挿絵表示切替ボタン
▼配色







▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる
異世界で幼女化したので養女になったり書記官になったりします 番外編置き場 作者:瀬尾優梨

番外編

19/24

☆とある騎士から見た彼ら2☆

「えっと……改めまして。レン・クロードこと、レイナ・フェスティーユです。その……改めて書記官採用試験を受け直して、こうしてヴェイン様の元で再び働くことになりまして……」
 そう言って少しだけ気まずそうに僕たちの前で挨拶する、黒い髪の女性。女性だ、間違いなく、女性。
 彼女を見る同僚は全員、目玉が取れるんじゃない勝手くらい目をかっ開いていました。そりゃあ……そうですよね。僕だって、最初は信じられなかったんですから。

 レン・クロードはレーナ・フェスティーユ子爵令嬢であり、しかもレイリア・ハルヴァーク公爵令嬢と同一人物である。さらにレイリア嬢は女神様の崇高な使命を受けた「異世界の乙女」で、ベルフォードを破滅させようとした悪の精霊の親玉を葬り去った大英雄だと。
 それで、本来の姿になったレン――もといレイナ嬢は、こうして再び隊長の専属書記官になって、僕たちの前に戻ってきたと。
 ……なんというか、事務仕事が得意でない僕たちの脳みそは、もういっぱいいっぱいでした。

「えっ……じゃあ、おまえ――じゃないや、あなたは、レンと同一人物……?」
 わなわなと震えながら声を出す、大柄な同僚。レイナ嬢は恥ずかしそうに赤面して頷いて、彼女の隣にいた隊長が肩を落とします。

「……レイナを責めないでやってくれ。彼女にも事情があったし、辛い思いもしてきた。おまえたちを欺いていたことも、心苦しく思っているんだ」
「すみません、皆さんは私がレンの時から、親切に接してくださったのにそれを裏切るような……」
「い、いえいえ! むしろ俺たちの方こそ!」
 レイナ嬢が俯くものだから、一斉に詰め寄る同僚たち。筋肉が迫ってきたからかレイナ嬢は数歩後退し、彼女と皆の間に隊長が割り込んできます。

「おまえたち、少しは距離感を考えろ。レンの時は少年だと思っていたようだが、今のレイナは大人の女性だ。これからもおまえたちの同僚であることには違いはないが、馴れ馴れしくするな。あと、触るな」
「わ、分かってますって!」
 顔の前で手の平を振る同僚たち。うん、やっぱり隊長は過保護ですね。

 さては、隊長は最初から、レンが女性であると分かっていたんでしょうね。だから、僕たちに部屋の大掃除を命じて下着の放置も許さなかったんですね。納得です。








 レイナ・フェスティーユ嬢として復帰した元レン、現レイナ嬢ですが、やはり同一人物なので働きっぷりに変化はありません。むしろ、身長が伸びて大人の体になったからか、前より事務作業もやりやすそうです。

「ヴェイン様、城下街で計画中の感謝祭の人員配置ですが、若干西側が手薄になるかと……」
「なるほど……だが、西側は子どもたちも多くやって来るエリアだ。あまり甲冑姿の者がうろついてはならないだろう」
「では、私服警備にしてはいかがですか? 一見すれば売り子の若者に見えますが、有事にはすぐに駆けつけます。そうすれば、一般の子どもたちも気兼ねなく、遊べるのではないでしょうか」
「私服警備か……なるほど。では、私服警備と甲冑警備、制服警備で色を分けてみようか。レイナ、新しい城下街の地図を持ってきてくれ」
「かしこまりました」
 隊長のデスクで額を突っつき合わせるようにして話し込んでいたレイナ嬢が体を起こして、棚の一番上にあった地図をひょいっと取ります。レンの時では届かなかった場所にも手が届くようになって、効率が良くなったようですね。

 レイナ嬢は地図をデスクに広げて、隊長と二人で地図上に兵の配置案を書き込んでいます。僕はそんな二人を、少し離れたところから観察します。
 何というか、恋人同士の二人ですけど、仕事中は私情を一切挟まないことにしているらしくて、今の二人に甘い雰囲気は一切ありません。あれこれ指示を出す隊長と、それに対して的確な意見を返す専属書記官。見ている方が感心してしまうような、絵に描いたような上司と部下の図ですね。

 ……そうなんですけど。

「……なあ、あれって書記部の制服だよな?」
 書類整理をしている僕の背後で、同僚たちが話をしています。なんだか、不穏な空気なので僕は首を突っ込みません。自分の仕事をきっちりやりつつ、会話には耳を傾けます。

