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純白の夜の奇跡

作者: 陽介

二作目です!よろしくお願いいたします!

 12月24日、純白の雪が降り注ぐ聖なる夜。


 僕は初めて、人を殺した_。


 凶暴な黒の力―-ノワール―-が、可憐な白の花-―プラン-―を押しつぶす。

 残るは、赤-―ルージュ-―の血痕のみ。



 ターゲットの心臓を、手に持っている真っ黒な拳銃で撃ち抜き、

 殺す。

 真っ赤な鮮血が飛び散り、カーペットを汚していく。

 高級そうな絨毯にも、鮮血が舞い血生臭い匂いを残していく。とても、使い物にはならないだろう。

 ターゲットはまだわずかに生命活動を続けている。

 だけど、それもすぐに止まるだろう。

「確認する点は五つ、まずは呼吸、次に脈、瞳孔、体温、心臓といく」

 血が乾ききったころには、そのすべてを確認し終えた。

 生命活動は、停止している。

「ターゲットの暗殺完了」




 東京。

 江戸時代より、日本の首都として栄え、日中は80万人もの人間が行き通うメガタウン。

 常に時間に追われ、忙しない毎日を過ごす人々。

 ある者は携帯電話を片手に持ち、電話の向こう側の相手にひたすら謝る。目の前に相手がいるわけでもあるまい。

 ある者は耳にイヤホンをつけ、音楽を聴きながら歩いている。周りにたくさんの人間がいるのに無関心。人間の中にいながら、人間には興味がない。

 そんな気持ち悪さ。

 それは、夜になっても同じ。

 むしろ、夜のほうがひどい。夜になっても、東京の中心街は光であふれている。仕事帰りのサラリーマンが夜の街へと繰り出すために出されたつくられた光。

 とても、気持ち悪い。


 この時代の人間は闇を忘れている。


 光が強ければ、その隣に並び立つ影は、より深い闇となる。

 暗闇は怖いけど、それでも夕暮れ時には思う。


 そんな暗い影があるからこそ、

 世界はこんなにも……、美しいから。


 だから、その美しさを守るために、この東京でもやはり闇は存在する。

 様々な人間がきらめく光を求めて集まる中、法も光も届かない冷たい暗闇を抱える無法地帯、窃盗、暴力、誘拐、挙句の果てには殺しまで金のためなら、私利私欲のためなら何でもする人間が揃っている。

 人間としての心を捨ててまで。

 一度捨ててしまった心は二度と戻らない。


 白は白で、黒は黒。

 白い光の人間が、黒い闇を忘れ知らなければ、黒い闇の人間は、白い光となることはできない。

 白黒はっきり分かれたオセロのようだ。

 この東京という街は__。



 12月14日、依頼遂行10日前。

「光が強ければ、その隣に並び立つ影はより深い闇となる。暗闇は怖いけど、それでも、夕暮れ時には考える。そんな暗い影があるからこそ、世界はこんなにも美しい。っとは、昔の偉いさんはよく言ったものだよな、ジャンゴ」

 東京の新宿、その喫茶店。とは、いうが無法地帯に備わるこの喫茶店は違う空気を発していた。それはこの兄弟の会話からもわかる。

 紫色のマフラーの少年は呟く。

 少々諦め、否、呆れた感を出しながら目の前の赤色のマフラーの少年、そして、双子の弟に自分の心境を綴る。

 でも、弟はそんな兄の心境など意にも返さない。

「だから、何?こうやって白一色になって、美しくなくなったのはサバタが弱すぎるだけじゃないか」

「くっ……」

 苦虫を噛み潰したような声で、サバタは悪態をつく。

 真っ白だった。

 それはもう、見事に真っ白だった。黒の駒など一つもない。

 オセロのパーフェクトウィンなど滅多に見られるものではない。

 だけど、真っ白だった。ジャンゴの圧勝である。

「僕の勝ちだ。例の依頼は僕がやる。早く出してくれ」

「ほらよ」

 無造作にサバタは一通の封筒を取り出し、ジャンゴへ封筒が渡される。

 それは今日、闇の職業紹介所からの仕事の依頼状だった。

「ごまかしたりはしてないよな」

「愚問だな。俺がそんな姑息な手を使う奴に見えるか」

「見える」

 即答だった。

「……。まぁいい、とりあえずその中に依頼人の詳細とターゲットの写真が入っている」

「わかった。また、部屋に戻ったら見るとしよう」

 ジャンゴは受け取った封筒をカバンへとしまおうとした。

 しかし、その前に封筒をサバタに奪われる。

「何?」

「本当にやるのか?今までのヤクザの護衛や機密情報の諜報とかとは、訳が違うんだぞ。ましてや……、


 “殺し”なんて。


 いくら金になるとはいえ、わざわざ自分から人殺しになることはあるまい」

 自然と空気が重くなる。

 だけど、ジャンゴは笑った。

 サバタから封筒を取り返す。

「ははっ、矛盾してない?サバタ」

「矛盾だと?」

「僕たち兄弟が、この東京の無法地帯に繰り出して早18年。ココでは仕事を選んでは生きてはいけないし、母さんを誘拐して、父さんを殺した奴らを見つけ出し、復讐するためにどんな手でも使ってやるって決めたじゃないか」

