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異世界で幼女化したので養女になったり書記官になったりします 番外編置き場 作者:瀬尾優梨

番外編

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☆王国最強の婚約者たち4☆

「……あの子たち、すっごい楽しそうで。ティルはあっという間に服を剥いちゃうし、ミーナはチリチリになるまで髪を焦げさせてアフロにしちゃうし。久しぶりに力を発揮するからですかね、ノリノリだったんですよ、本当に」
 レイナはヴェインにそう説明した。ミーナとティルは、そこらのソファに転がって休憩している。一見すれば可愛いだけの精霊だが、本当におっかない。そういえば、前に騎士見習の服を剥いだのも、この二匹だ。あのときは下着一丁すら許さず、レイナの目の前で全裸にさせられていた。
 ふと、ヴェインはあのときレイナをいじめた連中を見つけ出し、顔の原型がなくなるまで叩きのめしたいと思った。

「ミーナ曰く、全身燃やしたかったけどやめといたって。ティルも、下着まで剥ぎたかったけどそれは私の目に悪いから、やめといたって」
「……一応、手加減はしたんだな」
 ヴェインは引きつった笑いを浮かべる。確かにヴェインはユリエンヌと会っているとき、足元に柔らかな羽根の感触がした。これはレイナの精霊だろうと確信を持ち、伝言を託したのだ。「後が困るから、手加減だけはしてくれ」と。

「よく判断した。さもないと、おまえの純潔まで奪わせるところだった」
「ヴェイン様こそ……」
 レイナはヴェインの顔を見上げる。そしてそっと手を伸ばし、ヴェインの頬に触れた。

「聞きました。商家の娘がヴェイン様に言い寄っているんだと」
「ああ、そう言われた。さっきのあれは、ずっと前の……俺の恋人だ。もちろん、今はもう愛情の欠片も残っていない」
 レイナはゆっくりと頷く。分かっていたとはいえ、やはり聞いていてあまり心地よい話題ではないのだ。その顔が、少しだけ引きつっているようでヴェインは唇を噛む。

「……すまない。俺がもっとしっかりしていれば……」
「違います。ヴェイン様が悪いとか、過去がどうとか、そんなことじゃないんです」
 レイナに強い口調で言われ、ヴェインは言葉に詰まる。レイナは漆黒の目を真っ直ぐ、ヴェインに向けていた。

「私だって厄介な身の上だから、今後何が起こるか分かりません。今度は逆に、私が原因でヴェイン様に迷惑を掛けるかもしれないんです。でも……何があっても、一緒に打破していけばいいんです」
 「私には最強の護衛がいるので」と、レイナは茶目っ気たっぷりに言う。

「私だって、黙ってやられたりはしません。自分の、ヴェイン様のためなら、いくらでもやり返すし壁だってぶっ壊してみせます。今まで何度もヴェイン様に世話になっているので……だから、お互い様です。今のも、これからも」
 どちらかが一方的に背負うのではなく、二人で背負う。
 相手の前に壁が立ち塞がったら、自分がその壁を破壊する。

「ヴェイン様……大好きです」
 そう言って、思いっきり抱きついてくるレイナを、ヴェインは何も言うことができず、抱きしめ返す。
 窓の外の白い霧は、いつの間にか晴れていた。









 後日、王城でユリエンヌの裁判が開かれた。
 養女とはいえ、子爵家の娘を強姦するように部下に命じた罪は重い。商家の娘といえど、一切の温情は与えられない、はずだった。が。

「……すみません、少しいいでしょうか」
 ユリエンヌへの実刑を審議している最中、おずおずと手を上げたのは、傍聴席にいるレイナだった。
 裁判官や官吏、速記係の書記官も、驚いたようにレイナを見る。レイナは隣の席にいるヴェインに手を握ってもらってエールを貰い、被告席で項垂れるユリエンヌを見下ろす。

