第69話:何だこりゃ?
世界暦2005年、10月21日、土節、AM8時30分
…結論から言えば、例の区画について…1階と2階はハズレだった。
いや、ハズレとも一概には言い切れない。
何故ならあの区画を囲う壁は…
「水よ集いてうねり走り、立ち塞がる全てを確固たる意思の元水平線の彼方へ押し流せ――水精霊母の大津波!!」
「風よ集いて旋り吹き、その歩みを挫く者を空の彼方へ巻き上げ粉砕せよ――嵐精霊女の破壊竜巻!」
アヤちゃんやナギちゃんが放てる、自身の種族名を冠した…思うに最高位の魔法でも傷1つ付かず…
「緋王絶炎衝!」
「凍神十連撃!」
タツとシモの…どこかで聞いたような、強烈な攻撃でも傷1つ付かなかった。
あ…テイ〇ズ・オ〇・エター〇アか。
タツの技が、主人公リ〇ドの剣技『鳳凰天駆』から発動出来る秘奥義で…シモの技が、氷晶霊セルシ〇スが放つ超級連撃だな。
…ああそうか。
シモはタツに似てるんじゃない、セル〇ウスに似てるんだ。
あ?もちろんタツもおんなじだが?
いや、タツはキュ○ケでも…いや、まんま本人か?
赤いセ〇シウスに水色のセルシ○ス…イイね。
…オホン。
…って言うのがこれまでのやり取りだ。
しかし裏を返せば『中に何かあるから、この壁は壊れちゃいけない』と言う事だけども。
「さて…どうしたもんかな」
ちなみにベルちゃんとハク、タエちゃんは1階を調べた際に力尽きた。
ベルちゃんに至っては…
「わたしぃ、自分で剣を振るのは苦手なんですぅ…少し休ませてくださぁい」
―キュルキュルキュルキュル…―
―シュン…―
…と、両腕を剣に変化させ…俺もびっくりする位の高速剣撃を3分ほど続けた後、くたびれきった様子でそう言い…俺の左腕にバングルとして収まった。
金属っぽいのに柔らかくて温かい、不思議な装着感のするバングルに。
…ああ、ベルちゃんのおっぱい揉んだ時の手触りと一緒なんだ…。
「…ハッ!」
「…リョウ様?」
「何カナ?ナギチャン」
ふと気が付くと、物凄く怖い視線で俺を見詰めるナギちゃんが。
思わず声がうわずっちまう。
「何で腕輪見詰めてニヤニヤしてるんですか?」
「いや別にそんなつもりじゃ…」
おっぱい揉んだ時の手触りと、この腕輪装備時の肌触りが一緒だとは口が裂けても言えない。
「やっぱり大きい方が好きなのかな…」
「私もリョウ様の装備品になりたい…」
自分の控え目な?(ごめん)胸を撫で、ため息をつくハクと…とんでもない事をのたまうタツ。
「…こうしてても始まらないな…とりあえず次行こうか」
こうして俺達はまた歩き出し、3階の例の区画にたどり着いた。
「さて…物理攻撃はダメ、魔法もダメ…となると」
「パズルとか?」
「ンなアホな…何の為にパズルを?」
と、俺とタエちゃんが三問芝居やってた時だった。
「…あ」
壁の前に立ってたハクが何かを見つけたらしい。
「どうした?ハク」
「ここ…なんかある」
「ここってどこ…あ?」
ハクの目線の高さに合わせてかがみ、ハクと同じ壁を見詰めると…それはあった。
「1~15の数字がランダムに…ん?右下隅が無いな……まて、これは…」
見た事がある…確か…。
「15パズルか!?」
「15パズル?」
「ああ…」
縦4マス×横4マス=16マスに、ランダムにはまった15個の数字のプレートを…スライドさせて並べ変え、左上から1・2・3・4…となるようにする、知育系のパズルだ。
「良く見付けたなハク、エライぞ?」
