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異世界で幼女化したので養女になったり書記官になったりします 番外編置き場 作者:瀬尾優梨

番外編

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☆花よ、風よ、この想いを空へ2☆

 ヴェインが一足先に教会に向かった後、レイナの元に来たのはフェスティーユ子爵家当主、アルベルト。

「君の門出を祝えて何よりだよ、レイナ」
 この世界でのレイナの養父はそう言って、熊のように厳つい体を縮め、くしゃりと顔を歪める。

「とても、きれいだ。君ならヴェイン殿のよい花嫁になれるだろう」
「お父様……」
「故郷にいる君の本当の父君に代わって、私が責任を持って君を送り出そう。……娘よ、手を」
 差し出される、大きな手。「娘」と呼ばれたレイナの目が、またしても潤む。

「……うん、ありがとう、父さん」
 気づけば、レイナはそう言っていた。アルベルトを呼ぶときの「お父様」ではなく、地球に残してきた実父を呼ぶときと同じ、「父さん」で。

 アルベルトは目を見開く。そして彼は破顔し、血の繋がらない愛娘の手を引いて、教会へと向かっていった。









 聖堂は、厳粛な空気に包まれていた。
 祭壇前に立っているのは、白の軍服姿も眩しい新郎。彼の背中を、参列者たちが見守っている。

 席の先頭にあるロイヤルシートにいるのは、ベルフォード王家四人。国王マリウスは王妃エデルの腰を抱いており、王妃の腕には生まれて間もない王女が。そしてその隣には、哀愁漂う空気を纏う、王子マーカスが。

 基本的に前の列が高位貴族が座る場所である。王家のすぐ後には、新郎新婦の家族が。新郎の唯一の肉親である、アジェント伯爵ゲアリーは優しそうな顔にニヤニヤ笑みを浮かべ、弟の晴れ姿を見つめている。その隣には、新婦の養子先であるフェスティーユ子爵家の皆が。当主が新婦を連れてきているため、子爵夫人アニエスと、新婦の弟妹三人が一張羅で座っている。ニコニコ笑みの夫人と双子の姉弟ミレイヤとフレイドはともかく、新婦の「弟」であるイサークは、何とも言えない表情で将来の義兄の背中を見ている。心なしか、挑むような、睨むような眼差しで。

 彼らの後には、新郎新婦に関わりの深い者たちが並ぶ。新婦友人のガードナー伯爵令嬢やハートランド伯爵令嬢、ゲルド子爵令嬢はもちろんのこと、なんと北の都市シャンドリラの指導者の娘や、砂漠の国トゥエンディ王子の使者まで参列している。彼らは新郎新婦が精霊討伐隊として遠征した際に出会った戦友であり、参列者の中でも特別な席を与えられていた。シャンドリラ指導者の娘の隣には、「ここでいいの?」と言いたげな不安顔の娘が。茶色の髪の彼女も同じく、精霊討伐隊の元隊員で、新婦たっての希望でこの席に招かれたのだ。

 そしてその後には、新郎新婦の同僚たちが所狭しと押し込められていた。新郎が勤める騎士団の面々と、新婦が勤める書記部の面々。中でも、書記部の席に座る背の高い青年は、新婦登場前からおんおん泣いている。傍らにいる別の青年書記官が呆れたように、友人の肩を叩いていた。

 参列者たちが三者三様の思いで待つ中、新婦の登場を告げるアナウンスが入る。そして、背後の扉が開き、花の香りが教会に満ちた。

 まず目に入るのは、巨体を誇る新婦の養父。あまりにも彼が大きすぎるので、彼の隣にいる新婦が隠れてしまっている。だが、それでも新婦の美しさは人の目を引いた。
 漆黒の髪に、ミヤノ・ブランドのドレス。彼女が異世界人であることを前面に押し出した、非常に珍しい花嫁の姿。淡い霧のようなベールを押さえるのは、誰も見たこのとのない、不思議な形の花をあしらった髪飾り。

 祭壇前の新郎が振り返る。赤い絨毯の上を歩いていた新婦は、祭壇前で養父の手を離れて一人、新郎の元へ向かう。
 ゆっくりと階段を上ってきた新婦を、新郎が手を伸ばして抱き寄せる。そうして、新郎と新婦は並んで祭壇前に立ち、神官の説法を聞くのだ。

 説法といっても、長々しいものではない。「二人が巡り会った運命」「変わらぬ愛を誓うこと」などを高々と述べた後、神官は二人の顔を順に見る。この世界では、「誓いますか?」のような質問はしない。

「新郎ヴェイン・アジェントと新婦レイナ・フェスティーユ。これからそなたらの行く先に、幸福があらんことを!」
 神官の声を受けて、二人は振り返る。とたん、割れんばかりの拍手が教会中に満ちる。

 皆の声援を受けて教会の外に出た二人。この後は、中庭でのガーデンパーティーだ。
 レイナはふうっと息をつき、傍らの夫を見上げる。

「ヴェイン様……」
「レイナ、忘れ物だ」
 ヴェインがそう言って、教会の中の参列者が見つめる中、レイナと向き合う。対するレイナは、ん? と首を傾げる。ベルフォードの結婚式の段取りは何度の練習済みだ。別に、忘れ物はしていないはずだ。

「あの、何を……」
「愛してる、レイナ」
 言った直後。

 わああああ! とひときわ大きな歓声を上げる、参列者たち。歓声の中に嗚咽が混じっているように思われるのは、気のせいだろうか。

 新婦を抱き寄せた新郎がベールを持ち上げ、その赤い唇にそっと、自分の唇を重ねたのだ。
 ベルフォード王国にはないが、新婦の故郷地球には存在していた、誓いのキス。
 結婚式の準備をしている間、新婦が教えたことがある地球の結婚式のやり方を、新郎は覚えていた。

「……幸せにする」
 唇が離れた直後、ヴェインが熱のある声で囁く。呆然とされるままになっていたレイナだが、胸の奥から溢れる熱い思いに、またしても涙腺が緩む。
 もう一度、皆の前で交わされるキス。

 風が、吹く。
 レイナのベールと黒髪を揺らし、桜の髪飾りを撫でていった風は空に舞い、この世界ではない、どこか遠くの地へと、吹き抜けていく。






 ――幸せにね。






 やさしい、懐かしい声。

「真理恵……?」
 はっと、レイナが顔を上げる。釣られてヴェインも、青い空を見上げる。







 ――幸せに、玲奈。
 ――ずっと愛してるよ、玲奈。
 ――幸せになれよ! 玲奈!









「父さん、母さん……兄さん……」
 声を震わせる妻の肩を、ヴェインは抱いた。

 風を受けて、花びらが舞い上がる。
 参列者たちの歓声を遠くに聞き、レイナとヴェインは二人並んで、青く晴れ渡った空をいつまでも見上げていた。








 あの空を越えて。

 ずっとずっと、遠くへと。

 花よ、風よ。

 私の想いを、あの空の遠くへと――
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