第9話:襲撃者現る
世界暦2005年、10月2日、土節、正午。
「魔王様のあの構え、どんな技が出るんだ…?」
「シズ様の構え…あれは……」
半身を沈めて腰のカトラス型木装の柄に手を添え、真正面からシズを見据える俺。
対して両手でソード型木装の柄をしっかり握って振りかぶったまま、同じく真正面から俺を見詰めるシズ。
「「…」」
そしてそのまま互いに動かなくなる。
俺、そしてシズも狙うは一撃必殺…殺しはしないが、当分の間剣すら握れないほどの負傷を負わせるつもりだ。
先に動いたら殺られると言う言葉もあるが、互いに心中は穏やかではない。
『…このままじゃ埒があかねぇな…』
『微動だに出来ん…仕掛けるか…』
ちなみに上は俺の心境と、下は後にシズに聞いた彼女の心境だ。
当初はどちらもカウンターを狙っていた事が容易に伺い知れる。
そして…
―タンッ!―
―ダッ!―
「「!?」」
動いたのは同時だった。
シズは地を蹴って跳躍し、俺もまた地を蹴って跳躍する。
その違いはシズが上へ、俺が前への違い。
「おおおおおっ!紅蓮剣っ!!」
「無双御鏡流!跳び縮地・居合いっ!!」
互いに空中から強襲する技で一気に距離を詰める。
シズは上半身のバネを活かした、この試合最初の一撃を遥かに凌ぐ痛烈な唐竹割り…紅蓮剣って、アレ?
いや、火こそ出てないけどあの剣技だよな?
対する俺は縮地…一足跳びの高速突撃による速度を活かした、木装倉庫で見せた一撃を遥かに凌ぐ強烈な居合い抜きだ。
空対空・地対空…空中で交差し、すれ違う2人…。
―バキィッ!―
―ガランッガランガラガラ…―
やがて響いたのは硬い木が衝撃で粉砕する音。
…そう、2人の木装は互いの攻撃に耐えきれず刀身部分で真っ二つに折れ砕けてしまったのだ。
「シッ!」
「ふんっ!」
だが互いの攻撃は止まらない。
武器が破砕したのを確認するや否や空中でそれを捨て、着地と同時に体を反転…右の拳を相手の顔面めがけて渾身の力で放つ。
―ギシッ!―
だがこれは不発。
と言うより回避された。
互いが互いの右拳を、顔を左に反らして避け…不発と見るや左の手を互いの胸部めがけ…俺は掌底で突き、シズは手刀で振る。
―ヒュッ!―
―むにゅっ―
「あ…」
「…///」
シズが振るった手刀は俺の衣1枚のみを切り裂いた。
だが俺の放った掌底は何故か、シズの右乳房を…鎧の上からだが鷲掴みにしていた。
あれ?ドウシテコウナッタ?
「…スマン」
「いえ…///」
つかコイツ、召喚の間で見た時より大きくないか?
あぁ、ありゃ薄暗い部屋だったから見立てを間違ったのか?
騎士道一直線だから、鍛錬のし過ぎで筋張ってて硬いかと思いきや…手指に伝わる感触は意外や意外、鎧の上からでも十分に柔らかくて温かい。
こりゃDカップはあるな。
…って、そうじゃないだろ!!
俺は慌てて手を離し、誤魔化すように口を開く。
「…あ」
「…?どうしました?」
うむ、コイツが真面目な騎士で助かった。
急な話題変更でも上手く食いついてくれた。
「いや、互いに決め手が避けられたか不発に終わり…その後、双方がどうしようもなくなった場合って…しまったな…」
俺の呟きを受け…シズもその表情を、どこか困った風な物に変えている。
「…もしや魔王様も?」
「ああ…シズもか?」
「…恐らくは」
互いに手を突き付けあったまま動かない2人。
俺の考えている事が分かり、奇しくも同意見だったのか…俺もシズも殺気を解いて言う。
「「引き分けとなるルールを決めてなかった」」
「「ふ…あはははは」」
お前もかブルータス。
同時に言って同時に笑い出した2人。
俺は先に腕をほどき、今しがたまで突き出していた右手をシズに差し出した。
「ありがとう、良い試合だった」
「魔王様…この手は?」
「そうか、こう言う風習は無いのか…なら教えようかな」
古来より対等な立場で全力を尽くした試合は感謝すべきである。
また勝者は驕らず相手を見下さず、敗者は恨まず相手を見上げず…引き分けた時も互いに驕らず見下さず恨まず見上げず。
互いに健闘を讃えあい、互いが互いに巡り会えた事に感謝し…それも絆の証として手を交えるべし。
…俺の国に伝わる闘者の礼儀を、俺が義母さんと義祖母ちゃんに習った『無双御鏡流』と『氣闘拳』の挨拶に則った物だと教えてやった。
「なるほど…良い教えですね、魔王様…いえ、リョウスケ様」
「だろ?」
「では…良い試合でしたリョウスケ様、ありがとうございました」
言って手を差し出したシズが俺の手を握る。
その瞬間、周りから拍手が巻き起こった。
俺は照れ隠しも兼ねて、あからさまだがまた…話題の変更を行う。
「よし…そろそろ良い時間だな」
「と申しますと?」
「エンデとアヤだよ」
「もうそんな時間ですか!?」
そのセリフに俺は空を見上げる。
そこには燦々と輝く太陽が、今ちょうど頭上を通った後であった。
「朝やった御前会議がちょうど8時過ぎ…今12時だから4時間な」
ってか4時間もやりあってたのか!?俺達。