「んふ~」
得意げに胸を反らすハクの頭を撫でてやる。
「…これ、出来るか?」
「無理…見た事無い」
「他のみんなは?」
「ハクちゃんに同じ」
「私も見た事がありません」
「そうか…」
俺しか出来ないみたいだな…仕方ない。
「にしても小さいな、1マスがちょうど指先で触れる程度…さてと」
俺はパズルにとりかかった。
**5分後**
「これで…完成」
―カチッ―
左から3番目、一番下に15を移動させ…1~15が左上から順に並ぶようにする。
盤が小さいから眼が痛い。
「さあ鬼が出るか蛇が出るか…」
「…どう言う意味ですか?」
「確か…何が出てくるか分からない、不安な様子…を示す言葉じゃなかったかな?」
―ギィィ…ガコン―
―ゴゥンゴゥンゴゥンゴゥンゴゥン…―
15パズルの付いた壁が両サイドに割れ…中の空間がその姿を現した。
だが…
「ンなアホな…何の為のパズルだったんだ?」
と、俺達は驚愕せざるを得なかった。
何故なら目の前に現れたのは、底の見えない真っ暗な縦穴に…細めの金属製パイプが1本、天井から底の方までまっすぐに伸びているだけだったからだ。
「シモ、氷の塊って出来るか?」
「はい、呼吸に等しいほど簡単な魔法ですが…何故ですか?」
「いや…高さの目安に」
言われてシモはその手に氷の塊を発生させ、それを縦穴に落とした。
―ヒュウゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥ…―
「…深いな」
―ゥゥゥゥゥゥゥゥ…ガシャンッ!―
「おっ!」
「割れた音がしましたね…」
「ああ、底はあるみたいだな…問題はその道中だが…なぁナギちゃん」
「はい?何です?リョウ様」
「ナギちゃんって嵐精霊女固有能力で『キャスリング』が使えるよな?」
キャスリング。
本来はボードゲーム【チェス】における駒『ルーク』が持つ特殊能力。
上下左右の同一直線上にある『キング』の駒と、自らの位置を入れ替える事が出来る。
これがキャスリング。
ナギちゃんのキャスリングの場合、自ら…あるいは第三者が発生させた…一定規模以上の、現在発生中の風属性魔法とその位置を入れ替える事が出来る。
ただし、入れ替わる対象の風属性魔法と自分との間に遮蔽物が無い事と…入れ替わる対象の風属性魔法の場所を正確に認識している事が条件。
「はい…ですが、何故今この場でキャスリングの話を?」
「俺を除く7人…いや、腕輪は装備中だから、他の6人が安全に降りれる作戦に必要なんだよ」
「はぁ…」
今俺が立ってる場所から、パイプまでは1.5mちょい…ノーステップでも余裕だな。
「んじゃ合図したら、俺の発生させた風の塊とキャスリングよろしく」
―トンッ―
「あっ…」
―がしっ―
言って俺はジャンプし、前方で闇の中からそびえ立つ柱に飛びついた。
「よっ!」
―スルスルスルスル…―
マントを断熱材代わりに、俺はレスキュー隊員よろしく柱を滑り降りて行く。
…学園の修学旅行の時にやった、高所災害避難体験みたいだな。
……………
………
…
―するするするする…―
「結構深いな…もうみんなの顔は見えないし、かと言って底も見えない…まぁ降りなきゃ始まらないが」
いくらマントを断熱材代わりにしているとは言え、あまり勢いを付けるとやっぱり摩擦で熱くなる。
だからゆっくり降りてる訳だが…
―するするするする…―
「…む」
どれぐらい降りただろうか?
