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異世界で幼女化したので養女になったり書記官になったりします 番外編置き場 作者:瀬尾優梨

番外編

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☆リーリエの花を、あなたと共に2☆

 墓所までの道は、私も覚えている。一旦馬車に戻ってお供え用の花束を持ってきた後、「お帰りになった時用に、お茶を淹れておきますね」と言う神官に見送られ、私たちは手を繋いで墓所までの道を歩く。

 相変わらず村は貧しそうだけど、一年前よりは村人の顔色がよくなったように思われる。皆も、私たちがベルフォードの貴族だと分かったんだろう。ちょこっと頭を下げてきたから、私も彼らに小さく手を振っておいた。

 村の端にある、墓所。私はヴェイン様の手を引いて、アリーシャの墓石まで誘う。

「ここですよ、これ。村の方が作ってくださった、アリーシャのお墓です」
 白い、つるりとした墓石。神官が事前に掃除をしてくれていたんだろう、墓石はつやつやしていて、その前にはまだ新しい花が供えられている。真っ白な花。前も見た、確かリティっていう名前の花だ。

「……ここに、アリーシャが眠っているのか」
 ヴェイン様が呟いて、その場にしゃがんで持っていた花束を墓前に添える。
 花は、ここに来る途中に買っておいた。二人で相談して購入した、白い花。
 アリーシャの精霊と同じ名前の、リーリエの花だ。

「……やっと会いに来れた。アリーシャ」
 ざわっ、と秋の風が吹き付ける。私は被っていたつば広の帽子が飛ばないように手で押さえつつ、ヴェイン様の後ろ姿を見つめていた。

「すまない、俺にもっと力があれば、おまえに酷な決断をさせることも、一人で寂しく死なせることもなかったのに……」
 供えられたリーリエの花が、微かに揺れる。なんだか、花を通してアリーシャがヴェイン様を叱咤しているみたいだ。「何言ってるの!」って。
 ヴェイン様も同じことを思ったのか、しばし黙した後、私を手招きで呼んだ。

「おまえはもう知っているだろうが……紹介する。俺の恋人の、レイナだ」
「初めまして……いや、お久しぶりです、アリーシャ」
 私はヴェイン様の横にしゃがんで、冷たい墓石に挨拶する。リーリエの花がこそこそと揺れて、「ええ、お久しぶり!」とアリーシャが言っているようだ。

「俺は、おまえが死んでからというものの、だらしのない生活を送っていた……おまえに裏切られたと思いこんだ俺は、女を信じることができなかった。その結果、弱みを悪の精霊につけ込まれ、自分らしくもなく馬鹿なことばかりしてしまった」
 でも、とヴェイン様は私を引き寄せる。私は黙って、彼の腕の暖かさに身を委ねる。

「レイリアが……レイナが、俺を救ってくれた。レイナは、こんな俺でも愛してくれた。故郷に戻ることより、俺と共に生きることを選んでくれた。今度こそ……俺は、胸を張っておまえに言えるよ。俺は今、とても幸せなんだ」

 ざざざ、と風が吹く。「よかった!」とアリーシャは言ってくれているだろうか。
 ヴェイン様が、誰かと一緒に幸せになってほしい。その願い、ヴェイン様にも伝わったみたいだ。
 ヴェイン様は数秒間瞑目した後、「見ていてくれ、アリーシャ」と呟くと、私の手を引いて立ち上がった。
 私たちは、アリーシャのお墓の前で向き合う形になって立つ。

「レイナ」
「は、はい」
 真剣なヴェイン様の甘いテノールボイスに、耳がやられそうになる。
 いや、ダメだ! どう考えたって、今はメロメロになってる場合じゃない!
 私は己を叱咤し、ヴェイン様を真っ直ぐに見つめ返す。

「俺は昔、自分が幸せになる資格も、権利もないと思っていた。近衛騎士団長として敵をなぎ倒していれば、余計なことを考えずに済む。そのままなんとなく、年老いて独りぼっちで死ぬんだろうと思っていた」
 風が、ヴェイン様の鈍い金髪を擽る。何だろう、アリーシャが、ヴェイン様を応援しているみたいだ。

「でも、そんな俺をおまえが救ってくれた。人一倍勇敢で、向こう見ずで、意地っ張りなおまえだけど、おまえは俺を選んでくれた。俺が、アリーシャが、生きたこの世界を救ってくれた」
 そうだ。私は半年ほど前に、ミナミの精霊を倒して悪の精霊を殲滅させた。
 それは、私がこの世界を守りたいと思ったから。ヴェイン様が生きるこの世界を、滅ぼしたくなかったから。

