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異世界で幼女化したので養女になったり書記官になったりします 番外編置き場 作者:瀬尾優梨

番外編

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☆突撃! メイゾンさんちの晩ご飯!1☆

「え? 雨漏り?」
 私は後から聞こえてきた会話に、ん? と首を捻る。
「そうそう。ほら、食堂の天井、嫌~な染みができてただろ。あれ、ついに決壊したって」
「じゃあ、食堂は使用禁止か!?」
「らしいな。だってほら、食堂の上はベランダになってただろ。あそこから修理しないといけないから、丸一日はかかるって」

 私は同僚の会話を、顔をしかめながら聞いていた。何って、書記部常連の食堂は、私たち下宿組の心のオアシスなんだ。栄養たっぷりだし、何より安い。月給もそれほど多いわけじゃない私にとっては、食堂での食事は栄養摂取の根っこだった。
 朝と昼はまだいい。問題は夜だ。夕食となると、街に降りると一気にディナーの値段が高くなる。おまけに夜中にフラフラと外出するのはよろしくない。私みたいな、見た目九歳(実年齢は二十歳)が夜中に外出なんて、いいことが起きるとは思えない。たとえ、強力なボディーガードである精霊たちがいたとしても。

「食堂使用禁止か……困るな」
 うんうん考えていると、隣で呟く人が。見ると、私の「義兄」であるイサークが同じように、困ったように眉間に縦皺を刻んでいた。

「イサークさんも、今晩どうしますか。やっぱり外食ですか」
「俺はまだしも、おまえの財布には痛手だろう。……いや、今晩ぐらいは驕るぞ」
 イサークは二人きりだからか、「兄」の時の口調で言う。でも私は、とんでもないと首を横に振る。

「何言ってるんですか。仮にも僕の方が先輩なんですから、驕られるなんて」
「給料で言うと俺の方が上なんだ。正直それも心苦しいくらいなんだし、黙って驕らせろ」
 書記部の給料は、原則年功序列制だ。九歳で書類を出している私は、当然イサークより薄給だ。
 でも、だからといって驕られるのも――

「いや、僕が出しますから」
「いや、俺が出す」
「いや、いいですってばお兄様」
「お兄様と言うな……」
「ハァイ! 元気よくなに喧嘩してるの、レンちゃんにイサークちゃん!」
 私たちは同時に、声のした方を向く。そこには予想通り、「きゅるん☆」って効果音が似合いそうなポーズを取った、書記官長が。見た目はダンディだけど、仕草も心も乙女な書記官長は、私たちの所に来て可愛らしく首を傾げる。

「喧嘩はだめよぅ! で、何があったの?」
「すみません……いえ、その、今晩のご飯について言い合いになって」
「ご飯? ああ、食堂がおじゃんになっちゃったからね。で、どうして言い合いに?」
「僕はレンさんに、年上だから驕ると言いました。レンさんは、驕られるわけにはいかないと言い張りました」
 イサークが簡潔に説明してくれた。うん、私が言ったら絶対に要領を得ない話し方になるから、イサークが言ってくれて助かった。
 書記官長は「あらま!」と口元に手を当てた後、ぽんと手を打つ。

「あ、そうだわ! だったら二人とも、うちに来ない?」
「うち?」
 私たちの声がハモる。書記官長は良いことを思いついた、とばかりにうきうきと話している。

「そう、うちのメイゾン家。今日は私が当番の日だから、うーんとおいしい料理を作っちゃうわよ!」
 えっと、つまり、書記官長の家にお邪魔して、手料理を食べるということ?

