第39話:夢を取り戻せ【前編】
世界暦2005年、10月13日、土節、午前中某時。
―ブーッ!ブーッ!ブーッ!―
「敵襲の警鐘!?」
「恐らくアリオトの野郎だ…」
「思ったより、我に帰るのが早かったらしいね」
彼女の名前はタエ、タエ=ヨリアサンドラ。
タエが言うにはこの音は、今から30年前に産み出された魔法の1種で、名前を『敵襲の警鐘』と言うらしい。
発動させると赤く明滅する光球が出現し、光球の周囲3mにブザー音を発生させる魔法。
今俺の耳に聞こえているこの音は、その『敵襲の警鐘』を改良した物で、この魔法を『魔力の経路』と言う魔法陣に組み込んだ物らしい。
『魔力の経路』は、最初に描いた魔法陣を【親】と設定…以後特定のルールに基づいて描かれた全ての魔法陣を【子】とし…【親】の魔法陣に組み込まれて発動した魔法を全ての【子】でも同時に発動させる効果を持っているらしい。
…ダメだな。
遠ざかろうとすればするほど新しい魔法の知識が頭に入って来る。
……うん、葛藤。
「じゃあ何か?アリオトが発動させた『敵襲の警鐘』は『魔力の経路』の親魔法陣に組み込まれてて、それが鳴ったから他の場所にあった子魔法陣でも『敵襲の警鐘』が鳴ってる…と、そう言う事か!?」
「多分そうです」
「ハル!次左ね!」
「あいよっ!」
メルの案内でこの建物内を駆け抜ける俺達3人。
何とメルの奴…連れて来られるまでの間ずっと目を閉じていて、どちらに何回曲がってどれぐらい歩いたか…を必死に覚えていたらしい。
メル曰く「これまでも何度かこう言う経験あるし」との事。
どうやらディートリヒ家での事らしいからツッコミはしないが。
「いたぞ!」
「脱走者だっ!」
曲がり角を曲がった先から、武器を携えた男達が飛び出して来た。
「そんな!?」
「大丈夫!ハル!!」
「任せな…オオォォラァァッ!」
―ドガガガガガッ!!!!―
「「「ぐっはぁっ」」」
男達が携えた武器を抜く間も与えず、それぞれに10発程度のラッシュをくれてやり突破する。
男達の人数か?8人だ。
「すごい…」
「肉弾戦ならハルにお任せよ」
「向こうにいた頃は1対50とかザラだったしな…8人程度ちょろいぜ」
言って足は止めず、右だ左だと言うメルの指示に従い廊下をひた走る。
「また曲がり角…次はどっちだ?」
「次は右…危ないっ!」
メルの言う通りに曲がると、それを待ち構えていたように巨大な鉄剣が襲いかかって来た。
「両刃大剣!?」
「終わりだっ!」
「ぬかせっ!」
―ゴウッ!―
男が振るう両刃大剣を屈んでかわし、そのまま突撃。
「素人がこんな武器使っても使いこなせないだけだって分からんのかね」
「何だと!?うおっ…」
男は両刃大剣を引き戻そうとするが、慌てた為に姿勢を崩してよろめいた。
「喰らえ禁じ手…タマキン砕きキーック!」
―グシャッ!―
ガラ空きになった男の急所へ向けて、全力の蹴り上げが炸裂!
―バギャン!―
男は悲鳴すら上げる暇なく、頭を天井に突き刺す形になる。
「ハッハー!逆さ一輪挿し…なんてな」
「ジョアンナさんの夫にもやったよね…それ」
「対男なら恐らく無敵の必殺技だよ」
「対女なら?」
「………あるにはあるが、俺には放てないな」
「どうしてですか?」
どうしてですか?って…そりゃ…ねぇ?
「人として…いや、男として……ん?とりあえずどちらか、あるいは両面において…終わってしまうからさ…」
「「なるほど…」」
…何をどうするのかは想像にお任せするぜ?