そろそろ手の握力がヤバくなる頃合いで、俺の目は…先ほどシモが落とした『氷の塊』の成れの果てと思わしき、氷の破片を捉えた。
「…もう…すこ…し!」
―スタッ―
―バキバキッ―
着地のショックで氷の破片をいくつか踏み砕いたらしく…危うく滑ってしりもちをつく所だった。
そう思いつつ周囲を見渡すと、やっぱり視界が悪い。
広さはそれなりにあるようだが…うむ、まずは視界の確保だな。
「ふむ……『眼を穿つ光炎』じゃ範囲が広すぎるし、かと言って『収束した光炎の標』じゃ逆に範囲が狭すぎる…ならば……よし」
イメージとしては少し悪いが、ピッタリなのはあれしかない。
…人魂(笑)
「閃光よ爆ぜて留まり我の視界を確保せよ―『滞空する炎の人魂』」
―パアッ!―
俺の指先から閃光が迸る…が、それはすぐに直径20cmほどの火の球となり…着地点周囲をほどよく明るく照らし出した。
「ふむ…見事に何も、いや…やっぱり人工物だな」
確保された視界にあった物…それは松明だった。
「火の球」
―ボッ!―
―…パチパチパチパチ―
…運が良かった。
まだ使える松明だ。
「よし…あとはこの松明を…」
―ガコッ…―
壁の固定具から取り外し、俺は今自分が降りて来た柱の横に立て掛ける。
そして上の…遥かな闇に向かって…
「ナギちゃぁぁぁん!」
と、大声を張り上げた。
するとややあって…
「リョウさまぁぁっ!?」
と、何故かタツの声が聞こえてきた。
…多分、声量や肺活量の問題で代わったのだろう。
「ナギちゃんに伝えてくれぇぇっ!底の柱の横にぃ!松明があってぇ!その近くに風の塊があるからぁ!キャスリングよろしくってぇ!!」
…
「分かりましたぁっ!」
…よし、あとはこれでナギちゃんが来れば…
―どすんっ―
…と、すぐに傍で物音がした。
見れば両足を地面に投げ出して座り込んでいるナギちゃんの姿が。
キャスリングは成功したが、場所交換直後の姿勢が不安定だったのか…しりもちをついたようだ。
「あうっ、お尻打ったぁ…」
…ヤバい。
萌えた。
「…お尻、大丈夫か?」
「…リョウ様…見てらしたんですか?」
「あ…あぁ」
「……大丈夫じゃないです」
「ちょ、マジか!?」
「ですがリョウ様がお尻を撫でてくれたらすぐにでも…」
松明の灯りでもはっきりと分かるほど頬を染め、恥ずかしそうにお尻を突き出すナギちゃん。
「あのな…ナギちゃん」
***一方その頃、地上では***
タエside
「随分深い縦穴なんだね」
鉄のパイプが1本突き立っているだけで、そこが全く見えない縦穴を…ハクさんが見下ろしながら言う。
リョウ様はパイプに飛び移り、まるで慣れっこだと言わんばかりの表情で降りていきました。
「にしてもナギさん、遅くないですか?」
「それは私も思ってました」
リョウ様の案により、リョウ様が発生させた風魔法と…ナギさんが『キャスリング』で入れ替わる作戦。
今現在、ハクさんの真横にリョウ様が発生させたと思わしき『風の塊』がフヨフヨしてるので、ナギさんは間違いなく穴の底にいるはずなんですか。
「…」
…なんでしょう、この胸騒ぎは。
例えて言うなら先を越された時の悔しさみたいな?
「ねえシモさん、それとアヤさんも」
「はい?」
「何でしょう」
「…私だけかもしれないんですが、妙な焦燥感が胸の中で渦巻いてるんですが」
「…おや、タエさんもそうでしたか」
「“も”と言う事はシモさんも?」
「ええ、アヤはどうですか?」
「私は別に何も?」
「そうですか…」
見ればアヤさん以外の全員が、シモさんと同じような表情をしています。
そんな中、シモさんとアヤさんを見ていたタツさんがこんな事を言い出しました。
「…ねぇ、手早く下に降りれるいい方法考え付いたんだけど」
「え?」
「それにはシモとアヤの協力が必要不可欠なんだけど」
…どうする気でしょうか?
