第29話:涼輔の奮闘【後編】
そして時は戻り世界暦2005年、10月12日、土節、AM9時12分。
さてここはルクスリア城裏手にある、以前俺がフライドチキン用にピースバードを追いかけ回した森。
「そっちもうちょい下げて……そこ!」
俺は今この森を流れる『アモール川』を利用した、ある一大事業に取り組んでいる。
「リョウさぁんっ!コレでイイっすかぁっ?」
「バッチリだ!同じ物をあと30ほど頼むぜ!」
「ういっす!」
何をしてるかって?
この国に水道を通す為に、水車と水道橋と汲み上げ櫓を作ってんのさ。
昨日のアルマダの一件及び演説の後、アヤちゃんに聞いて気が付いたんだが…俺、セブンシンズに来て今日で13日になるが…一度も風呂に入ってない。
13日も風呂に入ってなければ、体臭が凄い事になり…すれ違う人全員が顔をしかめるハズだ。
だが今日まで俺は、誰からも顔をしかめられていない。
不安になってアヤちゃんに聞いたところ…
『リョウ様は私が何の精霊かお忘れになられたんですか?』
と真顔で仰った。
聞けば俺を………抱き、枕…に…する……と、同時…に…俺の……全身……を…自分の体…で、くまなく…洗って……る…らしい。
聞いた瞬間はマジで卒倒しかけた。
だって正にボディウォッシュだぞ!?ボディウォッシュ!
身長185の長身、Fの超絶ダイナマイトボディな彼女が全身で俺の全身を…いくら俺でも異世界で『泡の国』を経験するとは思ってなかったわっ!!
それでも汗を流し、体を洗う施設として湯浴み場はあったが…日本人たる者、湯に浸からずして満足出来るか!
…と言う訳で、水道整備を整えるついでに『風呂』の建設に着手した…って訳だ。
奴隷だった子達も、言いたか無いが相当臭うしな。
「これで…また1つ、この国に良い物が生まれる」
エンデが集めた作業員約160人…内80名はあの子供達。
彼らは初めて与えられるまっとうな仕事に喜び、各人が嬉々として作業に取り組んでいる。
流石は体力自慢…巨人や鬼人に負けず劣らずな働きをする。
「そんなに…良い物なんですか?ますたー」
俺の呟きを拾ったのは、アルマダが商品として連れてきた従魔人の少女ココアちゃん。
ココアちゃんは…俺が男を終わらせた蜥蜴人のマルファスが連れていた従魔人の少女ナッツちゃんと共に、アヤちゃんのお付き見習いとなった。
なお彼女の言う『ますたー』とは俺の事。
ココアちゃんはアヤちゃんの配下…アヤちゃんは俺の配下。
アヤちゃんはココアちゃんに自分の事を『アヤ姉様』と呼ばせているらしいが、同じように俺の事を『リョウ兄様』と呼ぼうとするのを俺が拒んだからだ。
だってココアちゃん…今気付いたんだが、顔が綾子そっくり!
耳と尻尾(ココアちゃん曰く『同じ従魔人でも、親の身体的特徴を受け継ぐ場合がありまして…私の耳はお母さん、尻尾はお父さんの特徴です』との事)が無かったらマジで瓜二つ…ココアちゃんに罪は無いが、異世界にまで来て『兄様』は心臓に悪い。
…で、ご主人様ってのを今度はココアちゃんが拒み…仕方なく、同じ意味だが『マスター』って言葉を教え、今に至ると言う訳だ。
「あぁ、絶対イイ物になるぞ?」
そして今…俺は、蠍人の技師が作った樋に…釘抜け防止・表面保護・防水・防腐剤の役割を持つバルムと言う木の樹液を塗っている途中。
釘抜け防止・表面保護・防水・防腐剤の効果を持つ樹液…『まんま漆じゃね?』ってツッコミは受け付けないからそのつもりで。
「…樋はこれでよし、じゃあ次は水車に取り掛かるから…ココアちゃんはまたアヤちゃんを手伝ってきてくれ」
「はい、ますたー」
俺に言われてテコテコ走るココアちゃん。
そんなに走ったらころ…
―べちっ―
「…うぐぅ、えぅ~」
万年アイス少女とたい焼き万引き少女のコラボレーション!?
…攻略ミスると(バッドエンドだと)どっちも消滅するからなぁ、あのゲーム…あんまり好きじゃないんだけど。
「でも…癒されるなぁ……っとイカンイカン」
なごなごしそうな気持ちをとりあえず黙らせ、俺は別の場所に向かう。
俺が向かったのは、水車本体を作る場所。
見れば今18人の作業員達が力を合わせ、直径8mほどの巨大な水車を組み上げ…それを支える支柱の加工に入っている。
「ふむ…よし、なら始めるか…」
俺は頭に描いた完成予想図を現場に照らし合わせ、思わずニヤッとする。
そして背負った麻袋から、沢山の…握り拳大の黒い石を取り出す。
これは『素石』と言って、与えた属性の力を…永久に発揮し続ける驚異の資源。
例えばこの石に火属性魔法を放つと、『火素石』となり…以後永久に火発し続ける。
ただこの石、致命的な欠点があって…ともかく高価い!
