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異世界で幼女化したので養女になったり書記官になったりします 番外編置き場 作者:瀬尾優梨

番外編

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☆突撃! メイゾンさんちの晩ご飯!3☆

 少年になった書記官長は、武術より算術、学問の方に才能を伸ばした。彼の才能を尊重し、両親は書記官長を学問専攻の学校に通わせた。初めてと言っていい「社会」に進出していった書記官長は、そこでやっと、両親の言わんとすることを悟った。

 男の子は、お人形やリボン、花を愛でたりはしない。それは、女の子がすること。
 男の子が人形を持っていると、気味悪がられる。「あいつはおかしい」と指をさされる。聡い書記官長はすぐにそのことを知り、両親の言いつけを守り、「普通の男の子」の仮面を被ることにした。

 大好きな可愛いものは全部、屋敷の部屋に封印して、同級生の少年と同じように行動する。一人称も、「私」から「僕」に変えた。趣味ではないけれど、格好いい剣とか、騎士とか、血生臭い戦記物とか、そういう話に合わせた。

 辛いけれど、痛いほど分かっていた。ここで、自分の素の姿を出すと、攻撃される。無事に学校生活を送りたいなら――大好きな学問を続けたいなら、我慢しなければならない、と。

 そして書記官長は当時では異例の速さで書記官のバッジを手に入れた。当時、書記官長は十六歳。試験通過時の成績は中の上レベルだったが、十六歳という年齢にしては破格の成績だったらしい。
 書記部は、今まで在学していた学校とはまた違った。こちらは、基本的に「仕事さえできれば門戸・年齢・趣味・容姿を問わない」世界だった。就職した書記部には、自分を越える変人もたくさんいた。

 書記官長は、少しずつ自信を持った。これなら、自分の少女趣味をさらけ出しても大丈夫なのではないか。書記官長は着実に仕事をこなしていた。仕事ができる者は、決して淘汰されない。

 書記官長はある日、一人で昼食を食べていた。料理が得意な書記官長はその頃から、自分で食事を作っていた。
 だが、どうしても趣味が疼き、弁当は可愛らしい見た目になる(地球で言うと、「キャラ弁」だ)。それを書記部の皆に見せるのはまだ勇気が要ったので、こそこそと中庭の日陰で食べていたのだ。
 くまさんやらうさぎさんやら、可愛い柄の弁当をほくほくと食べる書記官長。そんな彼に迫ってきたのは、知らない女性陣だった。

「何この子」
「やだ! 見て、このお弁当!」
「男のくせに気持ち悪っ!」
 彼女らは、騎士団に所属する女騎士だった。気さくで気まま、個性的な書記部の女性に慣れていた書記官長は、唖然として、自分を囲む騎士の女性陣に言われるままになっていた。

「まさかそれ、自分で作ったの?」
「そんなの食べて、恥ずかしくないわけ?」
 言いたい放題されて、書記官長は何も言えなかった。でも、女騎士の一人が書記官長の弁当を奪おうとしたときには、声を上げて抵抗した。

「や、やめて!」
「うわ、喋り方まで女みたい」
「捨ててやろうよ、こんなの」
「やめて! 頑張って作ったんだから! 捨てないで!」
「あはは! 男なら自力で取り返してみなさいよ!」
 そう言ってひょいっと弁当を奪う女性。身長は書記官長の方が高かったけれど、相手は現役の女性騎士。喧嘩が嫌いな書記官長は、涙目になって歯を食いしばるしかできなかった。
 ――と、そこに。

「……貴様ら、何をしている!」
 落雷のような怒声。びくっと身をすくませる女性騎士たち。ボロボロ泣きながら、そちらを見やる書記官長。
 中庭の向こうから颯爽と歩み寄ってくる、長身の女性騎士。眩しい銀髪は短く刈り込んでいて、すらりと細い体つき。

「ふ、副長……」
「休憩時間に何事かと思ったら……書記官をいびっているのか!」
 副長と呼ばれた女性に一括され、女騎士たちは見る見る間にしょげていく。
 副長の視線が、女騎士の一人が持つ弁当に注がれる。

「……これは?」
「わ、私のです!」
 反射的に言ってしまってから、書記官長ははっと口を手で塞ぐ。言ってしまった。人前で、「私」と言ってしまった。

 くすくす、と女騎士が馬鹿にしたように笑うと、副長はぴきっと額に青筋を寄せ、弁当をその手から奪うと問答無用、部下の横っ面を張り飛ばしたのだ。
 バシ、ボカ、バキ、と三人いた女性騎士は一撃で芝生に転がり、副長はへたりこむ書記官長の前にしゃがみ、弁当を差し出した。

「君のものなのだな。うちの馬鹿共が申し訳ないことをした」
「い、いえ……」
 書記官長はおずおずと、弁当を受け取る。そのまま鼻を啜っていると、副長の手がぽん、と書記官長の肩に乗る。
 驚いて顔を上げると、焦げ茶の目を細めて静かに微笑む、女性騎士の顔が。

