ゾディアックファンタジー(9/26)縦書き表示RDF


ゾディアックファンタジー
作:佐倉信輔



第二章 異世界その1 第一部 ブランカ その4


 路地道は商店街の本通りより幾分狭く、閑散とした雰囲気の漂う道だ。
 タガールによるとここはいわゆる一つのスラム地区のような場所で、ガラの悪い連中が集まる場所らしい。
「俺から離れるなよ」
 と、タガールに言われたので、勇樹はタガールの腰にしっかりしがみつきながら通りをあるいて行った。
 百メートルほど進んだだろうか。不意に野太い声が日々いてきた。
 その声に驚いて辺りを見回すと、声はどうやらこの先の細道――道というより建物の隙間に近いような小路だが――から聞こえているようだった。
 耳を澄ませると、数人の男が誰かと争っている――というよりはいちゃもんをつけているようだった。
『誰に断ってここに入ってきやがったんだ!?』
 とか、
『人にぶつかっておいてただで済ませようなんて虫がよすぎるだろうが!』
 といった声が漏れてくる。
 そうっと様子をうかがってみる。路を通せんぼするように二人の半獣族が向かい合って立っている。その中央にもう一人、こちらは獣人族だろうか、狼の顔をしたのが経っている。そして、三人に取り囲まれる形でもう一人――。
 手前の獣人族に遮られて顔はよく見えない――が、背格好は勇樹と同じくらいで、陰から見える衣服はゾディアークの人達のそれではないように見えた。
 だとしたら――いや、そうでなくてもだけど――助けなきゃ!
 そう思って勇樹は飛び出そうとしたが、その襟首をタガールにつかまれた。
「待て。飛びだしたってお前じゃあいつらにゃ勝てねえよ。ここは俺に任しときな」
 そう言うと、タガールはのしのし、と小路へ大きな身体を乗り出した。
 すぐに奥側の半獣族が気づいて、ドスの聞いた声で威嚇してくる。
「なんだ手前てめェ、見世物みせもんじゃねえぞ、コラ!」
 残りの二人もタガールに気づき、ジロリと睨みつけてくる。
 だが、タガールは三人には目もくれず、子供の方を見ると陽気な声で話しかけた。
「おお坊ちゃん、ここにおられたか! 随分捜しましたぜ。ここらは物騒な場所でさ。ささ、早いとこ出ましょう」
 そう言って手前の獣人を押しのけて輪の中に入ると、子供をひょいっと持ち上げて肩の上に乗せた。
 やはり勇樹と同じくらいの子供だ。トレーナーにパンツとスニーカー、どうみてもこっちの住人ではない。
 よほど怖かったのだろう、すっかり怯えてベソをかいている。
「ちょっと待てコラ! 手前ェ、こいつの親か? だったら手前ェがこいつの代わりに落とし前つけろ! ――いや、手前ェ半獣族だな。だったらこいつの親なわけねえな。こいつはどうみても人間族だからな。手前ェ、なぜこいつをかばう!」
 半獣族の一人がすごい剣幕でタガールに食ってかかった。
 狼獣人族はそれを手で制すると、穏やかだが、しかしドスの聞いた声で言った。
「なぁ兄さん。俺達もなにも理由もなくこんな事をしてるんじゃねえ。そいつは事もあろうに俺様の財布をろうとしやがったのさ。だからこうして教育してやってるのよ。兄さんがそいつの親なのか召使なのか、そんなことはどうだっていいが、その落とし前はつけてもらわにゃならねえ。慰謝料と服のクリーニング代、あと口止め料として十万モル払ってもらやあ、おとなしく退散しようじゃねえかい」
 タガールはその狼獣人の肩をポンポン、と叩くと肩に乗せた少年を指差して言った。
「おいおい、このお方を知らねぇのかい? ここにおわすは、恐れ多くもオルフェニス卿がご子息、オリナス様であるぞ。ここは一つ、オルフェニス様の顔に免じて引き下がっちゃあくれねぇかい」
 オルフェニス――という名前を聞いた途端、獣人族達の顔色が変わった。
 どうやらオルフェニスというのは、相当な権力者の名前らしい。
 狼獣人はそのまましばらくタガールを見つめていたが、あきらめたように背をむけると、
「ちっ、オルフェニスの一族じゃ相手が悪い。――命拾いしたな、坊主」
 と言って、仲間の半獣族と共に去って行ってしまった。
 その様子を確認し、タガールはふぅ、と大きく息をつくと勇樹のところへ戻ってきた。
「やれやれ、何とかなったぜ」
「ねえ、"オルフェニス卿"って誰なの?」