 そのためには、“金”がいるって言っていたのもサバタじゃないか__。

「ふっ……、確かにそうかもしれないな」

 サバタは真っ白になったオセロ盤を片付け始めた。

 黒の駒に自分の顔が映る。

「ジャンゴは、そうやって理解も早いし、今までの仕事も難なくこなしてきた。この無法地帯のヒーローだよ、おまえは」

 オセロ盤をカバンの中にしまう。

「でも、俺は自分の弟に仕事とはいえ、人殺しになってほしくはないし、何よりおまえがそんな人殺しができるようなキャラとは思えないが」

「それが矛盾だって言っているだろ。中途半端な扱いはやめてほしい」

「わかった。その件については、おまえに任せるとしよう。俺はこれから依頼人に会いに行く。おまえはその間に書類に目を通しておけ」

 そう言うとサバタは席を立ち、会計をすましドアノブへと手を触れる。

「ジャンゴ、おまえの意志が固いことはよくわかった」

 それだけ言って、サバタは行った。

 喫茶店を出ると、暗闇の世界に覆われる。

 無法地帯は、昼間でも真っ黒な世界に包まれている。





 無法世界と表の世界は目と鼻の先にある。

 闇の仕事に手を染めているとはいえども、生きていくには表の世界の肩書きも必要だ。

 鉄橋のすぐ近く、満員電車が行き通うその側にジャンゴ・サバタ兄弟の住むマンションがある。

 ジャンゴが帰路についた時には、すでに夕方だった。

 赤い夕焼けが嫌に眩しい。

 だけど、その夕焼けを遮るモノが現れた。

 青いブラウスと白い布きれ、その他諸々が空から降ってきた。

「うわっ!!」

「あっ、すみません」

 そんなすっとんきょうな声が空から、ベランダから聞こえる。

 茶髪にウェーブがかかっている。いつも青色のワンピースを基調としている。

「洗濯物、落としちゃって……。あっ! ジャンゴさん、お帰りなさ~いっ」

 にこやかな笑顔を送ってくる彼女の名前はリタ。

 ジャンゴにとって、まるで別次元の人間。

 白い光の人間、自分とは相まみれない人間だった。

 だから、

 だから、下着の色も白なのか。

「って、ジャンゴさん!! 何、私の下着見ているのですか!?」

 顔を赤めながら、リタが言う。

「さすがの私でも怒っちゃいますよ!!」

「はいはい、届けますよ。隣だし」

 マンションの扉を開け、エレベーターに乗る。

(元気な子だ、あの子は……)

(とても、母親を亡くしたばかりとは思えない)


「淋しくないですよ。元々母は家を空けることが多かったですし」

 2ヶ月前、彼女がこのマンションの、しかも隣に引っ越してきたときの彼女との会話。

「ただ、親戚がいないに等しいのでしばらく一人で住むことになりそうです。何かあったら、よろしくお願いします」


(女手一つで、子どもを育て、スナックのママをやっていたと聞いたな)

(気丈ないい部分を受け継いでいる。僕とは住む世界が違う明るい娘だな……)

 自分の部屋の階に、エレベーターが到着。扉が開くと、早速そこには顔を真っ赤に膨らませたリタの姿があった。

 無言でジャンゴから、自分の洗濯物を奪い取る。

「ごめんなさい……」

「い・い・え!!」

 参ったな……。怒らせたな。

 なるべく事を荒立てず、過ごしておきたいと思うジャンゴにとって今の状況は少しまずい。

 だけれども、これ以上彼女に話しかけてもかえって状況は悪くなるだけ。

 とりあえず、ここは退いておこうと思った。

 鍵を取り出し、部屋を空ける。

「あの……」

 後ろから声をかけられる。

 もちろん、それはリタだった。

「夕飯のフルーツサラダつくり過ぎちゃったので、お兄さんと一緒に食べてください」

 そう言われ、弁当箱を手渡される。

 一人分の弁当箱。

「それじゃぁ、また。ジャンゴさんもサバタさんも未成年ですからお酒飲んじゃダメですよ」

 バタンっと扉が閉まり、彼女は自分の部屋へと戻っていく。

 女という生き物はよくわからない……。

「一気にさっきの問題が解決したな」

 彼女の笑顔に、ジャンゴもまた微笑みを浮かべる。



(それにしても、僕が何者かも知らずによく近づいてくる)

(これから僕が人を殺すと知ったら、あの子はどんな顔をするだろうか?)

