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「はいっ。下剋上の意味分かる人ー」
松本良平が教室を見回す。みんな目をそらした。誰かが答える気配はない。何とも気まずい雰囲気が広がった。
「あれ? 全滅?」
松本良平がすっとんきょうな声を出す。先程からの子供扱いといい、嫌味なやつだ。わたしはますます眉根を寄せた。
下剋上くらい、習ったっての。
「おう、そこのショートカットの君。分かる?」
天井につくのではないかと思うくらい腕を伸ばして手を挙げたわたしを指名する。
「下剋上とは、身分が下の者が上の者を殺したり追放したりして地位を上げることです」
思いっきり睨みつけながら言うと、松本良平はにっこりと笑った。
「よくできました。まぁゲームだから、殺したり追放したりなんて物騒なことはしないけどね。このゲームの中での下剋上は自分の努力にかかっている。テストで上位の成績をとったり、部活の大会で賞をとったり……。優れていればいるほど、派閥の力は強まり、派閥の中でものしあがれる。ちなみに僕もそのクチさっ!!」
松本良平の言葉に、クラスの何人かが
「おおーっ」と歓声を上げる。何だか、皆やる気満々だ。松本良平の話を目を輝かせて聴く隣の席の男子。わたしは小さく溜め息をついた。
「その冊子にある通り、派閥には仮入会できる。派閥によっていろいろなカラーがあるから、自分に合うところを探してみてはどうかな。期間は二週間だから、じっくり決められると思う。君たちの学園生活がよいものになるように祈っているよ」
松本良平はそう言い、笑う。それとほぼ同時、チャイムが鳴り響いた。
わたしは席を立って教室を出た。
「―――君、名前は?」
背後から呼び止められて振り返ると、松本良平の笑顔があった。思わず、逃げ出しそうになる。
「はい?」
「名前。さっき発表してくれたよね?」
「……水野です」
「下の名前は?」
「梓、ですけど……」
何なんだ、この人は。にこにこと笑う顔が、あまりに害意を含んでいないのが怖い。
「水野梓、ねぇ。覚えておくよ」
いえ、結構です。
そう言いそうになるのを危うく飲み込んで、わたしは曖昧に頷いた。
松本良平はフッと意味ありげな表情を浮かべる。けれどすぐに笑顔に戻って、
「波」と
「美紀」を従えて廊下を歩いて行った。
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