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異世界で幼女化したので養女になったり書記官になったりします 番外編置き場 作者:瀬尾優梨

番外編

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☆冷静な侍女と純情書記官3☆

 最初に行った雑貨屋では、まずはヴェインのためのプレゼント選び。二人でかなり悩んだ末、贈り物は剣の鞘に付ける飾り紐にした。贈答用にきれいにラッピングしてもらう間、カスミはレイナと同じ柄で色違いのガラス製の櫛を購入した。
 どうやらレイナがいた世界では、友人同士が同じ柄のものを購入することがよくあったのだそうだ。それぞれ自分の分は自分で購入すると、レイナは「カスミとお揃いだ!」と大喜びだった。書記部に出勤する前に必ずこの櫛で髪を解く、と宣言するレイナを見て、カスミも毎朝必ずこの櫛を使おうと心に決めた。

 ラッピングされたプレゼントをレイナのバッグに入れ(護衛の騎士が持つと言ったのだが、レイナが頑として受け入れなかった)、今度は流行のパーラーでアイスを買う。最初に約束した通り、時間外勤務代の代わりとして、二人分のアイス代をレイナが払った。

「カスミはミントが好きなのね」
 カスミに青緑色のアイスを渡したレイナが感想を言う。そう言う彼女は、チョコチップが練り込まれたピンク色のアイスを手にしている。

「私、ミントはあまり食べないんだ。歯磨き粉っぽくって」
「ハミガ……ですか?」
「あっ、えっと、歯磨き粉ってのは歯を磨くときに使う……薬? みたいなので……」
 二人がパーラーの前にいる間に、騎士が席を取ってくれた。ただし、「レイナ・フェスティーユ様のために場所を空けろ!」と他の客を追い出すのではなく、あくまでも空いた席を確保する方針で。
 レイナは席取りしてくれた騎士に礼を言い、カスミと二人で席についてアイスを突く。ここらのアイスは、平たい皿の上に半球型にくり抜いたアイスを二つ、並べる形になっている。

「レイナ様の故郷にもアイスはありましたか?」
 カスミが問うてみると、レイナは苺味のアイスをスプーンで掬い、こっくり頷く。

「もちろんあったよ。あっちの露店とかでアイスを買ったら、こういうお皿に載るものより、コーンやカップに入っているものが多かったな」
「カップはともかく……コーンとは?」
「えっと、確か……ビスケットを固くしたような生地で、それを器型にしているの。こんな形ね」
 そう言ってレイナは、テーブルに指でコーンの形を描く。カスミが見る限り、円錐形の容器のようだ。

「ここの、この部分にアイスを載せるの。上手くバランスが取れたら二つとか、三つとか重ねたりして。しかもコーンの場合、器の部分も食べられるんだ。ゴミも出ないから、買い食いには最適だったね」
「なるほど、食べられる容器ですか……」
 ベルフォードの食文化を鑑みる限り、「食べられる食器」は、せいぜい瓜科の野菜や硬質な果実の実をくり抜いて、器にした料理くらいだ。クッキー生地のようなものを丸めて器型に焼くという発想はなかった。

「レイナ様の世界は、たくさんの新しい知識で溢れていますね」
「そうだね……世界は広くって、私みたいな凡人もいれば、すっごく頭が切れてどんどん新発見しちゃうような天才もいたからね」
「……ちなみにレイナ様がお暮らしになっていた世界は、どれほどの人口でしたか?」
 知的好奇心を擽られてカスミは聞いてみたが。

 対するレイナの返事を聞いても、全くその数値の桁の見当も付かず、あまり知的好奇心を満たすことはできなかった。








 アイスを食べた後は、最近できたばかりだという宝飾店へ。どうやらレイナは書記部の女性陣からこの宝飾店の噂を聞いたらしく、興味津々だった。

「レイナ様は、装飾品をご自分で選ばれることはあまりなかったですね」
「うん、基本カスミにお任せだったね。でも書記部のお姉さんに聞いたところ、このお店では宝飾品はもちろんだし、お客さんのオーダーを受けてオリジナルのアクセサリーを作ってくれるそうなんだ」
 レイナが聞いた情報をまとめると。

 この店は既製品の宝飾品を売るだけでなく、比較的安値の宝石やガラス石を使って、オリジナルで世界に一つだけのアクセサリーを作ってくれるそうなのだ。宝石やガラス石には小さな穴が空いており、客の好みの石を糸に通し、ブレスレットや指輪、ネックレスや髪飾りを作ってくれるのだという。
 何よりも女性陣の噂の種になっているのは、オリジナルアクセサリー作りが比較的お手頃な値段だということ。一級品の宝飾品ももちろんガラスケースの中に収まっているが、アクセサリー作りに関しては一般市民でも手が出しやすいよう、手頃な値段で提供している。

 なお、この店は入り口が二つあり、高級宝飾を買い求める客用と、アクセサリー作りに来る客用で、ドアが違う。
 今回、レイナの目的はもちろん後者だった。「世界に一つだけのオリジナルアクセサリー、作ります」の看板がぶら下がるアンティークなドアから店内に入ると、なるほど、店内の客はほとんどが平民で、皆、貴族のお嬢様の出で立ちをしたレイナを見て驚いていた。

