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それぞれの問題を抱えながら不思議な光りに導かれた子供達。
彼らの行く手に待ち構えるものはなんなのか。
そして、その中の一人福田勇樹が飛ばされたのは……。
ゾディアックファンタジー
作:佐倉信輔



第二章 異世界その1 第一部 ブランカ その1 


 目の前をまばゆいばかりの光が包む。右も左も上も下も分からない。まるで水の代わりに光で満たされた海の中にいるように感じた。
 どのくらい経っただろう。ようやくの事で勇樹はゆっくりと目を開けた。
 ――どこ?
 眼前に広がっていたのは、今までいた自宅の父の遺影が飾ってある部屋ではなかった。
 草原――前を見ても後ろを見ても、左右を振り向いても背の低い草の緑色だけが目に飛び込んでくる。
 都会育ちの勇樹にとっては初めて見る緑一色の光景だった。遠足で行った牧場なんかとは比べ物にならない。テレビで見たアフリカの草原が今目の前に広がっているかのようだった。
 しばらくその場に呆然とたたずむ勇樹。そして、やおら自分の頬をつねってみる。
 ――痛かった。どうやら夢じゃあないらしい。
 ふと思いあたって、勇樹は辺りを見回し、次にポケットを探る。
 探しているのはあのプレートだ。確かあのプレートが光って、気づいたらここにいたのだ。
 そのうち、ふと左の手首に妙な感触を覚え、その腕を目の前に振り上げてみる。
 勇樹の左腕には銀色に光るバングル(腕輪)がはめられていた。
 リストバンドくらいの大きさの銀色のバングル。その表面にはあのプレートに刻まれていたのと同じ、イコールマークに似た模様が彫られていた。
 勇樹はそのバングルをしげしげと眺めてみた。軽く叩いてみると軽い音がした。金属のようだけど密着した左腕には冷たい金属の感触は伝わってこない。重さもたった今まで気づかなかったくらい軽く、まるで腕の一部のような感じさえする。
 バングルにはつなぎ目のようなものはどこにもついておらず、ぴったりと腕にフィットしていて外す事は出来なそうな感じだった。
 どうしたものか――ここがどこだか分からない以上下手に動くのは得策とはいえないし、かといってこのままずっとここにとどまるわけにもいかない。どうなったのかは分からないが、とりあえず早く家に戻らないとお母さんが心配するだろうし。
 こういう時結論を出すのは勇樹の最も苦手な事の一つだった。一度決めると頑固な割に、優柔不断でなかなか物事を一つに決める事ができないのだ。
 勇樹は途方にくれてしまった。と、その時どこかから声がしたような気がした。
「おーい」
 今度は確かに声が聞こえた。声のするほうを振り向くと、荷馬車のような物に乗った何物かがこちらに近づいてくるのが見えた。
 一見するとひげを蓄えた普通のおっさんのようだが、よく見ると頭の上に丸っこい飾りのような物が乗っかっている。なんとなく動物の耳みたい。そういえば、ああいうお遊び系のカチューシャみたいなの売ってたっけな。でもいい大人が何であんな物を?
 めまぐるしくそんなことを考えているうちに、荷馬車は勇樹の側までやってきた。
「なんだあ? 人間族ヒューマの子供がこんな所で何をしてるんだ?」
 ひゅーま? なんだそれは?
 おっさんは勇樹をしげしげと見つめてきた。やっぱりなんだか変だ。遠くで見た時は普通の茶髪だと思ったけど、ウェーブのかかった髪はなんというか、髪の毛というよりライオンのたてがみと言った方がしっくりきそうな感じだ。耳型の飾りも飾りにしてはさっきからピクピクと小刻みに動いている。――まるで周りを警戒する犬や猫みたいに。
「とりあえずお前ェ、こんな所でボーっとしてたら野生の獣に襲われんぞ!? 俺はちょうどこれからブランカに帰るところだからよ。街の入り口までなら乗せてやるぜ」
 ブランカ――日本にそんな名前の町なんてあったかな?
 だけど、このままここでじっとしているわけにもいかなかったし、町の場所を知っているならついていった方がいいかもしれない。
 そう思った勇樹は、警戒しながらもそのおっさんの荷馬車に乗せてもらう事にした。
 荷馬車につながれているのは一見すると馬のようだが、ヤギのようなあごひげが生えていて、頭には短い角のような物もある。
 おっさんに訪ねてみるたところ、この生物の名前は"サラドゥ"というらしい。――聞いたことのない名前だ。いや、もとよりこんな動物は今まで見た事がないのだけれど。
「あの――、ここはどこなんですか?」
 勇樹はおっさんに訪ねてみた。
「ここか? ここはウィンバー平原だよ」
「いえ、そうじゃなくて……。ここは東京――日本なんですか?」
「トーキョー? ニッポン? なんだそりゃ、そんな名前の町は聞いた事がねぇな。第一この世界にゃ国は二つ――トリッカとテプストロンだけだ」
 どちらも全く聞いた事のない国名だ。勇樹は何がなんだかわからなくなってきた。だけど、とりあえず現状を理解しないことにはどうしようもない。
