第79話:炸裂!魔闘技
世界暦2005年、10月21日、土節、昼過ぎ
春明Side
「オラッ!」
「ふんっ!」
―ブンッ!―
―ジャッ!―
俺の繰り出した右のフックは、グスタフの繰り出した右のフックをすり抜け…相手の顔へ届くかと思ったが、グスタフが首を左へ傾げた為不発。
だがそれはグスタフも同じ…互いのパンチは互いの頬を擦り、薄皮を削る。
「クロスカウンターをあのタイミングで捌くとは」
「ふ、つくづく強敵だ…なっ!」
―ヒュバッ!―
―ガコッ!―
言って同時に繰り出した膝蹴りは互いの蹴り足を直撃し…
「ぐっ!?」
グスタフがわずかに顔をしかめる。
「膝は鍛えてなかったかぁ!?」
―ドスッ!―
「ぐはっ!」
6つに割れた腹筋…通称シックスパックの丁度真ん中へ俺の放ったボディブローが炸裂。
「く…ぬぅんっ!」
―ボゴォッ!―
「ぐはぁっ!」
だが奴はそれを受けた上で、俺にボディブローを放った。
俺の腹筋に刺さるグスタフの豪腕。
くぅ…スペルビア王のパンチより重い。
「はっ!」
―ドンドンドンッ!―
そんな俺の腹筋めがけ立て続けににまた3連ボディブロー。
「ぐっ、うっ、がはっ…ぐ、くぉのヤロ…オラァッ!」
―バキィッ!―
腹を打たれた姿勢を利用し、そこから伸び上がるような勢いを伴って俺のアッパーカットがグスタフの顎を綺麗に捉えた。
「ぐうっ…」
下から突き上げられる事により、無防備な腹を晒すグスタフ。
チャンス!
「パイル…バンカーッ!」
俺は右足を踏み出しつつ、アッパーカットで伸ばした腕をそのままグスタフの腹部へ叩きつけるように…
―ドンッ!―
渾身の力を込めて放つ!
―ドゴォッ!―
おおよそ人体を打ったとは考えにくい音がして…
「ぐおおおおおっ!」
―バギャッ!―
―バキッ!バキバキバキ…―
―ガラガラガラガラ…―
―ドドドドォッ…―
グスタフが錐揉み回転しながら吹き飛び、大通りにあった露店の軒先の品物の山へ突っ込んだ。
「ぐ、は…効いた……パイルバンカーか…」
軒先に作った瓦礫から立ち上がり、腹をさするグスタフ。
腰のポーチから金貨を2~3枚、品物の山を壊された店主へ投げ渡す辺り実に紳士だ。
「もいっこ技あるけど、見せる隙がねぇな」
「フッ、そう簡単に隙など見せん…
―ザザッ!―
「ッ!?」
…よっ!」
―ドムッ!―
言い終わるが速いか神速の踏み込みで接近し、その勢いを蹴り足に乗せた恐るべき破壊力を持った中段回し蹴りを俺に放つグスタフ。
「がはあっ!」
―ドガッ!―
その蹴りは俺の胸部にジャストミートし、俺はハデに吹っ飛ばされる。
吹き飛ばされた先は背後にあるマーセナリーズネストの建物外壁。
「がっ…」
背中から叩きつけられた俺は、図らずとも肺の空気を全て吐き出し…瞬間的にだが呼吸困難に陥った。
「どうです?私の『シルフ』は」
シルフ?
シルフって言ったら風精霊の事だよな?
