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第10話:狂者の振るう狂刃
世界暦2005年、10月2日、土節、正午過ぎ。




街道の真ん中で全く動けない軍と、それを動かさないようにしている軍。
前者は侵攻を企む強欲(アワリティア)軍220、後者は対する色欲(ルクスリア)軍220。

「ふぅん…片手棍棒(メイス)牙剣(ショートソード)がメインなのか…」

俺は今しがた味方の部隊が打ち破ったアワリティア軍兵士の兵装を見てそんな事を呟いていた。

「アワリティア国は元々草原地帯の為、我らルクスリアの様に国や兵士を潤す資源が乏しい国です…なので調達の簡単な銅製片手棍棒(ブロンズメイス)鉄製牙剣アイアンショートソードが主武装になります」

「彼らも武器が脆弱なのは理解していて、だからあれもこれも欲しい…と、資源を有する各国に喧嘩を売っているの」

「なるほど、ピッタリじゃん…強欲(アワリティア)って名前」

―ガキン!シュッ、ズバッ!!―

俺とイオニスの話に相槌を打ちながらシズは、相手から打ち込まれた鉄製牙剣アイアンショートソードの一撃を鉄製両刃直剣(アイアンソード)の鎬で受けて弾き、相手のがら空きになった胴体へ反撃の切り払いを叩きこむ。

「ぐふっ!」

斬られたアワリティア軍兵は意図も簡単にその胴を上下に分け、次の瞬間にはその場に血の水溜りを作る。
俺はその光景に一瞬、とんでもない吐き気を催した。
如何に自分が魔王であるとは言え俺自身、誰かを殺害する事には抵抗がある。
それが『人間』として当然だと思うが、どうやらそうも言ってられないらしい。

「…どうしました?」

「…クソ、やっぱ断るべきだったか?」

―ドカッ!バキィッ!!―

俺は今この瞬間、自身が戦時国を統べる魔王であり…その任を受けた事を強く後悔していた。
戦時国であると言う事はいつ自分が殺され、あるいは殺すとも知れぬと言う事。
自慢じゃないが俺はこれまで誰かを殺した事は一度も無い。
義妹(いもうと)を救いに行って殺されかけ、顔の傷を作ったことはあるがそれでもだ。

俺はその光景を極力見ないようにして、ひたすら峰打ちを繰り返していた。
俺に殴られた兵士は体をくの字にまげて大きく吹っ飛び、後詰めであろう自軍の部隊に放物線を描いて突っ込んで行った。

「顔色が優れないようですが?」

俺は俺を心配していると思わしきシズの言葉に「ああ、なんでもない」と首を振りつつ、彼女が振るう剣が1つ、また1つと血溜りを作る光景に歯を食いしばっていた。

「風よ唸りて飛ばせ、風の塊(ウインドブラスト)

俺の横ではイオニスが風の魔法を使い、アワリティア軍兵士を4~5人まとめて吹き飛ばしていた。
彼女の様に魔法で吹き飛ばすならこの…剣で相手を打った時、手に残る筋肉や骨のへしゃげる嫌な感覚も残りにくいかと…俺も魔法主体の攻撃に切り替える。

「土よ自由に動きて陥没せん、大地の縦穴(アースシャフト)!」

―ズゴゴゴゴゴゴ!―

「何だと!?」

「ウワアァァァ…」

突如として地面に出現した巨大な縦穴は、その上で陣取っていたアワリティア軍兵士隊8人を巻き込み…彼らを一瞬でその穴底に叩き落とした。
なるほど、イメージさえしっかりしてれば例えそれが同一効果を持つ別の魔法名でもそのまま発動してしまうのか。
込める魔力の量がイマイチ把握出来ていないが、穴の規模は直径5mの深さ4mほど…簡単には出て来れまい。