 部屋に入り、早速サバタから手渡された封筒から依頼人の詳細、及び、ターゲットの写真を取り出す。




 12月15日、依頼遂行9日前。

 ターゲットは樹村リタ、16歳。

 都内の高校に通う高校2年生で、依頼人、闇口ダーインの異母兄妹。

 闇口は、大手企業闇口グループの一人息子で現社長。

 いずれ父親である会長から受け取る資産は数億。

 しかし、いざ遺産相続が迫るにあたって、父親に愛人がいたことが発覚。

 さらに一度たりとも面識のない妹がいたこともわかる。

 お妾の子にも、遺産相続権がある。誰ともわからない異母妹に遺産を取られるわけにはいかない。

 よって、樹村リタの暗殺を依頼する。


「ジャンゴ、あれが依頼人だ」

 サバタが指差した方向には、東京都内でも有数の高さ、そして、存在感を持つ闇口グループ本部ビル。

 そこから、リムジンによって出勤する一人の青年実業家。

 彼の後ろには、美人秘書。彼がリムジンから降りたことがわかると社員は皆、彼に頭を下げる。

 まだ、どうみても20代の青年。しかし、金も地位も名誉も彼は持ち合わせている。

「リムジンで出勤って本当にあるんだ」

「そりゃぁ、ボンボンだからな」

「ボンボン?」

「絵に描いたような2代目社長。親の力でのし上っただけで、部下の力がなければただの能無しだ」

 俺はあんな人間が大嫌いだ、っとサバタ。

「しかも、変なところが慎重で依頼人自らが、始末がすんだら確認にくるっていうからタチが悪い。ほかの仕事仲間に聞いたが、そんなことする依頼人はまずいないそうだ。もし、現場をうろついているところを公権力に見られでもしたら、面倒だからな」


 あんな奴の依頼で消される、あの娘がとても可哀そうだ__。


「いつから、サバタはリタがターゲットになっていること知っていた?」

「そんなこと聞いてどうする?」

「え?」

「確かに稀なケースだ。まさか、隣人が殺しのターゲットになることなど滅多にない。しかし、これはチャンスでもあるぞ」

「チャンス?」

「どんな仕事をなすにも、まず情報がいる。これが案外、骨が折れることであることはお前も承知のはずだろう。同じマンションの隣人であり、ある程度の近所付き合いもある。あるいは彼女の好意を利用すれば、事はスムーズに進むぞ」


 ふざけるな……。


「おいっ!! ジャンゴ!!」

 ふらっとサバタから離れ、街の中心部へと走っていく。

(馬鹿な兄に殺される妹)

(言い換えれば、金も地位も名誉も持っている男と、その辺で遊んでいてもおかしくない女子高生)

 学校帰りなのだろう、制服を着た女子高生グループが並んで楽しそうにはしゃいでいる。その姿が、殺しのターゲット樹村リタと重なった。

(この弱肉強食の世界で淘汰されていくのは、当然__)


 ふざけるな……。


「ジャンゴ!!」

 肩に手をかけられる。

 振り返ってみれば、そこにいるのは自分の兄のサバタで息を切らしている。

 随分と遠くへ来てしまった。

「ジャンゴ、おまえ。怖気づいたか」

 今なら、まだ間に合うぞ__。

 首を振った。

「ここでもし、僕が断ったところで他の誰かが代わりにやるだけだろう。それなら、僕がやる。


僕がリタを__、殺す!!」




 12月20日依頼遂行5日前

「そう、おまえはすでに死んでいる」

 ジャンゴが玄関を開けた途端、そんなセリフと共に銃声が鳴り響く。

 額に赤い__。

 赤いペイントが付着する。

「甘い……」

 自分の額にべっとり付いた赤いペイントを手でなぞる。

 口に入れる。

「油断大敵だぞ、ジャンゴ。もし、俺が敵にやられて、ここでおまえが帰ってくるのを待ち伏せされていたら、おまえは死んでいた」

 玄関で待ち伏せしていたサバタの手には白い拳銃、否、見るからに口径の小さいおもちゃの銃。

「まだ、そんな練習用の銃持っていたのか」

「この前、これで人を撃ったことがあってな。本当に撃たれたと思ったのだろう、泡を吐いて失神した奴がいる。それ以降面白半分で持ち歩いている」

 けっこう便利だぞ。

 サバタは銃の硝煙をふっと息を吹きかけ、吹き消す。

「ちなみに大阪の人間は、本当に撃たれたふりをするのが常識らしいぞ。ノリ突っ込みというものだ。だから、次からは頼んだぞ、ジャンゴ」

「僕は東京の人間だからしない」

 即答だった。

「……。依頼遂行の12月24日、俺の準備はほぼ完了している。マンションの住人には豪華ディナーの予約券やらが当選するよう仕組んでおいた。クリスマスイブということでちょうどいいだろう、24日の夜のマンションは俺たちとターゲット以外はもぬけの殻だ」