ちなみに俺はその魔性の必殺技、使い手をただ1人だけ知ってる。
高校入学当初はソイツのその必殺技を拝む機会が何度かあったが、ソイツの義妹が入学してからはピタッと見る機会がなくなった。
…下手なAVよりAVチックだから始末に終えない。
やがて動かなくなった男の足元を潜るように走り抜け、目の前に現れたのは木の階段。
ダッシュで駆け上がろうと1段目を踏みしめ、直後足の裏に伝わった軋みの感覚に慌てて中断。
「…随分ボロいな」
―ギシギシ…―
「ホントだ…今にも崩れそう…どうする?」
「私に任せて下さい!」
登るには登るのだが、急いでなければ爪先で安全な箇所を調べ、ゆっくり登る…だが今みたいに急ぎの状態だとそれが出来ず、慌てて登った→脆い箇所を踏み付けた→階段が崩落→ジ・エンド…は避けたい。
かと思っていたらタエが「任せて」と、俺達の前に立った。
何をするのか…と見ていたら、タエは自分の両手を前に突き出し…
「我が同胞たる不朽の土達よ、我が意思に応えて力を示せ!」
…と叫んだ。
すると…
―ズズ、ズズズズズ…―
階段の両脇にある石の壁から砂が流れ出し、階段を埋め尽くす。
―ズズズズズ…ズズ、ズ…―
そしてそれは次の瞬間には段の木の部分を完全に覆い、レンガ色をした土塊…いや、まさにレンガそのものとなり…遥かに丈夫な階段を作り上げた。
「すげえ…」
「土を押し固めて作った即興の階段ですが、強度は鉄のそれと同等…いかにハルさんが筋肉の重さを考慮していても、全く意には介しません!さぁ行きましょう!!」
―ダンダンダンッ!―
言って俺は先だって土の階段を登る。
ああ、確かにこりゃ硬い…まるで石階段だ。
「よし、行こう!」
「うん!」
「はい!」
2人の同意を聞いて、俺はなお先に階段を上がり…右へ行く曲がり角を曲がった。
と、そこへ…。
「ぬっふっふっ…ここは通さんぞヒヨッコめ…」
「で…デケェ!」
俺の行く手を遮ったのは、さっき天井に頭を突っ込ませたあの男より更に頭2つは高い…正に大男。
「この体格差…お前達はここで終わるのだ!」
「ぬかせっ!!」
―ズドドドン!―
「ぬうっ!?」
大男の鳩尾めがけて、一瞬の刹那に4発のパンチをブチ込む。
並の相手なら必ず嘔吐に至る強烈な攻撃のはず…だったが…。
「ふっふーん、やはりヒヨッコだな…お前のパンチなんか毛ほども効かん」
「そんな!?ハルのパンチが効かない!?」
「今度は俺の番だ……ヌゥオリャッ!」
―バゴォッ!!―
「ぐうっ!!」
大男の振り上げた腕が、とんでもない速さでパンチとして放たれ…それが俺の顔面を襲う。
間一髪ブロックに成功したが、体格差故に大きく吹っ飛ばされる俺。
いやまだ負けちゃいねえが、分としては悪いな…。
「ハルさん!」
「ふはは!見たかこの威力…このデイドラこそ最強の筋肉男だ!」
バカヤロー…筋肉男じゃ『マッスルマン』だろうが…。
ん?ゆでた〇ご先生のレスリング漫画?
…失礼じゃない?
こんな奴をあの超人レスラーと同格にしちゃあ…。
「いたぞ!」
「こっちだ!」
「おお!デイドラさんだっ!」
「デイドラさーん!」
くっそ…人の気も知らねぇでじゃかじゃか出て来やがって…。
「火よ集いて留まり彼の者を封じよ―粘着質な炎!」
―シュボッ!―
そんな俺の気持ちを察してか察さずか、メルが呪文らしきセリフを言う。
するとどうだろう…デイドラと名乗る男のズボン、限定的に言えば尻の辺りが突如火を噴いた。
「むふぉおおおっ!」
それに驚き、面白いぐらい飛び上がるデイドラ。
「くぬっ!くそ、熱い!この…ぬおおおっ!!消えない、消えない…何でだあああっ!?」
言いつつ床を転がったり、壁に尻を擦り付けるデイドラだが…その火は一向に消えず、やがて…
―ボムッ!―
爆発と呼んでも遜色ないぐらい高い音で一瞬だけ強く燃えると、焚き火が燃え尽きて消えるみたいにブスブスと鎮火する。
「く…尻が、ぐっ…」
そして尻だけ高く突き上げたまま、俯けに倒れて動かなくなったデイドラ。
重度の火傷は筋肉を麻痺させるらしいが…こりゃ効果てきめんだな。
「ナイスだメル」
「えへへ」
「じゃあ動けなくしときましょうか」
言ってデイドラの、焼け焦げたズボンを引き千切り…手と足を縛るタエ。
「どうせなら…こう、こうして…」
―ビリッ!ビリビリビリッ!!―
「な…俺からパンツを奪ってどうするつもりだ!?」
「火よ燃えて爆ぜよ、火の球!」
―ボワッ!―
メルはメルでパンツを破り去り、それに火魔法をかけて燃やしてしまう。
「あ、ああ!俺のパンツが…くそ、今すぐ消さねば…うぐっ!尻の火傷が……く、無念」
尻に大火傷を追い、手足を縛られた上…パンツも燃やされ、下半身は丸裸。