「…っは…はぁ、どう言う事だ?」
「…こう言う攻撃に驚かないで欲しいですね…ノーム!」
―ドンッ!―
言ってグスタフが地面を踏みしめると…
―メキメキメキッ!―
グスタフの踏みしめた地面が爪先から激しく隆起し、隆起した部分が幾本もの鋭い槍と化し…先端が俺に向かって突き上がってきたではないか。
「チッ!」
―バガガガガガガッ!―
それらを全てパンチで砕き散らし、俺はグスタフから距離を取った。
「…お見事」
「まるで魔法だな…まさか『ウンディーネ』や『サラマンダー』なんて技もあるんじゃないだろうな?」
「ええ、あるにはあります…が、ウンディーネは小道具として水分が無ければ使えませんし…サラマンダーはまだ未完成なんです」
何てこった。
コイツぁとんでもない強敵だぜ…徒手空拳の戦いのクセに、身体能力だけで魔法と同じ効果を持った技を使えるなんてな…。
「ちなみにウンディーネは口の中に貯めた水を、頬の筋肉と上下の顎の力で圧縮し『水流の矢』と同じ効果で撃ち出す技…またサラマンダーは、体を擦って発生する熱を物理的に発射する技でして……これらの技『魔闘技』を纏め、使い手の事を『魔闘士』と呼びます」
『魔闘士』…つまるところ、擬似的な魔法を使う闘士の事だな。
にしても摩擦熱を物理的に飛ばす…か
―ブンブンッ!―
ダッシュで接近し、下段回し蹴りと中段後ろ回し蹴りでグスタフに揺さぶりをかけつつ俺は思案する。
「く…ふん!」
―バシッドガッ!―
ローキックを同じローキックで止め、バックスピンミドルキックは左腕で弾いて防御…立て続けに右フック→左ボディブロー→ノーム→右アッパー→シルフの連続攻撃を放つグスタフ。
「ぐっ…ふっ、オラオラオラオラ!ハッ!…ぬおっ!」
それら全てをかわし、撃ち落とし…当たらぬようにしていた俺だったが…
―ズバァッ!―
「ぐぁっ!」
シルフによって巻き起こされたカマイタチだけは避けきれず、俺の鼻の頭に真一文字の裂傷が出来る。
「…浅かったですね」
「にゃろう」
幾分ボコボコに腫れた顔でにこやかに言うグスタフに対し、鼻の頭の血を拭いつつ…薄ら笑いを浮かべながら立ち上がる俺。
…とその時。
―シュッ、ボッ―
視界の端で、俺達の決闘を見ていたギャラリーの中に…くわえたキセルに、マッチで火を点けるオッサンの姿が目についた。
『マッチで火を…あ!』
そして閃いた。
これならグスタフの鼻を明かせる、と。
―パンッ!―
俺は両手を眼前で合わせ、左手を下にして左腰に構える。
「何を?」
「今思い付きの新技だ」
「新技?」
「ああ…食らえっ!俺式…」
―ドンッ!―
言って俺はグスタフ目掛けて震脚で突撃し…
―ジャッ!―
腰構えにした両手の内、上側にあった右手を…下にある左手へ全力で押し付けつつ、勢い良く…まるで手裏剣を投げる如く振るう。
「サラマンダー!」
―ゴウッ!―
すると手が火を噴き、吹き出した火は手を振った軌道通りに中空を飛び…グスタフの体へ、右脇腹から左肩へ駆け上がるような形で直撃する。
―ドンッ!―
「ぐはっ!」
意外に質量があったらしい火炎を受け、堪らずグスタフはたたらを踏んだ。
「へへっ、どーよ?」
「まさか…あれだけの技解説だけで、正規サラマンダーを打ち出すとは」
「へぇ?じゃアレ、本当にサラマンダーなのか?」
「うむ…ぐっ!」
言って胸の傷を押さえるグスタフ。
俺が付けた傷は酷い火傷になっており、ところどころ皮膚が焼けただれ…出血もみられる。
「く…ハルアキの鼻頭に付けた傷と、私の傷…対等とは言い難い…だが、これでようやく…リミッターが切れる」
「な…に!?」
バカな…あれだけの強さでまだ、切るリミッターがあるのか!?
「かつて私にリミッターを切らせたのはたったの2人…さぁハルアキ、誇って下さい!君は私が、100%全力で闘うに値する魔闘士だと!」
―ドォンッ!―
グスタフが地を踏み締めると、凄まじい闘気が辺りに放出され…
―ドサッ…―
―バタッ、バタバタバタッ…―
周りにいたギャラリーの一部が顔を青くしてしゃがみ込み、あるいは倒れ…残りは震え始めた。
『覇気かよ…それも覇王色の!?…いや、闘気放出で周りを萎縮させる…やる事なす事、なんでリョウや綾子とそっくりなんだよ!?』
「…ぬぅぁあああああああああっ!」
―メキッ!メキメキメキッ!―
グスタフの唸り声がして前を向くと、そこには全身の筋肉を肥大・隆起させつつフサフサとした毛を生やし…狼の顔をした、グスタフらしきヒトの姿が。
「ウ、人狼…魔獣化!?」
人狼は、獣人と呼ばれるヒト型種族の中で最も稀少な一族。
スペルビア王軍との戦いで俺達と共に戦ってくれた傭兵団『疾風の狼』の面々がこの人狼の一団であった事は記憶に新しい。
恐るべき瞬発力、並以上の攻撃力、ヒト以上の賢さ…そして何より恐ろしいのが…
「ウォォオオオンッ!!」
遠吠えにも似た雄叫びと共にグスタフの放つ闘気に威圧感が混じり、その黒眼が銀眼と化す…さながらまるで満月のように。
「月狂化…」
人狼族だけが使える固有技能で、月が持つと言うエネルギーをその身に受け…自らの身体能力、特に近接格闘に関わりの深い能力を爆発的に上昇させる…それが月狂化。
本来は夜にしか使えないらしいが、自分達を鍛えた師匠は月さえ出てれば四六時中使えると疾風の狼は言っていた。
……いや待て。
今まだ昼過ぎだよな?