 ヴェイン様と共に、生きたかったから。

 ヴェイン様は私の手を取ったまま、静かにその場に膝を折る。そうして、私の手の甲に唇を落として囁いた。

「……我、ベルフォードの騎士ヴェイン・アジェントは貴女に最大の愛を捧げ、一生を貴女のために尽くすことを誓う。我が剣は国のために、我が心は貴女のために。貴女と共に歩むことを願う」
 すらすらとその唇から紡がれるのは、カスミに聞いたことがある、このベルフォード王国で男性騎士が貴婦人に捧げる、愛の言葉。

 それも、ただの求愛の言葉じゃない。これは――
 ヴェイン様が、顔を上げる。澄んだ紫の目が、真っ直ぐに私を射抜く。





「結婚してくれ、レイナ」





 風が、吹く。
 優しい風が、熱で火照った私の頬を撫で、遥かな荒野へと吹き抜けていく。
 目の縁が、熱い。心臓がバクバク音を立てて、顔に熱が集まっているのが手で触れなくても分かる。

 ヴェイン様に、求婚された。
 熱を孕む紫の眼差しから逃れたいのに、目を反らすことはできない。彼の双眸には、私の顔がくっきりと映り込んでいる。私だけを、映している。

「私で……いいの?」
 掠れた声でやっと出てきたのは、あまりにも後ろ向きな質問。以前マーカス殿下に言い寄られていたときはハイハイと流せていたのに、今はそんな軽やかな対応なんてできそうにもない。
 ヴェイン様はゆっくりと首を横に振る。あ、幻滅された、と瞬時に体が冷えたけど――

「おまえでいいんじゃない。おまえが、いいんだ。おまえじゃないと、嫌なんだ」
「ヴェイン様……」
「心配なこともあるんだろう。でも、俺はおまえのことを心から愛しているし、それに――」
 そこでヴェイン様は、ニッと歯を見せて笑った。レンだった頃に何度も見たことがある、自信満々で不適なヴェイン様の笑みだ。

「俺以上、おまえを幸せにできる男はいないと、胸を張って言える」
「……ふふ、随分な自信ですね」
「自信家な俺は嫌いか?」
「いいえ……どんなあなたでも、大好きです」

 私は少しだけ、手に力を込める。
 私は、ずっとこの日を待っていた。
 薄汚い人さらいのアジトでヴェイン様と初めて会ったあの日から、この笑顔には勝てない。
 だから、私の返事は――





「私も……愛してます、ヴェイン様」




 世界で一番。故郷に背を向けてでも共にありたいと願った人だから――

「私と……結婚してください」
「レイナ」
 ヴェイン様が立ち上がる。とたんに、私の体はすっぽりとヴェイン様の腕の中に閉じこめられた。

「ありがとう……幸せにするから。ずっと愛するから……」
「私も……一緒に、幸せになりましょうね……」
 アリーシャの願いの、通りに。





『ヴェイン。幸せになってね』
『優しい誰か。私の代わりに、ヴェインを幸せにしてあげて』






 アリーシャ、あなたの願い、ちゃんと叶えるよ。
 優しい秋の風が吹く中、私たちは何も言わず、抱き合っていた。

 足元に供えられたリーリエの花が、静かにその香りを放っていた。









 お父さん、お母さん、兄ちゃん、それから、真理恵。

 お元気ですか。玲奈は、元気にしています。
 何も言わずにいなくなってしまって、ごめんなさい。私は今、地球とは全然別の世界で暮らしています。
 こんな私も、今度結婚することになりました。相手は、とても素敵な方です。格好いいし強いし、ちょっと意地悪なところもあるけど、そこも魅力な人です。正直、私なんか彼の前じゃ霞んで消滅してしまいそうなくらいです。

 結婚式は、春に行われます。王妃様たちが張り切って、最高の式を仕立ててくださるそうです。養父母たちも、私のために最高級のドレスを準備してくれるそうです。
 みんなに花嫁姿を見せられないのは残念ですが、私はこれから幸せになります。

 お父さん、お母さん。二十年間、私を育ててくれてありがとう。
 兄ちゃん、何度も喧嘩したし、殴り合って青あざを作ってしまったこともあるけど、今ではいい思い出です。兄ちゃんも、早くいい人を見つけてね。

 それから――真理恵。
 アルなんとかさまのグッズは集まった? 私がいなくなる直前には、今度の夏休みの即売会でグッズを買うって言ってたね。私はもう、真理恵のコレクションを見ることはできないけど、これからも趣味を楽しんでね。楽しそうな真理恵を見ることが、私の楽しみでもあったから。

 異世界で一度、真理恵の名前を借りちゃった。ごめんね。でも、そのこともきっかけで将来の旦那様とも出会えたんだ。だから、ありがとう。




 みんな、今までありがとう。
 水瀬玲奈は、もうすぐレイナ・アジェントになります。

 いくつになっても、どんな姿になっても、私はみんなへの感謝の気持ちを忘れません。
 玲奈を愛してくれて、ありがとう。



 水瀬玲奈より
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