「すばらしい出来だな。自分で作ったのか? 私は料理ができないから、尊敬するよ」
「……変じゃ、ないですか?」
 書記官長が鼻声で問うと、副長は目を見開いて、足元に伸びる部下たちを殺人的な目で睨む。

「……この馬鹿が何か言ったんだな。変なものか。私は女らしいことが何もできない。勉強も嫌いだ。できるのは、剣を振り回すくらいだ。だから、君のように書記官のバッジを持ち、見事な料理ができる才能は、すばらしいと思う。誇りに思っていいぞ」
 そう言って、副長は立ち上がる。彼女は書記官長に軽く手を上げた後、気絶した部下三人をまとめて引きずっていった。

 書記官長は、ぽかんとして女性騎士の背中を見送っていた。








「……とまあ、これが私とプリムちゃんのなれそめなのよ、キャッ!」
「プリムローズという可愛い名前のくせに、女性らしいことは何もできなかったのでな。可愛い弁当を作るフィルを見て、素直に感心したのだよ」
 照れまくる書記官長とは対照的に、奥様は悠然と言う。
 私は思いきって問うてみた。

「えっと……それじゃあ、それがきっかけでお二人は結婚を……?」
「まあ、そういうことだな。その時はお互いに名乗っていなかったのだが、後日、騎士団エリアにフィルが来たんだ」
「やだっ! 恥ずかしいわよ、プリムちゃん!」
 ぺしっと書記官長が奥様の肩を叩くけど、どこ吹く風で奥様は言う。

「こいつ、私のために手作り弁当を持ってきたんだ。またしても部下がからかうものだから、そいつらは地に沈めた後、フィルと一緒に弁当を食べた。色々話をしていると、妙に気が合ってな。結婚することにした」
「……では、書記官長の喋り方も、その頃から?」
 イサークが問うと、奥様は頷いた。

「そのようだな。フィルも吹っ切れたようで、書記部でも素の姿を出すようになったそうだ」
「最初はビックリされたけど、なんだかんだ言ってみんな受け入れてくれたわぁ。本当に、いい職場に就職したわね!」
 書記官長もうきうきと言う。
 そうか……書記官長もやっぱり、苦労したんだな。でも、奥様と出会って、本当の自分を出せるようになって――

「……ちなみに、プロポーズはどちらから?」
「私だ」
 ずばん、と言う奥様。うん、そうだろうと思った。

「プロポーズの台詞は……クリス、何度も教えているから言えるな?」
「はい。『私と結婚しろ。嫁に来い』ですね」
「やだもぉぉぉう! そんな大声で言わないでよぉぉぉう!」
 黙って話を聞いていたクリスさんが言うと、とたんに真っ赤になって悶える書記官長。嫁に来いって……まあ、そうなんだけど。

 でも、よかった。
 書記部にいる書記官長の顔は、いつも晴れ晴れとしている。ちょっと趣味は変わっているけど、みんなそれを受け入れている。むしろ、書記官長らしいって思ってる。

 書記官長、私も同じように思いますよ。
 書記部に就職して、本当によかった、って。










 お茶の時間の後、深夜になる前にと私たちはメイゾン宅を後にした。

「本当にありがとうございました」
「いいのよ! 明日からまた頑張りましょ!」
 何度も頭を下げる私たちに、ウインクを飛ばす書記官長。隣にいる奥様も微笑んでいて、その後ろにいるクリスさんは、名残惜しげにこっちを――というかイサークの方を見ていた。

「書記官長の話が聞けて、よかったですね」
 私が馬車の中で言うと、イサークも頷いた。

「ああ。本当にいい職を得られたと、俺は思う」
「あ、それは私も思いました」
「……おまえも?」
「はい。……あ、そういえば。クリスさんでしたっけ。イサークのことが気になってたみたいですね」
「…………そうか?」
 おや、本当に気づいてなかったみたいだ。驚いたように見つめてくるもんだから、私は教えてやる。

「ほら、パスタを取ってもらったときだって、さっきだって、顔を真っ赤にしてましたもん。いやぁ、本当にモテますね、イサークおに」
「その名で呼ぶな」
「了解です。……というわけで、クリスさんに好かれてるんですから、いいじゃないですか」
「……別に」
「あ、さては……好きな人がいるんですね!」
「ぶっ! い、い、いるわけないだろ!」
「その反応、いるってことですね。教えてくださいよ。……さては、ちっちゃい子が好みとか?」
「違う! 俺は年上好みだ!」
「……ふーん?」
「あっ」







 馬車はゆっくり、王城への道を上がっていった。

 明日から、また頑張れそうだ。

 書記部のある辺りを見つめて、私は一人微笑んだ。 
作者的、登場人物の料理スキル

書記官長(女子力高い)>カスミ(料理得意)・アニエス(レイナの養母。家庭的)>イサーク(スペック高い)>>玲奈(家庭科調理実習レベルなら)>ジェレミー(最低限のたしなみ)>>ヴェイン(焼けばいいだろ?)>副長(焼けば食べられますね)>>(越えられない壁)>>プリムちゃん(消し炭)
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