 準備はぬかりない。

 あとは__。

「おまえがターゲットを殺し、日付が変わる直前に俺は依頼人を連れてくる。ターゲットの死亡確認を行えば、それで依頼の完了だ。後始末は他の仕事仲間がやってくれるさ」

「わかった」

「おまえの手筈はどうなっている」

 サバタにそう言われ、ガサガサっと作成したターゲット__樹村リタの調査報告書と計画書を広げる。

 念密に練られた計画。

「リタは24日の夜は果物屋のアルバイトがある。それが終わって、彼女が帰宅する時間は10時前後。その時間に合わせて、僕はリタに普段のお礼も兼ね、あの件のお詫びも兼ねて……」

「あの件?」

「何でもない!!」

 ちょっとだけ、顔が赤くなるジャンゴ。

「とりあえず、リタにクリスマスプレゼントを渡したいからっと言って玄関を開けてもらい、部屋に押し入り彼女を射殺する。」

「銃声が響くぞ」

「そこは大丈夫だ。幸いにも近くを電車が走っている。つまり、24日の10時以降に電車の音に合わせて行う」


 そうすれば、誰にも気づかれずに事を終えることができる__。

 リタに少しでも怖い思いをさせずに殺してあげることができる__。


「せめても手向けというわけか」

「……何?」

「何だか、おまえが自分に言い聞かせるような言い方をしてたもんでな」

 そんなバカな。

 でも、

 でも__。

「おまえは、いや、俺たちはもう引き受けたんだ。後戻りはできない。ここでやらなければ、俺たちも消される羽目になる」

 ジャンゴの肩にサバタの手が置かれる。

「どうせ、出会ってたった二ヶ月の娘だ。依頼が完了したら、俺たちもこの場所にはいられない。引っ越すことになる」


 自然と何もかも忘れてしまうさ__。

 

「オセロみたいに白黒はっきりさせろ。他に選択肢はないんだ……」

 サバタからジャンゴへ黒い銃が手渡される。

 それは、白い銃みたくおもちゃのではなく、本物の__。

「リタを撃ち殺せ、この依頼を引き受けた時点でおまえはもう真っ黒な人間なんだ」




 12月24日依頼遂行当日、PM21:30

 サバタはすでに出かけていた。

 依頼人を迎えに行くのはもちろんのこと、他にも下準備があると言っていた。

 一人きりの部屋。

 明かりを消し、真っ暗闇な部屋の中で黒い拳銃の手入れを行う。

 これからこの銃で、人を殺す。丹念に丁寧に黒の拳銃を磨き上げていく。

 そして、また対比するように白いユリの花を見つける。


 これは、彼女へ渡すクリスマスプレゼント。

 白いユリの花。

 その花言葉は、純潔・威厳・無垢・甘美、無邪気・清浄。


 クリスマスプレゼントとしては、あまりにも似合わない。

 センスのかけらもない、こんなことする柄ではないのに。元々プレゼントなんて、ただ部屋に押し入るチャンスを作るだけの口実なのに。

 でも、リタには似合う。そう思って買ってきてしまった。


 せめてもの、手向け__。


 渡しもしないクリスマスプレゼントをじっと見つめ、足跡が聞こえる。

「リタか……」

 時計を見れば、午後9時55分。

 間違いなくリタだ。マンションの通路を歩くその足音はしだいに大きくなっていく。


 ドクン__。


 心臓の高鳴りが聞こえる。

 もう、とっくに覚悟はできている。

 大丈夫、僕は大丈夫。

 人を殺す覚悟も、リタを殺す覚悟もできている。

 黒い拳銃をしまい、準備する。

 彼女が部屋の玄関を開ける音が聞こえたら、呼び鈴を鳴らし部屋へ押し入り__。

 そして__。


「……ん?」


 いつまで経っても、音が聞こえない。

 彼女が部屋に入るため、玄関を開ける音が聞こえない。

(まさか……)

(計画に狂いが……)

 慌てて玄関に向かい、扉を開けてそこにいたのは__。


「……。こんばんは」

「あ……。どうも……」


 リタだった。

 しかも、こちらが急に開けたのに驚いたのか、尻餅をついている。

「す、すみません!!」

「え? あ、いや」

「ジャンゴさんに用があって! でも、部屋に明かりはついてないし、留守かなって思ったんですけど、一応呼び鈴だけ鳴らして確認しようかなって迷ってウロウロしていました。ごめんなさい!!」