***再び、穴の底***
「さてと…とりあえずナギちゃんはこれから上に向かって、ヒトにはダメージにならないぐらいの竜巻を…」
エアリフトの原理で、残りのメンバーに降りてきてもらおうとした…その時だった。
―バキャバキャバキャバキャ…―
と、言い表すのが難しい音が聞こえ…柱を軸として、螺旋状の氷で出来た滑り台が出現。
そして…
―スルスルスルスル…―
「よいしょっと」
「あーん、ローブのお尻がズブ濡れです」
「私が乾かしま…」
―ドンッ!―
「あいたっ!」
「ごめんタツ…」
―ドンッ!―
「むぎゅ!」
「きゃあっ!ハクちゃんごめんね!?」
…その滑り台を滑り、上にいた5人が降りて来た。
ちなみに最初がシモで、次がタツ…タツに激突したのがハクで、ハクを押しつぶしたのがアヤちゃん。
「この滑り台、どうやって作ったんだ?」
「私の水魔法をシモさんが凍らせて…タツさんが体温と火魔法で表面をやや溶かし、滑りながら滑らかにして作りましたが?」
…そんなウルテク(ウルトラテクニックの略…つか本当にウルトラなのか?)があるなら、最初に案として出して欲しかった。
「つか何で合図無しに降りて来たんだ?」
「リョウ様が取られそうな感覚を覚えたからです」
…アヤちゃんも装備してるのか?
雌虫センサー。
つか、2人目だよね?形式上…
「にしても…広い空間ですね」
「耳の気圧がおかしいです」
「あ…ここの周囲の壁は、私の力が及びます……え?本当ですか!?」
シモやタツが周囲の状況について語る中、着地点周囲の壁を調べていたタエちゃんが驚きの声を上げた。
「どうしたんだ?」
「あのですねリョウ様…実はここ、ルクスリア城の地下5階相当の深さらしいです」
「地下5階!?そんなに深いのか…つかどうやって知ったの?」
「土に聞きました」
「…なるほど」
タエちゃんなら可能だな…ナギちゃんは風の声を聞く事が出来るみたいだったし。
とその時…
「そんな…どうしてこんな場所にこのヒトの名前が!?」
「ん?どうした?何かあった?」
「いえ…それがですね、この…正面の滑らかな壁、分かりますか?」
言ってアヤちゃんが指差す先…確かにそこには、滑らかな壁がある。
「ああ、確かに滑らかな壁だな…でも、これが?」
「左下の隅を見てください」
「左下の隅?一体何が……は!?」
そこには達者なセブンシンズ語で文字が記してあった。
『臨める兵、闘う者、皆陣をはり列をつくって、前に在り――土の魔力を込めて切れ クール=チルード』
と。
「クール=チルードってあれだろ?確か先代ルクスリア王の…」
「ええ…」
アヤちゃんは言う。
クール=チルード。
先代ルクスリアの女王。
強く、気高く、美しく。
それでいて国民を第一に考え、戦ともなれば超軼絶塵…同輩にも先達にも並ぶ者無し。
志高く、研磨絶やさず…彼女のセブンシンズで最初の『国民主体』の国を作った人物だった。
ちなみに、愛用の武器は『太刀』なる…刃渡り138cm、柄の長さ22cmにもなる…巨大な日本刀だったらしい。
「いやどっかで聞いたような人物像に愛用武器だけど…何でこんな所にそんな人物の名前が?」
また俺達は頭を抱えるハメになったのだった。
セブンシンズ(エデン)魔法辞典Vol.26
水精霊母の大津波【固有・未公開】
一瞬の間に20人の擬似水精霊を作り出し、それら全てをまた一瞬で膨大な量の水に変え…狙ったところに津波と化させて襲いかからせるアヤ最大の魔法
破壊力は実際の津波など比較にならない
アヤ=ケリュアクアス専用魔法 水属性
嵐精霊女の破壊竜巻【固有・未公開】
自らの体を風と化し、周囲の風も巻き込んで竜巻になり…狙った地点周囲に
天災級の風の被害をもたらすナギの最大魔法
普通の人間などが巻き込まれれば必ず瀕死の重傷を負う
ナギ=サウィンドニー専用魔法 風属性
滞空する炎の人魂【固有・未公開】
眼を穿つ光炎の応用版その2で、手の平から放った火の玉を魔力で中空に停滞させ灯りとして運用する魔法
例に漏れず非殺傷
リョウスケ・ミカガミ専用魔法 火属性
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