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異世界で幼女化したので養女になったり書記官になったりします 番外編置き場 作者:瀬尾優梨

番外編

18/24

☆とある騎士から見た彼ら1☆

 初めまして。僕は近衛騎士団第四部隊に所属する者です。そう、あの「紅の若獅子」と呼ばれるヴェイン・アジェント隊長の部下なのです!
 といっても、僕は第四部隊の中ではまだまだ下っ端で、騎士団区の第四部隊詰め所の入り口で接客係を任されることが多いのです。だからといって、この仕事に全く不満はありません。下積みも大事ですからね!

 接客といっても、お客様は別の騎士団の連絡係か、執務区からの伝令、郵便係くらいです。決して、貴族のご令嬢が来たりはしません。
 だから、僕が常駐している入り口はともかく、奥の部屋はそりゃあ、人を呼べるような場所じゃありませんでした。ヴェイン隊長も、最低限仕事ができるスペースが確保されてればいい、って感じで、洗濯済みのものと洗濯前のものがごっちゃになってたり、紙くずが転がってたり、誰かのペンが落ちていたり。僕も最初の頃はちょこちょこ掃除していたんだけど、諦めました。際限がないんだもの。

 でもある夏の日。「書記部に行ってくる」と出かけた隊長は戻ってくるなり、真顔で僕たちに命じました。

「おまえたち、今すぐ詰め所を掃除しろ」
「……え? 何でッスか?」
 ゴミため状態の部屋でめいめい仕事をしていた同僚たちが、ほちょんとして隊長を見返します。今は夏だから、詰め所にいる間は大抵の同僚は服を脱いでいる。上だけじゃない。全裸だっています。
 隊長は後ろ手にドアを閉めた後、ばん、と壁を平手で叩きました。もわっと埃が舞います。

「おまえたち、こんなゴミために彼女を呼べるのか!? いいな、全員今すぐに清掃に取りかかれ! 基準は、おまえたちに彼女ができたとき、彼女を連れ込めるレベルまで!」
 えええええ、と一斉に不満の声を上げる同僚たち。でも、隊長の一睨みでみんな黙って、しぶしぶ腰を上げます。あ、ちなみに僕は「いつ来客が来るか分からないから、おまえはそこにいてくれ。おまえの机だけはきれいだしな」と隊長から褒められたから、ちんたら掃除する同僚たちを遠巻きに眺めることを許されました。

「誰のパンツだ! 捨てるぞ!」
「そりゃないっすよ、隊長! 俺のくまさん柄のパンツ!」
「洗濯前と洗濯後の服を一緒にするなと言ってるだろう! ロベルト、ジェイク! おまえたちは中庭で洗濯してこい!」
「ええぇ……暑いのに……」
「だったら終わった後に水でも被ってろ! ……ダグラス! 食べた後のゴミはその辺に捨てるなと、何度言ったら分かる!」

 なんか隊長、リーダーを通り越してお母さんみたいだなぁ。いや、こんなこと口に出したら鉄拳が飛んでくるから、言いませんけど。
 僕が見ている間に、徐々に部屋はきれいになっていきました。捨てるものは捨てて、夜勤用の布団やシーツは全部干す。脱ぎ捨てられたシャツやパンツは全部洗濯し直して――

「……よし、こんなものでいいだろう」
 隊長がそう言ったのは、掃除を始めてから二時間近く経過した後でした。みんなもうクタクタで、隊長一人だけ涼しげな顔をしてます。隊長も一緒に掃除をしていたはずなのに、基礎体力が違うんですよね。

「これくらいなら大丈夫だろうな……」
「えっと……来客でもあるのですか?」
 僕は恐る恐る聞いてみました。「ヴェイン隊長、彼女できたんですか? その彼女を呼ぶために掃除したんですか?」となんて、口が裂けても聞けない。
 隊長は僕を見て、「まあな」と曖昧に答えました。

「といっても、正式に決まったわけではないが」
「はあ……」
「まあ、部屋を清潔にしておいて損はないだろう……おい! 言ってる側からパンツを投げるな、馬鹿が!」
 隊長ははぐらかしたけど……一体、誰が来るんでしょうか?
 その答えは、約半月後に判明しました。







「今日からヴェイン様の専属書記官としてお世話になります、書記官のレン・クロードと申します」
 よろしくお願いします、と礼儀正しく膝を折って挨拶をして、「彼」はにっこりと僕たちに向かって微笑みかけました。
 あの大掃除から半月後。近衛騎士団第四部隊の詰め所に、新しい仲間が入りました。

 肩先で切りそろえた黒い髪に、同色の目。ベルフォードでは珍しい色合いだから、きっと異国の血を引いてるんでしょう。顔立ちも、僕たちとはちょっと違いますし。
 「彼」の背は、僕たちの胸くらいまでしかありませんでした。長身ですらりとした隊長の隣に並んでいるから余計に、「彼」の小ささが際立っているようです。
 隊長は自己紹介した「彼」に頷きかけ、その小さな肩に手の平を乗せました。