「大丈夫だから、落ち着いて……」

「あ……、はい……」

 見事に息を切らしている。

 そんな慌てなくても。

「落ち着い」

「はい!!」

 そして、今度は何の前置きもなく、手渡される。

 包装紙とリボンに包まれた四角い箱。

 これは__。

「クリスマスプレゼント……、です」

「え……?」

「バイト先の果物屋さんから、譲ってもらったフルーツでつくったケーキです。もし、良かったら召し上がってください」

 それだけ言ってリタは顔を真っ赤にし、踵を返しそのまま自分の部屋へと向かっていく。

「ちょっと、待った!!」

 追いかける。

 彼女が玄関に入る寸前、扉を掴み、そして。

「ぐぉぉぉぉ!!!!」

 思いっきり足の小指を扉にぶつけてしまった。

 痛い。

「大丈夫ですか!?」

 リタが心配そうに言う。

「そんな、急に扉をつかまれるなんて……」

「プレゼント……」

「え?」

「クリスマスプレゼントありがとうございます……」

 この言葉を振り絞っていうと、また足から激痛がほとばしる。

(思わず、動いてしまった。くっ……)

「そんなこと言うためにわざわざ……」

 リタに体を抱えられる。

 いい髪の匂いがする。

「え? ちょ、ちょっと!!」

「うちに上がってください!! 手当させてください!!」

 そう言われ、彼女の部屋に上がる。

 計画が狂い始める。




「本当にごめんなさい……」

「いえ……」

 足にがっちり巻かれた包帯。

「僕も悪かったから、いいです……」

 ちらっと時計を見ると、10時15分。

 そして、拳銃も持ち合わせている。

(思わす飛び出して、計画が狂ったか……)

(まぁいい、隙を見て殺ればいい……)

「せっかくなので、ここで一緒にケーキをご馳走になってもいいですか?」

 少し驚いた表情を見せるリタ。

 少しの間だけ時間が止まる。

「はい! もちろんです!! お茶入れてきますねっ」

「ありがとう」

(これで次の電車が来るまでの時間が潰せる)

(15分……、たった15分過ぎればすべてが終わる)

 目の前に湯気が立つお茶と、果物がトッピングされたフルーツケーキが一切れ。

 手作りのケーキ。

「すみません、わざわざ」

「ジャンゴさん!」

 リタが心配そうに顔を覗き込んでくる。

「足大丈夫ですか? もっと冷やさなくても……」

「大丈夫です……」

「そうですか……、なら……」

 リタが立ち上がり、叫ぶ。

 その手には、フォークに刺さったケーキが一欠けら一口サイズ。


「私がジャンゴさんの右手にならせてください!!」


 ……、


 …………、


 はぁ!?



「なんで、そうなる!? 手は何もケガなんかしていない!!」

 頭が混乱する。

 思考回路がついていけない。

「だって、私がケガさせてしまったんですし、私何かしないと気が済まないっていうか……」

 だんだんとしおらしくなるリタ。

 そんなリタを見て、

 彼女の手首を掴み、フォークに刺さったケーキを食べる。

 美味しい。

「美味しいです」

 と、一言。

 その一言に彼女はぱぁっと笑顔になる、笑顔に戻る。

「やった!! 嬉しいです!! 私実はケーキつくったの初めてで初成功なんですよ」

 この笑顔にはやられる。

「実は俺もあなたにクリスマスプレゼントがあります」

 彼女に渡すために用意し、渡せないと思っていたプレゼントを取り出す。

 拳銃と一緒に持ってきた、あの白い花。

「センスも何もなくて、すみません。白いユリの花です」

 単なる包装紙に包まれたユリの花。

「あなたにぴったりだと思って」

 僕なんかと違って、とても似合う__。

 また生まれた時間が止まる瞬間、彼女の表情が確かな驚きに代わって、

「ありがとうございます!! 私なんかが、ジャンゴさんからプレゼントもらえるだなんて思ってもなくて!!」

「うおっ!!」

 リタが抱き付いてくる。

 体のバランスが崩れ、押し倒された形になり、

 彼女との顔との距離がいつの間にか近くなっていて__。

「あ……」

 それに気が付いたリタが顔を真っ赤にさせる。

 そんな数秒間。

「すみません……」

「いえ……」

「私、このもらったユリの花、花瓶に入れてきます」

 すたこら、と部屋の奥へと花瓶を取りに行く彼女。

 あわただしい子だ。


「私、実はこのマンションを出ることになりました」


 僕に背中を向けたまま彼女は言う。

 手には先ほどプレゼントしたユリの花が握られている。

「この間、父が見つかって会ってくれました。そしたら、血がつながっていないとはいえ、お兄さんがいることもわかって、私を受け入れてくれるって言ってくれました」

「……兄?」

 依頼人、闇口ダーイン。

 目の前の彼女の暗殺を依頼した。

「はい、とても怖そうな方だったんですけど、でも一緒に暮らそうと言ってくれて」

 なんで……?

