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異世界で幼女化したので養女になったり書記官になったりします 番外編置き場 作者:瀬尾優梨

番外編

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☆突撃! メイゾンさんちの晩ご飯!2☆

 キッチンで書記官長が夕食を作っている間、私たちは執事産に先導されて、リビングに入った。
 リビングの広さは、近衛騎士団のヴェイン様のお部屋くらいかな。それほど広くないけど、ゴテゴテした調度品や置物なんかを取っ払っていて、すっきりしているから実際の面積より広々と思われる。

「失礼する……フィルの部下が来たとのことだが」
 執事さんが淹れてくれたお茶を飲んでいると、バン! とドアが開いた。驚く私たちの前に現れたのは、すらりとした騎士服を纏った中年の女性。

 渋みのある銀髪をきっちり頭頂部でまとめていて、切れ長の目は濃い茶色。脚がとんでもなく長くて、全体的にスレンダー。
 謎の美女さんの登場に私はあっけにとられていたけど、イサークの方が回復が早かった。彼は立ち上がり、ついでに私の袖を引いて立つよう促した後、頭を下げる。

「書記官長の奥方ですね。お邪魔します。イサーク・フェスティーユです」
「レ、レン・クロードです」
「ああ、フィルから聞いている。丁重な挨拶痛み入る」
 美女さん――書記官長の奥方は鷹揚に頷いて、低い声で「座ってくれ」と促した。
 彼女は私たちの前のソファに座って、「申し遅れた」と深みのあるアルトボイスで言った。

「私の名はプリムローズ・メイゾン。フィリップ・メイゾンの妻で、現在治安騎士団に勤めている」
「騎士様ですか……!」
 軍服を着ていることから何となく予想は付いたけど、私は思わず声を上げた。奥様は私の方を見て片眉を上げた後、「ああ、ひょっとして」と目尻を垂らす。

「君は、あれだな。近衛騎士団のヴェイン・アジェントが連れ回している少年書記官。十にも満たない年だが抜群の計算能力を持つと、もっぱらの評判だ」
「あ、ありがとうございます」
「そして君の方……名前からして、フェスティーユ子爵家のご子息だな。君は、大人顔負けの流麗な字体で、短時間で見事な報告書を仕上げることで評判だ。うちの治安騎士団でも、イサーク・フェスティーユを引き抜きたいという者はちらほら出ているんだ」
「勿体ないお言葉です」
 私と違い、イサークは冷静に応えている。……そうか、知らなかったけどイサークの名前も有名なんだな。そりゃあ、この歳でこれだけ仕事ができてしかも将来有望な顔立ちなんだから、目立つよね!

 それにしても、書記官長の奥さん。年は書記官長と同じくらいだろうけど、格好いいな。私も歳を取っても、奥さんみたいなキリッとした人でいたい!
 間もなく、夕食の準備ができたみたい。フリッフリのピンクのエプロンを付けた書記官長が「ご飯よぉ!」と呼んできたので、三人でダイニングに向かう。

 テーブルに狭そうに並んだ料理の数々。うーん、本当に書記官長の女子力には舌を巻くばかりだ。今度、料理を習おうか……。
 私たちがテーブルに着くと、遅れてドアが開いて一人の女の子が入ってきた。

「あら、遅いじゃないのクリスちゃん!」
 振り返った書記官長が言うと、女の子は眉を垂らして頭を下げる。

「ごめんなさい、お父様、お母様、お客様。課題で手こずっておりまして……」
「客が来るとは伝えていただろう、クリス。さっさと手を洗って席に着け」
 奥様がそう言ってクリスさん――書記官長の娘をシンクに向かわせた。男爵家だけど、一般家庭の風景みたいだね。

 クリスさんはイサークと同い年くらいの子で、書記官長譲りの茶色の髪と奥様譲りの焦げ茶の目の、ふんわりとした雰囲気の少女だ。彼女は手を洗った後、自分の席に着こうとして、隣にいたイサークを見てはっと息を呑んで、頬を赤く染めた。うん、イサークのイケメンっぷりはやっぱり年頃の女の子の興味関心を引き付けるよね。
 イサークは、自分の椅子が邪魔で座れないと思ったんだろう、立ち上がってクリスさんの椅子を引いてあげた。

