ブックリスト登録機能を使うには ログインユーザー登録が必要です。
第89話:筋肉紳士の修行と、思わぬ再会
世界暦2005年、10月23日、土節、AM10時10分。


春明Side

「ふぅん、そんなイベントがあるのか?」

「らしいわよ?グスタフが言ってたもの」

グスタフから聞いた知識を元に、俺達は今…ある街で開催される『武闘大会(トーナメント)』へ出場する為、その大会で商品を捌く商人の馬車の荷台にいる。

「でもアレだろ?その…何て言ったっけ?」

「シャリマの事?」

「そうそう、その国…インウィディアから海峡越えの大海橋が掛かってるらしいけどその橋…あのスペルビアの女王が世界統一(せんそう)騒ぎをやらかしたせいで、今は残り100m残して寸断してるって言うじゃねえか…この馬車、空でも飛ぶのか?」

グスタフの話によるとインウィディアは、海を挟んで向かい合う隣の大陸『エデン大陸』にある『ヴァルハラ国』と貿易同盟を結んでいるらしいが…今、その大海橋は完成間近…つまり両サイドから作った橋の結合まで後100mの段階になってスペルビア女王の企みが明るみに出た為、インウィディアとヴァルハラの両国は互いに降りかかる危険性を考慮し…現在、橋の建造を中止しているらしい。

「それが調べたところね?ハルと、ハルの友達でルクスリアの王様…」

「リョウか?」

「そうそう、リョウスケ陛下…ハルとリョウスケ陛下がスペルビア女王を撃退した事でとりあえず世界戦争…いわゆる『第二次聖戦(セカンド・ジハード)』勃発は回避されたってインウィディアは判断したらしいの…だからその瞬間にインウィディアはヴァルハラへ連絡を取り、両国共に自国から『土精霊(ノーム)』や土木職人、土属性魔法が得意な魔法使い達をかき集め…何と一昨日、橋を繋げたらしいわ」

土精霊(ノーム)は土を操る事が出来る。
操るとは単にその言葉の意味だけに留まらず、形状は元より量や硬さも自由自在――質量保存の法則、及び物理法則は無視して――だ。
その量や硬さの凄さたるや、着衣物も合わせて120kg以上にもなる俺が…その土で作られた階段の上で飛び跳ねてもなんら問題なく支えられるほどだ。

いくつかの部隊が、橋の両サイドに大量の土を運んで来て土精霊(ノーム)の到着を待ち…土精霊(ノーム)が到着し次第その『土を操る能力』を使ってもらい、途切れている両サイドから超圧縮した土で橋を繋げる。

後は土精霊(ノーム)が土属性魔法使いへ加護を与え…土精霊(ノーム)と一緒に、その繋げた土橋の下部…橋桁から海めがけて土属性の攻撃魔法『堅岩の突柱(ロックピラー)』を放てば先端が海底に到達…強度の高い、架橋支柱が出来上がると言う仕組み。
また架橋支柱の耐久性は柱自体が岩…つまり土属性なので、強弱関係属性論により海水による浸食など起こり得ない。

架橋支柱が完成すれば後は左官や石工が、出来た圧縮土橋に加工した石を並べ…見栄えを整えて完成。
後に兼ねてからインウィディアとヴァルハラで決めていた国境に線を引き、関所や税関を設ければ作業が完了する。

「…ってな訳よ」

「突貫工事だな」

「でも実用性は抜群よ?特に架橋支柱は柱は、何たって土精霊(ノーム)が唱えた『堅岩の突柱(ロックピラー)』だもん…長さも太さも硬さも耐久性もバツグンなんだから」

いやメルよ、知らないだけなんだろうが…女の子の口から『長さも太さも硬さも耐久性もバツグン』なんてセリフは間違っても言うんじゃない。
聞く奴によっちゃ惚気や蔑みにしかならんからな。

ふと、メルの幻が見えた。

『ハルのって、長さも太さも硬さも耐久性もバツグンなんだね』

…なんて事を、裸で…しかも微妙に潤んだ目のまま、上目遣いで…。

「ぉ……」

「…ハルどうしたの?突然、前屈みになんかなったりして…私何か変な事言った?」

思わず股間にテントを張った俺は間違ってないハズ…。

「…いや、良いんだ…気にしないでくれ」

「?」

俺の言った言葉の意味が分からなかったのか、俺の向かいに胡座をかいて座るメルが首を傾げている。

つかメル、今更なんだがな…女の子がスカートで胡座をかくな!
ピンクの三角形が丸見え…うわ!何ガン見してんだよ、俺!!

