい人なのだと思う。

 実際に会って話してみたいけれど、今の関係で充分満足しているのも確か。

 僕は踏み出せずに今日もスカイぺでその日遭った事の話をするだけにとどまっているのだった。


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