落ちた兵士達を無視し、戦場に視線を戻すとそこに驚くべき光景が展開されていた。

「ちょっと待てシズ、あそこに見える一団…ありゃ増援じゃねぇのか?」

「何ですって!?」

シズに集るアワリティア軍兵士3人を延髄に手刀を叩きこんで気絶させ、背中合わせになって言った俺のセリフにシズが驚いた。

「何て事だ…」

みれば街道の奥からさらに100名ほど、白銀の鎧に身を包んだ一団が猛然とこちらに向かって走って来るではないか。

「アレは?」

「アワリティア軍が誇る最強の部隊【アニヒレイター】の連中です」

アニヒレイター…言葉を直訳するなら『殲滅する者』か?
殲滅…ウソだろ!?

俺はすぐさま展開している自国部隊に指示を飛ばす。

「総員散らばるな!やられるぞっ!!」

だが既に殺し殺されの狂気に魅入られた味方達は動く気配が無い。
そうこうする内に合流したアニヒレイターの手にかかり、1人…また1人と血の海へ沈んで行く。

「ふふはははは!どうしたルクスリアの者共よ、貴様らの力はその程度か?」

アニヒレイターの幹部と思わしき優男の癪に触るセリフ。
彼は俺と今打ち合いをしている。

「うるせぇボケ!さっさと失せろ!」

力の状態はやや押され気味。
だが俺自身の持ちうる『技術』がそれを許さない。

―ガキィンッ!―
―ギィンッ、ギャリリリ…キィンッ!―

相手が最上段の唐竹割りで来れば俺はそれを薙ぎ払いで相殺、俺が突きを繰り出せば相手はそれを鎬で弾いて即座に反撃。
一進一退の攻防を繰り返す。

「アワリティア最強の兵力も、まだまだだな」

「ふむ、中々やりおるわ」

見れば同じく幹部と思わしき別の男と鍔迫り合いをしていたシズの姿が。
体格もほぼ同じ、武器の質もほぼ同じ…つまり相手はルクスリアナイツと同等の能力を秘めているという事。

だがこのままでは不利だと俺は思った。
なぜならアニヒレイター100に対し、力が拮抗していると思わしきルクスリアナイツはたったの40…倍以上の兵力差がある。

そしてそれを案としてシズに後陣として告げようとした時、俺の視界に2騎…北門を潜って入り込まんとするアニヒレイターの姿が映った。

「アレは…」

「おぉ、さすがは隊長だ…俺達幹部を実に上手く使う」

「隊長…だと!?」

「ああそうだ、あの人達はいつもそうさ…俺達幹部を囮に自分らは要所に単騎で突入し、内部をメチャメチャにしちまうのさ」

こんな…この連中でさえ囮?
内部をメチャメチャに…?

「クソが!」

「ふはは!だが知ったところでお前にはどうも出来ん…なぜなら俺がお前を行かさんからだっ!」

言って眼前の幹部とやらは俺の視界を遮るよう位置を変えると、その腰にあったもう1本の武器を抜く。

蛮族弧刃(カトラス)先端広両刃剣(フォールチョン)の二刀流だと!?」

「ほう?あながち無知と言うわけでもなさそうだ」

先端広両刃剣(フォールチョン)
先端に行くほど刀身が広くなる風変わりな剣で、柄を切断されると役に立たなくなる両刃斧(トマホーク)を改良して作られた。
トマホーク由来の剛胆さをそのままに、元来柄であった部位も刃に変えた事により弱点を無くした武器。

「この先端広両刃剣(フォールチョン)は盾としても使える剣なのでな」

―ブンッ!ブォンッ!!―
―ヒュッ、ガキンッ!!―

「厄介な…」

俺に対しカトラスを振るい、回避したところを狙い澄ましフォールチョンの一撃。
カトラスで逃げる方向を指定されるのが何とも歯がゆい。
逆に俺の攻撃は全部盾代わりともなったフォールチョンに防がれ、直後に手痛いコースで反撃が飛んでくる。
そしてとうとう俺は壁際まで追い詰められてしまう。