「…ともかくだ、その大会に参加して賞金や栄誉を得れば『メルの実家』も大人しくなるだろうって言うグスタフの意見はありがたい…」

そう…俺達は今、シャリマで開かれる大会に際して出店をする商人の馬車に『商人をシャリマまで護衛』と言う依頼で、今はそのシャリマへ向かう…つまり件の大海橋へ続く街道をひた走る馬車の荷台に座ってるのさ。

「そうね…けどそれは逆に私は『ディートリヒ家の娘である』と言うことを証明することにもなってしまう…だから盗賊や山賊に不要なちょっかいを出されず無駄な時間を費やさない為にも、ハルには闘気を放ち続けて貰ってるのよ」

メルの案には理にかなった部分もある。
今日まで何度も盗賊や山賊と戦って来たが、奴らは総じて『自らより弱い者』しか襲わない。

だからこそ、非力な女の子や子供を…たまに商人を襲う。
襲われた者の末路と言えば…もう語らなくてもいいだろう。

そして盗賊や山賊は自分より明らかに強い者…例えば戦士や剣士、魔法使いを絶対に襲わない。
ましてや騎士の乗る馬車など言語道断だ。
そんな盗賊や山賊の心理を俺達は利用した。

「闘気を使う作戦にしてもそうだけど、この方法(プラン)…『策略が不得手』って言うハルからは想像できないぐらいな策略ね」

「まぁ俺に思いついて、俺に実践出来る唯一無二の作戦だからな」

まずメルを通じてグスタフのコネを使い、知り合いと言う騎士から…騎士の、古いが現役の鎧を安く買う。
それを御者や商人自身に着てもらい、彼らを見た目は完璧な騎士に仕立て上げる。
騎士が使う鎧は多少古くても防御性能は折り紙つきで、貸し与える前に少し手入れすれば充分に使える。

次にリョウから貰ってあった許可証で『ルクスリア国章』を馬車の幌に描き、馬車及び御者や商人をルクスリアの物に偽装する。

「後は荷台でハルが周囲に闘気を放射し続け、私が『渦巻く火炎流(フレアトーネード)』を発射待機状態で保つ」

「御者と商人はニセモンだけど騎士…俺はとんでもない闘気を垂れ流しにする戦士で、メルは長時間火属性魔法を発射待機状態で出しっぱなしに出来る凄腕魔法使い…オマケに馬車はルクスリアの国章付き…盗賊や山賊が迂闊に襲える馬車じゃなくなるって寸法だよ」

ちなみにこのルクスリア国章を幌に書くのに許可証…俺の名前とリョウの名前が入っており、魔力に反応して文面の背景に隠されているルクスリア国章が光って浮かび上がる…ルクスリアの王政構成員と各国のネストの運営側のみが共通認識する、秘密の仕掛けがあったりする。

「まさかあのリョウが、俺なら絶対に参加しないであろう…貴族の夜会に参加するなんてな」

そう…リョウはあの、スペルビア女王との一件の後…ひょんなきっかけで修二さんのいる国が主催する、貴族が蠢く…本人の弁をして『腐った夜会』へ参加したらしい。

そこで…今やこの大陸各地に点在する、その昔『奴隷』として扱われていた…今やリョウの家族と化していた【従魔人(コボルト)】族が…そして修二さんと家族に…いや、奥さんとなった吸血鬼のクローディアさんが…心無い貴族によって侮辱される事件が発生。
案の定リョウは、奥さんを貶された修二さん以上に大激怒する。