「こ、これはようこそいらっしゃいました、お嬢様方……」
 奥の方からせかせかと、エプロン姿の中年女性がやってくる。ネームプレートを見る限り、店長のようだ。
 カスミはパラソルを畳んで騎士に渡し、レイナがにこやかに応える。

「初めまして。職場でこのお店の話を聞いてやって来ました。私たちに対して特別な処置は必要ありません。護衛は外に残して、こちらにいる侍女一人だけ同伴いたします。……他のお客様方も、どうかごゆっくりなさってください。お願いします」
 普通、こういう場では身分の高い女性は喋らない。以前二人で参加した、精霊討伐隊を送る夜会でもそうだったが、子爵令嬢であるレイナが喋ることなく、侍女であるカスミが用件を伝えるものなのだ。

 だが、そうしなかったのはレイナたっての願いだった。貴族の令嬢としてではなく、一人の娘として買いものをしたいという願いだ。
 店長はレイナの思いを汲んだのか、しばしの沈黙の後、ゆっくり頷いた。

「かしこまりました。ご用件がおありでしたら、私どもをお呼びください」
「はい、ありがとうございます」
 レイナは満足そうに頷く。もし、店長がレイナを令嬢扱いするのなら、「お呼びください」とは言わない。呼ばれる前に店長が馳せ参じなければならないからだ。

 レイナは嬉々として店内を回って、日光を浴びてきらきらと輝く小さな宝石に見入っていた。他の客たちはしばし緊張していたようだが、あまりにもレイナが普通の娘らしく振る舞うものだからか、間もなく自分の買いものに戻ってくれた。所々から、「あの黒髪、ひょっとして噂の……?」と聞こえてくるが、あえてカスミもレイナも無視した。実害がない限り、放っておいた方がいい。
 レイナはある程度のアクセサリーのデザインを決めたらしく、さっさと自分の足で店長の所に行った。店長はしばらく、レイナの話を聞いていたようだが、やがてにっこりと笑ってアクセサリー作りの道具をカウンターから出した。

 カスミは少し離れたところで、店長と何やら話をしているレイナを見つめていた。こうやって人々と交流をしていくのが、レイナのやり方だ。レイナが「異世界の乙女レイナ・フェスティーユ」であると薄々、客や店員たちも気づいているようだが、あえて何も言わない。それがまた、レイナにとって居心地がいいみたいだ。

 カスミはちらっと戸口にいる騎士に目配せし、レイナに背を向けた。レイナの見守りは騎士に任せよう。いつまでもレイナの背後に自分が立っていても、レイナも店長もやりにくいだけだ。
 カスミは、店内の奥にある廊下をゆっくり歩く。レイナから聞いていたように、この店は入り口が二つあるが、内部は繋がっている。そこを進むと、今度は様相の全く違う宝飾店に出た。
 ここはいわゆる、上流階級の貴婦人のためのエリアだ。店長もあちらとこちらで一人ずつ立てているらしく、あちらの店長は作業用のエプロン姿だったのに対し、こちらの店長はきちっと礼服用のドレスを着こなした若い女性だった。

 ガラスのショーケースに並んでいるのは、いずれも一級品の宝飾品ばかり。だが、宝石に目が慣れてしまったカスミには分かる。普段、レイナが身につけている宝飾品は、このレベルではない。レイナがその値段を聞いたら卒倒してしまうくらい、超高級なのだ。もちろん、端の男爵家令嬢である自分では到底手に入れることのできない、仕事でしか接することのない逸品だった。
 ぐるりと店内を見回した後、カスミは踵を返す。と――

「……本当に腹が立つわ! 何ですの、この店! こんなおもちゃ石でわたくしを誤魔化そうとでも思っているの!?」
 女性の金切り声と、何かを投げつける音。店員の女性が何やら言い訳する声。

 ああ、面倒事が起きている、とカスミは内心、店員たちに同情する。すぐさま店長の女性が騒ぎのする方へ駆けていき、奥の部屋から出てきた令嬢に何やら説明している。
 ちらっと見えたが、まだデビューしたてと思わしき令嬢だった。「あなたも何とか言って!」と騒いでいるので、連れの男性でもいるのだろうか。
 何にしろ、騒ぎに巻き込まれたくはない。何よりも、この続き部屋にはレイナがいるのだ。店員たちは可愛そうだが、レイナが巻き込まれる前にそれとなく退散しよう。
 そう思ったカスミだが、次の瞬間聞こえてきた声に、脳みそが活動停止した。

「そうカッカするなよ、マデリーン。可愛い顔が台無しだ」
「だって、伯爵令嬢であるわたくしに対して、この仕打ちですのよ! もういいわ! お父様に言ってやるから!」
「マデリーン、落ち着いて……」
 ぎゃんぎゃん騒ぐ娘と、それを窘めようとしている若い男性の声。

 カスミは、知っている。

 この男性の声。彼は――

 ――この時の自分の反応を、カスミは後になって何度も悔やむことになる。
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