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HUNTER×HUNTER ――ニキとロゼのハント――
作:神楽 久遠



2.願書提出


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「ニキ、話は聞いたかね、ん?」
毎朝の恒例行事である門前の清掃を箒片手にしている時、不意に背後から声を掛けられた。声を掛けてきたのは、長身痩躯のチック。三人の兄弟子の中では、一番穏健で知的な人だが、自分とは滅多に口を利く人ではない。そんな兄弟子に、少し戸惑い、兄弟子の顔をマジマジと見る。
「ん? どうやら知らないようだね。ハンター試験の事だよ、ニキ。今年はお前とロゼに受けさせるんだって、師匠」
「ハンター試験?」
淡々と事実を確認するようにチックがボクに話しかけるが、どうにも要領を得ない。
もちろん『ハンター』という職種については知っている。
倍率数百万倍という超難関の試験を突破した者だけに贈られる資格。
真に心身共に強い者でないとその資格を有することはできず、その効力は全世界的に及ぶ。
人々から尊敬され、また畏怖される超国家的職業、それがハンターだ。
現在、世界中を探しても約600名しか『ハンター』が存在していない事からも、その希少性、その存在価値が知れようモノである。
師匠がハンターだという事を知っているし、兄弟子3人もハンター資格を持っている。これでボクと姉ちゃんがハンター試験を合格すれば、実に全世界的に1%のハンターが、この辺鄙な町に住まう事になると思うと、少しだけ爽快な気分になるが、逆に云えば、そんな試験に自分が合格するとは思えなかった。
「ん? そうだよ、ハンター試験。面白そうだろ? ハンター試験の受験票は代わりに出しておいたから」
チックは尚も淡々と事実だけを言葉で並べる。
まったくこの人が何を楽しみに生きているのか不明だ。
「出すのはいいですけど、ボクも姉ちゃんも多分合格しませんよ」
「フフフ、面白い冗談だね、ニキ。ん? 自分が合格しないとか、ひょっとして思ってるのかいニキ? フフフ、まぁこんな田舎から出た事ばければ、そうだろうね」
「はぁ」
「ニキもロゼも、師匠の英才教育をこ〜んな小さい時から受けてるんだから、落選する事はないと確信しているよ。ん? それでも心配かい? まぁ君たちは比べる基準がないからね、そうだねぇ」
長身のチックは針金のような手を組み、ウンウン唸りながら考え込み始めた。
ボクがここへやってきたのは、2〜3才の頃だと思う。姉ちゃんも4〜5才くらいだった。あれから12年もここに住んでいるが、よくよく考えてみればチックやオーマはその時からずっと一緒にいた。
三人の兄弟子が一緒にいる事は滅多にないけど、必ず一人がこの家に残るように兄弟子たちは順番に出かけているようだ。その事については、一度オーマに聞いてボクは納得していた。
師匠――リュンフ・マスターを筆頭に、この町には数十人の薬草師が住んでいる。それほど大きな町ではない事は知っているが、この町の周辺には珍しい薬草や薬木が多く、不逞の輩が多く出没するそうなのだ。
ここで調合された薬剤は、他の町に持っていけば高く売れるそうで、それを目的にやって来る悪人が後を絶たないそうなのである。一方で、周辺の森には様々な魔獣や危険な動植物が群生しており、素人が中に入っても何も採集できずに、逆に餌になってしまう事が多いらしいのである。
チックやオーマは『植物ハンター』プラント・ハンターと呼ばれる、そういった危険な森林などで、人間に有益な動植物を採取するのが専門のハンターらしい。
ちょっと話が逸れた。
要するに、外部の人は森で黙って薬草などを採取する事ができないので、直接、この町を襲う事があるそうなのだ。
それらから町を守る為に、師匠たちは必ず一人は町に残るようにしているとの事なのだが。
「ん、説明は難しいなぁ〜。ロゼとニキは私の手伝いで一緒に『森』に入ってるじゃない、ん? それってプロのハンターでもタイヘンな事なんだけよ」
「でも、レオノフさんやシャキールさんも一緒に『森』に入ってるよ」
「まぁ、あのオッサン達も普通じゃないからねぇ。でも、オッサン達は《念》は使えないでしょ、ん?」
「そういえば――」
《念》――通常、人間は体中にある精孔という穴(いわゆるツボとよばれるもの)が閉じている状態になっている。それを訓練によって開ける事により、特殊な力を発揮する事ができる異能だ。
師匠は心源流拳法という、この《念》を使用する武術を若い頃に学んだ事があり、それを原型に兄弟子たちやボクたち姉弟に自分でアレンジした技術を教えていた。
中でも《発》という特殊な能力を発揮できるようになるまでに、10年以上の鍛錬を行ってきた。
「ん、これは伝えちゃいけない事かもしれないけど、ハンター試験の最終的な合格ラインは、《念》を使えるかどうかなんだよ。特殊な技術だからね、才能があれば使えるようになるものでもないし、かといって廃れさせるのも勿体無い。本当の処は誰も知らないけど、案外、この《念》を継承させるに足りる才能を持った人物を選抜するのが、ハンター試験の本当の目的かもしれない、と私は思っているんだよ。ん、実際問題、ハンター全員が善人じゃないし、悪党も少なくない。だけどそれは技術たる《念》が悪いんじゃなくて、使い手が悪いってことだしね。そういった意味じゃ、ニキもロゼも合格している」
「なら、なんでハンター試験を受けるの?」
純粋な疑問をぶつけてみる。
もし技術継承が目的なら、ボクがハンターになる必要はない。このままで充分だと思う。
「ん、いい質問だね、ニキ」
チックはにんまりと笑みを浮かべた。
「師匠も私もね、二人に世界を見てきて欲しいのさ。確かに、ハンターである必要はないけどね。ん、そうだね。私もニキと同じ事を感じていたよ、だからこそ云えるんだけどね。ハンターになれば、もっと世界が広くなる。もっと大きな世界が目の前に広がる」
針金細工のような四肢を大きく広げて、空を見上げるチック。そして、たっぷり余裕を持った態度で自分を見下ろしてくる。
「ニキ、ニキ、ニキ。世界は面白いよ、ニキ。ん、ホントに面白い。いや、もしかしたらツマラナイのかも知れないが、それでも知らないでツマラナイよりも、知ってツマラナイ方が何倍もいい。私はそう思うよ、ニキ?」
こういう言い回しはやっぱりチックは上手だ。
師匠は小難しい言い方でよく分からないし、オーマは初めからこういう説明をしない。姉ちゃんはいつもシタリ顔で頷くだけ。ラダに至っては、意思の疎通は不可能だ。
「分かったよ、チック。姉ちゃんと一緒にハンター試験を受けてくるよ」
「ん、良かった。話しかけた甲斐があったよ、ニキ。大丈夫、二人なら絶対に合格できるさ」
そう太鼓判を押したチックは、ボクの頭を軽く二回ほど叩き、家に帰っていく。どうやら本当に、ハンター試験の事だけを話に来たようだ。
「姉ちゃんは――まぁ、説得しなくても行きたがるか」
姉ちゃんは光り物(宝石とか、決して刃物じゃない)が大好きで、チックやオーマが大きな町に行く時はいつも付いていきたがった。姉ちゃんはボクと違って、人と話したり、物語を聞いたりするのが大好きなのだ。
そう考えるとちょっとだけ、ハンター試験も悪くないかもしれないと思う。
昔、師匠に云われた助言に従って、ボクは好きな事を探して、そして選んだ。
そう、ボクは「姉ちゃん」を好きになる事を選んだのだ。








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