「ふはは、さぁもう後が無いぞ?」

「クソが…なんてな」

「何?」

慌てた演技をしてやるといとも簡単に引っかかる幹部。
コイツのあだ名は『脳筋』だな。
策と言うものを知らん。

「爆ぜよ閃光の炎、眼を穿つ光炎(シュアファイア)!」

―ビカッ!!―

「ぐわあっ!」

突き出した俺の手から夥しい量の光が一直線に飛び、脳筋の眼を直撃する。
イメージしたのは夜間走行する自動車のハイビーム。
名前は俺オリジナル…つってもサバゲーやってるダチが教えてくれた、ハンドガンやアサルトライフルに装着するアタッチメントの一種が由来だがな。

こう言った魔法は本来なら光属性魔法なんだろうが、同じ明るき物と言う事で代用が利いた。
光の象徴たる太陽だって明るいが、その実態は巨大な火の玉だ。
まぁ光属性の魔法を火属性で代用するなんざ、アヤちゃんの言う『王宮中上から下への大騒ぎ』って奴だろう。
新しく出来た魔法…つまり新魔法の場合、上の句はそれがちょうど良い表現ならば以後それが上の句として通る事が分かった。

俺は何気に新魔法を開発し、それの発動成功を目の前の脳筋で確認…すぐさまその場を離脱した。
何せ城内部には戦闘に向かない文官や給仕、それにエンデやアヤちゃんもいる。

「急がないと…あれは!?」

俺はこの戦闘が始まる前に通ったばかりの北門へと急ぐ。
すると中には今まさに斬られようとするエンデの姿があった。


***
世界暦2005年、10月2日、土節、正午。



アヤSide

「にしても今度の魔王様は一際変わられている…そう思いませんか?」

「そうですね~」

羊皮紙を見ながらエイサムのお茶をすする私と、その羊皮紙が束になった物を見比べ唸るエンデさん。
私達は今訓練場から程近い場所にある執務室に来ている。

私はアヤ、アヤ=ケリュアクアス。
リョウスケ様をこの地に喚びし『姫巫女』の肩書きを持つ魔法使い。

御前会議にてエンデさんに難題をふっかけた、新たに私達を率いて行く事となった新魔王(リョウスケ)様。
私に『リョウ』と呼べと命じたり、アレコレ知りたいと言ったり…新魔法を難なく開発したり、御前会議で(道理だけど)無茶苦茶な事を言ったり。

確かに変わっていると思う。
変わっていると言えば先代のチルード様も相当だったが、リョウ様に至ってはチルード様の斜め上を行く変わりようだ。

「魔王様が出す命令なら何でも進めますのに…」

「そうですね…ですがリョウ様の言う事も尤もだと思いますよ?」

エンデさんの『ルクスリア(このくに)をどう見るか』と言う質問に対し『病んでいる』と答えたリョウ様。

「どう言う事?」

「誰しも出来る事と出来ない事ってあると思うんですよ」

「例えば?」

「そうですね…例えば私だとエンデさんのように国の財政管理をしたり、予算の分配は出来ません…ですがエンデさんは私の様に戦場で武器を手に相手を打ち倒したり、魔法を使って戦況を打破する事は出来ませんよね?」

宰相は王の補佐。
騎士・兵士は近接戦闘。
給仕や料理人は食の管理。
魔法使いは遠距離戦闘。

「適した人材は適した場所に、これをリョウ様のお国では『適材適所』と呼ぶそうです」

「そう言われればそうですが…それは生まれ持った物で、いわば出来て当たり前なのでは?」

「果たしてそうでしょうか?」

「え?」

私の質問に首を傾げるエンデさん。

「では何故エンデさんは財政管理や予算配分が出来るんでしょうか?何故私は剣を振るったり魔法が使えるようになったんでしょうか?」

「それは…そう教えてもらったからですか?」

「そうです…では何故教えてもらったんですか?」

「え、え…え~と……それを教えて、使いこなせる見込みがあって…かつそう言われた時嬉しかったから……あぁ!」

『これは君にしか出来ない』と言われれば多くの人が『ならやってみよう』と思う。
また『君なら出来るよ』と言われても多くの人は『ならやってみよう』と思うはず。
逆にそれがどう努力しても出来ないならば素直に『出来ません』と言うべきだろう。