「彼はまだ幼いが、非常に優秀な書記官だ。俺の希望と彼自身の希望が一致して、こうして俺の専属になることになった。幼いからといって、決して侮るな。レンを貶すことは、俺を貶すと同意味と扱う。これからはこの近衛騎士団第四部隊詰め所で共に働く仲間として、よろしくやってくれ」
 隊長の言葉を、僕たちは何だか信じられないような思いで聞いていました。

 いや、そういえば確かにちょっと前に、隊長が書記官について話をしているのは聞きましたよ。でもまさか、本当にこんなちっこい男の子を専属に据えるなんて思ってもいませんでした。
 同僚たちも最初、ぽかんとしてレン少年を見ていたけど、「レンを貶す=隊長による公開処刑」だと知ると、みんな一斉に背筋を正しました。

 そういうことだったのですね。半月前、隊長がいきなり部屋の掃除を命じたのは、まだ子どものレンを書記官に据えることを想定していたからなんです。
 でも……小さいとはいえ、レンも男の子ですからね。他の同僚も言うように、パンツの一枚くらい転がっててもいい気もするけど……隊長は怒ると怖いから、言わないでおきました。







 ヴェイン隊長の専属書記官になったレンは、そりゃあもう、僕たちの予想を超えた働きっぷりを発揮してくれました。

 レンの席は、隊長の隣。まだ年齢二桁にもなっていないのに、ぐずることも我が儘を言うこともなく、せっせと隊長の書類整理の手伝いをしています。字は恐ろしく下手だけど、あの計算能力は本当に、圧倒されました。だって、計算用紙を必要とせず、すらすらと会計予算や作図用の数値を叩き出してしまうんですから。
 おまけに一生懸命で、礼儀正しいんです。天才児、って褒められて偉そうになってもおかしくないのに、本人は決して驕ることなく、誰に対しても丁寧な言葉遣いで接してます。そういうものだから、最初は彼を警戒していた同僚たちもあっという間に緊張の糸を解いて、気さくにレンと接するようになりました。

 レンが僕たちと和やかに接していると、それを遠くから見ている隊長も何となく、嬉しそうに見えます。ひょっとして隊長、意外と子ども好きなんでしょうか?
 隊長に可愛がられるレンに嫉妬した馬鹿数名がレンに暴行未遂をした日は、本当に僕たちも殺されてしまうんじゃないかってくらい隊長の機嫌が悪かったものです。聞いた話では、服を脱がされて堀に投げられそうになったところを、レンが契約している精霊たちの機転で逃れることができたんだということです。そりゃあ、服を脱がされるのはともかく掘りに投げるのはまずいですよね、と同僚の一人が隊長に言ったら、なんだか余計に隊長が不機嫌になっちゃいました。なんで隊長がより不機嫌になったのか、誰も分かりませんでした。







 隊長がメリダ・バドラインに傾倒して腑抜けになっていたとき、レンがレイリア・ハルヴァーク公爵令嬢と協力して、隊長に取り憑いていた悪の精霊を退治してくれました。あの頃の隊長はそりゃあ、酷いものでした。切れ者で頼りがいのある隊長の姿はどこにもなくて、仕事は溜まる一方。隊長がレン一人に残業をさせて自分はさっさとデートに行ってしまった日には、「ああ、こりゃだめだ」と全員が思いましたよ。

 そんな隊長はレイリア嬢と交際するようになって、隊長が精霊討伐隊に選ばれた直後に、お二人は正式にお付き合いすることになったようです。僕たちは恐れ多くてレイリア嬢のことは話題に出せなかったんですが、あのレンは果敢にも、隊長に対してレイリア嬢のことをネタにからかってました。何というか、命知らずというか……あれがレンじゃなくて僕たちだったら、間違いなく鉄拳が飛んできましたよ。隊長の拳骨、痛いんだよなぁ……。
 隊長が討伐隊の遠征に出ている間、レンとの契約は一旦解除することになったそうです。そりゃあ、レンは隊長の専属ですから、隊長がいない間はここに来る義理はありませんからね。でも、隊長が戻ってきたらまた専属になるのだと約束して、彼は一旦、詰め所から去っていきました。






 隊長もレンもいない詰め所は、なんだか寂しかったものです。「掃除! 清潔!」とレンが来てからもうるさかった隊長がいなくなっても、前のように部屋を散らかす人は出ませんでした。みんな、座る人のいない隊長のデスクを見て、黙ってゴミをゴミ箱に捨てるようになったのです。

 いつか隊長が帰ってきたら、きれいな部屋で出迎えるんだ、と僕たちはこっそり、計画を立てていたのです。そして、戻ってきたレンも一緒に胴上げしてやるんだ、とも。

 そんなものですから……まさか、あんな形でレンが戻ってくるとは、誰も予想だにしていませんでした。
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