月は出てるけど太陽も出てるし…もしかして。
「オイオイ…まさか『疾風の狼』の師匠かよ!?」
「よくご存知ですね」
「ああ…少し前にツルんでた傭兵団が人狼でね…ソイツから聞いたんだ…『俺達の師匠は、月が出てるならいつだって月狂化を使える、無双の闘士だ』って」
「なるほど、私の教え子と共に戦った仲でしたか…では押し問答は一切不要です…さぁハルアキ、この形態で月狂化を使用中の私が放つ渾身の一撃…お嬢様を想うなら耐えてみせて下さい!」
言ってグスタフは踏み出した左足を軸に、後ろに肩幅ほど開いていた右足へ…全闘気と筋力を集中させはじめた。
『コイツぁヤバそうだ…今から来る技はさっきのシルフなんざ目じゃねぇ…迂闊に回避すりゃこっちがやられる……なら!』
俺は顔をグスタフの方へ向けたまま…右拳を握って固め、左手をまっすぐ突き出し…まるで矢を射るように足を軽く開いて立つ。
「さっき『【パイルバンカー】以上の技はあるんだが、アンタに隙が無いから見せられない』って言ったよな?アレ、取り消す」
「?」
「恐らく、アンタはその技を放つのがやっとのはずだ…その胸の傷を抱えたままならなおさら、な」
「ッ!?」
「ならそれを耐え、その後に俺が放つ『パイルバンカー』以上の技でアンタを倒す」
―ググッ―
俺は矢を射るかの如く構えた右腕を、手首や肘…肩から外側へ捻る。
踏み出した右足を爪先立ちにし、加速と打撃用の震脚もスタンバイ。
テレフォンパンチだが、効き目はあるはず。
「ふむ…いいでしょう、逃げないで下さいよ?死なれては困りますから、私は貴方の左脇腹を狙います」
「ああ…いいぜ?真っ正面から受け止めて、その上で俺はコイツを…アンタの胴体へ叩き込んでやるぜ」
受けた力を攻撃へ転化する…勝負は一瞬!
「受けなさい!疾風の狼っ!!」
―ボッ!―
グスタフの右足が不可視の存在となり、空気が破裂する音だけを残して俺の視界から一瞬消える。
見えないからと言って焦るな…奴は俺の左脇腹を狙うと言ったんだ。
―ドガシッ!―
「ぐっ!?」
「ッ!?」
渾身の蹴りを片腕で止められ、グスタフの表情が驚愕に染まる。
チクショウ…痛ぇなんてもんじゃねぇ。
左腕の感覚ねぇし。
けど…
「いくぜ…大陸間弾道拳!!」
放った俺の最強のパンチ…それは圧倒的な規模の、まるで小さな竜巻を纏い…そのまままっすぐグスタフの腹部へ吸い込まれ…
―ドゴォッ!―
「ごふぁっ!」
グスタフの口から大量の血を吐き出させる。
「ぐ…ごほっ、く…胃が、潰れましたか…」
「…スマン、メルの事は諦めてくれ」
「いえ…ごほっ!お嬢様を頼みますよ?兄弟」
「兄弟か…あぁ、任せな」
―…ドサッ―
「ハル!?」
グスタフが倒れた直後、メルが我に帰ったらしく…治療薬を染み込ませたと思わしきハンカチを手に、俺の側へ駆けよってきた。
「…殺したの?」
「バカ言え…紳士を殺す訳が無いだろ?ましてや俺は犯罪者になる気なんか無いしな」
なぁ?
まぁとりあえず、お嬢様はこの兄弟に任せ…今はゆっくり眠れ、異国の兄弟よ。
すると俺の思いが通じたのか、地に伏せたグスタフの口元が…一瞬だが、嬉しそうに歪んだ気がした。
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