第8話:歩む者、失った者
世界暦2005年、10月2日、土節、腹具合から10時頃(涼輔の推測)。
「ほお…一般的な両刃直剣型や短剣型だけじゃなくて、片手棍棒型や槍型…はたまた短柄直槍型や両刃斧型まであんのか…で、こっちは…おわっ!蛮族弧刃型や両刃大剣型なんて物まであるのか」
俺はシズに案内され、訓練場脇にある木装倉庫に足を運んでいた。
ここはこのルクスリアの対外敵用戦力である『ルクスリアナイツ』がその身と技を磨く為に使う、言わば模造刀を納めている倉庫だ。
「魔王様…どの武器を選ばれても構いませんが、魔王様とてもしかすると前線で戦っていただく事もあるやも知れません…なので今からここで私にお力を見せていただくのと同時に、ご自身に合った武器をお知りになるのも良い機会かと思われます」
そりゃそうだ。
もし戦争になれば俺は自陣奥でアレコレやる軍師型ではなく、前線でガンガンやってる武将型だと俺は思っている。
なにより『メッキ技』を使えばそこそこ指示は出せるだろうが、それでも本当の軍師には25%及ばない。
ましてや戦時中はその25%の至らなさが容易に味方の、己の…ひいては自国の敗因となりうる。
「自分に合った武器か……欲を言えばカタナなんだけどなぁ」
「カタナ?カタナとはどのような武器なのです?」
「あ~、やっぱ無いか…カタナってのは……柄が約25cmで刃が60cmぐらい、刀身は厚みのある鋼で作られていて、美しい刃紋が特徴の切断武器さ」
「美しい、刃紋?」
「あぁ、カタナは作る時多くの熱を使うんだ…その熱で刃の一部に模様が浮かび上がるんだけど、それは100本のカタナがあれば100本全て模様が違うのさ…」
「なるほど」
「ま、ここにある武器で近いと言えば…コレだろうな」
言って俺は、素人見でもまだ新しいと分かる蛮族弧刃型を手に取った。
「ん~…やっぱ軽いな」
日本刀の木装なら木刀になる。
だがその刀身はこの蛮族弧刃と比べて太く重い。
それ故、握った手には馴染み深い木刀の重さが染み付いており…蛮族弧刃の重さじゃイマイチ不安になる。
「正気ですか魔王様!?」
「ん~?何が?」
と、蛮族弧刃型木装を手に取った俺を驚愕の表情で見つめるシズ。
何がおかしいのか分からない俺は、思わず真顔でその真意を問う。
「その蛮族弧刃型は先々代の頃、海を経由して攻めてきた蛮族の武器を模した物…しかしその曲がった刀身ゆえ誰にも扱う事が出来ず、作った物の今や木装倉庫の肥やしとなりつつある物…それで私とやりあうにはハンデとしても大きすぎます!とても公平な試合と言うわけには…」
…あぁ、蛮族弧刃型の真髄を知らなかったのか。
そりゃそうだよな…この世界にある、主な用途が武器として扱われる刃物はほとんどが『両刃直剣』で…片刃の剣と言えば『牙剣』や『片刃曲刀』が主流。
そしてそのいずれの片刃剣も、鞘から抜いた『抜刀状態』での運用を想定して作られている。
曲がった鞘に収まった曲がった剣なんか戦力外もいいとこだ…とシズは言いたいのだろう。
「これは『曲がって』んじゃなくて『反って』んの…まぁ見てな?無様にゃ終わらねぇから」
―ヒュッ!―
腐っても『無双御鏡流』の教えを受けた日本人ならやっぱりカタナがいいけど。
俺は蛮族弧刃型を腰に構え、居合い抜きの構えで抜刀…その切っ先をシズの首に寸止めする。
「ッ!?」
ただ辛うじてその手が、腰の鞘に納まった剣の柄を握るだけでシズは動く事ができなかった。
「この反りがあるから、抜刀の速度は天下一品…ってな具合だな」
「…今ので勝負は決したのでは?」
「ばーか、今のは不意打ちで『公平』じゃねぇだろ?」
抜きの速さが活かせるのがこの反り形状だ。
もっとも蛮族弧刃の反りは抜刀を考えての形状ではなく、振るわれた武器をいなして弾く為の形状だが。
それにこれが真剣ならシズは既に物言わぬ屍と化していただろう…だが玉座の間にて挑まれたのはあくまで『試合』であって『戦争』ではない。
「なるほど」
「じゃあ俺はコレで行く、シズは?」
「では…私はコレで」
言ってシズが手に取ったのは、自身の腰に携えたのと同じ両刃直剣型木装だ。
「じゃ、行こうか」
「ハッ」
やってきたのは約10m四方の石造りの舞台だ。
いつの間にか周囲にはルクスリアナイツやその候補生、その他衛兵や城の文官達も集まっていた。
「隊長!負けないで下さいね!!」
「案ずるな、もとより負けるつもりはない」
部下と思わしき女の子から声援を受けるシズ。
彼女はそれに凛とした声で答える。
「魔王様、ご健闘を」
「ま、やるだけやるさ」
対して俺に声をかけたのはアヤちゃん御付きの給仕…メイドさんだ。
正直『第一騎士団団長』相手にどこまで通用するかは分からない…だからやれるだけやると答えておく。
そして両者が舞台上で向かい合った瞬間、それまで周囲で起こっていた騒乱が静まった。
シズが言う。
「勝敗は気絶するか降参、あるいは場外落ちで負け…まちがっても殺しはしませんが」
「それで良いだろう…多少の怪我はご愛嬌ってことだな?」
「その通りです…では開始の合図はどの様に?」
「じゃあ…今からこのコインを上へ弾き上げるから、それが地面に落ちた瞬間って事で」
これは俺の道標。
綾子から貰ったコインで、例えば2択を迫られた場合の決定指標なんかに使う事が多い。
ちなみに表ならYESで裏ならNOと決めており、先に経験した『魔王就任』の話が来た際は【汝、この役職に就任しますか?】と自分に問いかけてコインを投げた訳だ…何度やっても表しか出ないんだけど!