「それって……お邪魔じゃないんですか?」
「邪魔なんて! うちのプリムちゃんもクリスちゃんも、一度レンちゃんとイサークちゃんに会いたいって言ってたし!」
「……誰ですか、その二人」
「プリムちゃんは私のマイハニー! クリスちゃんは私のエンジェルよっ!」
 語尾に「☆彡」が付きそうな勢いで言う書記官長。えーっと、つまり書記官長の奥さんがプリムさんで、娘さんがクリスさんだね。
 ……うん、本当に心は乙女だけど、奥さんもお子さんもいるんだよね。

「えっと……では、もしよかったらお邪魔させてください」
「僕も、よろしいですか?」
「もちろんよ! むしろ、成長期の男の子が外食なんてダメッ! 私が栄養たっぷりのおいしいディナーを作ってあげるから、大人しくお呼ばれしなさいっ!」
 というわけで、私とイサークは今晩、書記官長の家に急遽、お邪魔することになったのだった。








 定時に仕事を終えて、ヴェイン様にも挨拶をしてからイサークと一緒に仕度をする。どうやら書記官長の家までは一緒に馬車で乗せていってくれるらしくて、三人で馬車に乗った。

「その、食費とかいいのですか」
 馬車の中で私がおずおずと聞くと、向かいの席に座っていた書記官長はとんでもない、とばかりに手を振る。

「徴収するわけないでしょっ! 言ってしまえば私の我が儘なんだし、レンちゃんもイサークちゃんも普段バリバリ仕事していて、ほーんと助かってるもの! むしろ、お釣りが来るくらいだと思いなさいな!」
 そうして飛んでくる、「バッチーン☆」って感じのウインク。書記官長がするなら全く違和感がないってことが、本当にすごい。それから書記官長は、簡単にお家の事情を教えてくれた。

 書記官長は、メイゾン男爵家の傍系に当たるそうだ。書記官長のお兄さんが家督を継いでいて、お兄さんの所には跡継ぎになる息子――書記官長から見たら甥だね――がいるから、書記官長が男爵家を継ぐ可能性はゼロに近い。書記官長は幼い頃から勉強家で、特に算術に秀でていたから家督を兄に一任させて、自分はさくっと書記官のバッジを手に入れて堅実な職業を手に入れたそうだ。
 話している間に、馬車は屋敷に着いた。もう辺りは薄暗くなっているから、こぢんまりとした立方体の屋敷の壁に取り付けられた灯りがゆらゆらと揺れている。お屋敷の大きさは、フェスティーユ子爵家の半分程度かな。傍系だから、それほど大きくはない。

 でも、馬車道から見える庭園は立派だ。芝は短く刈り込んでいて、下段には季節の花が植えられているのが、夕闇の中でも分かった。

「お庭は、奥様の趣味ですか」
 私が問うてみると、降りる仕度をしていた書記官長は首を横に振った。

「プリムちゃんはお花には興味がないの。これは全部、私の趣味よっ!」
「えっ……ああ、なるほど」
 奥様がどんな人かは分からないけど、この庭園の設計を書記官長がしたとなると、頷ける話だ。書記官長、女子力高いもん。







 書記官長に連れられて、私とイサークはお屋敷の玄関に上がった。

「ただいまぁ! 今日はお客様がいらっしゃるわよ!」
「お帰りなさいませ、旦那様……おや、小さなお客様ですね」
 私たちを出迎えたのは、初老の執事らしきおじさん。彼は恭しく頭を下げて、書記官長の後ろにちょこんと立つ私たちを見て首を傾げる。

「お客様がいらっしゃるとは伺っておりますが、そちらの方々は……?」
「うちの部下のレンちゃんとイサークちゃん。黒い髪の子がレンちゃんで、茶色い髪の子がイサークちゃんね」
 書記官長に紹介され、私たちは揃って頭を下げる。

「レン・クロードです。お邪魔します」
「イサーク・フェスティーユです。よろしくお願いします」
 執事さんは最初、私たちみたいな子ども(とりわけ、私)が書記官だと知って驚いたんだろう。でも、彼は私たちの胸を飾るバッジを見て、さもありなんとばかりに頷いた。

「なるほど……旦那様が日頃おっしゃっていた、最年少の二人組ですね。ようこそいらっしゃいました。……旦那様、夕飯のお支度は?」
「下ごしらえは済ませているわね? ちゃちゃっと作っちゃうわ!」
 そう言って書記官長は荷物を執事さんに預けて、うきうきと肩を回す。

「じゃ、私は準備をしてくるから。……モーリス、レンちゃんとイサークちゃんをリビングに案内して。あと、プリムちゃんとクリスちゃんも呼んでおいて」
「かしこまりました」
 執事さんが恭しく頭を下げて、ルンルンの書記官長を見送った。
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