「だよな。レンの時は男性用の制服だったけど、レイナ嬢は……」
「すげぇな、あの制服。書記部は色仕掛けでも企んでるのか?」
 彼らが話題に挙げているのは、言わずもがな、レイナ嬢が纏う書記部の制服ですね。

 黒と白のコントラストがはっきりした布地を使っている制服は、知性が湧き出るようなデザインです。今は夏だから、シャツは半袖で、上着は袖無しのベストです。
 白いシャツに、黒のベスト、リボンタイ。そこまでは男女でほぼ共通ですけど、女性はその下にプリーツの入ったスカートを穿いていて、脚はぴっちりとした黒タイツなんです。そりゃもう、脚のラインが丸わかりです。

「隊長、あのむっちりした脚が目の前にあっても、お触りしないよな」
「いいんだろ、今は。どうせ、隊長の手で夜には脱がしに掛かるんだろうし」
「そ、そうなのか? 昼間は禁欲だから、その分夜は激しいってやつか?」
「そうとしか考えられないだろ! ……ああ、見ろよ! また、あんな格好で屈んで……」
 同僚の視線の先。そこには、隊長に頼まれて何か物を探しているんだろう、レイナ嬢の姿が。

 レイナ嬢は僕たちに背を向ける形で、棚に頭を突っ込むようにして探し物をしています。棚の高さはレイナ嬢の腰くらいなので、腰を曲げないと棚の中が見えませんね。
 見えないんですけど……どうやらレイナ嬢は、レンの時の癖が抜けきってないようです。あの時は男装とはいえ、少年として振る舞ってました。だから、彼が地べたに座り込もうがしゃがもうが尻を突き出そうが、誰も気にしてませんでした。もっとすごい体勢になってる同僚も、山ほどいましたからね。

 では、今は?
 レイナ嬢は相変わらず、こっちにお尻を向ける形で探し物中です。スカートにタイツ姿なんだから脚を折ってしゃがめばいいのに、腰だけを曲げるものだから、僕たちにお尻を突き出しています。もちろん、スカートの下から覗くタイツに包まれた太ももも、丸見えです。

 僕はそっと、視線をずらします。女性があられもない姿になっているときは、目を反らすのが紳士のたしなみです。でも、同僚たちは相も変わらず、鼻の下を伸ばしてレイナ嬢の太もも観察をしているようです。
 ふと、資料を読んでいた隊長が顔を上げました。そして、傍らにいるレイナ嬢に声を掛けます。

「レイナ、もしかしたら例の資料はそこの、ガラス扉の棚にあるかもしれない」
「えっと、こっちですか」
 レイナ嬢は隊長の声を受けて、背筋を伸ばして移動します。同僚の、ガッカリしたようなため息。

 レイナ嬢は、隊長の背後にあるガラス扉の棚の方へ行き、資料探しを続けます。つまり、レイナ嬢は僕たちに完全に背を向け、しかも彼女の背後を守るように隊長がいるわけで――
 ふいに、隊長が手を上げます。その手の中にあるのは――

 ――シュッ、ドス

「あった! ありました、ヴェイン様!」
 紐綴じの書類を手に、笑顔で隊長を見下ろすレイナ嬢。隊長は首を捻り、「ああ、ご苦労」と言ってレイナ嬢から資料を受け取り、デスクに広げて二人して覗き込んでいます。
 ……で、僕たちの方はと言うと。

 ぱちん、と僕は資料をクリップで留めた後、傍らにいる同僚たちを見ます。というか、彼らのすぐ脇の壁を見ます。
 そこには、未だ微かな振動を続けるペーパーナイフが。木製の壁に垂直に突き刺さったそれは、もうちょっと左の方に投げられていた場合、過たずそこにいた同僚の左目を抉っていたでしょう。

 同僚たちは、凍り付いています。自分たちがレイナ嬢に向ける疚しい視線に、隊長が気づいたことを悟ったのです。つまり今のペーパーナイフは、隊長からの脅し。「次は目を抉るぞ」ということでしょうか。

 レイナ嬢観察をやめて、すごすごと持ち場に戻る同僚。僕はため息をついて、壁に刺さったままのナイフを抜きました。うん、かなり力がいりました。
 ペーパーナイフをデスクに置いて、僕は隊長とその専属書記官の方に視線を向けます。

 黒髪の書記官に向ける隊長の目は、とても優しいです。見ている方がほっこりとするような。

 僕はさりげなく、席を外しました。さて、次の資料を取りに行きますかね。
+注意+
特に記載なき場合、掲載されている小説はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている小説の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による小説の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この小説はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この小説はケータイ対応です。ケータイかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。
小説の読了時間は毎分500文字を読むと想定した場合の時間です。目安にして下さい。
↑ページトップへ