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  紫の瞳 作者:yohna
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 外から明るい日差しが差し込んでも、有希はとろとろと甘い眠気から逃げることが出来ず、時折目が覚めてはまた眠りにからめとられていた。
  二度寝、三度寝、四度寝をして、ようやくすっきりと目覚めた頃には、眩しい日差しが差し込んでいた。
(……久しぶりに思いっきり寝たかも)
  それは、目覚ましを掛けなくても良い朝にとてもよく似ていた。
  部屋を見回すと、セレナ達は隣の部屋で看病しているのだろうか、姿が無い。
  隣の部屋から漏れ聞こえる明るい声に、思わず有希の顔も緩む。
(元気になったみたい。良かったなぁ)
  この家に厄介になってから何日が経っただろう。コロナの家族は、もうすっかり良くなっている。
(早く、王都に行かなきゃ)
  この家の人たちが良くなったのだから、行かなければ。
  そう思うのだけれど、胸につかえたもやもやのようなものは晴れない。
(フォルを見捨てることになる)
  アドルンドに見放され、自分の力だけで踏ん張っているフォルを尻目にして行かなければいけない。
――オレ達に食ってかかって来る人間が居て安心したよ。まだフォルは終わってないって。
  昨晩有希にそう言った、赤銅色の髪の青年。
(だけど、あたしには何もできないよ)
  フォルのあちこちで苦しんでいる人々に、有希は一体何をしてやれるのだろうか。
(……あちこち?)
  ふと違和感を覚え、その原因はなんだろうと首をひねった所で、扉がひっそりと開かれる。有希を慮ってか、静かにセレナが入ってきた。
「セレナ」
「あら、起きてたの?」
  有希が起きていると知った途端、セレナはそっと扉を開けるのをやめ、いつもどおり振舞う。その手にはトレイがある。
「よく寝られたみたいね。顔色がいいわ」
  そう言って、すたすたと有希のベッドへやって来る。サイドボードにトレイを置くと、水差しからコップに水を注いだ。
「そろそろ起きるかと思って食事持ってきたんだけど。ナイスタイミングだったみたいね」
「そうみたい。ありがとう、セレナ」
  ベッドサイドに座り、膝の上にトレイを置く。
「いただきます」
  両手を合わせて言って、スプーンを手にとる。
  セレナはそんな有希の仕草を、向かいのベッドサイドに座りながら見ている。
「みんな、もう良いの?」
  食べながら尋ねると、セレナはえぇと笑う。
「もうすっかり! ヴィーゴも私も必要ないみたい。ヴィーゴが、早ければ今日明日には王都にって言ってたわ」
「そっか……」
「あら。ユーキちゃん浮かない顔ねぇ」
  美味しくない? そう問うセレナに首を振り、胸につかえている違和感を吐き出すように呟いた。
「ねぇセレナ。どうして、患者さんをみんな一つの部屋に入れてるんだろう」
「へ?」
「だって、子供部屋もあるし、きっと夫婦の寝室だってあるでしょう? それなのにどうしてあちこちの部屋じゃなくて、隣の大部屋使ってるのかなって」
「……ユーキちゃん、まだ寝ぼけてる? それとも寝すぎて明日まで行っちゃった?」
「ちゃんと起きてる、つもり。――考えてみれば、今までもずっとそうだったなって思って」
  そう言った有希の言葉にようやく納得したのか、セレナはそうねぇと少し考える。
「理由は色々あると思うわよ。例えば今回なら、患者が五人に対して看病できる人が奥様一人。一人で沢山の部屋をかけずりまわるよりも一まとめにしておいたほうが看病し易い」
「あぁ、そっか」
  納得して、またスプーンを口に運ぶ。納得したが、妙にしっくりこなくてまた首をひねる。
「私たちが今まであちこち回ってきた間に一つの家を借りたりしていたのも、理由は一緒でヴィーゴがあちこちの家に回らなくても良いようにする事。それと、他の人間が下手に干渉して十日熱に感染するのを防ぐためっていうのがあるわね。看病する人間が多ければ多いほど、十日熱に感染する危険があるわけでしょう?」
(――あ)
  違和感の原因がわかって、妙にすっきりした。
(あちこちに居るから)
  緊張していた心のどこかがほぐれた気がして、食事を一気にかきこむ。
  これから自分のやりたいことが明確になった。今すぐ実行に移したくて、行動が急いてしまう。
「ユーキちゃん?」
「あたし、ご飯食べたらちょっと出てくるね」
「どこに?」
「フォル城」
  そう告げて、暖かい食事をろくに噛まずに口に詰め込む。もごもごと口を動かしていると、目の前のセレナがあっけに取られていた。
「フォル城って……ユーキちゃん、昨日の今日なんだけど……」
「ん、ぶぉめまもむまんんんまんめぼ」
「ごめん、飲み込んでから喋って頂戴……」
  有希は一つ頷いて、ごくりと飲み込んで、流し込むように水を飲んだ。
「うん、それはそうなんだけど、ちょっと話がしたくて」
「話?」
「フォルの人たちって、みんな家で患者さんを看病してるじゃない? でもそれって、同じ家に居る人を感染の危険に晒させているだけだと思うんだ」
「はぁ……」
「だってこのままだとミイラ取りがミイラになって、みんな十日熱患者になっちゃうよ」
「ミイラ? ミイラってなに?」
「えーと、ミイラっていうのは死体を乾燥させて長期保存させたもので……」
「え!? そんなものを取ろうとする人なんて居るの? そもそも取ろうとしたら同じく乾燥しちゃうの? すぐに? ユーキちゃんの国にはそんな妙ちくりんな技術があるの?」
「え? あ、いや、これはモノのたとえで」
「え? じゃぁ嘘なの?」
「いや、嘘じゃないけど」
「え?」
「え……と、とにかく! このまんまじゃ十日熱の人まみれになっちゃうって事。だから、フォル城に行って、十日熱の人を一所に集められないか相談してみる」
  そう言って、セレナを見据える。
「失敗した後、どうするべきか考える。セレナはそう言ったよね。――あたし、早くルカに会いたいけど、すごく心配だけど。……近くで倒れてる人を見捨てるなんて事、あたしできない。あ、もし薬がなくなっちゃったら、あたしリフェと一緒に薬作ってたから作り方覚えてるよ。あぁでも、薬草が無いかな。それだとしても、やっぱり……」
  言い訳をするようにつらつらと喋る。
「フォルの人たちを見放して王都に行くなんてできないよ」
  セレナは有希を見つめて、そして小さくため息をついた。
「揚足とられちゃったわ。……それで? ユーキちゃんは私にどうして欲しいの?」
「ヴィーゴさんを納得させるには、どうしたらいいかなって……」
  言いにくそうにぼそぼそと言うと、セレナがきょとんとした顔で言った。
「あら、そんなのは簡単よ」
「え?」
「昼食に酒を出せばいいのよ」
  そう言って、セレナはニッコリと微笑んだ。


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