―チィン―
俺はコインを指に乗せ、そしてそれを空へ弾き上げる。
そして…
―チャリンッ!―
「「ッ!」」
落ちた音が耳に届くのと同時に俺とシズは互いに向かって駆け出した。
「ふっ!」
先制攻撃はシズ。
ダッシュで距離を詰める際に抜いたソード型木装を、最上段からまっすぐ振り下ろす。
―ダン!ザザザッ…ビュッ!―
俺はそれを見切り、突進で踏み出した足を軸に左へステップ…そのまま体を捻り、シズの脇腹を撃ち抜く勢いでカトラス型木装を振りぬく。
―ガコッ!―
―シュバッ!!―
シズは今振り下ろしたソード型木装を振り戻して脇腹への一撃を防ぎ、そのまま俺に右前蹴りを放つ。
対する俺は前蹴りを思いきり屈んで避け、体が沈みこむ勢いを利用して屈身下段後ろ回し蹴りでシズの左足を刈りにかかる。
「チィッ!」
―ザッ、ササッ…―
だがシズは舌打ちをして一瞬であしばらいを見抜くと寸差で跳躍して後退、俺から距離を取った。
俺は即座に追撃、着地の一瞬で決めようと目論む。
―カッ―
だがシズはそれを見越していたのか…ソード型木装の切っ先を滞空状態から舞台に突きたて、空中で姿勢を立て直し…一瞬生まれる静止状態から体を前に倒し、空中前転をしながら切りかかってくる。
身長差なんてまるで関係ないなコイツはっ!
―…ビュオッ!!―
「クソッ!」
俺は加速のために踏み込んだ足をその場で回転させて軸足とし、速度を回転力に転化させてそのソード型木装を、自分のカトラス型木装でカチ上げる。
―ザリザリッ!ビュンッ!!―
―ガガッ!!!!―
シズの着地の瞬間に交わる互いの刀身。
否が応にも鍔迫り合いの姿勢になった俺は、同じく鍔迫り合いの姿勢になったシズに言った。
「クソ…あのタイミングで攻撃を仕掛けるとは…」
「いえ、魔王様こそ」
…ヤベェ、楽しいぞ?
体が芯からワナワナしてるのが感じる…これが武者震いってやつか?
