ブックリスト登録機能を使うには ログインユーザー登録が必要です。
第50話:時空震
日本暦2005年、10月16日、PM4時21分。



店を見つけ、中に入った瞬間…私はとんでもない物を目撃した。

―ボボッ…ボボボボッ―

件の自称『現代魔術師』の店長が、恍惚の表情を浮かべ…その手に真っ赤な炎の玉を浮かべていた。

「すごい…」

噂どおりの光景だけどそれがタネも仕掛けも無い事は疑いようも無い。
炎の形を変えるのは割と簡単だが、それで炎の玉を造り出すのはまず無理。

次にそれが、店長の手の平から10cmほどの辺りを浮遊してたら?

火の球(ファイアボール)…」

「えっ?」

気づけば私は、自らの口を突いて出た言葉に反応した店長の…嬉々とした表情に真正面から見詰められていた。

「初対面…かな?」

近くでマジマジと見た事は無いけど、メチャクチャ美人だと私は思う。
腰まで伸ばした長い黒髪に、モデルもビックリの美貌…加えて、はちきれんばかりに大きな胸をポロシャツで抑え…ギュッとくびれた腰に、丸みの素晴らしいお尻と長い足。
頭に耳でも…腰に3本の尾でも生えてれば、私が愛読する小説のメインヒロインのイメージそのまま。
ああ…彼女は獣人で、確か…狐だったかしら?

「そう、ですね…『会う』のは初めてです…初めまして、私は御鏡綾子って言います」

「あ!【魔法使いの手引き・初級】を買ってくれた子ね?じゃあ私も『会う』のは初めてだから自己紹介するわね?私はこの書店『フォックストロット』の店長で、茂木滝(もぎたき) 真沙羅(まさら)って言うの…よろしくね?綾子ちゃん…さて、今日はどんな本をお探しかな?また魔法関連だと嬉しいんだけど」

言って古書店店長…真沙羅さんは、女の私でも直視が難しいほどの笑みを浮かべた。

「実はですね…私、ちょうどソレに興味がありまして」

だから私も出来る限り自然な笑みを浮かべ、真沙羅さんの右手にあるソレを指差した。

「ソレって…え!?綾子ちゃん、コレが見えるの!?」

「見えるの!?って…そんな…まん丸で真っ赤な、まるで小さな太陽みたいなほぼ真球の火の球(ファイアボール)が…もしかして見えない人が居るんですか?あれ?私の頭がおかしいんですか?」

私のセリフに真沙羅さんの表情はみるみる明るくなり、だが次の瞬間にふと真面目な顔をしたかと思うと…手の平の上に浮いてた火の球(ファイアボール)を消し、今度は…

―シュウゥゥゥ…―
―コポコポコポ…―

手の平の上に、さっきの火の球(ファイアボール)と同じ…だが今度は水の球(アクアボール)を出現させた。

「じゃあこれは!?」

水の球(アクアボール)、でしょうか?無重力条件下(うちゅうくうかん)で飛行士達が飲む水の玉を、更に大きくしたみたいな…兄のやってたゲームに出てくる『ヒュージゲル』によく似てますね…確か、こうでしたか?雫よ集いて球と成せ―水の球(アクアボール)

―シュウゥゥゥ…―
―コポコポコポ…―

言って私は自らの手の上に、今さっき真沙羅さんが浮かべていたのと同じ『水の球(アクアボール)』を生成する。

「ッ!?」

―バシャァッ―

「あっ…」

私の『水の球(アクアボール)』を見た瞬間、真沙羅さんの手にあった『水の球(アクアボール)』はそのまま真下に落ち…真沙羅さんの手に当たって形を崩し、ただの水となって店内の床にブチまけられた。
同時に私の『水の球(アクアボール)』も床に落っこちた。
…うわ、床が水浸しになっちゃった。

「あの…床に……」

確か湿気って、本の大敵じゃなかったかしら?
かと思っていたら、まるで信じられない物を見た…と言わんばかりの、超が付くほど嬉しそうな表情をしている真沙羅さんに気が付いた。

「あの…真沙羅さん?」

「…イイ」

「はい?」

そんな私に次の瞬間…

―がばっ!―

「きゃっ」

真沙羅さんが勢い良く抱き付いてきた。

あの…真沙羅さん、私…女性に抱き付かれる趣味は…いえそれよりも胸…顔埋まって、呼吸が辛いんですが。

「イイわ綾子ちゃん!貴女素敵よ…魔法に関してとんでもない才能があるわ」

「え?え…ええっ!?」

なんて事考えてたら、真沙羅さんの口から思いがけない言葉が。
私に…魔法の才能?

