第二章 異世界その1 第一部 ブランカ その2
近くで見てみると城壁は思いのほか大きかった。
高さはゆうに四、五メートルはあるだろう。一見するとレンガ造りのようだが、近づくとそのブロックは少しくすんだ銀色――いわゆる"燻し銀"のような色をしており、一つ一つがぴっちりと継ぎ合わされている。
その一角に作られている門には二人の衛兵――彼らも半獣族らしく獣の耳が頭にくっついている――が人の出入りをチェックしているようだった。
「あれは何をしているの?」
「ありゃ自治組織の衛兵さ。ああして人の出入りをチェックしているんだ。犯罪者が街から逃げ出したり、魔獣が街の中に進入しないようにな」
二人のうちの片方が勇樹とタガールを交互に見比べる。
勇樹はさっきこの世界に来たばかりの異世界の人間だ――果たして街に入れてもらえるのか。
だが、そんな心配は杞憂だったようで、衛兵はうなずくと街の中に入るように二人を促した。
街の中は、勇樹が想像していたものとは大分違うものだった。
あれだけ広大な草原が広がる世界だから、RPGの町のようなたたずまいを想像していたのだが、目の前に広がっていたのは勇樹達の世界の街とあまり大差ないものだった。
普通の家や店のような建物、ビルやマンションのような高い建物もある。町の中央には金属でくみ上げられたタワーが建ち、街の上空を網の目のように電線のような物が走っている。街の一角には工場のような物が立ち並び、何かの自販機のような機械まである。
「さて、俺はこの荷物を届けにゃならんのだが、お前ェはどうする?」
タガールは首をぐるんと後ろに向けて勇樹に訊いてきた。
勇樹は少し考えてから言った。
「さっきの話だと、勇者――つまり異世界から十二人の人間が呼ばれるんだったよね。だったら、他にも僕と同じように飛ばされた人間がいるかもしれない。その人たちを探せば何か解るかもしれないと思うんだけど……」
「確かにそうかもな。ひょっとしたらもう一人くらいここに来てるかも知れねえしな。よっしゃ、じゃあ一通り街の中を歩いてくるといい。街の連中に利いて回れば何か分かるかもしれねえしな。俺は仕事が終わったらあのタワーの下の広場で待ってるからよ。お前ェも一通り街を回ったらあそこに戻ってくるといい。それからまた考えようや」
勇樹はうなずいた。そして荷馬車を飛び降りると、タガールと別れ町の中心部に向かって歩き出した。
しかし見れば見るほど勇樹達の世界に似ている。綺麗に舗装された地面の感触といい、回りに立ち並ぶ建物の数々といい、全くといっていいくらい違和感がない。
あえて違いをあげるなら、獣の入り混じった連中が多数徘徊している、ということくらいか。
ゆっくりと街中を歩く。時折すれ違う半獣族達に自分と同じような旅人を見なかったか訊いてみたが、これといって情報を得る事は出来なかった。
そのまま小一時間街中を歩いて回ったが、結局情報を得られずじまいであった――というか大半は街中を見て回るのに費やしてしまったのだが。
広場には、先にタガールが到着していた。
タガールは勇樹の姿を見ると、手を振って「ここだ、ここだ」と合図をくれた。
「どうだい? なンか情報は見つかったかい?」
勇樹は首を横に振った。
「そうか。俺も仕事のついでに届け先で聞いてみたんだが、誰も人間族の旅人らしいやつは見てなかったなあ」
タガールはすまなそうにそういった。
その表情があまりにもすまなそうだったので、勇樹は思わず尋ねた。
「ところで……、タガールはどうして初対面の僕を助けてくれるの?」
「ん?」
タガールは頭をぽりぽりとかきながら言った。
「まあ、なんつうか性分だな。困ってる奴を見ると方っておけないのさ。俺達半獣族ってのはたいがいそうだな」
性分でここまでしてくれるのもよっぽどなお人よしだと思うけど――。
勇樹は内心そう思った。
「で、お前ェはこれからどうするんだ?」
タガールに訊かれて勇樹は困ってしまった。
これからどうしよう――。
「ここから一番近い街はどこにあるのかな? こうなったら他の街も捜してみるしかないと思うんだけど……」
「ここから一番近いのは東にあるバプの町だが……、今の状態じゃ行くだけ無理だ」
「どうして?」
「前にも言っただろ? この世界はトリッカにもテプストロンの二つの国に別れてて、今いるブランカはそのどちらにも属さずに独立している、中立都市だ。だから、ここ以外は全てトリッカかテプストロンのどちらかの国に属している。お前ェのいた世界ではどうだか知らんが、どちらの国に入るにも通行証を持って関所を通らにゃならねえんだ」
それなら分かる。勇樹の世界でも他の国に行くにはパスポートや渡航証明書――いわゆるビザ等が必要で、それを持たずに他の国に入れば不法入国者として捕まってしまう。
それは多分この世界――ゾディアークでも同じなのだろう。
「じゃあ、通行証を手に入れるにはどうしたらいいの?」
「一番手っ取り早いのはトラベルセンターで買う方法だな。――金はかかるけどな。俺のようにしょっちゅうあちこちの街を移動する仕事をしている奴は、"定期間通行証明証"ってのを直接双国の政府から発行してもらうんだ。それで一年間自由に関所を通行できるようになる。ただしこれを得るには相当な信用が必要だから今すぐには無理だ。あとはマーケットで手にいれる方法かな」
「マーケット?」
勇樹は首をかしげた。
「一般の市民が集まって不要なものとか、余ってる物を金や物々交換で売り買いするイベントのことさ。月に一度この広場で開かれるんだが――今月はまだ少し先だったかな」
――ああ、フリーマーケットみたいなものか。
タガールの説明で勇樹は納得した。
「とりあえずトラベルセンターに行ってみるか。ひょっとしたらお前ェの仲間も立ち寄ってるかもしれねぇしな」 |