―ザザッ―
俺は緩い速度で膝蹴りを仕掛け、それに一瞬気をとられたシズの隙を突き距離を取った。
「よし…次で終わりだ」
言って俺はカトラス型木装の柄を握ったまま腰の鞘に納める姿勢になり、足を前後で肩幅ほど開き体を軽く沈め…いわゆる居合い抜きの姿勢で構える。
「木装倉庫で見せていただいたあの剣術ですね?良いでしょう…私も奥義を使わせていただきます」
シズはソード型木装を両手で持ち、それを右肩から後ろに回し…同時に両足を前後に軽く開き、前に出している左足の膝を軽く曲げて立つ。
「「行くぞっ!」」
***一方その頃***
日本暦2005年、10月2日、AM8時20分。
綾子Side
「どこに行ったのよお兄様ぁ…」
その手に大量のフライドチキンが入った袋を提げ、泣き腫らした眼を真っ赤にし…今なお泣きそうな顔をして私は言う。
日付的には涼輔義兄さんが消えた日の翌朝。
私は義兄と血が繋がっていない…と言うより義兄さんは昔、お母さんが拾って養子に加えたと義母さんや父さん…そして本人から聞いてる。
それでもみんな仲良しだし、誰も非実子を気にしない。
…むしろ今となっては義兄さんが私と血の繋がりが無い事の方が大事。
私は本来なら8年前、死ぬはずだった。
父さんが仕事で家におらず、義母さんとお義祖母ちゃんが道場で講師をやってたその日…ノルマの鍛錬を終えた私は、鍛錬の済んだ夕方…義兄と一緒にTVを見ながらジュースを飲んでたの。
義兄のコップに入っていたコーラが無くなっている事に気が付いた私は、そのコップを再びコーラで満たす為、台所の冷蔵庫へコーラのボトルを取りに向かった。
そこで対峙したのだ…現在指名手配中の、これまで4人を殺害した連続殺人犯と。
犯人は私を殺そうと襲いかかってきた。
でもそれは義兄により阻まれ…兄は顔に大怪我を負ってしまう。
そして駆けつけた母さんの一撃で倒れ、相手は捕まった。
そう…思えばその時以来だ……私は義兄さんを『義兄』として見れなくなったのは。
身を挺して私を庇ってくれた義兄さん。
義兄さんの事を考えると胸が苦しくなる、眼が回る、息が荒くなる、思考がまとまらなくなる。
時にはどうしようもなく切なく、寂しくなる…身も心も。
原因が義兄さんである事を隠し、学校内でも【天才】と名高い…義兄さんの親友に相談した。
私に出た答えは『恋患い』だった。
それを聞いて妙にスッとした反面、義兄さんを恋愛対象として見ている自分が分かった。
そしてその時以来私は、血が繋がっていないのを良い事に義兄さんを欲しがるようになった。
それ即ち…もう私が彼を義兄・涼輔ではなく、肉体関係対象・涼輔として見ている証。
例えば朝まだ寝てる義兄さんのベッドに半裸やほぼ全裸、あるいは完全に全裸で潜り込み…義兄さんにしがみついて寝てみたり、義兄さんの誕生日プレゼントには私をプレゼントしたりは当たり前。
義兄さんには他の女の人の裸を見て欲しくなくなってもいたから、義兄さん秘蔵のエッチな本…グラビアのスクラップブックは中身を全部私の写真にしたし…義兄さんの携帯は全て(待受画像・着信メロディ)私1色にした事もある。
義兄さんがお風呂に入りたがってるのを察したら先回りして『私ならいいよ?』と言う意味を込めて色々アピールしながら脱いで…「あらお兄様、一緒に入る…いえ、カラダを洗って欲しいのですか?」…って誘ってみたり。
こないだはまた義兄さんのベッドに潜り込んで、義兄さんの…いえ、男の『朝バナナ』を(勝手に)触らせてもらってたりした。
…大きくて立派だったなぁ……。
昨日も兄に「今日こそは」と迫ったのだが、何とシャツを囮に逃げられてしまう。
そしてそのまま兄は消えてしまった。
あの時シャツになんか眼もくれず、私も家を出ていれば良かったと考えると悔やむに悔やめない。
だって、義兄さんの寝汗をたっぷり吸い込んだシャツよ!?
プレミアアイテムなのよ!?…飛び付かない訳無いじゃない!
私が育てた自身の独占欲を、あれほど恨んだ事はなかったわ……。
「あ、どうでした?春明」
また別のコンビニエンスストアから、同じく大量のフライドチキンが入っていると思わしき袋を提げたクラスメートで親友の葉桜 春明が姿を現した。
「昨日の朝も今日の朝も来てないってよ」
「そう…」
父さんも義母さんもお義祖母ちゃんも必死に探してる。
見下すわけじゃないがこの街…S県不知火市は小さい。
電車は通ってるけど駅までは歩いて30分かかるし、本数もそんなに多い訳じゃない。
だから警察に捜索願いを出すまでも無く、私達だけで捜索してるの。
義兄さんは登下校の途中必ずコンビニでフライドチキンを大量に買う。
だから今日はクラスを超えた親友を揃えて、最後に立ち寄ったと思わしきコンビニがあるここ星舞商店街を捜索中。
「お、いたいた」
「修二さん…」
今もまた先輩で義兄さんの親友でもある…三枝 修二先輩が、私や芽衣子と同じように大量のフライドチキン入りの袋を提げてハミマ…ハミルーマートから出てきた。
私や春明、修二さんがフライドチキン入りの袋を提げてるのは、これが義兄さんの大好物であるからに他ならない。
…匂いに誘われて出て来るかなって。
でも全員が全員フライドチキン袋を提げている為、辺りに立ち込める匂いは凄い事になっている。
にしても、これだけ探し回っても見つからないなんて…やっぱり義兄さんの首に首輪を、いえ…
「私が尽くすんだから私に首輪を付けて…」
「ふ、尽くす愛か…君らしい」
「綾子!口に出てる出てる」
…あら。
「…冗談ですよ?」
危ない危ない…危うく私の理想を暴露するところでした。
「にしても、どこ行ったんだろうな…聖丘の【勇気の賢者】は」
そう…義兄さんは聖丘高校にて『聖丘三賢者』の異名を持ち、3人いるとされる超人達…通称『三賢者』の中で【勇気の賢者】と呼ばれている。
ちなみに三賢者はその名の通り三人いて、義兄・涼輔を『勇気の賢者』としてあと『知恵の賢者』『力の賢者』と言う異名で呼ばれる2人がいる。
そして凄い事に『勇気の賢者』の事以外、誰も『知恵の賢者』と『力の賢者』の人物像や正体を知らないと言う。
「貴方達…」
と、うなだれる私達に声をかける人。
私達が振り返るとそこには妙齢の女性がいた。
「あの、失礼ですが貴女は…」
「あ、ごめんなさい…私、オーゾンの店員やってる南 七魅って言うんですけど」
南 七魅さん?