「今見せた2つの現象は、紛れもない魔法なんだけど…よっぽどの才能が無い限り、見る事はおろか感じる事すら出来ないの…それを貴女はどちらも看破し、あまつさえ私が使う為に用いた『イメージ』まで完全に言い当てるし…おまけに魔法名まで完璧で」

イメージ?
『小さな太陽』とか、『宇宙飛行士が飲む水』とか言ったアレ?

「あまつさえ使って見せるだなんて…1000年に一度の逸材かも」

「え?はい?逸材?」

「決めたわ私…」

「何をですか?」

「私、貴女に全て教えてあげるわ…私が知る、魔法の全てを」

…棚から牡丹餅?
…瓢箪から独楽?
…海老で鯛を釣る?

…最後のは違うわね。

「魔法を…教えて下さるんですか?」

「うん!理由がなんであれ綾子ちゃんが拒否ったって教えてあげるわ!」

真沙羅さんは言う。
最近は魔法と言えば手品かお伽噺…実在するのに信じない人が多い。
某番組の謳い文句じゃないけど、この世には科学じゃ説明出来ない事が沢山あって…その全てが、とは言わないが…部分部分を見れば必ず魔法が関わってくる…と。
その部分部分で用いられている魔法を理解するための指南書が『魔法使いの手引き・初級』だったらしい。

「私…こんな事が出来るから、もしかすると魔法も…なんて思ってたんです」

言って私は体内で気を練り上げ、それを手から発し…さっき真沙羅さんが見せてくれた火の球(ファイアボール)みたく、手の平の上に浮かべて見せる。

発気(はつ)弐型(にのかた)固気ノ法(こきのほう)

「すごいわ…ここまで綺麗な真球のエネルギー塊を、まさか純生気(ピュアオド)のみで一瞬にして造り出すとは…綾子ちゃん、もしかして武道のたしなみある?」

「ええ…私、今16ですけど…7歳の頃から剣術と体術を」

「…ふむ、じゃあ『空身(くうしん)』『虚空(こくう)』『無心(むしん)』『落心(らくしん)』この中で聞き覚えのある単語は?」

「『無心(むしん)』だけですね…私がやっている体術、きと…

「氣闘拳かな?」

…ええっ!?」

私の驚きを見ながら、真沙羅さんは足を前後に肩幅ほど開いて立ち…腰を曲げて上体を前に、そして両肘を軽く曲げ…半拳にした手を前に構えた。

「それは…!?」

「氣闘拳、基礎の構え…正しくは氣闘拳・礎構(そこう)が壱型『修練の構え』…だったかな?」

遠くから見れば、某蛇の近接格闘術(CQC)に似た構え。
だがあれこそ近接格闘において最たる威力を発揮し、自身からの攻撃はもちろん…相手の攻撃に対する反撃(カウンター)にも使える万能な攻撃手段。

兄が『現代神』と崇める、某映画俳優も劇中で似た武術を使うし…まあ彼の場合は合気道と空手、柔道の複合物らしいけど。

「御鏡綾子ちゃん…なるほど、綾子ちゃんの体術のお師匠さんは涼千乃(すずちの)殿かな?」

「え?祖母をご存知なのですか!?」

「ご存知も何も…涼千乃師範の一番弟子だよ?私は…」

「なるほど…じゃあ真沙羅さんは私の姉弟子になる訳ですか?」

「姉弟子…うん、そうなるね」

涼千乃師範…一番弟子。
無心(むしん)』の心得…なるほど。

「そうか…ならさっきの純生気(ピュアオド)球は発気(はき)弐型(にのかた)固気ノ法(こきのほう)』か…うむ、なおさら魔法の素質があるよ」

「そうなんですか?」

武術家(きみたち)の言う『気』『氣』とは、魔術師(われわれ)の言う『魔力』の事でね…魔力とは魔法を使う上で言わば燃料のような物で、認識の仕方も操り方も…武術家の方が圧倒的に向いてるのさ」

「へえ…」

「特に綾子ちゃんみたいに『無心(むしん)』を使えるならなおさら…ね」

無心の状態で体内を流れる『血流』や『神経脈』を意識し、そのまま息を一旦全部吐く。
そして大きく息を吸い込むのだが…この時、吸い込む息には『大気中の気』つまり『大気中の魔力』も含まれている事を『認識』するのがコツらしい。