「なるほど…どう努力しても出来ないならば素直に『出来ません』と言う事の大事さを魔王様は仰りたかったのですね!?」

「そうです、そして幸か不幸かリョウ様はエンデさんは宰相であると言う事のみしか知りません…と言う事はエンデさんは『宰相だから出来る事』を『宰相だからこそしたい事』を最大限利用して資料にまとめ、提出すればいいんです」

「ああ!なるほど!!」

ここ3時間全く進まなかった筆が、私の言葉で枷が外れたのか…物凄い勢いで進み出した。
どうやらやりたい事、やってみたい事が…考え方を変えるだけで湯水の様に溢れ出したらしい。

「…よし」

「へぇ…今ルクスリアはこんな状況に…ん?この『人事雇用案』の欄に書かれたこれは?」

見れば『武術大会開催』とある。

「武術大会…ですか?」

「そうです、ルクスリア王国主宰で…一般市民から強者を集め、一定の規則の元で戦わせ…優秀な成績を納めた者を城に登用するんです!」

「ほぉほぉ…」

まずルクスリア王国内にある各村町に通達を出す。
そして予選と準決勝と決勝を行い、上位数名を城で雇用する。
雇用決定者の出身村には援助金を送り、村の発展と繁栄の資金にしてもらう
…と言う案だった。

「凄く良い案じゃないですか!これなら必要な人員を必要なだけ雇うことが出来ますし、雇った人員は城を…ひいては国全体を潤す、換えがたい財産になりますね」

「でしょう?」

「じゃあそれに付随する案としてこんなのはどうでしょうか?」

本当は禁止されてるんだろうけど、私はエンデさんに次のような案を提示してみる。

「出場者には戦いだけではなく教養や料理の腕も競わせるんです…そうすれば雇用決定者の中には軍師となる人材や一流料理人だって入るかもしれませんよ?」

「なるほど!じゃあ『武術大会』ではなく、『宮廷雇用選抜戦』としましょうか…」

「そうですね…じゃあそれを資料兼意見として纏めて…」

私の指示で羊皮紙を纏め、立ち上がるエンデさん。
その顔は『やってやる』と言う気迫に満ちた、すがすがしい顔だった。

「さて後はこれを提出して…」

とその時だった。

―カァーンッ!カァーンッ!カァーンッ!―

「これは…警鐘!?」

この城の最上階には時を知らせる大きな銅の鐘がある。
普段は日の出と南中と日の入りを知らせる鐘だが、有事に備える為二回りほど小さな鐘が備えてある。

そしてそれが鳴る…それ即ちこの城に危機が迫った時。
私はとっさに執務室備え付けの椅子で窓を破り、屋外へ…訓練場へと飛び出した。
エンデさんも私に続いて窓枠を乗り越えて外にでてくる。

「あれは…強欲(アワリティア)軍!?」

世界を掴むような形の手をモチーフとした国旗。
全てを強欲に欲しがるアワリティア軍の旗…それが少し離れた位置で翻っているのが見えた。
そしてそのすぐそばで蛮族弧刃(カトラス)を振りかざし、アワリティア軍兵を殴り飛ばしている黒髪の男性…リョウ様。

私はすぐにそちらへ向かおうとしたが、エンデさんをほったらかしで行くわけには行かない。
今近くには敵がいない…少し危険ではあるが彼女を逃がす事にする。

「エンデさん、急いで正面玄関に回って逃げて下さい…私は時間を稼ぎます」

「はい!」

私の言っている意味を理解したのか、走っていくエンデさん。
彼女が訓練場の出口に向かったのを確認した私は窓から飛び出し、リョウ様の周囲の敵めがけ魔法を撃とうとした…その時だった。