 勇樹はダメ元でそのおっさんに自分が異世界から飛ばされてきたらしい、ということを打ち明けてみる事にした。
 おっさんは勇樹の話に聞き入っていたが、やがて左手をあごにあてる格好で言った。
「……俺達の世界には古い伝説――つうかおとぎ話みてえなもんがある。ある時この世界が崩壊を始める。その時星の守護者に選ばれた十二人の勇者が現れて、その危機を救ってくれるって話だ。お前ェの話が本当ならお前はその勇者――なのかもな」
 やっぱり信じてくれるわけないか――。だが、おっさんは勇樹の方を振り向いて言った。
「俺はお前ェを信じるぜ。を見りゃ嘘をついているかどうかたいてい分かる。お前ェの瞳はウソをついてる奴の瞳じゃねえよ」
 勇樹はびっくりして思わずポカンとしてしまった。が、すぐに我に返りおっさんに質問した。
「おじさん」
「タガールってんだ、よろしくな」
「タガールさん、少し質問してもいいですか?」
「おう、俺にわかる範囲ならかまわねぇぜ」
 タガールは気さくに答えてくれた。
「ええとそれじゃあ、"星の守護者"っていうのは一体何なんですか?」
「おいおい、そんなにかしこまらなくてもかまわんぜ。"星の守護者"ってのは昔からこの世界の全ての命を見守り、世界の均衡きんこうを護っているってえ、偉ェ存在のこった。もっとも、今はおとぎ話の中の創作だって考え方が主流だけどな」
 神様みたいなものなのかな? だけど、タガールはそれには首を振った。
「神様とはちっと違うな――なんつーか、精霊みたいなもンかなあ。それに神様はちゃんと別にいらっしゃる。エイレス――この世界のやつはそう呼んでる。何でも昔は普通の人間族だったって話だがな」
 なんだかややこしい話だな――だけど今自分がここにいるということは、その"星の守護者"とかいうのも実在するってことなんじゃ……。
 そこで勇樹はあのバングルの事に思いあたった。そこで、それをタガールに見せてみる。
「ほう……これは――。たしかに守護者の紋章だぜ。こいつはライブラの紋章だな」
 ライブラ――ライブラ――、どこかで聞いたような――。だけど、結局思いだす事はできなかった。
 勇樹は仕方なく次の質問をする事にした。
「タガールはさっき僕を見た時"ヒューマ"って言ったよね? あれは?」
「この世界には文明をもった種族が三種類いるんだ。一つはお前ェのような完全な人型をした人間族ヒューマ、そして完全な獣の姿をした獣人族ビスート、んで、俺のように二つの種族の中間の姿をした半獣族ハービスだ。人間族は知性に優れ、獣人族は体力と敏捷性に優れている。俺達半獣族はかつて二つの種族の仲がよかった頃に生まれた、人間族と獣人族の合いの子の末裔さ」
 自分の世界の"民族"みたいなものなのかなあ――。勇樹はそんな事を考えた。
「他になんか訊きてぇことはあるかい?」
 と、タガールに言われたので、今度はこの世界の事を訊いてみる事にした。
 この世界の事を少しでも知っておいた方が何か役に立つかもしれないし――。
「俺達はこの世界を"ゾディアーク"って呼んでる。で、今この世界は二つの国に別れてる。獣人族が治める"トリッカ"と人間族が治める"テプストロン"だ。もう大分昔、古くからの"星の守護者"を信仰する獣人族と、新興神のエイレスを信仰する人間族が対立してな。それまでは一つの国だった"ゾディアーク"が二分されちまったのさ。んで、今俺達が向かってンのは"中立都市ブランカ"。どちらの種族にも受け入れられなかった半獣族と、トリッカにもテプストロンにも属しなかった獣人族や人間族が築いた都市だ」
「半獣族は迫害されてるの?」
 と、勇樹は訊いてみた。
 タガールは「難しい言葉を知ってンな」と言った。
「まあ、そうだ。俺達半獣族は人間族でも獣人族でもねぇからな。人間族にしたら野蛮な獣人族の血が混じってる、獣人族にしたらひ弱な人間族の血が混じってる。どっちでもないからどっちにも受け入れられねぇのさ。……こんなこと言ってもよその世界のお前ェにゃわからんか」
「そんなことないよ」
 と、勇樹は言った。
 勇樹の世界でも、肌の色とか信仰する宗教が違うだけで迫害を受けてきた人たちがいる、という事を学校の授業で習った事がある。
 南アフリカやオーストラリアに移住した白人たちは、そこに元々住んでいた原住の黒人達を迫害し、追いやったとか、アメリカでも昔そういう事があったとか。
 おそらくそれと同じようなものなのだろう――と勇樹は思った。
 どんな世界だって支配する者がいればされる者がいる。上に立つ者がいれば、下でしいたげられる者がいる。それはこの世界――ゾディアークでも同じなのだろう。
「おっ、見えてきたぜ」
 タガールの声に、された指の方向を見てみる。その向こうに城壁をまとった集落が広がっていた。
 荷馬車はゆっくりと城壁の一角に作られた門の方へと進んでいった。







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