「にしてもリョウスケ陛下って凄いよね」

「…んぁ?」

利手(みぎて)を失っている状態にも関わらず、イアイヌキって言う剣術でその…侮辱した貴族を真っ裸にしたんでしょう?」

「ああ…ついでにその女貴族がしていた『不細工な上げ底』の存在を周囲に露見させ、同時に貴族のプライドとやらも木っ端微塵に破砕してな」

公衆の面前で真っ裸にされ、同時に胸の詰め物(パット)の存在を周囲に晒されたその女貴族も当然怒ったらしいが、それでもリョウにはかなわなかったらしい。

「聞いた話、リョウが食ってかかったその女貴族な?アワリティアでは五大貴族の第一位なんだけど、胸も第一位らしいぞ?」

「…何ですって!?ちょっとハル、さっき『不細工な上げ底』って…」

「いやいや良く聞けって、小ささがアワリティア一位らしい…ぷぷ」

「はぁ!?」

「曰わく『すとーん』、曰わく『断崖絶壁』」

「ちょっとハル!?」

「いやメルの事じゃねぇよ…その女貴族の胸の話さ、お前さんはその貴族より大きいって」

「ホント?ホントにそう思う!?」

「実物見せて触らせて揉ませたのはお前だ…あ///」

「……///」

言って互いに真っ赤になる。
またさっきのイケナイ幻が蘇ってきた。
つか先に言っとくな?

俺、メルに食われちまったのさ…グスタフを熨したあの日の晩にな。

「…おいメル、手元の『渦巻く火炎流(フレアトーネード)』消えかかってんぞ」

「…ハルこそ、闘気が緩くなってるわよ」

結局、リョウはその後自国へ帰り…自らの名を語る狼藉者の出現を防ぐ為、自らの血を用いて新しい魔法『絆の血印(ハードノット)』を完成させたんだ。

「とまぁ…そんな経緯があり、俺はこうして『正規』のルクスリア国章を得る事が出来た訳だが?」

「にしても自らの血を用いなければ崩れて使えなくなる許可証ね…って、あら」

メルが荷台の幌の隙間から首を出し、進行方向を見て何かに気付いたらしい。

「どうした?」

俺もメルの上から首を出し、メルの気付いた物の正体を知った。

「これがその橋か」

綺麗に磨き上げられた石が規則正しく隙間なく並び…先ほどまで絶え間なく続いていた車体の揺れは、橋にさしかかった瞬間ピタッと無くなる。

「やっぱりこの時期は通行者が多いわね」

見れば橋の上は商人と思わしき馬車の隊列と、検閲に赴いたヴァルハラ国軍兵士やその隣のシャリマ国軍兵士でごった返していた。
ここから見えるだけでザッと50台以上の馬車。
それらが全て商人の馬車隊(キャラバン)だと思うと、商魂ここにあり…という感じがする。

「これ全部、商人の馬車だよな?」

「そうよ?恐らくはシャリマで開かれる武闘大会(トーナメント)に参加する傭兵や、見物客を相手取って一山当てようと言う商人たちよ」

「…そういや俺たちが乗ってるこの馬車の商人も、そのトーナメントで稼ごうってハラの商人だったっけ」

「ええ」

国軍兵はヴァルハラ国軍兵が通行許可を出した後、シャリマ国軍兵が荷物を検閲する…というサイクルで動いているらしい。
前方ではちょっとした騒ぎになっているが、恐らくは荷物が原因だろう。

「商人さんよ」

「何でしょう?」

俺は自身が護衛している商人を呼ぶ。

「ここまで来たら強盗や盗賊も襲ってはこないだろうから、とりあえず鎧を脱いだらどうだ?」

「ですね」

―ガチャガチャ…―

言われて鎧を脱ぐ商人と御者。
着慣れぬものを着ていたせいか、商人・御者共に額には珠のような汗が浮かんでいた。

「それと、目録みたいなものはあるか?」

「商品目録のことでしょうか?」

「ああ、それだ…それに書かれている商品の一覧を、今の内に目録通りの順に並べ替えた方がいいぜ」

「そうですね…」

見たところ1台の馬車に付き検閲に要する時間は、馬車1台に対し兵士3人で20分。
どれだけ商品を満載してるんだ?ってか検閲の兵士が効率悪いのか?とも思うが商品目録の通りに商品が並んでれば、検閲の兵士もチェックはしやすいだろう。