そうすると、その人物が元来生まれ持った魔法の4属性…得意元素に合わせ、体の一部がポカポカと温かくなるらしい。

「真沙羅さん…この呼吸法は…」

目を閉じ、息を吸い込みながら真沙羅さんに言う。
すると真沙羅さんは…

「氣闘拳における『気』の集め方なんだけど…綾子ちゃん、額・喉・鳩尾・下丹田…どこか温かくなってる?」

…と言うのだが…実は。

「あの…全部温かいんですけど」

「…ナンダッテ?」

うわ、それまでクールだった真沙羅さんの表情が…ここに来て面白いぐらい固まった。

「…も、もう一度聞くよ?額・喉・鳩尾・下丹田…どこが温かい?」

「…も、もう一度言いますね?額・喉・鳩尾・下丹田…全部温かいです」

言って私は目を開け、チラッと真沙羅さんの顔を見た。
すると真沙羅さんの顔はとんでもない…もしかすると狂気ともとられない、凄い笑みを浮かべていた。

「凄い、凄いよ綾子ちゃん…貴女には、魔法の基礎たる4つの属性全てに適合性がある!」

魔法の基礎属性は水・土・風・火の全部で4つがあり、さきの呼吸法で温かくなった部位により…自身がどの属性に適合性があるのかを知る事が出来る。

例えば額が温かくなったなら水が得意元素。
喉が温かくなったなら土が得意元素。
鳩尾が温かくなったなら風が得意元素。
下丹田が温かくなったなら火が得意元素。

それら全ての部位が温かくなった私は…

「火・風・土・水の全てをいきなり使える…って事ですか?」

「その通り…本来得意元素は、適性ある者で生来的に一人1つ…だが綾子ちゃんはそれを、精霊の加護なしに全て扱えるって事になるの…魔力の認識が済めば、後は使いたい魔法の『イメージ』を的確に思い浮かべ…そのイメージを表現する『正しい言葉』を発声…あ、この時…例えば火属性魔法をイメージしたなら『火』や『炎』、『熱』や『燃』って言う…その属性を表しうる言葉を入れる事を忘れないで」

イメージ…想像。
火属性なら『その魔法により燃え盛る何か』あるいは『火そのもの』

「そうね、じゃあ試しにあそこに向かって…燃え盛る火の玉をイメージしながら『火よ燃えて爆ぜよ―火の球(ファイアボール)』って言ってもらえるかしら?」

言って真沙羅さんが指差したのは、店の裏手…小さな空き地と化した場所にうず高く積まれた本の山。

「あれは?」

「ん?落丁とか不良品とかで買い取り不可だったんだけど、持ち込んだ客が置いてったボロ本…まあゴミね」

…なるほど、焼き捨てるのか。
なら遠慮はいらないだろう。

私は突き出した手の平をボロ本の山に向け、さっき見た…真沙羅さんの火の球(ファイアボール)を思い浮かべて言う。

「火よ燃えて爆ぜよ―火の玉(ファイアボール)!」

すると…私の手の平から、直径15cmほどの丸い火の球が高速で飛び出し…

―シュゴゥ…ドン!―
―ボオォォゥ…―

ゴミ本山に着弾。
軽い…と言っても小さな爆発音がして、本の山はみるみる炎に包まれた。

「やるわね…威力・速度・命中精度…全て合格値よ」

「…凄い」

「じゃあ次…燃やし終わった本から出火して、火事騒ぎになっては堪らないからね」

「消火…ですか?」

「そう…イメージは水の玉『水の球(アクアボール)』…はできるわよね?さぁもう一度やってみて?」

雫…つまり水滴か。
水滴を沢山集めて水の玉にするイメージね?…なるほど。

「雫よ集いて球と成せ―水の球(アクアボール)!」

―シュバッ!バシャァッ―
―ジュウゥゥ…―

と私が言った途端、今度は手の平から直径2mほどの水の球が飛び出し…消し炭と化した本の山だった物に直撃…燻っていた残り火を全て消火した。

「イイね!」

「ありがとうございます…」

「じゃあゴミを掃除しようか…今度はちょっと難しいわよ?」

真沙羅さんが言うには…まず燃えカスを、風の魔法でバラさず一度に全部宙に舞い上げ…次に土の魔法で空き地に穴を掘る。
降ってきた燃えカスが穴に入れてば合格…との事。

「風で舞い上げ…土で穴を…」

「出来る?」

「やってみます!」

「よしその意気よ…言葉は的確なら何でも良いから、気負いせずリラックスしてやってちょうだい」

「はい」

まずは風。
私はイメージする…対象物を纏めて宙に舞い上げる…竜巻ね?