「……これでジャンゴさんともお別れになりそうです」


 今までありがとうございました__。


「そんなお礼を言われても……」

「あ、そうですよね……」

 えへへっと照れ笑いを浮かべるリタ。

 また生まれる沈黙の時間。

 この数秒間が重たい。

(サバタが余計なことを言うから、変に意識してしまうじゃないか)

(あと、数分で……)



「あ……」

 あるモノが目につき、立ち上がる。

「どうしました!?」

 僕の目の先には、カレンダーがある。

 そのカレンダーの日付の上に載せられた風景画。

 純白で埋め尽くされた__。

「レンソイス大砂丘……」

「え?」

「ブラジルマラニョン州にある世界一美しい『白』がある場所として有名です」

 リタが不思議そうに顔を覗き込む。

「水晶の一種でできた砂で輝く砂丘。魚は湖ができる雨季に泳いで、湖が枯れても砂の中で生きることができる不思議な場所」

「そうなんですか」

「初めて、この写真を見たとき、いつか行ってみたいと思ったんです。真っ黒に染まってしまった僕でも、見たいと思った」


 本当にこの世にこんな、圧倒される程の『純白』があるのかと思うと、

 興奮が止まらなかった__。



「へぇ~~、そうなんですか」

「あ……!」

 我に返って、気づく。

 側には少し意地悪そうな笑顔を浮かべたリタがいた。

「えへへっ、見ちゃいましたよ。ちょっと子どもっぽくなったジャンゴさん、か~わい~い♪」

 それがジャンゴさんの素顔なんですねっとリタ。

(くそっ、気が緩んだ)

 頭をボリボリと掻き毟る。

 正直、とても恥ずかしい。

 時計を見る。

 10時28分。

 10時30分になったら、電車が通る。

 そこで、リタを。

 リタを殺さなければ、いけない。

 拳銃を手にかけ、そして__。


 部屋の電気が消された。


「え?な、何が……」

 30分ほど前までいた自分の部屋のように真っ暗になる。

 暗闇。

 だけど、一人だった自分の部屋とは違い、ここには僕とリタもいる。

「これで何も思い残すことなく、天国へ行くことができます」

「どういうことですか?」

「ジャンゴさん、この前街中を走っていましたよね」


(まさか……)


「血相変えて、何かを振り払うように走っていて、その後をサバタさんが……」


(まさか……)


「それでちょっと興味本位で近づいて、でも、ジャンゴさんもサバタさんも気づいてくれなかったですね」


(あ……、ああぁぁ……)


『――僕がやる。僕がリタを殺す__!!』


「私今日のこと全部、初めから知っていました……」





「なんで、なんで……」

 彼女の手を取り、肩を揺さぶり、言葉を吐く。

「ふざけるな!! なんで、逃げなかったんだ!! 


 なんで……、逃げてくれなかったんだよ__!!」


 そうすれば、そうすれば__。

 自分でも信じられないぐらい感情が高ぶる。

 あぁ、自分にもこんな気持ちがあったんだ。

 忘れていた。

 自分にも他人のために涙を流せるんだ。

 自然と涙がこぼれていた。


「君は__、リタは僕に殺されるんだぞ!! わかってんのか!!」


「わかってますよ、そんなことぐらい。でも、一緒なんでしょう」


 その言葉に自分の理性が戻る。


「例え今逃げても、いつかジャンゴさんじゃない誰かが私を殺しに来る。あのとき、ジャンゴさんが言っていたじゃないですか」


 また、リタとの顔との距離が近くなる。

 でも、今度は__。


「どちらにしろ、同じ答えなら私はジャンゴさんに殺されることを選びます」


 楽しかったです。先ほどの15分間__。

 ごめんなさい。最後まで迷惑をかけてしまって__。



「……よかったのか。僕で」

「はい」

「僕で……」

「ジャンゴさんじゃなきゃ嫌です」

「わかった……」



 黒い拳銃の撃鉄を外す。

 リタは僕から数歩距離をとり、じっと目を閉じた。

 その彼女の手には、さきほどプレゼントしたユリの花が握られている。

 強く握りしめられ、死を待っている。

 これからそのユリの花は赤く染まる。

 計画が遂行される。


「ありがとうございました」


 死の間際になっても彼女は、そんな気丈な言葉を僕にかける。

 彼女の瞳に涙はない。

 ユリの花を両手に持ち、胸の前で手を合わせている彼女はまるで巫女のようだ。

 祈りをささげているようで__。

 誰に?

 僕に?

 何のために?