 勇樹は戻ってきたタガールに訊いてみた。
「ん? ああ、オルフェニス卿はテプストロンの大富豪の名さ。裏の世界にも強い力を持ってるお方でな、この名前を出せばああいう連中はたいてい震え上がるのさ。――もちろん大嘘だがな」
「嘘はダメだよ」
 と、勇樹は言った。
 それは勇樹の"正義"に反することでもある。
 しかし、タガールはそんな勇樹を見て言った。
「確かにな。だが、時と場合にもよるさ。さっきの連中は"バローナ組"ってタチの悪い連中さ。ああやって裏通りに入って来た奴を捕まえては金を脅し取ったり、商売人から場所代を脅し取ったりする連中だ。暴力でこの町の裏社会を牛耳ってる武闘派で、まともにやりあったら勝ち目はねえ。――ケンカでも法廷戦でもな。だからあの場はああするのが一番よかったのさ」
「でも――」
 さらに何か言おうとした勇樹の頭に、タガールはぽん、とごつい手のひらを乗せた。
「嘘にはな、"ついちゃいけねぇ嘘"と"ついたほうがいい嘘"があるのさ。そのうちお前ェにも分かるよ。それより――」
 タガールは視線を肩の上に移した。タガールの肩に乗せられている少年は、未だ震えて青くなっていた。
 タガールは「大丈夫か?」と言って、少年をそっと肩から降ろした。
 少年はパッとその場から走り去ろうとしたので、勇樹は慌てて少年を呼びとめた。
「待って! 僕は君と同じ世界から来た人間だよ!」
 その言葉に反応し、少年はピタッと止まり、恐る恐るこちらを振り向いた。
「僕は福田勇樹。君は?」
 勇樹の問いかけに、少年は濡れた顔を擦り、小さな声で言った。
「僕は克樹――沢淵克樹」
 勇樹は克樹の元に駆け寄った。
 改めて見ると、背は勇樹より少し低く、多分自分より年下だろうと推察できた。
 よっぽど怖かったと見えて、まだ身体は震えている。
 勇樹はポケットからハンカチを取り出して、克樹と名乗った少年に渡してやった。
 克樹はハンカチで顔をごしごしと拭き、赤くなった目をしばたいて言った。
「ホントに――日本人?」
 この場合そういう表現でいいのかどうかは疑問だったが、とりあえず勇樹はうなずいた。
小平こだいら小五年一組、福田勇樹。正真正銘君と同じ世界の人間だよ」
「僕は芝町第三小四年B組、沢淵克樹」
 お互いに確認しあい、安堵の表情を浮かべる。
 これで少なくとも一人じゃなくなった。
「巡り会いを喜んでるところ悪ィが――、ここは危ねぇ。とりあえず表通りへ出ようや」
 と、申し訳なさそうにタガールが言った。
 その声にまた克樹がビクッとなったので、
「あ、この人は大丈夫だよ。タガールさんっていって、とてもいい人だから」
 と、慌てて勇樹は言った。
 克樹は恐る恐るタガールに近づいてきた。あれだけ怖い思いをした後だから、警戒するのも無理はない話だった。
 そして、三人は表通りに戻り商店街を町の中心に向かって歩いていった。
「ところで、カッキはどうしてあんな場所に入り込んだんだ? まあ、ユーキと同じ異世界から来たんじゃ、知らないのは無理もないが」
 克樹は、まだタガールが声を出すたびにビクッとしていたが、それでも思い返すようにいきさつを話してくれた。
「気がついたら草むらの中にいたんだ。それで、町が見えたからそこにいって見たんだけど見た事もない人ばかりで……。いろいろ訊いてまわったら、同じような格好をした子供が隣町へ行ったっていうから通行証を買いにいったんだけど売り切れで。それから戻ろうとしたら道が分からなくなってなんだか細い道に入り込んじゃって。そしたらあの三人組にいきなり絡まれて……。もちろん財布なんか取ってない」
 それでなんとなく分かった。ようするにさっきの連中は勇樹達の世界でいうヤクザみたいなものだったのだろう。







小説処 SWEET ROOM
作者の本サイト「小説処 SWEET ROOM」はこちらです。






ケータイ表示 | 小説情報 | 小説評価/感想 | 縦書き表示 | TXTファイル | トラックバック(0) | 作者紹介ページ


小説の責任/著作権は特に記載のない場合は作者にあります。
作者の許可なく小説を無断転載することは法律で堅く禁じられています。




BACK | TOP | NEXT


小説家になろう