「魔王様…それは?」
シズが俺の腕時計を指差して質問を投げかけてきた。
うむ、やはり腕時計なんて物は無いな。
「これは『腕時計』と言う道具でな…俺が住んでいた世界にはありふれた代物だ」
「うでどけい…」
シズは俺の左手に填まっている腕時計が珍しいようだ。
「セブンシンズで時を知る方法は?例えば昼飯の時間はどうやって定めてるんだ?」
「セブンシンズで…と言うよりルクスリアでは、日の出と日の入り…及び南中を区切りとし、城の最上階にある鐘楼で鐘を突きますが」
「ふむ…じゃコレは言うなら、個人用の凄まじく小さな携帯用鐘楼って言ったところか?」
俺は調子に乗り、得意気になって腕時計の説明をしようとする…だが。
―カァーンッ!カァーンッ!カァーンッ!―
「ッ!?」
鐘楼のイメージとは違う甲高い音が立て続けに3回鳴り、それを聞いたシズや騎士団連中がにわかに殺気立った。
「ええいっ!こんな時に…忌々しいっ!!」
「おいシズ、今のは何だ?」
「あれは城最上階の大鐘楼を模して作られた吊り鐘で…あれが鳴るのは緊急事態を示すのです」
「緊急事態?」
「そうです…例えば」
言い止めてシズが訓練所の端にある櫓へ顔を向ける。
するとそこから血相を変えた1人の若い兵士が走って来た。
「敵襲!敵襲ーー!」
「…と言った具合に」
「何てこった」
俺は思わず頭を振った。
シズとガチでやり合って体調はイマイチだと言うのに…。
「今から俺が指揮を取る!各隊整列!」
ごちゃごちゃじゃ使うに使えんからな。
とりあえず並ばせといて…と、俺は近くにいた若い女性兵士を呼ぶ。
「そこの君!」
「ハッ!何でしょう?魔王様」
「兵装保管庫みたいな物はあるか?」
「ハッ!木装倉庫に格納された物の『真剣』が蓄えられた蔵があります」
「よし、じゃ君は今からそこに…気心の知れた奴2人と3人組で行って、蛮族弧刃を2本取って来い…それと、君のその両刃直剣を貸してくれ…あ!ついでに両刃直剣も1本よろしく!」
「3人組で蛮族弧刃2本と両刃直剣1本…了解しました!ではこれを」
言って俺が両刃直剣を受け取るのを確認し、真っ直ぐ走って行く女兵士3人組。
あの様子じゃ多分『何故3人組か』『何故1本だけ両刃直剣なのか』なんて分かっちゃいねぇだろうな~。
「さて…敵勢力の内訳は?」
俺は今しがた走ってきた、敵襲を告げた女兵士に向きなおる。
「ハッ!ルクスリア城北門正面の街道600mの距離にアワリティア軍220…内20は魔法使いです!」
「220人も居るのか…で、こちらで動ける兵士は何人だ?」
「ハッ!シズ隊長率いるルクスリアナイツが40、イオニス隊長率いる第二団体80…第三団体が100です」
宰相…文官のエンデは戦闘に不向きだがアヤちゃんは多分、いや必ず動く。
なら40+80+100+2……行ける!
「シズ!」
「ハッ」
「ルクスリアナイツを、お前を外して2人1組に分けろ!」
「了解しました!」
これで2人1組のルクスリアナイツが20組…それと+1人。
「よし…イオニス!」
「ここに」
「お前の隊を、お前を外して4人ずつの小隊に分けろ!ただし最低1人は回復魔法が使える奴を組み込め!」
「…なるほど」
言ってイオニスはすぐさま隊の解体にかかる。
そして第二団体も4人1組が20組+1人になる。
「ルクスリアナイツ各小隊10組はイオニス小隊をそれぞれ1隊ずつ率い、北門外側で鳳翼陣を敷いて挟み込め!」
「「「ハッ!」」」
それを見ながらイオニスが口を開いた。
「残るルクスリアナイツ小隊10組も私の小隊をそれぞれ率いて鋭尖陣を組んで…、私の小隊は魔法を打てる小隊配置で突撃…殿はリョウ様とシズ様と私、アヤ様で受け持つ…ですか?」
おおう、お株簒奪。
イオニスは軍師向き、と。
「良く分かったな~イオニス」
俺は思わずイオニスの頭を撫でてしまう。
いや、ちょうどいい位置に頭があったからつい…。
「…」
「あ…すまん」
「…いい///」
お?
イオニスは顔をやや紅潮させている物の、満足げに見えるではないか。
てっきり「子供扱いするな」って機嫌を損ねるかと思ったが…もしかして満更でもないのか?
「頭…撫でられるの、好き……でも他人は嫌」
「俺は良いのか?」
「……いい///」
頬を赤い染めて、もじもじするイオニス。
「先代のチルード様、シズ、アヤ…そしてリョウは私が認めた4人目…だからいいの…///」
いつの間にか俺の呼び方が『リョウスケ様』から『リョウ』になっている。
上目遣いで頬を染めて…ヤバイ、コイツも悩殺者かっ!?
アヤとは違う破壊力を秘めてるぞこの照れ方は!?
「そうか、ありがとう」
「ん」
「じゃ…行くぞ?」
俺はもう一度イオニスの頭を撫で、更に照れ隠し。
握った両刃直剣を振りかざし…。
「出撃だあっ!」
異世界初の『戦い』へと身を投じるのだった。
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