そんな事をやっているその時だった。

「貴殿らも我がシャリマで店を開く商人だな?」

俺たちが乗っている馬車の荷台の幌が突然開かれ、俺たちは反射的に身構えた。
するとその反応に、馬車の幌を開けた人物はパッと表情を変え…ぺこっと頭を下げて言った。

「っと、驚かせてすまない…私はミャービ・シャルダス・ハザ…、オホン…ミャービ・シャルダスだ…貴殿らが店を出すシャリマの女王さ」

「シャリマの…」

「女王陛下!?」

驚く御者と商人、そしてメルだったが…

「あれ?」

俺だけは驚かずにいた。
何故ならシャリマ王ミャービとやらの顔や風貌はとても懐かしく、それでいて俺が良く知る人物のそれに酷似していたから。

「…どうしたの?ハル」

「ハル!?」

メルの呟きに対し過敏な反応を示すミャービ様。

「あぁ、俺の名前ですよミャービ様…俺の名前はハルアキ・ハザクラ…傭兵です」

「ハルアキ・ハザクラ!?」

俺の自己紹介を受け、ミャービ様は酷く驚いたようだ。
そして俺の顔や体をまじまじと見つめた後…こんな事を言った。

「ハルアキ殿は、体に…いえ、全身に重りを装着してらっしゃいますか?」

「は!?ちょ、何で女王陛下がそれを知ってらっしゃるんで!?」

そう、俺は全身にウェイトアンクルを計80kg装着している。
しかしそれはリョウやその義妹でクラスメートの綾子、修二さんや死んだ姉貴…こっちじゃメルやグスタフ、スペルビア王エフィレイト位しか知らない事のはずだ。

「ハルアキ殿は3対50事件をご存知で?」

「3対50事件…ウソだろ!?あの事件は俺や修二さん、リョウや『ば会長』と…それに事件の被害者たる芽衣子やリョウと『ば会長』の親しか知らない事のはずだぜ!?アンタ一体…」

曲がりなにも地球の、それも星舞に住むごく一部の人間しか知らない…俺が力の賢者と言われ…

「ハルアキ殿は【勇気の賢者】【知恵の賢者】【力の賢者】が居ると言われる『聖丘三賢者』の一人【力の賢者】でいらっしゃいますね?」

「なんてこった!アンタは読心術でも使えるのか!?」

もう頭がどうにかなったとしか思えない。
今ミャービ様が言った『【勇気の賢者】【知恵の賢者】【力の賢者】とが居ると言われる聖丘三賢者』とは、件の『3対50事件』の後、俺とリョウ…それに修二さんに付いた恥ずかしいあだ名。

【勇気の賢者】はリョウを…
【知恵の賢者】は修二さんを…
そして【力の賢者】とはこの俺の事。

しかしその『三賢者』に関する情報は聖丘高校の中でもトップクラスの機密となっており、あだ名には『ばか』が含まれるが生徒会長たる信一郎先輩の計らいもあり…学内で三賢者の事を調べるのはタブーとされている。

しかし、そのタブーを今更…どうしてこんな異世界(ラグナロク)の、どうしてこんなセブンシンズ大陸とは違う大陸の…どうしてこんな、一国の女王が知っているのか。
…なぜ女王自らが荷馬車の検閲を?と言うのは、それこそ今更だから置いとく。

訝しげにミャービ様を見る俺と、何か期待に満ちた表情で俺を見るミャービ様。
そして次の瞬間彼女が放った言葉に俺は、意識を手放しそうになった。

何故なら彼女は俺の耳を見て、心底嬉しそうな表情をした後…今気づいたがその豊か過ぎる胸に俺の頭を抱きこみつつ…

「ありがとう、はる君…お姉ちゃんが誕生日にプレゼントしてあげた、スターリングシルバー925のイヤーカフ…ちゃんと付けてくれてるんだね」

と言ったからだ。

「…」

「………」

「…?」

「…」

「……」

「…??」

そのセリフに沈黙する俺たち一同。
そして…

「えええええええええええええええええええええっ!?」

「ミャービ様がハルのお姉ちゃん!?」

「嘘だろおおおおおおおおおおおおっ!?」

そんな絶叫が、橋上真っ只中で木霊したのだった。


+注意+
・特に記載なき場合、掲載されている小説はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
・特に記載なき場合、掲載されている小説の著作権は作者にあります(一部作品除く)
・作者以外の方による小説の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この小説はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この小説はケータイ対応です。ケータイかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。
小説の読了時間は毎分500文字を読むと想定した場合の時間です。目安にして下さい。