「申し訳ありません……どうぞ」
「あ、ありがとうございます……」
 クリスさんは真っ赤になって、イサークに引いてもらった椅子に座る。イサークはクリスさんが真っ赤になっている理由が分からないのか、不思議そうに首を捻った後、席に戻った。この人、本当に罪な男だね……。

 書記官長夫妻はイサークとクリスさんのやり取りをニコニコ(ニヤニヤ?)しながら見ていたけど、すぐに書記官長の音頭で食前の挨拶をし、食事を始めた。

 ひんやりと冷たい鴨肉のソテーに、生ハムを使ったマリネ。フランスパンのような固めのパンの表面にはうっすらバターを塗っていて、こんがり焼いたものだから甘い匂いが漂っている。
 スープは冷製で、まだ水気を吸いきっていないクルトンがふよふよ浮いているかぼちゃスープ。その隣の大皿には、オリーブの実がそのままゴロゴロ転がる、ペペロンチーノのようなパスタ料理が。

「お、おいしい……!」
 スープをひと匙飲み込んだ私が思わず感嘆の声を上げると、向かいの席にいた書記官長が満足そうに頷く。

「そう言ってもらえて光栄よ! ……イサークちゃん、パスタはいかが?」
「はい、いただきます」
「わ、私がよそいます!」
 自分から少し遠い位置にあるパスタを取ろうとしたイサークだけど、気を利かせてクリスさんが申し出る。イサークは彼女を見て「ありがとうございます」と言っていたけど、大丈夫だろうか。パスタのトングを持つクリスさんの手が震えている。
 奥様はそんな娘を見て、ふふっと笑った。

「クリス、柄にもなく緊張しているな」
「お母様っ!」
「いいじゃないの、プリムちゃん。イサークちゃんがイケメンだってこと、見れば分かるじゃない?」
 書記官長も、フォローのような援護射撃のようなよく分からないコメントを言うものだから、クリスさんは真っ赤になって両親を睨んでいる。
 当事者であるイサークは、いつも通りクールな表情でクリスさんを見るばかりだ。本当に……私の義兄は、罪な男だ……。






 食後のお茶も、これまた美味なり。

「可愛い食器ですね……ひょっとしてこれも、書記官長のチョイスですか?」
 私は薔薇の模様が描かれたカップを持ち上げて聞いてみる。日本にもこんな食器があったね。ワイルドストロベリーだっけ? あんな感じの、シックだけど愛らしい柄の茶器だ。

「そうよ! 独身時代から、こういうのには目がなくって……同僚にも最初はからかわれたわねぇ」
「逆に私は地味でごついものしか持たないから、同僚がこういった食器を持っていても、感心が湧かなかったな」
 奥様も言う。
 なんだか、見ても分かるように、書記官長は乙女で奥様は剛胆な感じだ。ちょうど、性別が真逆だね。
 書記官長はふふっと笑って、「昔話、聞いてくれる?」と私たちを見つめた。






 メイゾン男爵家の次男として生まれた書記官長は、子どもの頃から女の子のような趣味を持っていた。可愛いフリフリの服に憧れ、ふわふわのぬいぐるみが大好きで、兄のように友だちとチャンバラをするより、家で人形と遊んでいる方が好きだった。

 最初の頃こそ、次男の趣味に口を出した両親だけど、次第に何も言わなくなった。書記官長が大きくなる頃には、ぬいぐるみやお人形を積極的に買ってくれたそうだ。
 ただし、両親は口を酸っぱくして言っていた。

「おまえの趣味は、おまえのことだからそのまま続ければいい。だが、世間は甘くない。おまえがいくら人形やぬいぐるみが好きでも、それを受け入れない者は多い。世間から爪弾きにされたくなければ、信頼できる者の前以外、その趣味を決して口外するな。辛いかもしれないが、おまえのためだ」

 幼い書記官長は、両親の言うことがいまいちよく分からなかった。家族も、使用人も、書記官長の趣味を受け入れてくれた。どうして、それを表に出してはいけないのだろうと。
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