「おや?これはこれは…ルクスリアの姫巫女殿ではありませんか」

「ッ!?」

突如聞こえてきたその声に私は背筋が凍る思いをした。
気が付けばすぐ横に、アワリティア軍最強戦力【アニヒレイター】隊長の姿があった。

「シルフォニアン…ローゼンバラン……いつからそこに?」

「いかにも、ボクはシルフォニアン=ローゼンバランだ…いつからそこに?と言われれば、ついさっき…かな?」

「【アニヒレイター】がどうして…」

「いやなに簡単な理由さ…最近キミが召喚した魔王だっけ?我らが王はその新魔王が邪魔なんだって」

私はそのセリフに耳を疑った。
なぜそれを知っているのか。
救世主召喚計画プロジェクト・サモンメシア』は機密中の機密のはず。

「おやおや、姫巫女殿はご存知無いのかい?」

「な、何を…」

「あそこに居る面長の斧兵、見た事が無いかな?」

ローゼンバランが指し示す先には、今しがた逃げたエンデさんの前に立ち塞がる斧兵の姿が…そして私はその人物の顔を見て卒倒しそうになった。
あれは…

「そう、その通り…彼はアワリティア軍に籍を置く、いわば間者だったのさ」

「間者…」

「そう!そしてその正体はアワリティア軍の殲滅特化特殊部隊…通称【アニヒレイター】の副官、ボクの右腕…副隊長さ」

アニヒレイターの副隊長…
その言葉はとてもじゃないけど信じる事ができなかった。
だって、彼は…

「『救世主召喚計画プロジェクト・サモンメシア』に賛同していたって?バカだねぇ…それこそ作戦だってのに」

「なん…ですって?」

「前々からルクスリア(このくに)は邪魔で、度々襲ってきたよ?でもいつもひきわけばかりでね…強欲(ウチ)の王様カンカンでさ?そんな時、彼から『救世主召喚計画プロジェクト・サモンメシア』の事を聞いて、ある考えが浮かんだのさ」

力としては拮抗状態にあるルクスリアとアワリティア。
そして王がいない状態のルクスリアに持ちあがった『救世主召喚計画プロジェクト・サモンメシア
これに全てを賭けるだろうと見越したアワリティア軍は間者たる副隊長を使い、中心人物たる私に召喚を踏み切らせ、魔王を召喚する。

召喚されたばかりの魔王は戦力として乏しいはずなのでそこを襲い、彼を始末する。
魔王が死ぬ事により国は士気を落とし、結果としてアワリティアが士気の差で勝利する。

「…と言う計画さ」

「そんな…」

私は膝が折れ、その場に座り込んでしまう。

「どうだい?やる気が削げるだろ?ふふ…狙い通りだ、キミもイイ顔してるよ」

愕然とした私を見て愉快そうに笑うローゼンバラン。
もはや眼に力の入らなかった私だけどその視界の隅に、エンデさん目掛けて走る1人の男性の姿が映った。
彼はその足でエンデさんにかけ寄ると、今まさに彼女を斬らんとしていた副隊長を蹴り飛ばしたではないか。

「リョウ様!」

「ほう、あれがキミの召喚した新魔王かな?」

リョウ様は蹴り飛ばした男が気絶したのを確認し、恐怖のあまり蹲るエンデさんを抱き締めているようだ。

「ふ~む…非力な文官を心配する新しき魔王、か…美しいね~…よし、じゃあ…美しいまま……死んでもらおうかな?」

「なっ!?」

ローゼンバランがそう言った瞬間、彼の姿は私の前から消え…エンデさんと向きあっているリョウ様の背後に立った。
何と言う敏捷性…見ればエンデさんにはリョウ様の体が邪魔でローゼンバランが見えていない。
そしてリョウ様自身も胸元に抱いたエンデさんに気を取られて背後のローゼンバランに気付いていない。