そんなデイドラを少しだけ、マジで憐れんでしまったのは内緒だ。
「そんな…デイドラさんが…」
「魔法で1発だと!?」
「クソッ!おい、誰か魔法使いを呼んで来いっ!」
こちらに魔法使いが居る事を知り、相手方も魔法使いを出して来た。
「相手が火なら…水よ集いて球と化し的を押し流せ―水の球!」
相手の魔法使いがそう唱えると、その指先から水のボールが複数飛び出した。
「水はマズイ!」
火の魔法が得意な魔法使いに、火を消す効果を持つ水の魔法は致命的だったりする。
「…ふふっ」
…がタエは優しく微笑むと、何とにこやかな顔をして俺とメルの前に立った。
「タエ!」
―シュババババッ!―
「いやああああっ!」
身体中に水の塊を受けて佇むタエの姿に、堪らずメルが悲鳴を上げる。
「おいタエ!しっかりしろっ!!」
俺も心配になり、微動だにしないタエを揺さぶる。
するとタエはその全身を泥と化し…俺達の前から消え去った。
「そんな…」
「タエさん…」
「はい?呼びました?」
彼女を守れなかった悲壮感に暮れる俺とメルだったが、真後ろから聞こえて来た声に首をかしげ…そしてゆっくりと振り返った。
するとそこに…
「心配して下さってありがとうございます…今のは私が魔法で作った泥人形でして、私は無傷です…とは言っても私に、あの程度の水魔法は全く意味はありませんが」
なんて事をすっとぼけた顔で言う、タエの元気な姿が。
―パシッ!―
「あいたっ!」
そんな彼女に対し、俺は思わずタエの頭をはたいた。
「バカ野郎…心配したじゃねぇか!」
「すみません…」
「でも良かった…」
「ああ、じゃあ急ぐぞっ!!」
言って再び駆け出す俺とメルとタエ。
気付けばタエの体からは、アリオトに受けた暴行の痕が消えており…やや褐色がかった健康的な肌と、織物のように滑らかで艶のある長い茶髪が戻っていた。
タエ曰く「私にとって水は栄養源でしかありませんから…どんな形であれ、水を飲んだり吸収したりすれば体はすぐ治ります」との事だった。
つまりあの時相手の魔法使いが放った水魔法『水流の矢』を、自分には全く効果が無い事を活かし…だが万一に備えて泥人形で栄養源として吸収…アリオトから受けたダメージを回復させた…と言う事らしい。
「クソッ!アイツが土なら…弱点は風だ!」
「風よ唸りて飛ばせ、風の塊!」
―ギュォッ!―
言って今度は別の魔法使いが、風属性の魔法を放った。
元来『風』とは無色透明で、条件が整わない限り目視は出来ない。
だが…
『見えるぞ!?…そうか!奴らがドタバタしたせいで、床に溜まってたホコリが舞い上がってたからそれで…』
そう…今まさに俺達に襲いかからんとしている風の塊は、床の土埃を一緒に巻き込んだせいか…茶色く色が付いていた。
…見えてんならかわせる…いや、かわしちまうと後ろの2人が……なら!
「ふんっ!」
―パァンッ!!―
俺はタイミングを合わせ、飛んできた風の塊に対し…コークスクリューアッパーを放った。
すると俺の腕の捻りが起こす風圧が高いせいか、相手の風魔法は弾けて消え去り…全く無傷な俺の腕がそこにあった。
「そんな!?魔法を素手で…しかも風圧だけで掻き消すなんて!」
「オラオラどうしたテメェら!来ねぇんならこっちから行くぞぉっ!!」
眼前で展開された異常な光景に愕然とする相手の魔法使い達。
「ハルいっけえええええっ!」
「やっちゃってくださぁーい!!」
「オラオラオラオラオラオラオラ…オラァッ!!」
―ズドドドドドドドドドドドドド…グシャァ!!―
「「「ぐわああっ」」」
男達の悲鳴が木霊する。
崩れ落ちる男達…その向こうに、これまで見てきた扉とは段違いに立派な扉が。
「ハル!あれが出口よ!」
「よっしゃあっ!」
言って俺達はその扉に向かって駆け出した。
セブンシンズ魔法辞典Vol.13
敵襲の警鐘
発動させると赤く明滅する光球が出現し、光球の周囲3mにブザー音を発生させる魔法。
パトライト+サイレンが分かりやすい。
主な使用者:不明 補助魔法
魔力の経路
基本的に魔法陣の形で運用される魔法。
最初に描いた魔法陣を【親】と設定…以後特定のルールに基づいて描かれた全ての魔法陣を【子】とし…【親】の魔法陣に組み込まれて発動した魔法を全ての【子】でも同時に発動させる事が出来る。
使い方次第ではとんでもない事になる魔法の1つ。
主な使用者:不明 補助魔法
粘着質な炎
狙った場所に、なかなか消えず延焼しない炎を発生させ…その場所を長時間焼き続ける魔法。
最近では竈の火がこの魔法で代用される事も。
主な使用者:メルファンス=クリート=ディートリヒ 火属性
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