 12月24日PM22:30に予定通り電車が走る。

 リタに向けて、

 黒い拳銃を構え、

 狙いを定めて、

 引き金を__。


 電車の音にかき消されて、銃声は聞こえない。


 凶暴な黒の力―ーノワールー―が、可憐な白の花―ープランー―を押しつぶす。

 残るは、赤―ールージュー―の血痕のみ。



 今日、僕は初めて人を殺した。





 12月25日PM00:00

「へぇ、君がジャンゴ君か」

 黒いコートに身を包んだ、銀髪の青年がサバタと共にやってきた。

 依頼人、闇口ダーイン__。

 若手青年実業家が見せる裏の顔。

 リタの部屋に彼らは上がる。

「依頼は終わった?」

「はい、もちろんです……」

「なら、さっさと終わらせよう。サバタ、確認頼んだよ」

「はい」

 彼の後ろにつき従うように、リタの部屋へと入ってくるサバタ。

 とても、不機嫌そう。前に確か、この依頼人闇口ダーインのことを嫌いだと言っていた。

 見るからに傲慢そうな態度をとる、確かにサバタが嫌いそうな人種だ。

「サバタ……」

「何だ?」

「確認頼んだよ」

「……」

 サバタの足が止まる。

「おい、早くしてくれないかな?」

 ダーインに急かされて、リタが眠る部屋に。


 血生臭い血痕、

 まだ血は乾ききっていない。

 その血だるまの中にリタが眠る。

 両手を胸の前で合わせて、眠るように。

 死んでいるかのように__。

 静かに横たわっていた。

 彼女の表情は穏やかで、

 瞳は静かに閉じられていた。

 僕が数刻前に、殺した__。



 そのリタの横にサバタが近づく。

「ダーインさん、あんたも触って確認するか?」

「僕が? なぜ、この僕がこんなモン触らなきゃいけない。君がやってくれよ」

「……。了解」

 手袋をつけ、リタに手を触れるサバタ。

「確認する点は五つ、まずは呼吸、次に脈、瞳孔、体温、心臓といく」

 その一つ一つをしっかりと丁寧に確認していくサバタ。

「これらがすべて停止していれば晴れて、ターゲットの暗殺完了というわけだ」


 本来ならばな__。


「ジャンゴ、貴様……」

 リタから離れ、俺に向かってくるサバタ。

 怒りに震えたサバタは、右手に拳がつくられていた。

 その拳を僕の頬に向かわせる。

「ぐはっ!!」

 勢いのあまり、体ごと倒れる。

 口の中が切れ、鉄の味、

 赤い血が口の中を駆け巡る。

「貴様は自分のしたことがわかっているのか!!」

 さらに強烈な一発、倒れて蹲っている僕の腹を容赦なくサバタは蹴る。

 もう一発。

 二発。

 腹を抱えて、もう動けない。

「な、何を、やって__!!」

 いきなり始まった兄弟げんかに、ダーインは困惑する。


「悪いな。この娘はまだ、気絶しているだけだ」


「何!? どういうことだ!?」

「殺す前に怖気づいたんだろう。ジャンゴは、人を殺すのが今回で初めてだからな」

「ふざけるな!! 何をしているんだ!!」

「愚弟の不始末の責任は、俺にもある。本当にすまない」

「くっ……」

 痛む体に鞭を打って、立ち上がる。

 まだ口の中には赤い血の味がする。

 本当に容赦なく蹴りやがって。

「サバタなら、わかってくれると思って……」

「ふんっ。愚問だな」

 サバタは僕に再び、銃を手渡す。

 口径の大きい本物の銃。ずっしりと鉛玉が入っているような重量感。

 だけど、この銃は__、

 とても白かった。


 『割り切れ』と言ったはずだ__。


「おい!? 依頼はどうなるんだ!?」

「大丈夫です。僕が今から遂行します」

 白い銃を右手に持ち、撃鉄を外す。

 狙いを横たわっているリタに合わせて、

 その心臓を、

 額を、

 指に力を入れ、引き金を引く。


 銃声が二発鳴り響く__。

 今度は、かき消されることなく響いた__。


 血しぶきが舞い上がり、リタの体が大きく跳ね上がる。

 彼女の心臓と額に大量の赤い__。

 目も見開かれ、リタは今度こそ死んだ。

 白い硝煙も舞い上がる。

「……っ‼」

 力が抜けたかのごとく、ひざを折る。

 人を殺す感触は、なんて気持ち悪いのだろう。

「ダーインさん、依頼はこれで完了だ」

 サバタが口を開く。

「あとは何か注文はないか?」

「まぁ一悶着あったが、これでいいだろう。最後の後始末も頼んだよ。それだけだ」

 踵を返し、依頼人闇口ダーインはリタの部屋から立ち去る。

 彼が玄関を開ける音が、嫌に響いた。

 真っ暗な部屋に残されたのは僕とサバタと__。






「あは……、あはははは……」

 狂ったように笑う。

 笑いたい。

 人を殺すことがこんなにも気持ち悪くて、

 人一人の存在を消すことがこんなにも気持ち悪くて、事がすべてスムーズに進むことが、こんなにも気持ちいいなんて思わなかった。

 今、ようやく痛みを感じた。

 サバタに容赦なく殴られ蹴られた傷よりも、左手に負った傷が疼く。

 鉛玉が貫通して、実はずっと血が止まらなかった。

「僕の思い通りに演技してくれるどころか、まさかペイント銃を本物みたいに改良して持ってきてくれるなんて……」

 口径が大きく、本物の鉛玉が詰まっているように重たい。