…知らない人だ。
「春明、お知りあいですか?」
「うんにゃ、俺は知らない人だ…修二さんは?」
「僕も知らないな」
ふむ、全員面識は無い…と。
「えっと、どういった御用ですか?」
「貴方達、そこの聖丘高等学園の生徒よね?」
「「「「えっ?」」」」
あれ?どうしてこの人…私達の事を知ってるのかしら?
「どうして…私達が聖丘高等学園の生徒だと?」
「そこの体が大きく逞しい貴方、今…誰かの事を『勇気の賢者』と呼びませんでした?」
「ええ、それが何か?」
「最近ちょくちょく来てくれる子がね?いつも『あのドアホめ…ヒトの事【勇気の賢者】だなんて厨二臭満載の名で呼び、あまつさえパシリだと?今度公衆の面前で言ってんの見かけたら、それこそ俺の無双身鏡流剣術の実験台にしてやる』って話してくれてたから」
最近ちょくちょく来てくれる子?
その人が『ヒトの事【勇気の賢者】だなんて厨二臭満載の名』を『俺の無双身鏡流剣術の実験』って!?
まさか…。
「ちょっ…」
「その人、身長はこの人と同じ位で…顔の左半分に大きな傷痕ありませんでしたか?」
もう確信した。
多分義兄さんの事だ。
私は話を切り出す事にする
「ええ、あったわね…なんでも小さい頃妹さんを庇って付いた名誉の負傷とかなんとか」
「ああ…義兄さんだ……」
私はようやく掴んだ情報に思わず目頭が熱くなった。
「あら、じゃ貴女が庇ってもらった妹さん?」
「ハイ!それで…その人なんですど、昨日の朝から行方不明で…」
私達は1つでも多くの情報を得る為、この人に聞き込みを始める。
アイコンタクトで気付かれないようこの人を全員で包囲するのも忘れない。
「あら?そうなの?確かその人なら昨日の朝も大量のフライドチキン買ってたわよ?」
「え?」
「そう、今の貴方達みたいに」
そのセリフに私は眼を丸くした。
昨日の朝も大量のフライドチキン買ってた?
「本当ですか!?」
「ええ本当よ?だって私、朝から早番で開店前から店にいたし…でもヘンなのよね」
「ヘン…とは?」
「その人ね?接客した私が言うのもおかしな話なんだけど…突然消えたのよ、店の店頭で」
消えた?
消えたって…え?
「それ、どこですか?」
「私が務めてるオーゾンの事?それならここから路地1本外れた、商店街の入口よ?」
「義兄さんはどこで消えたんですか!?」
「店の前…店の前にドウダンツツジを植えてる植え込みがあるんだけど、そこの前で突然…忽然と消えちゃったの」
「裏路地のオーゾン前、ドウダンツツジの植え込み…ありがとうございますっ!」
私は駆け出した。
私の足ならここから2分とかからない。
『義兄さん、義兄さん、義兄さん、義兄さん、義兄さんっ!』
そして駆けつけた私が見つけた物。
それは握る部分にまだ沢山の肉を残し…先端部に無数の歯型が付いた、義兄さん特有の食べ方で食べられたと思わしき1本の…フライドチキンの骨だった。
+注意+
・特に記載なき場合、掲載されている小説はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
・特に記載なき場合、掲載されている小説の著作権は作者にあります(一部作品除く)
・作者以外の方による小説の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。
この小説はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この小説はケータイ対応です。ケータイかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。
小説の読了時間は毎分500文字を読むと想定した場合の時間です。目安にして下さい。