剣を振り上げるローゼンバラン。
いけない!私はとっさに禁術である空間転位呪文を発動させる。


***
世界暦2005年、10月2日、土節、正午過ぎ。



門を潜ってすぐ見えたのはエンデと対峙する、斧を持った面長のアワリティア軍兵。
俺はすぐさま進路をその男に合わせ、方向転換する。
そしてそのまま3mの位置で跳躍…

―バキィッ!!―

側頭部に渾身の飛び蹴りを食らわしてやる。

「がはっ!」

男は大きく吹っ飛び、そのまま訓練場外周部…城壁の傍に植えてあった大木に頭から突っ込んだ。
…鎧兜着込んでるし、死にゃしないだろう。

「大丈夫かエンデ!」

「あ、ああ…あぁぁ……」

彼女はその体をブルブル震わせ、悲痛な表情で座り込んでいた。
俺はとっさにマントを外し、それで彼女を包んで抱き締める。

「よしよし、もう大丈夫だぞ?」

「はぁ、はぁ…こ、こわかった……」

戦闘に不慣れな文官まで狙うとは…酷いな。
俺は彼女が落ち着くのを待つ事にする。

「なぁエンデ、アヤはどこだ?」

「アヤ様は私を逃がした後、魔王様を援護する為に戦場へ向かいました…」

何でもようやく資料が完成し、それを披露しに行こうと思った矢先…あの警鐘が鳴ったのだとか。
アヤちゃんは宰相執務室の窓を椅子でカチ破り、自分と一緒に窓から飛び出したらしい。

「そうか、なら俺も戻らなくちゃ…」

如何に彼女が宮廷魔法使いとは言えあの数を凌ぐには少し危ない。
そう思って立ち上がろうとした直後だった。

―ヴンッ!―
―ドスッ…―

「うっ…」

「ッ!?」

背後で嫌な音がして、誰かがうめく声が聞こえた
俺が振り返るとそこに、妙にニヤついた顔をした見慣れない優男と…こちらにむけたその顔を苦痛に歪めたアヤちゃんの後ろ姿が。

「アヤちゃん!?」

「リョウ様、お怪我はありませんか………?」

俺の問いに対しアヤちゃんはニコッと笑った後、その口端から1筋の血を流した。
驚いた俺は彼女に声をかける。

「あ…アヤちゃ………!?」

だがその言葉も、次の瞬間眼前で展開した光景に先が紡げなかった。
なぜなら…。

―ドサッ―



















静かに倒れこんだアヤちゃんの背中に、




















白金の刃が突き立っていたのが見えたから。
セブンシンズ魔法辞典Vol.2


風の塊(ウインドブラスト)
手の平から渦巻く風の塊が直線的に撃ち出され、着弾した物を周囲ごと吹き飛ばす魔法
主な使用者:イオニス=アグニス 風属性

大地の縦穴(アースシャフト)
指定した範囲内の地面を急激に陥没させて縦穴を作り、そこに指定範囲内の相手を落とし込む魔法
主な使用者:リョウスケ・ミカガミ 土属性

眼を穿つ光炎(シュアファイア)【非公開】
突き出した手の平から指向性を持った強烈な光線を照射する魔法。
主な使用者:リョウスケ・ミカガミ 本来は光だが、涼輔は火属性で代用

空間転移呪文【禁術】
正確な距離・空間把握能力があって初めて使用条件が整う補助魔法で、その使い方しだいでは一国をも簡単に落とせる事から禁術の指定を受けている補助魔法。
指定した任意の座標へ時間と空間およびその間にある全ての外的要素を無視し、指定した座標まで本当に一瞬で移動する事が出来る。
今のところ魔法名は不明。
主な使用者:アヤ=ケリュアクアス 補助魔法


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