握り拳大1個で金貨2枚が相場。
ちなみに今、ここにそれが70個ある。
「さて…」
そんな石を…所定の場所に設置した巨大な鉄鍋の下に敷き詰め、俺はナイフを手に取った。
―ガリッ…ガリガリ―
そしてナイフの刃を鍋側面に突き立て、そこに魔法文字を彫り込んで行く。
―ガリガリ、ガリガリ―
「…よし」
刻んだ魔法文字はいずれも補助魔法で、『耐火の防壁』『伝播する威力』『瞬間的な展開』の3つ。
『耐火の防壁』の文字を刻まれた物は、どんな物質であれ火で燃える事は無い。
『伝播する威力』の文字を刻まれた物は、受けた物による副産効果をその物全域に広げる。
『瞬間的な展開』の文字は別の魔法文字と一緒に使われ…例えば時間が経つほど効果の高まる魔法の効果を、瞬間的に発現させる効果がある。
そうだな、鍋状の効果付与武具だな。
でだ…それらを刻んだ鍋を火にかけるとどうなるか?
答えは【瞬間的に火の熱を鍋全体に広げるが、赤熱化して鍋が焼け落ちる事は無くなる】だ。
じゃあそんな鍋に、常時水を注げばどうなる?
答えは【水は短時間で湧き、結果として常時お湯が使える】である。
***6時間後…世界暦2005年、10月12日、土節、PM3時12分***
「よし!じゃあ水車を下ろしてくれ!」
出来上がった水車がゆっくりと川面に沈み…やがて支柱に乗る。
すると…
―ギィ…―
木のきしむ音と共に、水車の羽が川の水を受けてゆっくり回転…羽に角度差を付ける事で羽自体が桶となり、高い所にある樋に水が汲み上げられていく。
と同時に俺は『火の球』で素石を燃やして火素石に変える。
やがて
―ジャバァァッ…―
「「うおおぉぉぉっ!すげぇぇっ!!」」
樋を流れた水はその先にある、件の鉄鍋へ注ぎ込まれる。
既に鍋は加熱状態なので、注がれた第1波は約20%が蒸発し…水蒸気となる。
水蒸気が上がったその瞬間、大歓声が上がった。
そしてその鍋へ、滑車と紐を利用した…汲み上げ櫓の中を通って、釣瓶の第一号が降りて来る。
実はこの…汲み上げ櫓が一番苦労した。
これはまず輪切りにした丸太の縁に、縁を囲むよう溝を彫って中心部に穴を空ける…それと同じ物を10枚用意する。
もちろん各丸太には漆を塗ってある。
次にこの輪切り丸太10枚を等間隔で並べ、穴に軸を通して丸太が回るようにし…その軸を挟む形で裏と表を固定。
そしてそれに、紐に等間隔であの40の釣瓶(漆塗布済み)を結わえて取り付け…丸太が回ると釣瓶付き紐も動く…キャタピラ仕様の滑車が出来る。
後はこれを櫓内部に通して中空で固定…丸太を回すと、キャタピラの原理で紐に付いた釣瓶が鍋内の湯を汲み上げ…櫓上部で別の樋に流れ落ち、湯はその樋を伝って城内へ…。
ちなみに川から汲み上げた水が樋を通って鍋へ落ちる時、その水は軌道上にある別の小型水車を回しており…これがまた紐で繋がって滑車となり、汲み上げ櫓の釣瓶付き紐滑車の動力源となっている。
水車で川から汲み上げられた水は量が多く…12枚の羽で汲むから量も相当な物。
そんな物が自由落下で落ちる時の質量的運動量…利用しない手は無い。
釣瓶付き紐の滑車は、鍋の底から一定以上水が溜まってないと…水を汲み上げる事が出来ない高さに設定してある。
これにより水は指定の高さまで溜まり、その間に沸かされ熱湯となる。
…とまぁ、そんな仕組みだ。
ちなみにあのミスティック鍋を、火を使わない通常の鍋にしたものも既に手配済みだ。
これで水道ができる。
ちなみに水質は廃材やボロ布を多用した多層式の濾過器と、俺自らの試飲でクリア。
こっちは水車を昇降式(木を削った歯車で、ハンドルを回すと上下する)にしてあるから…別途設備が整うまでは運休状態。
まあ白湯(湯冷ましの水)は飲めない事も無いが、酷く不味いらしいのでオススメ出来ない。
「さて…そろそろか」
水車が動き出して5分。
タイミング的にそろそろ城内で控えているアヤちゃんが来るハズだ…
「リョウ様ぁ~~!」
と思っていたら、視界の端…嬉しそうな表情をして、アヤちゃんが走ってきた。
―ぶるんぶるんぶるんぶるん―
…げふんげふん、失礼。
ぶるんぶるん揺れる巨大な果実に我を失いそうになった。