「ユリエンヌさんへの処罰ですが……私の方から、提案があります」
「被害者からの提案、どうぞ」
「ありがとうございます。……その、私の精霊たちが彼女に仕返しをしたくて仕方がないそうで、その上での提案ですが……」









 結果として、なんとレイナの提案は受け入れられた。最初は怪訝そうな顔をしていた聴衆も、いざ裁判官から承諾の意が下り、レイナの足元から飛び出してきた精霊二匹が「それ」をした後は、あまりの出来事に言葉を失った。
 ふわふわした金色の光が二匹の精霊からあふれ、その光の粒子はユリエンヌを包み込んだ後、ぱっと弾けた。

 ユリエンヌは一瞬、自分の身に何が起きたのか分からなかっただろう。だが、顔を青くした裁判官が助手に命じて鏡を持ってこさせ、ユリエンヌの前に立てたとたん、ユリエンヌは絶叫を上げて気絶してしまった。レイナの前で彼女が気絶するのは、これで二回目だ。

 次の日から、王城はある噂で持ちきりだった。

 ――レイナ・フェスティーユとヴェイン・アジェントの仲を切り裂こうとした商家の女が、レイナ様の天誅をくらったらしい。

 ――なんでも、レイナ様を強姦するよう命じたとか。

 ――本当は僻地の修道院送りだけど、裁判の末、実家の財産没収と監視付きに加え、王城で使用人扱い。しかも、もう一個の罰が下ることになったそうだ。

 ――それって、どんな罰?

 ――それは……あああ! ほら、あれだよ、あれ!

 ――ん? ……うわぁ。

 ひそひそ噂話をする官吏たちの横を、ユリエンヌが通り過ぎる。彼女は豪華なドレスではなく、最下級の使用人が着るボロボロのお仕着せ姿で、庭の草むしりを命じられていた。
 ユリエンヌは相変わらずの美貌だった。だが――

 ――な、なんだ、あの頭!

 ――すごいだろ。あれが、レイナ様の精霊の下した罰だそうだ。

 ――やばいな……あれじゃ一生、人前には出られないぞ。

 ――そうそう。それこそ、こんな中庭の隅っこで草むしりしか……。

 官吏たちのこそこそ話を遮るような、庭師の怒声が響く。ベテランの庭師に叱られたユリエンヌは、グスグス泣きながら土をほじくっている。
 そして、彼女の髪は――頭蓋骨の三倍程度まで膨れ上がり、しかも髪の色は本来の銀髪ではなく、どきつい紫色だった。つまりは、紫色の巨大アフロ。

 レイナ・フェスティーユの精霊はとにかく、ユリエンヌに報復したくて仕方がなかったという。そしてレイナやヴェイン、裁判官の許可を得た上で、ユリエンヌの髪を盛り上がらせ、色も不気味な濃い紫色に染めた。精霊の魔力の仕業なので、何年経っても色が落ちることはない。もちろん、髪型も変わらない。

 ――すげぇだろ? あの罰を受けた日に髪を丸刈りにしたそうだけど、次の日にはもう、「元通り」に生えていたそうだ。

 ――うわぁ。

 ――しかも強力な精霊の魔法だから染め粉も全然効かないってさ。で、またレイナ嬢に嫌がらせをしたり、他の人に八つ当たりしようとしたら、あの頭がさらにでかくなるって脅されたらしい。

 ――おっかねぇな。こりゃあ、あの二人に逆らう者はいなくなるよな。

 ――だよなぁ。

 官吏二人の雑談は、土から虫が出てきて泣き叫ぶユリエンヌの悲鳴と、庭師の怒声でかき消えていった。







 ユリエンヌの一件があってから。
 レイナ・フェスティーユとヴェイン・アジェントの仲はこじれるどころか愛情を増す一方で、誰も彼らの婚約、そして結婚に口を挟まなくなった。

 そして、皆は噂するのだ。

 レイナ・フェスティーユとヴェイン・アジェントは間違いなく、ベルフォード王国最強のカップルである、と。
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