「風よ集いて(まわ)り竜巻と成せ―風の竜巻(ウィンドサイクロン)!」

―ギュォォオオッ!―

そう私が言うと、それまで穏やかだった店舗裏の空き地の空気が突然強くなり…瞬く間に小さな竜巻が発生し、そこにあったズブ濡れの本山を丸ごと綺麗に宙へ舞い上げる。

後はこのゴミが落ちてくるまでに穴を…

イメージは縦穴。
落とし穴…入口はなだらかなすり鉢状。

「土よ自由に動きて陥没せん―大地の縦穴(アースシャフト)!」

―ズズ、ズゴゴゴゴ!―

「お!おお!」

くっ…初めてで魔法4連発は辛い。
でも頑張らなくちゃ!

見れば私の眼前で、それまで本山があった場所は…私の魔法により、底が抜けたすり鉢状の縦穴がポッカリと口を開けていた。

そして…

―ヒュウゥ…ベショッ―

その穴へ一直線に落ちる、本だったズブ濡れのゴミの塊。

「…ぃよしっ!」

「成功…ですね」

「凄いわ…いくら適性があるとは言え、初っぱなから魔法を4発も撃てば普通は倒れる物なんだけど…綾子ちゃんは素晴らしいわね」

「武術で鍛えてますから…とは言っても疲れはしましたが」

言って私は、今さっき私がやった行いの結果を見ていた。

『綺麗に燃えたし綺麗に消火したし…綺麗に宙へ舞い上げたし綺麗に埋めれたし…ふう』

これでひとまずは合格…だといいな。

と、思った…その時だった。

―キィィイイイッ!―

「うっ!」

「くっ…」

突如、とんでもない耳鳴りが私を襲い…私は耳を押さえて顔をしかめた。
いや、私だけしゃない…真沙羅さんも同様に耳を押さえて顔をしかめていた。

「これ…は……転移の…波動…時空震!?」

「転移の…?時空、震…?」

真沙羅さん曰く、ここ数日…連続で発生している『失踪』とこの『時空震』は切っても切れない関係にあるらしい。

「この世界じゃない世界に…住まう、誰かが…この世界の、人間を…欲して、召喚魔法を使う時…く、その…召喚される人間の、周囲に…こう言った時空震や、次元の裂け目が…現れる、の…」

「次元の…ぐっ!裂け目、ですか?」

それは空間に突如出現する不可思議色の亀裂だったり、足元に突如出現する穴だったりするらしい。

「足元の、穴!?」

「そう、よ…その、穴が出現する時…穴に、触れている当人以外はまるで…その瞬間だけ時間が止まった・記憶が抜け落ちたみたいに、その事実を認識することが出来ず…次元に飲まれて他世界へ行く、まで…誰も事の起こりを…記憶には、残せないの…」

と言う事は兄や修二さん、春明もこの…時空震に飲まれて、他世界へ?

「く…強い……ッ!?これは…ダメよ綾子ちゃんは…」

「え…私?」

「そうよ…この、転移魔法の転移対象(ターゲット)は…綾子ちゃん、貴女よ!」

「そんな…どうし、て…私が…?」

「…くっ、ダメ…相殺が追いつかない…かくなる上は…」

言って真沙羅さんは苦しげにだが、私に向けて真っ直ぐ手を突き出し…

「汝が言葉を繋ぎたまえ―万語解釈(ボーダレスワード)!…汝が戦闘力を増したまえ―不朽戦力(インフィニットパワー)!…汝が魔法能力を増したまえ―無尽魔性(エタニティフォース)!」

…と、それだけが聞こえ…次の瞬間私は…持ってきた2本の刀と共に、石造りの…見た事も無い神殿に来ていた。


セブンシンズ魔法辞典Vol.17

不朽戦力(インフィニットパワー)
かけた相手の、攻撃系動作に必要な全てのパラメータを3倍にする魔法
主な使用者:茂木滝(もぎたき) 真沙羅(まさら) 補助魔法

無尽魔性(エタニティフォース)
かけた相手の、魔法系動作に必要な全てのパラメータを3倍にする魔法
主な使用者:茂木滝(もぎたき) 真沙羅(まさら) 補助魔法



+注意+
・特に記載なき場合、掲載されている小説はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
・特に記載なき場合、掲載されている小説の著作権は作者にあります(一部作品除く)
・作者以外の方による小説の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この小説はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この小説はケータイ対応です。ケータイかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。
小説の読了時間は毎分500文字を読むと想定した場合の時間です。目安にして下さい。