「来ました!リョウ様の作った部屋に、41℃前後の温かいお湯がたっくさん!!」
汲み上げ櫓が汲み上げた時は約96℃。
それが『俺の作った部屋』へ行くまでに…もし熱すぎるなら途中で水を混ぜる必要があったし、冷めすぎるようなら城内の樋に、また火素石を利用した仕掛けを組まなければと予定していた。
だが実際は櫓の上の樋を通って流れる内に急激に冷え、城内に達する頃にちょうど41℃になっていたのは嬉しい誤算だった。
「41℃前後?それは本当か!?」
「ハイ!こと水に関して嘘が吐けません♪」
「よっしゃあっ!」
そのセリフを聞き、俺は急いで駆け出した。
***
「うおおおっ!」
ルクスリア城1階…廃材置き場になっていた大きな部屋を改築したその部屋は、入るなり暖かい蒸気が俺を出迎えた。
樋を通じて城内へ引き込まれたお湯は、壁面にある銅像から延々と吐き出されており…その湯はその下に作った広大な浴槽(幅10m、奥行6m、深さ1m…漆塗りの木製)に溜められ、溢れた湯は床に作られた溝を通って排水されている。
「ふ、風呂だぁ~~~~!」
ちなみにこの溢れ出た湯だが、床下に儲けられた樋を通って城外に排出され…俺が掘った用水路を経て川に帰る。
なお浴室内で使う石鹸は100%自然製で、水に溶けると3時間で洗浄成分が消え…真水に戻る優れ物。
自然破壊はありえない!
「よっし!」
俺は即座に服を脱ぎ、一番湯を頂く事にしたのは言う間でもない。
またこの日を境にアヤちゃんの【リョウ様抱き枕化】が異常にディープで激しくなったのは、自分の楽しみを…風呂などに取られた嫉妬だろうか?
…考えるのが恐い。
ちなみに翌日、こんな事があった。
その日も俺は…苦労して作った大人気の温泉で、また一番湯を貰おうと温泉に向かったのだが…
「何じゃこりゃ!ってか誰が造った!?こんな給湯像!コレは…マズイだろ」
日本にある健康ランド的なスーパー銭湯ってさ、供給された湯を浴槽に注ぎ込む『給湯像』ってあるじゃん?
そう、あのマーライオン的なやつとか獅子の顔とか。
壁面に備え付けられていた給湯用の短い樋はいつの間にか姿を消し…代わりにそこへ給湯像が立っていたんだが…何とこれがアヤちゃんを模した銅像で…
「いやいくら水精霊母だからってこんな…」
そう、それは確かにアヤちゃん。
でも…
「何で裸なんだよっ!」
そう…その像は裸のアヤちゃんだった。
その豊満なFのアレを、両腕で抱き上げるようにして立つ扇情的なポーズを取っているその像は…何と!Fの谷間から湯が湧き出ている風に見えるよう、凝った意匠が施してあったのだ!!
谷間から湧き出る温泉。
その時だった。
『リョウ様ぁ…今宵こそお情けを頂戴できますかぁ?』
頭の中に、何故かアヤちゃんの…切なげな声が響いた。
「ぐふぁ…」
俺は鼻血を噴いて卒倒、気絶。
そして目を覚ませばアヤちゃんの胸の中。
そんな俺に彼女は笑顔で『私を精巧に模したあの給湯像…鼻血を噴くほど良い出来でしたか?でも体を綺麗にする為のお風呂なのに、鼻血で汚れるのはいかがなものでしょう?それでも私がいつもいつでも、リョウ様の全身を綺麗にして差し上げますね♪』と言い放った。
以後、入浴の度にはほぼ確実に、鼻血を噴いて卒倒する者が…男女問わず続出したのは言うまでもない。
セブンシンズ魔法辞典Vol.10
耐火の防壁
この魔法がかかった物は、どんな物質であれ火で燃える事はなくなる。
ただし熱くはなるので、熱は利用できる。
主な使用者:リョウスケ・ミカガミ 補助魔法
伝播する威力
この魔法は基本的に魔法文字と言う形で運用され…この文字が刻印された物は、受けた魔法等の副産効果をその物全域に広げる。
主な使用者:リョウスケ・ミカガミ 補助魔法
瞬間的な展開
別の魔法文字と一緒に、魔法文字と言う形で使われ…同時に刻印された魔法の『効果が現れる時間』をほぼゼロにする効果を持つ。
例えば時間が経つほど効果の高まる魔法の効果を、瞬間的に発現させる効果…になる。
主な使用者:リョウスケ・ミカガミ 補助魔法
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