 白いペイント銃__。

 より“らしく”見えるように中に詰めるペイントの量を多くして、

 銃声もより大きく響くよう改良している。

 4日前と比べて。

「ふっ……。ふはははははは!!!!」

 サバタは口を大きく開けて笑った。

 このサバタの高笑いはいつ聞いても、ムカつくよ。

 サバタの手の平で踊らされていたみたいじゃないか。

 そして__。


「ジャンゴさん……」


 彼女の服は赤いペイントと僕の赤い血で汚れている。

 でも、リタは生きている。

 ケガはないだろう__。

 リタもナイス演技だった。

 僕を信じてくれて、ありがとう。

 彼女の両手には白いユリの花が握られている。



「同じ日に生まれて、ずっと一緒に過ごしてきた双子の弟なんだ」

 血の繋がった唯一の家族。

 だから、何もかもお見通しなんだよ__。

 窓越しから空に浮かぶ白い月を見上げ、サバタは呟く。



「おまえがリタを殺せないことなんて、ずっと前からわかっていた__!!」






「リタの死を偽装する……」

 僕が咄嗟に取った行動。

 すぐさま、狙いをリタから床へ。

 電車の音に合わせて、拳銃で撃つ。

 銃口に添えていた自分の左手を__。

 銃声がかき消されて、

 僕の左手から、血が溢れる。

「この血だるまの上に横になって、死体の演技をしてくれればいい」

「そ、そんな……」

「大丈夫、サバタが12時ぴったしに依頼人を連れてやってくる。サバタなら、すぐに気づいてフォローしてくれるはずだ」


 僕たちは双子だから__。


 大丈夫__。


 根拠はないけど、確信はある__。


「だから……」

「ど、どうして……。私なんかのために……」

「信じて、僕を……」


 リタを生かしたい__。


 リタと一緒に生きたい__。


 リタ。


 僕と一緒に生きよう__。


「少しでも長く、できれば一生、僕の側にいて欲しいからだ」


 だから僕を信じて、大丈夫__。





「とりあえず、左手の手当てをするぞ。全く無茶をする」

「ありがとう……」

 包帯が巻かれていく。

 もっといい手はなかったのかっと言い聞かせたいところだが結果オーライということで。

 しばらく左手は使えなくなりそうだ。


「私、生きていていいんですか?」


 リタが口を開く。

 白いユリの花を両手に握りしめ、ただじっと僕を見つめる。

「行く場所も、待ってる人もいないのに。私が生きていてジャンゴさんの邪魔になったら」

「リタ」

 僕はリタに抱き付く。

 両手を広げて、手に入れたかったものを手に入れる。

 両手を広げたら、優しくなれたら手に入るものがあった。

「うわあぁぁぁ!!!!!」

 声を枯らして、泣いた__。

 また、自然と涙が__。

 想いが涙となって溢れ出る。

「ずっと、怖かったたんだ。やっぱり、僕は人なんて殺せない。ましてや、リタだったらなおさら……」

 いきなり子どものように泣きじゃくる僕を、

 サバタはやれやれっとばかりにため息をつく。

 リタは、僕を見つめている__。

「誰ももう、死んでほしくないよ……」

 10年前のあの日、僕とサバタの目の前で父さんは殺された。

 そんな僕が人を殺してはいけない__。

 ずっと、わかってたはずなのに。


「ジャンゴ様」


 リタが唐突に口を開く。

「これから、こうやって呼ばせてくれませんか?」

 リタの両手に力を入り、ずっと強く抱きしめる。

 手に入れたものを離さないように。

 これからもずっと離さないように。

「私もずっとジャンゴ様と一緒にいたいです。少しでも長く、できれば一生、側にいたいです」


 ありがとうございます__。


 ありがとう__。




「ふっ。本当にやれやれだな」

 世話の焼ける弟を持ったものだ__。

 サバタは呟く。

「見ろ、ジャンゴ」

 サバタが部屋のカーテンを開けると、窓越しから見える。

 暗闇から一層際立って見える。

 白い__。

「雪だ」

 この東京では滅多にお目に掛かれない。

 紛れもない純白だった。

「人間っていうのは、本当に真っ白なものを前にすると溜息しかでないものだ」

「そう……、だね……」


 12月25日、

 僕は人を殺せなかった。

 人を殺さなかった。


 クリスマスに起きた命の奇跡。

 この東京に降り注いだ純白の雪は、この日止むことなく降り注いだ。

 僕とリタの新しい物語を祝福してくれるがごとく。


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― 新着の感想 ―
[良い点]  とても読みやすく、あっという間に最後まで読み終えることができました。  特に、クリスマスの雪の白と花の色、そして黒と赤と視覚に訴える表現で、まるで映像を見ているような感覚がありました。 …
[良い点] すごく練られていて、まとまりのある作品だと思います。途中の展開はある程度予想できたのですが、だからこそ、ラストはどうなるんだろうとワクワク(?)ハラハラ(?)しながら読ませて頂きました。 …
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